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大学数学基礎解説
文献あり

ZFCのモデルの存在について

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集合論のモデルの存在に関する無矛盾性の強さに関して以下では論じる。あんまりself-containedな構成にしていない(する気力)がないので適宜集合論や計算論、数理論理学の教科書などを参照してほしいです。

基本的な定義と性質

ω-モデル、β-モデル、推移的モデル

以下でモデルといえばZFCのモデルを指すことする。すなわちMZFCとする。また単に構造というときは何らかのモデルであることは仮定しない。

モデルM=M;ϵに対して以下の性質を考える。

  • Mω-モデル (ω-model) であるとはMに於いてのωと真のωが同型になることである。すなわち「xωである」を表す論理式φ(x)とするときMφ(a)であり{xM;ϵxϵa}ωMとすればωM;ϵωMω;∈↾ωとなることである。
  • Mβ-モデル (β-model) であるとはM;ϵが整礎関係となることである。
  • M推移的モデル (transitive model) であるとはMは推移的集合、すなわち(xM)(yx)[yx]∈↾M=ϵとなることである。
世界的基数、(弱)到達不能基数

以下基数κに対して(小さな)巨大基数的性質を考える。

  • 基数κ世界的 (worldly) であるとはVκ;∈↾VκZFCとなることである。
  • 非可算基数κ弱到達不能 (weakly inaccessible) であるとはκは正則、すなわちcf(κ)=κであり、かつ極限、すなわち(λ<κ)[λ+<κ]となることである。
  • 非可算基数κ到達不能 (inaccessible) であるとはκは正則、すなわちcf(κ)=κであり、かつ強極限、すなわち(λ<κ)[2λ<κ]となることである。

以下では各種モデルの存在と世界的基数の存在、到達不能基数の存在の主張としての無矛盾性の強さを比較する。

以下が成り立つ。

  1. 到達不能基数が存在するならば世界的基数が存在する。
  2. 世界的基数が存在するならば推移的モデルが存在する。
  3. 推移的モデルが存在するならばβ-モデルが存在する。
  4. β-モデルが存在するならばω-モデルが存在する。
  5. ω-モデルが存在すればモデルが存在する。

以下を示す。

  1. 到達不能基数は世界的である。
  2. 世界的基数κに対しVκは推移的集合である。
  3. 推移的モデルはβ-モデルである。
  4. β-モデルはω-モデルである。
  5. ω-モデルはモデルである。

1は到達不能基数κに対してκより遺伝的に小さい集合全体をHκとすると、κは正則なのでHκは冪集合公理以外のすべてのZFCの公理を満たす。一方到達不能基数に対しHκ=Vκであり、Vκは冪集合公理を満たすため良い。

2はVκが推移的であれば良いが、すべての順序数αに対してVαが推移的であることはαに対する超限帰納法で容易に示せるので良い。

3は推移的モデルM;∈↾Mは正則性公理から任意の集合xに対してx;∈↾xは整礎となるため良い。

4を示す。M;ϵβ-モデルとしωMMMに於けるωとする。M;Eが整礎構造であることからωM;ϵωMはPeano構造となる。Peano構造は範疇的、すなわち同型を除いて一意であることからωM;ϵωMω;∈↾ωであり、よってM;ϵω-モデルである。

5は明らかである。

Mostwskiの崩壊補題

整礎構造M,ϵが外延性公理を満たすとき、ある推移的集合Nが存在しM,ϵN,∈↾Nである。

Mostwskiの崩壊補題

β-モデルが存在することと推移的モデルが存在することは同値である。

β-モデルは外延性公理を満たすため、推移的モデルで同型となるものが存在する。

可算性について

Löwenheim–Skolemの下降定理

Lを言語とし、Mを有限でないL-構造とする。このとき任意のX|M|に対してL-構造H(X)Xを部分集合として含むMの初等部分構造となるようなものが存在する。またH(X)の濃度はcard(X)+card(L)+0となる。

以下がZFC上で成り立つ。

  1. モデルが存在することと可算モデルは同値である。
  2. ω-モデルが存在すると可算ω-モデルが存在することは同値である。
  3. β-モデルが存在すると可算β-モデルが存在することは同値である。
  4. 推移的モデルが存在することと可算推移的モデルが存在することは同値である。

なんとかモデルがあれば可算なんとかモデルがあることを示す。逆は明らかである。

1はLöwenheim–Skolemの下降定理明らかである。

2を示す。Mω-モデルとする。このとき(ω+1)MMに於いてω以下となる元全体とする。このときLöwenheim–Skolemの下降定理からMの初等部分構造H((ω+1)M)を取れば、(ω+1)Mの元をパラメータとして持つ論理式に対してH((ω+1)M)Mの真偽は一致するためこれがω-モデルとなる。
また(ω+1)Mは可算なのでH((ω+1)M)も可算となる。

3を示す。まずβ-構造の部分構造は明らかにβ-構造になることに気をつければ、β-モデルの初等部分構造をLöwenheim–Skolemの下降定理から取れば良い。

4を示す。推移的モデルはβ-モデルであることから3より可算β-モデルが存在する。Mostwskiの崩壊補題により可算β-モデルに同型な推移的モデルが存在し、同型であることから可算であることも分かる。

絶対性と各公理の分離

算術的論理式は全ての量化子がωによって制限されている論理式のこととし、Σ11-論理式は算術的論理式φ(x)に対し(αωω)φ(α)と表せる論理式のこととする。

またΔ0-論理式を全ての量化子が有界であることとし、Σ1-論理式をΔ0-論理式φ(x)に対してxφ(x)と表わせる論理式のこととし、Σ2-論理式をΔ0-論理式φ(x,y)に対してxyφ(x,y)と表わせる論理式のこととする。

  1. 「モデルが存在する」と同値になる算術的文が存在する。
  2. ω-モデルが存在する」と同値になるΣ11-文が存在する。
  3. 「推移的モデルが存在する」と同値になるΣ1-文が存在する。

1は完全性定理から「理論Tのモデルが存在する」は「理論Tに於いて矛盾への証明図が存在しない」と同値であり、ZFCは再帰的なので「理論Tに於いて矛盾への証明図が存在しない」はコード化を行えば算術的(もっと強くΠ10)になるため良い。

2はまずω-モデルの存在と可算ω-モデルの存在が同値であり、よって可算ω-モデルをωにてコードすることを考える。
まず言語として関係記号しか含まない再帰的理論Tに対して「ω;RTのモデルである」ということを表す述語は(R)(ω)を神託に用いて計算可能であることに注意すれば「ω;RTのモデルである」はΣ11-論理式によって表すことができ、その否定もΣ11-論理式によって表すことができる。よって「M:=ω;ϵω-モデルである」ということは、ある単射f:ωωと、あるωMωが存在して

  • MZFC+ωMは無限順序数である」が成り立つ。
  • fωから{nnϵωM}への全単射である。
  • 任意のi,jωに対してi<jであることとω,ϵf(i)f(j)f(j)ωMであることが同値である。

が成り立つことと表せて、よって「ω;ϵZFCω-モデルである」はΣ11-論理式で表せて「ZFCの可算ω-モデルが存在する」もΣ11-論理式で表せる。

3は推移性はΔ0-論理式であり、充足可能性関係もΔ0-論理式で表せるので良い。

絶対性
  1. M,Nω-(クラス)構造とする。このとき算術的文φに対して、MφNφとなる。
  2. M,Nを推移的(クラス)構造とする。このときΔ0-文φに対して、MφNφとなる。
  3. (Mostwski絶対性)M,Nを推移的(クラス)構造とする。このときΣ11-文φに対して、MφNφとなる。
  4. M,Nを推移的(クラス)構造でMNとする。このときΣ1-文φに対して、MφNφとなる。

1,2,4は論理式の構成に関する帰納法から容易に示せる。3.のみ非自明であるが証明は記述集合論を用いるため省略する。

ZFC上で以下が成り立つ。

  1. 到達不能基数の存在すればZFC+「世界的基数が存在する」は無矛盾である。
  2. 世界的基数の存在すればZFC+「推移的モデルが存在する」は無矛盾である。
  3. 推移的モデルが存在すればZFC+ω-モデルが存在する」は無矛盾である。
  4. ω-モデルが存在すればZFC+「モデルが存在する」は無矛盾である。

1を示す。まず最初に世界的基数が存在すれば、その最小のものの共終数はωであることを示す。今κを世界的基数とし、Vκ上の整列順序とする。順序数ξii<ωを再帰的に定義する。まずξ0=ωとし、任意のpVξi、任意の論理式φ(x,p)に対しVκ;∈↾Vκxφ(x,p)ならばVκ;∈↾Vκφ(a,p)に対して最小となるaVζが含むような順序数ζで最小のものをξi+1とする。今λ:=sup{ξii<ω}とすればTarski–Vaught検査からVλ;∈↾VλVκ;∈↾Vκの初等部分モデルであり、よってλは共終する列ξii<ωを持つ世界的基数である。
今到達不能基数が存在するとしてそれをIとすれば到達不能基数は世界的であり、到達不能基数の共終数はωではないことから世界的基数κI未満のものが存在する。VκVIVκZFCΔ0-論理式であることから推移的構造に対する絶対性によりVIに於いてもVκZFCが成り立つ。よってVIに於いてもκは世界的である。

2を示す。仮定から世界的基数κを取る。Vω;∈↾Vωが無限公理を満たさないことから任意の世界的基数はωより大きく、よってVκ;∈↾Vκは非可算推移モデルとなる。今Löwenheim–Skolemの下降定理によってZFCの可算β-モデルNVκ;∈↾Vκの初等部分構造となるものを取り、NにMostwski崩壊補題を適用してVκ;∈↾Vκと初等同値な可算推移モデルMを取る。κが特異であるからNVκとなるかも知れないが、MVκとなる。なぜならMに於いての順序数全体MOnは推移性からmin{αOnαM}に他ならず、κ未満であり、よってあるα<κに対してMVαとなるからである。今Mは推移モデルであるという文はΔ0でありよってMを含む推移的構造上で絶対的である。V:={xx=x}は推移的なので絶対性からMVκ;∈↾Vκ上でも推移的モデルとなる。

3を示す。仮定から推移的モデルMを取り、V:={xx=x}とする。Vは推移的なので絶対性からΣ11-文φに対してφV、すなわちVφMφは同値である。推移的モデルの存在からω-モデルの存在が言えて、ω-モデルの存在はΣ11であったからMω-モデルが存在する」となる。

4を示す。仮定からω-モデルMを取り、V:={xx=x}とする。Vω-構造なので絶対性から算術的文φに対してφV、すなわちVφMφは同値である。ω-モデルの存在からモデルの存在が言えて、モデルの存在は算術的であったからM「モデルが存在する」となる。

結論

以上で示した定理と第二不完全性定理、到達不能基数の存在とGrothendieck宇宙が存在することの同値性、到達不能基数の存在と弱到達不能基数の存在の無矛盾同値性から以下を得る。

ZFC<ConZFCZFC+ZFCのモデルが存在する」<ConZFCZFC+ZFCω-モデルが存在する」<ConZFCZFC+ZFCβ-モデルが存在する」=ConZFCZFC+ZFCの推移的モデルが存在する」<ConZFCZFC+「世界的基数が存在する」<ConZFCZFC+「弱到達不能基数が存在する」=ConZFCZFC+「到達不能基数が存在する」=ConZFCZFC+「Grothendieck宇宙が存在する」
ここでS,T,Uに対して二項関係UConTSTCon(S)Con(U)と定めてU=ConTSTCon(S)Con(U)としU<ConTS
UConTSUConTSとする。

参考文献

[9]
Andrzej Mostwski, An undecidable arithmetical statement, Fundamenta Mathematicae, 1949, 143-164
[10]
Andrzej Mostwski, Yoshindo Suzuki, On $\omega$-models which are not $\beta$-models, Fundamenta Mathematicae, 1969, 83-93
[11]
新井敏康, 数学基礎論, 岩波書店, 2011
[12]
Chi Tat Chong, Liang Yu, Recursion Theory: Computational Aspects of Definability, De Gruyter Series in Logic and Its Applications, 8, De Gruyter, 2015
[13]
Yiannis Nicholas Moschovakis, Descriptive Set Theory, 2nd Edition, Mathematical Surveys and Monographs, American Mathematical Society, 2009
投稿日:2021112
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  2. 可算性について
  3. 絶対性と各公理の分離
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