集合論のモデルの存在に関する無矛盾性の強さに関して以下では論じる。あんまりself-containedな構成にしていない(する気力)がないので適宜集合論や計算論、数理論理学の教科書などを参照してほしいです。
以下でモデルといえば$\ZFC$のモデルを指すことする。すなわち$\mathcal{M}\models\ZFC$とする。また単に構造というときは何らかのモデルであることは仮定しない。
モデル$\mathcal{M}=\struc{M;\inepsilon}$に対して以下の性質を考える。
以下基数$\kappa$に対して(小さな)巨大基数的性質を考える。
以下では各種モデルの存在と世界的基数の存在、到達不能基数の存在の主張としての無矛盾性の強さを比較する。
以下が成り立つ。
以下を示す。
1は到達不能基数$\kappa$に対して$\kappa$より遺伝的に小さい集合全体を$H_\kappa$とすると、$\kappa$は正則なので$H_\kappa$は冪集合公理以外のすべての$\ZFC$の公理を満たす。一方到達不能基数に対し$H_\kappa=V_\kappa$であり、$V_\kappa$は冪集合公理を満たすため良い。
2は$V_\kappa$が推移的であれば良いが、すべての順序数$\alpha$に対して$V_\alpha$が推移的であることは$\alpha$に対する超限帰納法で容易に示せるので良い。
3は推移的モデル$\struc{M;\in\restriction M}$は正則性公理から任意の集合$x$に対して$\struc{x;\in\restriction x}$は整礎となるため良い。
4を示す。$\struc{M;\inepsilon}$を$\beta$-モデルとし$\omega^M\in M$を$M$に於ける$\omega$とする。$\struc{M;E}$が整礎構造であることから$\struc{\omega^M;\inepsilon\restriction\omega^M}$はPeano構造となる。Peano構造は範疇的、すなわち同型を除いて一意であることから$\struc{\omega^M;\inepsilon\restriction\omega^M}\cong\struc{\omega;\in\restriction\omega}$であり、よって$\struc{M;\inepsilon}$は$\omega$-モデルである。
5は明らかである。
整礎構造$\struc{M,\inepsilon}$が外延性公理を満たすとき、ある推移的集合$N$が存在し$\struc{M,\inepsilon}\cong\struc{N,\in\restriction N}$である。
$\beta$-モデルが存在することと推移的モデルが存在することは同値である。
$\beta$-モデルは外延性公理を満たすため、推移的モデルで同型となるものが存在する。
$\mathscr{L}$を言語とし、$\mathcal{M}$を有限でない$\mathscr{L}$-構造とする。このとき任意の$X\subseteq|\mathcal{M}|$に対して$\mathscr{L}$-構造$\mathcal{H}(X)$で$X$を部分集合として含む$\mathcal{M}$の初等部分構造となるようなものが存在する。また$\mathcal{H}(X)$の濃度は$\mathrm{card}(X)+\mathrm{card}(\mathscr{L})+\aleph_0$となる。
以下が$\ZFC$上で成り立つ。
なんとかモデルがあれば可算なんとかモデルがあることを示す。逆は明らかである。
1はLöwenheim–Skolemの下降定理明らかである。
2を示す。$\mathcal{M}$を$\omega$-モデルとする。このとき$(\omega+1)^\mathcal{M}$を$\mathcal{M}$に於いて$\omega$以下となる元全体とする。このときLöwenheim–Skolemの下降定理から$\mathcal{M}$の初等部分構造$\mathcal{H}((\omega+1)^\mathcal{M})$を取れば、$(\omega+1)^\mathcal{M}$の元をパラメータとして持つ論理式に対して$\mathcal{H}((\omega+1)^\mathcal{M})$と$\mathcal{M}$の真偽は一致するためこれが$\omega$-モデルとなる。
また$(\omega+1)^\mathcal{M}$は可算なので$\mathcal{H}((\omega+1)^\mathcal{M})$も可算となる。
3を示す。まず$\beta$-構造の部分構造は明らかに$\beta$-構造になることに気をつければ、$\beta$-モデルの初等部分構造をLöwenheim–Skolemの下降定理から取れば良い。
4を示す。推移的モデルは$\beta$-モデルであることから3より可算$\beta$-モデルが存在する。Mostwskiの崩壊補題により可算$\beta$-モデルに同型な推移的モデルが存在し、同型であることから可算であることも分かる。
算術的論理式は全ての量化子が$\omega$によって制限されている論理式のこととし、$\Sigma^1_1$-論理式は算術的論理式$\varphi(\vec{x})$に対し$(\exists \vec{\alpha}\in{}^\omega\omega)\varphi(\vec{\alpha})$と表せる論理式のこととする。
また$\Delta_0$-論理式を全ての量化子が有界であることとし、$\Sigma_1$-論理式を$\Delta_0$-論理式$\varphi(\vec{x})$に対して$\exists\vec{x}\varphi(\vec{x})$と表わせる論理式のこととし、$\Sigma_2$-論理式を$\Delta_0$-論理式$\varphi(\vec{x},\vec{y})$に対して$\exists\vec{x}\forall\vec{y}\varphi(\vec{x},\vec{y})$と表わせる論理式のこととする。
1は完全性定理から「理論$T$のモデルが存在する」は「理論$T$に於いて矛盾への証明図が存在しない」と同値であり、$\ZFC$は再帰的なので「理論$T$に於いて矛盾への証明図が存在しない」はコード化を行えば算術的(もっと強く$\Pi^0_1$)になるため良い。
2はまず$\omega$-モデルの存在と可算$\omega$-モデルの存在が同値であり、よって可算$\omega$-モデルを$\omega$にてコードすることを考える。
まず言語として関係記号しか含まない再帰的理論$T$に対して「$\struc{\omega;\vec{R}}$が$T$のモデルである」ということを表す述語は$\left(\bigoplus\vec{R}\right)^{(\omega)}$を神託に用いて計算可能であることに注意すれば「$\struc{\omega;\vec{R}}$が$T$のモデルである」は$\Sigma^1_1$-論理式によって表すことができ、その否定も$\Sigma^1_1$-論理式によって表すことができる。よって「$\mathcal{M}:=\struc{\omega;\inepsilon}$が$\omega$-モデルである」ということは、ある単射$f\colon\omega\to\omega$と、ある$\omega^\mathcal{M}\in\omega$が存在して
が成り立つことと表せて、よって「$\struc{\omega;\inepsilon}$が$\ZFC$の$\omega$-モデルである」は$\Sigma^1_1$-論理式で表せて「$\ZFC$の可算$\omega$-モデルが存在する」も$\Sigma^1_1$-論理式で表せる。
3は推移性は$\Delta_0$-論理式であり、充足可能性関係も$\Delta_0$-論理式で表せるので良い。
1,2,4は論理式の構成に関する帰納法から容易に示せる。3.のみ非自明であるが証明は記述集合論を用いるため省略する。
$\ZFC$上で以下が成り立つ。
1を示す。まず最初に世界的基数が存在すれば、その最小のものの共終数は$\omega$であることを示す。今$\kappa$を世界的基数とし、$\prec$を$V_\kappa$上の整列順序とする。順序数$\langle\xi_i\mid i<\omega\rangle$を再帰的に定義する。まず$\xi_0=\omega$とし、任意の$\vec{p}\in V_{\xi_i}$、任意の論理式$\varphi(x,\vec{p})$に対し$\struc{V_\kappa;\in\restriction V_\kappa}\models \exists x\varphi(x,\vec{p})$ならば$\struc{V_\kappa;\in\restriction V_\kappa}\models \varphi(a,\vec{p})$で$\prec$に対して最小となる$a$を$V_{\zeta}$が含むような順序数$\zeta$で最小のものを$\xi_{i+1}$とする。今$\lambda:=\sup\{\xi_i\mid i<\omega\}$とすればTarski–Vaught検査から$\struc{V_\lambda;\in\restriction V_\lambda}$は$\struc{V_\kappa;\in\restriction V_\kappa}$の初等部分モデルであり、よって$\lambda$は共終する列$\langle\xi_i\mid i<\omega\rangle$を持つ世界的基数である。
今到達不能基数が存在するとしてそれを$\mathbb{I}$とすれば到達不能基数は世界的であり、到達不能基数の共終数は$\omega$ではないことから世界的基数$\kappa$で$\mathbb{I}$未満のものが存在する。$V_\kappa\in V_\mathbb{I}$で$V_\kappa\models\ZFC$は$\Delta_0$-論理式であることから推移的構造に対する絶対性により$V_\mathbb{I}$に於いても$V_\kappa\models\ZFC$が成り立つ。よって$V_\mathbb{I}$に於いても$\kappa$は世界的である。
2を示す。仮定から世界的基数$\kappa$を取る。$\struc{V_\omega;\in\restriction V_\omega}$が無限公理を満たさないことから任意の世界的基数は$\omega$より大きく、よって$\struc{V_\kappa;\in\restriction V_\kappa}$は非可算推移モデルとなる。今Löwenheim–Skolemの下降定理によって$\ZFC$の可算$\beta$-モデル$\mathcal{N}$で$\struc{V_\kappa;\in\restriction V_\kappa}$の初等部分構造となるものを取り、$\mathcal{N}$にMostwski崩壊補題を適用して$\struc{V_\kappa;\in\restriction V_\kappa}$と初等同値な可算推移モデル$\mathcal{M}$を取る。$\kappa$が特異であるから$\mathcal{N}\notin V_\kappa$となるかも知れないが、$\mathcal{M}\in V_\kappa$となる。なぜなら$\mathcal{M}$に於いての順序数全体$\mathcal{M}\cap\mathrm{On}$は推移性から$\min\{\alpha\in\mathrm{On}\mid\alpha\notin\mathcal{M}\}$に他ならず、$\kappa$未満であり、よってある$\alpha<\kappa$に対して$\mathcal{M}\subseteq V_\alpha$となるからである。今$\mathcal{M}$は推移モデルであるという文は$\Delta_0$でありよって$\mathcal{M}$を含む推移的構造上で絶対的である。$V:=\{x\mid x=x\}$は推移的なので絶対性から$\mathcal{M}$は$\struc{V_\kappa;\in\restriction V_\kappa}$上でも推移的モデルとなる。
3を示す。仮定から推移的モデル$\mathcal{M}$を取り、$V:=\{x\mid x=x\}$とする。$V$は推移的なので絶対性から$\Sigma^1_1$-文$\varphi$に対して$\varphi^V$、すなわち$V\models\varphi$と$\mathcal{M}\models\varphi$は同値である。推移的モデルの存在から$\omega$-モデルの存在が言えて、$\omega$-モデルの存在は$\Sigma^1_1$であったから$\mathcal{M}\models\text{「$\omega$-モデルが存在する」}$となる。
4を示す。仮定から$\omega$-モデル$\mathcal{M}$を取り、$V:=\{x\mid x=x\}$とする。$V$は$\omega$-構造なので絶対性から算術的文$\varphi$に対して$\varphi^V$、すなわち$V\models\varphi$と$\mathcal{M}\models\varphi$は同値である。$\omega$-モデルの存在からモデルの存在が言えて、モデルの存在は算術的であったから$\mathcal{M}\models\text{「モデルが存在する」}$となる。
以上で示した定理と第二不完全性定理、到達不能基数の存在とGrothendieck宇宙が存在することの同値性、到達不能基数の存在と弱到達不能基数の存在の無矛盾同値性から以下を得る。
$$\begin{align} \ZFC & <_\mathsf{Con}^\ZFC\ZFC+\text{「$\ZFC$のモデルが存在する」}\\ & <_\mathsf{Con}^\ZFC\ZFC+\text{「$\ZFC$の$\omega$-モデルが存在する」}\\ &<_\mathsf{Con}^\ZFC\ZFC+\text{「$\ZFC$の$\beta$-モデルが存在する」} \\&=_\mathsf{Con}^\ZFC\ZFC+\text{「$\ZFC$の推移的モデルが存在する」} \\&<_\mathsf{Con}^\ZFC\ZFC+\text{「世界的基数が存在する」}\\&<_\mathsf{Con}^\ZFC\ZFC+\text{「弱到達不能基数が存在する」}\\&=_\mathsf{Con}^\ZFC\ZFC+\text{「到達不能基数が存在する」}\\&=_\mathsf{Con}^\ZFC\ZFC+\text{「Grothendieck宇宙が存在する」}\end{align}$$
ここで$S,T,U$に対して二項関係$U\leq^T_\mathsf{Con} S$を$T\vdash\mathsf{Con}(S)\to\mathsf{Con}(U)$と定めて$U=^T_\mathsf{Con} S$を$T\vdash\mathsf{Con}(S)\leftrightarrow\mathsf{Con}(U)$とし$U<^T_\mathsf{Con} S$
を$U\leq^T_\mathsf{Con} S\land U\neq^T_\mathsf{Con} S$とする。