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二重大野関係式とコネクター

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手抜きです.

多重ゼータ値の関係式である,双対関係式,大野関係式,二重大野関係式の3つの関係式のコネクターを用いた証明を紹介します.

なお,煩雑さを回避するために以下では級数の収束性の議論を省いている箇所があります.気になるかたは自分の手で補完してみてください.

多重ゼータ値

  1. 非負整数の有限組k=(k1,,kr)をインデックス(index)という.

  2. k1++krkの重さ(weight)といいwt(k)で表す.

  3. rkの深さ(depth)といい,dep(k)で表す.

  4. 深さ0のインデックスがただ一つ存在すると考え,これをで表し空のインデックスという.wt()=dep()=0である.

  5. kr2のとき,kを許容インデックスという.

多重ゼータ値

許容インデックスkに対し,ζ(k)=m1<<mr1m1k1mrkrで定まる実数を,kに対する多重ゼータ値という.

矢印記法

空でないインデックスk=(k1,,kr)に対し,k=(k1,,kr,1)k=(k1,,kr+1)と定める.矢印が複数ついた場合には k→↑=(k)k→↑↑=((k))などと解釈する.また,=(1),=とする.

双対インデックス

許容インデックスkは,正整数a1,,as,b1,,bsを用いた次のような一意的な表示を持つ ^1
k=a1b1asbsここで,a,bはそれぞれa times,b timesの省略記法である.この表示に対して定まる許容インデックス,k=bsasb1a1 ^2 kの双対インデックスという.

BBBL型インデックス

許容インデックスk2d+1個の非負整数n0,,n2dを用いて,k=(1){↑→}n0{→↑}n1{↑→}n2{→↑}n2d1{↑→}n2dと書けるとき,kをBBBL型のインデックスという ^3 .このとき,kの双対は,k=(1){↑→}n2d{→↑}n2d1{↑→}n2d2{→↑}n1{↑→}n0で与えられる ^4

大野和

許容インデックスk=(k1,,kr)と非負整数eに対して定まる和
Oe(k)=wt(e)=eζ(ke)を大野和という.和はdep(e)=rとなるインデックスを亙り,keは成分どうしの和を表す.

二重大野和

許容インデックスk=(k1,,kr)と非負整数e1,e2に対して定まる和
Oe1,e2(k)=wt(e1)=e1wt(e2)=e2ζ(ke1e2)を二重大野和という.和はdep(e1)=dep(e2)=rとなるインデックスを亙る.

双対関係式

双対関係式に関する証明は,大野関係式のそれとほとんど同様にできるので省略する.

双対関係式

kを許容インデックスとするとき,以下の関係式が成り立つ.
ζ(k)=ζ(k)

コネクター

双対関係式のコネクターc(m,n)を次で定義する.
c(m,n)=m!n!(m+n)!

連結和

双対関係式の連結和Z(k;l)を次で定義する.
Z(k;l)=0=m0<m1<<mr0=n0<n1<<ns1m1k1mrkrc(mr,ns)1n1l1nsls明らかにZk,lについて対称である.

境界条件

許容インデックスkに対し以下が成り立つ.
Z(k;)=Z(;k)=ζ(k)

輸送関係式

インデックスk,lに対し,以下の関係式が成り立つ.
Z(k;l)=Z(k;l)Z(k;l)=Z(k;l)ただし,(1)ではlは空でなく,(2)ではkは空でない.

大野関係式

大野関係式

kを許容インデックス,eを非負整数とするとき,以下の関係式が成り立つ.
Oe(k)=Oe(k)

大野和の母関数

|x|<1に対し,Z(k;x)
Z(k;x)=0=m0<m1<<mri=1r1(nix)niki1と定義する.これは大野和の母関数である.すなわち,Z(k;x)=e=0Oe(k)xeが成り立つ.

無限等比級数の公式より,ci=0xciniki+ci=1(nix)niki1であるから, Z(k;x)=0=m0<m1<<mri=1r1(nix)niki1=0=m0<m1<<mri=1rci=0xciniki+ci=0=m0<m1<<mre=0wt(e)=e(i=1r1niki+ei)xe=e=0(wt(e)=e0=m0<m1<<mr(i=1r1niki+ei))xe=e=0Oe(k)xe となる.

コネクター

大野関係式のコネクターc(m,n;x)を次で定義する.
c(m,n;x)=(1x)m(1x)n(1x)m+n

連結和

大野関係式の連結和Z(k;l;x)を次で定義する.
Z(k;l;x)=0=m0<m1<<mr0=n0<n1<<ns(i=1r1(mix)miki1)c(mr,ns;x)(j=1s1(njx)njlj1)明らかにZk,lについて対称である.

境界条件

許容インデックスkに対し以下が成り立つ.
Z(k;;x)=Z(;k;x)=Z(k;x)

輸送関係式

インデックスk,lに対し,以下の関係式が成り立つ.
Z(k;l;x)=Z(k;l;x)Z(k;l;x)=Z(k;l;x)ただし,(3)ではlは空でなく,(4)ではkは空でない.

望遠鏡和を考えることで,a=m+11ax(1x)a(1x)n(1x)a+n=1m(1x)m(1x)n(1x)m+nが成り立つ.a=mr+1,m=mr,n=nsとしたものを考えればよい.

大野関係式の証明

k=a1b1asbsとするとき,輸送関係式を繰り返し用いることで,Z(k;x)=Z(k;;x)=Z(a1b1bs1asbs;;x)=Z(a1b1bs1asbs1;;x)==Z(a1b1bs1as;bs,1);x)=Z(a1b1bs1as1;bs;x)==Z(a1b1bs1;bsas;x)==Z(;bsasb1a1;x)=Z(;k;x)=Z(k;x).

二重大野関係式

二重大野関係式

kをBBBL型のインデックス,e1,e2を非負整数とするとき,以下の関係式が成り立つ.
Oe1,e2(k)=Oe1,e2(k)

二重大野和の母関数

|x|<1,|y|<1に対し,Z(k;x,y)
Z(k;x,y)=0=m0<m1<<mri=1r1(nix)(niy)niki2と定義する.これは二重大野和の母関数である.すなわち,Z(k;x,y)=e1,e2=0Oe1,e2(k)xe1ye2が成り立つ.

証明は大野関係式の場合と同様である.

コネクター

二重大野関係式のコネクターc(m,n;x,y)を次で定義する.
c(m,n;x,y)=(1x)m(1y)m(1x)n(1y)nm!n!(1xy)m+n

連結和

二重大野関係式の連結和Z(k;l;x,y)を次で定義する.
Z(k;l;x,y)=0=m0<m1<<mr0=n0<n1<<ns(i=1r1(mix)(miy)miki2)c(mr,ns;x,y)(j=1s1(njx)(njy)njlj2)明らかにZk,lについて対称である.

境界条件

空でないインデックスkに対し,以下が成り立つ.
Z(k;(1);x,y)=Z((1);k;x,y)=Γ(1xy)Γ(1x)Γ(1y)Z(k;x,y)

mを正整数とする.Gaussの超幾何定理より,
n=1n(nx)(ny)c(m,n;x,y)=(1x)m(1y)mm!(1xy)m+1n=1(1x)n1(1y)n1(m+2xy)n1(n1)!=(1x)m(1y)mm!(1xy)m+12F1(1x,1y;m+2xy;1)=(1x)m(1y)mm!(1xy)m+1Γ(m+1xy)Γ(m)Γ(m+1y)Γ(m+1x)=1mΓ(1xy)Γ(1x)Γ(1y)
である.n=n1,m=mrとしたものを考えればよい.

誤差項付き輸送関係式

空でないインデックスk,lに対し,以下の関係式が成り立つ.
Z(k;l;x,y)=Z(k;l;x,y)+xyZ(k→↑;l;x,y)Z(k;l;x,y)=Z(k;l;x,y)xyZ(k;l→↑;x,y)

望遠鏡和を考えることで,a=m+1c(a,n;x,y)(ax)(ay)(axym)=1nc(m,n;x,y)が成り立つ.a=mr+1,m=mr,n=nsとしたものを考えればよい.

輸送関係式

空でないインデックスk,lに対し,以下の関係式が成り立つ.
Z(k→↑;l;x,y)=Z(k;l→↑;x,y)Z(k↑→;l;x,y)=Z(k;l↑→;x,y)

二重大野関係式の証明

cx,y=Γ(1xy)Γ(1x)Γ(1y)とおく.k=(1){↑→}n0{→↑}n1{↑→}n2{→↑}n2d1{↑→}n2dとするとき,境界条件と輸送関係式を用いることで,cx,yZ(k;x,y)=Z((1){↑→}n0{→↑}n1{↑→}n2{→↑}n2d1{↑→}n2d;(1);x,y)=Z((1){↑→}n0{→↑}n1{↑→}n2{→↑}n2d1{↑→}n2d1;(1)↑→;x,y)==Z((1){↑→}n0{→↑}n1{↑→}n2{↑→}n2d2{→↑}n2d1;(1){↑→}n2d;x,y)=Z((1){↑→}n0{→↑}n1{↑→}n2{↑→}n2d2{→↑}n2d11;(1){↑→}n2d→↑;x,y)==Z((1){↑→}n0{→↑}n1{↑→}n2{↑→}n2d2;(1){↑→}n2d{→↑}n2d1;x,y)==Z((1);(1){↑→}n2d{→↑}n2d1{↑→}n2d2{→↑}n1{↑→}n0;x,y)=cx,yZ(k;x,y) が成り立つ.

参考文献
  1. S. Seki, S. Yamamoto, A new proof of the duality of multiple zeta values and its generalizations arXiv:1806.04679 .
     [2] M. Hirose, N. Sato, S. Seki, The connector for Double Ohno relation, arXiv:2006.09036 .
注釈
投稿日:2020117
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