無理数を無限小数展開したときに各桁にでてくる$0$から$9$の数は,規則性がわからないので適当な無理数をとってきても,その無限小数展開にたとえば$5$が出てこないかどうかはわかりません.では,無限小数展開したときに$5$が出てこないような無理数は存在するのかという問題を考えてみましょう.
少し一般化して,次のように問題を設定してみます.
無限小数展開したときに,$0,1,\ldots,9$のうち特定の数だけが表れるような無理数は存在するか.
ほとんど明らかな事ですが,一応次のことを確認しておきましょう.
$1.1111\cdots$を考えると,これは循環小数なので無理数ではない.同様$0.0000\cdots,2.2222\cdots,3.333\cdots,\ldots,9.9999\cdots$も無理数ではない.よってすべての位が$0,1,\ldots,9$のうちのいづれかひとつで構成される無理数は存在しない.
$\alpha$を$0$以上$1$未満の任意の無理数とする.$\alpha$を無限小数展開して
\begin{equation}\alpha=0.a_1a_2a_3a_4\cdots\end{equation}
としておく.ただし$a_1,a_2,a_3\cdots$は$0$以上$9$以下の整数.
ここで$m=0,1,\ldots,9$に対して,次のように$\delta_m^n$を定義する.
\begin{equation}\delta_m^n=\left\{\begin{array}{ll}1&(m\leq a_n)\\0&(a_n< m)\end{array}\right.\end{equation}
さらにこの$\delta_m^n$を$n=1$から順に並べた実数$\alpha_m$を考える.すなわち,
\begin{equation}\alpha_m:=0.\delta_m^1\delta_m^2\delta_m^3\cdots\end{equation}
この時次が成立する.
$\alpha_0,\alpha_1,\ldots,\alpha_9$のいづれかは無理数である.
$\alpha=\alpha_0+\alpha_1+\alpha_2+\cdots+\alpha_9$である.$\alpha$は無理数だから$\alpha_0,\alpha_1,\ldots,\alpha_9$のうちどれかは無理数でなければならない.もし,仮にすべて有理数だとすると$\alpha$が有理数となってしまい矛盾するからである.
というわけで無限小数展開のすべての位が$0$または$1$からなる無理数を構成することができた.この無理数を$\beta$とおく.
$1.1111111\cdots$は有理数なのだから$\beta$にこれを加えても無理数である(無理数と有理数の和は無理数なので).このようにして無限小数展開のすべての位が$1$または$2$である無理数が構成される.
$1.23123123123123\cdots$は有理数なのだから$\beta$にこれを加えると,無限小数展開の
全ての位が$1,2,3,4$のいづれかである無理数が構成される.
$\beta$の小数点下第$n$位が$k$であるとき,小数点下第$n$位の数を$k$から$l(0\leq l\leq 9)$に置き換えたものは,無限小数展開が$0,1,l$のみからなる無理数である.
無理数の有理数倍は無理数なので,$2\beta$は無限小数展開のすべての位が$0$または$2$で構成される無理数になる.
この例1,例2,例3,例4で構成したのと同様の方法を組み合わせれば無限小数展開で$2$つ以上の任意の$0,1,\ldots,9$のみからなる無理数が構成できる.
よって今回立てた問題の解答は次のようになります.
$0,1,\ldots,9$のうち,任意の$2$つ以上の整数のみから,無限小数展開が構成される無理数が存在する.