本記事はホッジスター(ホッジの星状作用素)の定義を目指して線形代数をのたのたと彷徨う記事です。
計量空間、外積代数については既知とします。
正定値とは限らない内積を扱います。なぜならミンコフスキー計量の場合もホッジスターを定義できるからです。
直交基底は採用しますが正規基底は採用しません。ホッジスターの定義をする際に計量行列の成分いかにして打ち消しあうかを眺めるためです。また、正規直交座標系は実際の計算では強すぎる仮定のように感じたからです。また、直交基底を使い一般の基底を使わないのはホッジスターの定義や計算が著しく煩雑になるからです。ポイントは計量行列が対角行列になることです。
$V$を実線形空間とする。以下を満たす双線形写像gを内積と言います
以下では$V$を内積$g$を備えた$n$次元実計量線形空間とします。
$V$の基底$e_1 , \cdots , e_n$に対して$n$次正方行列$G = (g_{ij}) := (g(e_i, e_j))$をgの($e_1, \cdots e_n$による)計量行列と言うことにします。
$(e_1, \cdots e_n)$と$(e'_1, \cdots ,e'_n)$を$V$の二組の基底とします。
変換行列を $e'^i = \sum_{k=1}^n p_{ij} e_j$とします。
それぞれの計量行列$G$と$G'$の間には次のような関係がある:
$$
G' = P G ^tP
$$
\begin{eqnarray} G' のi,j成分 &=& g(e'_i, e'_j) \\ &=& g( \sum _{k}p_{ik} e_k, \sum_{l} p_{jl}e_l) \\\ &=& \sum_{k=1}^n \sum_{l=1}^n p_{ik} p_{jl }g(e_k, e_l) \\ &=& \sum_{i'=1}^n \sum_{j'=1}^n p_{ii'} g_{i'j'} p_{jj'} \\ &=& \sum_{j'=1}^n \sum_{i'=1}^n p_{ii'} g_{i'j'} p_{jj'} \\ &=& \sum_{j'=1}^n (PGのi,j'成分) p_{jj'}\\ &=& (PG)^tP のi,j成分 \end{eqnarray}
$(e_1, \cdots e_n)$を$V$の直交基底とします。
この基底に対する計量行列$G$は対角行列になる。
\begin{equation} G = g(e_i , e_j) = \begin{cases} g_{ii} & ( i = j ) \\ 0 & ( i \neq j ) \end{cases} \end{equation}
少し話題から外れるため注意にとどめるが、正定値行列でなくてもグラムシュミットの直交化法を少しアレンジすることにより任意の基底から直交基底を得ることができる。アレンジするのは、以下2点:
もちろん正規化を行うことで長さを1、-1にもできるが基底を取り換えてもシルべスターの慣性法則から対角成分の正の個数、負の個数は変わらない
$\mathbb{R}^2$の標準基底${}^t(1,0), {}^t(0,1)$に対して次の計量行列で内積を定める:
\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{pmatrix}
このとき${}^t(1,1)$はヌルベクトル。実際
\begin{eqnarray}
g({}^t(1,1), {}^t(1,1)) &=& g( {}^t(1,0) + {}^t(0,1), {}^t(1,0) + {}^t(0,1)) \\
&=& g( {}^t(1,0), {}^t(1,0) ) + g({}^t(0,1), {}^t(0,1)) \\
&=& 1 + (-1) = 0
\end{eqnarray}
前節に引き続き$(V,g)$を$n$次元実計量線形空間とする。内積はやはり非退化だが正定値とは限らない。$(e_1, \cdots , e_n)$を直交基底とする。
次は$V$から双対空間$V^*$への同型写像。これを$\flat$同型、逆写像を$\sharp$同型という
\begin{array}{ccc}
\flat \colon & V & \longrightarrow & V^* \\
& v & \longmapsto & \flat(v) = g(v, -)
\end{array}
$g(v, -) \in V^* $は$g(v, -)(w) = g(v,w)$により関数を定める。
$\flat(v) = 0$ とする. 任意の$w \in V$に対して $\flat(v)(w) = g(v, w) = 0$。今内積は非退化だからこの仮定より$v=0$。$V$と$V^*$の次元は等しいので全射となる。すなわち同型。
この同型を計量同型となるように$V^*$に内積$g^*$を新たに定めていく。
この内積は$e_1, \cdots , e_n$の双対基底$(e^1,\cdots e^n)$を考え、その双対基底による計量行列を$G^*$とすると$G^* = G^{-1}$となるように内積を定義する。すると、$\flat$は計量同型になる
$\flat(e_i)$を計算する。$v = \sum v_{j} e_j$に対して、$ \flat (e_i)(v) = g(e_i, v) = \sum v_{j}g (e_i, e_j) = v_i g_{ii} \delta_{ij}$
一方,双対基底を計算すると$e^i(\sum v_{j} e_j) = v_i \delta{ij}$
よって$\flat(e_i) = g_{ii}e^i$
$g^*(e^i, e^j) = $
$i=j$の時
$g^*(\flat(e_i), \flat(e_j)) = g_{ii}^2 g^*(e^i, e^i) = g_{ii}^2 g_{ii}^{-1} = g_{ii} = g(e_i, e_i)$
$i \neq j$のとき、
$g^*(\flat(e_i), \flat(e_j)) = g_{ii}g_{jj} g^*(e^i, e^j) = 0 = g(e_i, e_j) $
$V$や$ g,e_1, \cdots e_n $はこれまで通りの記号とします。
p形式の空間$\wedge^p V^*$に今度は内積を定めたい。
$I = \{ i_1, i_2, \cdots , i_p \} $(ただし、$1 \leq i_1 < i_2 < \cdots < i_p \leq n$)に対し$e^I = e^{i_1} \wedge e^{i_2} \wedge \cdots \wedge e^{i_p}$を表すとします$J = \{ j_1, j_2, \cdots, j_p \}$についても同様。
$g^*_p (e^I, e^J) = \det(g^*(e^i, e^j))$とおく。これは次を満たす:
\begin{equation}
g^*_p (e^I, e^J) =
\begin{cases}
g_{i_1 i_1}^{-1} g_{i_2 i_2}^{-1}\cdots g_{i_p i_p}^{-1} & (I=Jのとき) \\
0 & (I \neq Jのとき)
\end{cases}
\end{equation}
これにより内積を$g^*_p$を$\wedge^p V^*$に定める
$I \neq J$のとき $k = min \{k | i_k \neq j_k\}$とする。
今$i_k < j_k$とすると
$i_1 = j_1 , \cdots i_{k-1} = j_{k-1} < i_k < j_k < j_{k+1} < \cdots < j_p$
ゆえに行列式の第$k$行目 = $(g^*(e^{i_k}, e^{j_1}), g^*(e^{i_k}, e^{j_2}), \cdots ,g^*(e^{i_k}, e^{j_k}), g^*(e^{i_k}, e^{j_{k+1}}), \cdots ,g^*(e^{i_k}, e^{j_p}) )$は全て0で埋まっている。よって行列式は0
$i_k < j_k$でも同様。今度はある列が一斉に0になる。
$I = J$のとき
対角成分に$g^*(e^{i_k} , e^{i_k}) = g_{i_ki_k}^{-1}$が並び対角成分以外は0となるから前述の結果になる
今まで元になるベクトル空間$V$の次元は$n$としていたがその中で作れる最高位のウェッジ積$n$形式について考察する。特に$n$形式に定義される体積形式を調べる。
ここでは基底により空間V^*に向きを入れる。すなわち、$e^1, \cdots ,e^n$という基底を一つ固定し、基底変換行列が正の基底は同じ向きを定めるものとする。
$n$形式$\eta = \sqrt{| \det G |} e^1 \wedge \cdots \wedge e^n = 1/ \sqrt{ \det | G^* |} e^1 \wedge \cdots \wedge e^n $ を体積形式という。
体積形式は同じ向きの基底の取り方によらない。
$e'^1, \cdots e'^n$を$V^*$のもう一組の正の基底とする。これによる$V^*$の計量行列を$G'$とする。$e'^i = \sum_j p_{ij}e^j $基底の変換行列$P$を定めると$P$は$G' = PG^*{}^tP$を満たすのであった。
行列式を取ると$\det G' = \det P^2 \det G^*$となる。一方、もう一組の基底による体積形式$\eta' = (\sqrt{ | \det G' |})^{-1} e'^1 \wedge \cdots \wedge e'^n$を考える。 $e'^1 \wedge \cdots \wedge e'^n = detP e^1 \wedge \cdots \wedge e^n $ となる。
よって$\eta' = (\sqrt{ | \det G' |})^{-1} e'^1 \wedge \cdots \wedge e'^n = \sqrt{\det P^2 |\det G^* |})^{-1} (\det{P} ) e^1 \wedge \cdots \wedge e^n
$で$\det P >0$ よりこれは$\eta$に等しい。
ここでは定義だけにして次回性質を見ていく
念のため、$G$は最初の$V$の計量行列である。$g_{kk}$はその対角成分である
標準基底を$e_1, e_2, e_3$とする。内積も標準の内積を考える