ある程度ホモロジー代数に慣れている人向けにタイトルを証明します。(というより今の自分ならどうやって証明するかなと証明を考えながら記事を書いています)
この記事を通して$\Lambda$を単位的で結合的な(可換と限らない)環とします。また次の記号を使います。
まずは基礎的な用語を確認のため定義します。
右$\Lambda$加群$M$の射影次元 $\pd M$が$n$以下であるとは、右$\Lambda$加群の完全列
$$
0 \to P_n \to P_{n-1} \to \cdots \to P_0 \to M \to 0
$$
であって各$P_i$が射影右$\Lambda$加群であるようなものが存在するときをいう。
定義のしやすさから「$\pd M \leq n$」を定義しましたが、よって$\pd M$という数値自体は、「上のような列(長さ有限な射影分解)が存在するような最小の$n$、存在しなければ$\infty$」で定義します。
$M$が有限生成$\Lambda$加群であったとしても、上の定義に出てくる$P_i$たち自体は有限生成であるという条件は課しません、よって無限生成射影加群が現れることもあります。
さてこの記事では$\Ext$の知識を仮定したので、次のように言い換えることができます。
右$\Lambda$加群$M$と非負整数$n$について次は同値。
スケッチ程度に思い出します。1から2は、Extは射影分解を用いて計算できるので明らかです。2から3は自明です。3から1は、$M$に対して射影分解を取り続けて
$$
0 \to \Omega^n M \to P_{n-1} \to \cdots \to P_0 \to M \to 0
$$
で$P_i$が射影加群であるようなものがとれます(任意の加群は射影加群からの全射を持つので)。このとき$\Ext$の長完全列を繰り返して使えば、
が分かります。ここから$\Omega^n M$が射影的なことが従えばよいです。つまり3ならば1を$n=0$の場合に示せば十分です。
それを示します。つまり$\Ext_\Lambda^1(M,-)=0$が成り立つとします。この$M$に対して射影加群からの全射をとり短完全列で$0 \to N \to P \to M \to 0$で$P$が射影的なものが取れますが、これに$(-,N)$で$\Ext$の長完全列を伸ばせば、
$$
\Hom_\Lambda(P,N) \to \Hom_\Lambda(N,N) \to \Ext_\Lambda^1(M,N) = 0
$$
となって、$(P,N) \to (N,N)$が全射です。なので$N$の恒等写像に飛ぶ$P \to N$がありますが、これの存在は$0 \to N \to P \to M \to 0$という短完全列が分裂することを意味します。よって$P \cong N \oplus M$で、$M$は射影加群$P$の直和因子なので射影加群です。
同様に移入次元と、移入次元の$\Ext$を用いた特徴づけもできます。以下でも使いますが全く証明は同様なので省略します。
と思いましたが、実はこの移入次元側では、Baerの補題という強力な結果があって、「移入次元はExtの左変数に突っ込むのは有限生成と仮定してよい」という次の特徴付けができます。
右$\Lambda$加群$N$と非負整数$n$について次は同値。
5ならば1だけ示せばよいです。また5ならば1も、$N$の長さ$n$までの移入分解を取ることで、$n=0$の場合だけ示せば十分です。つまり次を示せば十分です:
上の$\Ext$の条件は、次のように言い換えられます(長完全列を使えば分かる):
ここから$N$が移入的なことが従うというのが、古典的なBaerの補題なので、Baerの補題から$N$は移入加群です。
さて大域次元を定義し、それの特徴づけを見ていきましょう。
環$\Lambda$の右大域次元$\gl \Lambda$が$n$以下である($\gl \Lambda \leq n$)とは、任意の右$\Lambda$加群$M$について$\pd M \leq n$を満たすときをいう。
つまり全ての右$\Lambda$加群の射影次元のsupが$\Lambda$の右大域次元です。
これについてExtや移入側や、さらに有限生成も用いた特徴づけを次で与えます。
環$\Lambda$と非負整数$n$について次は同値。
1と5の差に注意してください。もとの大域次元の定義は「全ての右加群の射影次元のsup」でしたが、5は「全ての有限生成右加群の射影次元のsup」というふうに有限生成まで課しています。
ほとんど明らかだけどスケッチだけ。
もう作業ゲーになって疲れて来ましたが平坦次元と弱大域次元とその特徴づけをします。
右$\Lambda$加群$M$の平坦次元$\fd M$が$\fd M \leq n$であるとは、右$\Lambda$加群の完全列
$$
0 \to F_n \to F_{n-1} \to \cdots \to F_0 \to M \to 0
$$
であって各$F_i$が平坦加群であるようなものが存在するときをいう。
$\Lambda$の弱大域次元$\wgl \Lambda \leq n$であるとは、任意の右加群$M$の平坦次元が$n$以下なときをいう。
さて同じように$\Tor$の長完全列を使うことで、上と同様に次を示せます(なので弱大域次元は左右対称です)
環$\Lambda$について次は同値。
証明は読者への演習問題とします。
さてこの記事の主定理とその系を先に述べます。
$\Lambda$を右ネーター環とすると、$\gl \Lambda = \wgl \Lambda$が成り立つ、つまり「右大域次元と弱大域次元は等しい」。
このことと、弱大域次元は左右対称だったことから、タイトルで予告した次が示せます。
$\Lambda$を両側ネーター環とすると、$\gl\Lambda = \gl \Lambda^{\rm op}$が成り立つ。
右ネーターなので$\gl \Lambda = \wgl\Lambda$で、左ネーターなので$\gl\Lambda^{\rm op} = \wgl\Lambda^{\rm op}$です。一方弱大域次元は左右対称なことを見たので$\wgl\Lambda = \wgl \Lambda^{\rm op}$です。
では主定理を示しましょう。鍵は、右ネーター環での射影次元と平坦次元についての次の補題です。
$\Lambda$を右ネーター環、$M$を有限生成右$\Lambda$加群とすると、$\pd M = \fd M$が成り立つ。つまり右ネーター環上の有限生成右加群の射影次元と平坦次元は一致する。
非負整数$n$を任意に取ったとき、$\pd M \leq n$と$\fd M \leq n$が同値ならよいです。
射影加群は平坦なので、$\pd M \leq n$ならば$\fd M \leq n$は明らかです。なので$\fd M \leq n$を仮定して$\pd M \leq n$を出します。
$M$を、$\fd M \leq n$を満たす有限生成右$\Lambda$加群とします。すると$\Lambda$か右ネーターなので、次のような完全列
$$
0 \to \Omega^n M \to P_n \to \cdots \to P_1 \to P_0 \to M \to 0
$$
で$P_i$が有限生成射影右$\Lambda$加群であるものが取れます。このとき$\Omega^n M$が射影的なことを示せば$\pd M \leq n$が従います。
この$\Omega^n M$は$P_n$という有限生成加群の部分加群なので、$\Lambda$が右ネーターなことから$\Omega^n M$は有限生成です(ネーター加群の部分加群は必ずネーターなので)。
一方、$\Tor$の長完全列の議論から、$\Omega^n M$は平坦右$\Lambda$加群です。
ここで次の補題から、$\Omega^n M$が射影加群なことが従い、定理が証明されました。
肝心のめんどうなところは次の補題に押し付けられました。
右ネーター環$\Lambda$上の有限生成平坦右$\Lambda$加群$N$は自動的に射影加群である。
以前のMathlogの記事 有限表示平坦加群は射影的 から直ちに従います(右ネーター環だと有限生成加群は有限表示を持つので)。
さて補題6と大域次元の特徴づけから定理はすぐでます。
任意の非負整数$n$について$\gl\Lambda \leq n$と$\wgl\Lambda \leq n$が同値なことを示せばよいです。射影加群は平坦なので$\gl\Lambda \leq n$ならば$\wgl\Lambda \leq n$は明らか。逆を示します。
$\wgl\Lambda \leq n$とします。このとき$\gl\Lambda \leq n$を示せばよいですが、大域次元の特徴づけより、任意の有限生成右$\Lambda$加群$M$について$\pd M \leq n$を示せばよいです。
しかし$\Lambda$が右ネーターなので補題6から$\pd M = \fd M$で、$\wgl\Lambda \leq n$の定義より$\fd M \leq n$です。よって$\pd M \leq n$が有限生成右$\Lambda$加群について成り立つので、示されました。
重要だったポイントは下のとおりです。
有限生成右加群について平坦次元=射影次元が成り立つ。
個人的に、ネーター性の仮定がどこにどういうふうに効いているかが記事を書きながら整理されたのでいい息抜きになりました。