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現代数学解説
文献あり

両側ネーター環では左大域次元と右大域次元は一致する

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概要

ある程度ホモロジー代数に慣れている人向けにタイトルを証明します。(というより今の自分ならどうやって証明するかなと証明を考えながら記事を書いています)

前提とする知識

  • ExtTorの長完全列
  • 両側ネーター環の定義
  • 射影加群、移入加群、平坦加群の定義
  • Baerの補題のステートメント

この記事を通してΛを単位的で結合的な(可換と限らない)環とします。また次の記号を使います。

  • ModΛ:全ての右Λ加群のなす圏(圏知らない人は集まりだと思ってください)
  • modΛ:有限生成右Λ加群のなす圏
  • ModΛop: 左Λ加群のなす圏、modΛopも同様。

準備

まずは基礎的な用語を確認のため定義します。

射影次元と特徴づけ

射影次元

Λ加群M射影次元 proj.dimMn以下であるとは、右Λ加群の完全列
0PnPn1P0M0
であって各Piが射影右Λ加群であるようなものが存在するときをいう。

定義のしやすさから「proj.dimMn」を定義しましたが、よってproj.dimMという数値自体は、「上のような列(長さ有限な射影分解)が存在するような最小のn、存在しなければ」で定義します。

Mが有限生成Λ加群であったとしても、上の定義に出てくるPiたち自体は有限生成であるという条件は課しません、よって無限生成射影加群が現れることもあります。

さてこの記事ではExtの知識を仮定したので、次のように言い換えることができます。

Λ加群Mと非負整数nについて次は同値。

  1. proj.dimMn.
  2. ExtΛi(M,N)=0が全てのNModΛi>nについて成り立つ。
  3. ExtΛn+1(M,N)=0が全てのNModΛについて成り立つ。

スケッチ程度に思い出します。1から2は、Extは射影分解を用いて計算できるので明らかです。2から3は自明です。3から1は、Mに対して射影分解を取り続けて
0ΩnMPn1P0M0
Piが射影加群であるようなものがとれます(任意の加群は射影加群からの全射を持つので)。このときExtの長完全列を繰り返して使えば、

  • ExtΛ1(ΩnM,N)=0が全てのNModΛについて成り立つ

が分かります。ここからΩnMが射影的なことが従えばよいです。つまり3ならば1をn=0の場合に示せば十分です。

それを示します。つまりExtΛ1(M,)=0が成り立つとします。このMに対して射影加群からの全射をとり短完全列で0NPM0Pが射影的なものが取れますが、これに(,N)Extの長完全列を伸ばせば、
HomΛ(P,N)HomΛ(N,N)ExtΛ1(M,N)=0
となって、(P,N)(N,N)が全射です。なのでNの恒等写像に飛ぶPNがありますが、これの存在は0NPM0という短完全列が分裂することを意味します。よってPNMで、Mは射影加群Pの直和因子なので射影加群です。

移入次元と特徴づけ

同様に移入次元と、移入次元のExtを用いた特徴づけもできます。以下でも使いますが全く証明は同様なので省略します。

と思いましたが、実はこの移入次元側では、Baerの補題という強力な結果があって、「移入次元はExtの左変数に突っ込むのは有限生成と仮定してよい」という次の特徴付けができます。

Λ加群Nと非負整数nについて次は同値。

  1. inj.dimNn.
  2. ExtΛi(M,N)=0が全てのMModΛi>nについて成り立つ。
  3. ExtΛn+1(M,N)=0が全てのMModΛについて成り立つ。
  4. ExtΛn+1(M,N)=0が全てのMmodΛについて成り立つ(つまりMは有限生成と仮定してよい!)。
  5. ExtΛn+1(Λ/I,N)=0が全てのΛの右イデアルIについて成り立つ(つまり上のMはさらにΛ/Iという形だと仮定してよい!)。

5ならば1だけ示せばよいです。また5ならば1も、Nの長さnまでの移入分解を取ることで、n=0の場合だけ示せば十分です。つまり次を示せば十分です:

  • ExtΛ1(Λ/I,N)=0が全ての右イデアルIについて成り立つならばNは移入的である。

上のExtの条件は、次のように言い換えられます(長完全列を使えば分かる):

  • 任意のΛの右イデアルIと、任意の準同型INが、ΛNにliftする:
    IΛIN
    IΛは包含写像)

ここからNが移入的なことが従うというのが、古典的なBaerの補題なので、Baerの補題からNは移入加群です。

大域次元と特徴づけ

さて大域次元を定義し、それの特徴づけを見ていきましょう。

Λ右大域次元gl.dimΛn以下である(gl.dimΛn)とは、任意の右Λ加群Mについてproj.dimMnを満たすときをいう。

つまり全ての右Λ加群の射影次元のsupがΛの右大域次元です。

これについてExtや移入側や、さらに有限生成も用いた特徴づけを次で与えます。

大域次元の特徴づけ

Λと非負整数nについて次は同値。

  1. gl.dimΛn.
  2. ExtΛi(M,N)=0が全てのM,NModΛi>nについて成り立つ。
  3. ExtΛn+1(M,N)=0が全てのM,NModΛについて成り立つ。
  4. ExtΛn+1(M,N)=0が全てのMmodΛNModΛについて成り立つ。
  5. proj.dimMnが全てのMmodΛについて成り立つ。
  6. inj.dimNnが全てのNModΛについて成り立つ。

1と5の差に注意してください。もとの大域次元の定義は「全ての右加群の射影次元のsup」でしたが、5は「全ての有限生成右加群の射影次元のsup」というふうに有限生成まで課しています。

ほとんど明らかだけどスケッチだけ。

  • 1231は射影次元の特徴づけから明らかなので1から3は同値。
  • 34:明らか
  • 45:射影次元の特徴づけより明らか
  • 46:移入次元の特徴づけより明らか(移入側はBaerの補題が使えるので有限生成の仮定を課してよいのがミソ
  • 63:明らか

平坦次元と特徴づけ

もう作業ゲーになって疲れて来ましたが平坦次元と弱大域次元とその特徴づけをします。

平坦次元

Λ加群Mの平坦次元fl.dimMfl.dimMnであるとは、右Λ加群の完全列
0FnFn1F0M0
であって各Fiが平坦加群であるようなものが存在するときをいう。

弱大域次元

Λの弱大域次元w.gl.dimΛnであるとは、任意の加群Mの平坦次元がn以下なときをいう。

さて同じようにTorの長完全列を使うことで、上と同様に次を示せます(なので弱大域次元は左右対称です)

弱大域次元の特徴づけ

Λについて次は同値。

  1. w.gl.dimΛn.
  2. 任意のMModΛXModΛopi>nについてToriΛ(M,X)=0、つまり関手としてTor>nΛ(,)が消滅してる。
  3. 任意のMModΛXModΛopについてTorn+1Λ(M,X)=0
  4. 任意のΛ加群Xの平坦次元がn以下、つまりw.gl.dimΛopn.

証明は読者への演習問題とします。

主定理とその証明

さてこの記事の主定理とその系を先に述べます。

主定理

Λネーター環とすると、gl.dimΛ=w.gl.dimΛが成り立つ、つまり「右大域次元と弱大域次元は等しい」。

このことと、弱大域次元は左右対称だったことから、タイトルで予告した次が示せます。

Λを両側ネーター環とすると、gl.dimΛ=gl.dimΛopが成り立つ。

右ネーターなのでgl.dimΛ=w.gl.dimΛで、左ネーターなのでgl.dimΛop=w.gl.dimΛopです。一方弱大域次元は左右対称なことを見たのでw.gl.dimΛ=w.gl.dimΛopです。

では主定理を示しましょう。鍵は、右ネーター環での射影次元と平坦次元についての次の補題です。

Λを右ネーター環、Mを有限生成右Λ加群とすると、proj.dimM=fl.dimMが成り立つ。つまり右ネーター環上の有限生成右加群の射影次元と平坦次元は一致する。

非負整数nを任意に取ったとき、proj.dimMnfl.dimMnが同値ならよいです。
射影加群は平坦なので、proj.dimMnならばfl.dimMnは明らかです。なのでfl.dimMnを仮定してproj.dimMnを出します。

Mを、fl.dimMnを満たす有限生成Λ加群とします。するとΛか右ネーターなので、次のような完全列
0ΩnMPnP1P0M0
Pi有限生成射影右Λ加群であるものが取れます。このときΩnMが射影的なことを示せばproj.dimMnが従います。

このΩnMPnという有限生成加群の部分加群なので、Λが右ネーターなことからΩnMは有限生成です(ネーター加群の部分加群は必ずネーターなので)。

一方、Torの長完全列の議論から、ΩnMは平坦右Λ加群です。
ここで次の補題から、ΩnMが射影加群なことが従い、定理が証明されました。

肝心のめんどうなところは次の補題に押し付けられました。

右ネーター環Λ上の有限生成平坦右Λ加群Nは自動的に射影加群である。

以前のMathlogの記事 有限表示平坦加群は射影的 から直ちに従います(右ネーター環だと有限生成加群は有限表示を持つので)。

さて補題6と大域次元の特徴づけから定理はすぐでます。

主定理の証明

任意の非負整数nについてgl.dimΛnw.gl.dimΛnが同値なことを示せばよいです。射影加群は平坦なのでgl.dimΛnならばw.gl.dimΛnは明らか。逆を示します。

w.gl.dimΛnとします。このときgl.dimΛnを示せばよいですが、大域次元の特徴づけより、任意の有限生成Λ加群Mについてproj.dimMnを示せばよいです。
しかしΛが右ネーターなので補題6からproj.dimM=fl.dimMで、w.gl.dimΛnの定義よりfl.dimMnです。よってproj.dimMn有限生成Λ加群について成り立つので、示されました。

まとめ・感想

重要だったポイントは下のとおりです。

  • Baerの補題により、Nの移入次元は「Ext(,N)」が有限生成加群上消えているかで判別できる。
  • よって右大域次元は有限生成右加群の射影次元で測れる。
  • 平坦次元はテンソルの対称性により左右対称。
  • 右ネーター環では、有限生成平坦加群=有限生成射影加群が成り立つので、それをずらして

有限生成右加群について平坦次元=射影次元が成り立つ。

個人的に、ネーター性の仮定がどこにどういうふうに効いているかが記事を書きながら整理されたのでいい息抜きになりました。

参考文献

投稿日:202149
OptHub AI Competition

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投稿者

H.E.
H.E.
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某大ポスドク、詳しくはtwitterまで。自分の分野(環の表現論)でよく使われるfolkloreの解説記事を主に書いています。

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  1. 概要
  2. 準備
  3. 射影次元と特徴づけ
  4. 移入次元と特徴づけ
  5. 大域次元と特徴づけ
  6. 平坦次元と特徴づけ
  7. 主定理とその証明
  8. まとめ・感想
  9. 参考文献