この記事は多重ガンマ関数の入門的な記事です。ゼータ関数や解析接続のお気持ち程度の理解があると役に立つかもしれません。今回は初回ということで多重ガンマの導入まではいかずに、Hurwitzのゼータ関数とレルヒの公式までを扱います。
内容には誤りがある可能性があります。留意してください。
素朴なHurwitzのゼータ関数は、
この関数は
ガンマ関数については
この記事
かWikipediaなどを参照してください。
ちなみに、この積分表示から被積分関数の
見栄えのため積分変数をtに戻しました。
適当な収束性の元無限和と積分を交換できるので、
ただしここで等比級数の和公式を用いた。(Q.E.D)
ちなみに上記のような変換は一般のディリクレ級数にも可能で、メリン変換と呼ばれています。
に対して、
証明は先ほどと同じ流れです。
先ほどのHurwitzのゼータ関数は
まず積分表示を3つに分解します。
それぞれ
ここで
と定義されます。
要するにローラン展開の第m項までをくくり出しているわけです。
さて、先ほど分解したそれぞれの関数の収束範囲を見てみましょう。
まず
となるので、これは
ローラン展開の定義より
被積分関数の
せっかくなので特殊値を計算してみましょう。
公式
0を含む自然数
ここで、ガンマ関数は0を含む負の整数点で一位の極を持つので、極を持たない
よって
ただし、ガンマ関数の関数等式を用いた。
特に、
これらの式を使って自然数の正規化和が
Hurwitzゼータ関数が用意できたことで、やっと準備が整いました。レルヒの公式とは次のゼータ関数とガンマ関数を対応付ける、多重ガンマにも関わるとても重要な公式です。
解析接続されたHurwitzゼータ関数の
この式の左辺は正規化積といって、普通の積ではありません(下が繋がっていて総乗記号と違うことに注意)
正規化積とは
この時、
なぜこのように定義されるかというと、ディリクレ級数表示を形式的に微分して0を代入したものに-1をかけてexpすると、形式的にa_nに対する積が現れますが(これは簡単に確認できる)、ディリクレ級数表示がs=0で成り立たない場合はその式はもちろん発散します。しかしs=0まで解析接続できている場合にはその値にも意味が生まれると期待できそうなので、なら新しい記号を定義して扱ってやろうじゃないか、みたいなモチベーションです。
この正規化積、積と呼ばれるだけあっていくつかのそれっぽい性質を備えています。
&&&fml 正規化積の性質
I,Jを集合Aの分割とします。
このとき、
これらの性質はそれぞれゼータ関数を二つに分割したり定数をかけて微分してあげるだけで簡単に示せます。まるで本当の積のようですね。特に1の性質を使うと正規化積の中から有限項を抜き出して普通の積として書くことができます。
ちなみに、当たり前ですが例えば
話が逸れてしまいましたが、レルヒの公式
にx=1を代入すると、
という結果が得られます。
自然数の無限積はもちろん発散してしまいますが、正規化積を用いると一定の意味付けが行えるということです。
ところで、逆にガンマ関数が正規化積を用いて表されていると見ることもできて、正規化積を見るとガンマ関数の逆数の零点が一目瞭然です。
また、レルヒの公式の正規化積でxが自然数だと考えると、左辺は形式的にxから
話がめちゃくちゃ長引いてしまいましたが、早速レルヒの公式の証明を参考文献にある現代三角関数論に沿って三段階に分けて行います。
(1)
(2)
(3)
まず先に3つの補題を証明します。
&&&lem xでの偏微分
なので、(詳しくは参考文献の前に書いた記事をみてください)
である。これをxで二階微分すると、
(1)の証明を始めます。
補題2と3より
よって(1)が示された。
(2)の証明
補題3とガンマ関数の周期性より
(3)の証明
まずゼータ関数の方から計算します。
これを微分すると、
ただし、先に計算したHurwitzゼータ関数の特殊値にs=0,x=1を代入したものを用いた。
また、
以上の結果から、
を得るので、レルヒの公式を証明することができました。
モチベーション次第ですが、次回にこのレルヒの公式からガンマ関数を拡張した多重ガンマ関数、さらにそれを拡張したBarnes-Milnor Type(BM型)多重ガンマ関数の解説を行いたいと思います。では。