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大学数学基礎解説
文献あり

多重ガンマ関数入門(1/n) Hurwitzのゼータ関数とガンマ関数

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概説

この記事は多重ガンマ関数の入門的な記事です。ゼータ関数や解析接続のお気持ち程度の理解があると役に立つかもしれません。今回は初回ということで多重ガンマの導入まではいかずに、Hurwitzのゼータ関数とレルヒの公式までを扱います。

注意

内容には誤りがある可能性があります。留意してください。

Hurwitzのゼータ関数

基本的な性質

素朴なHurwitzのゼータ関数は、Re(s)>1の複素数に対して次の式で定義されます。

Hurwitzのゼータ関数

ζ(s,x):=n=0(n+x)s

x=1とするとリーマンゼータ関数となるので、この関数はリーマンゼータ関数の一般化になっているわけですね。
この関数はRe(s)>1に対して次の積分表示を持ちます。

Hurwitzゼータの積分表示

ζ(s,x)=1Γ(s)0ext1etts1dt

ガンマ関数については この記事 かWikipediaなどを参照してください。
ちなみに、この積分表示から被積分関数のt0での漸近的な振る舞いがO(ts2)であることがわかるので、ディリクレ級数表示と積分表示それぞれの収束範囲が先ほど言ったRe(s)>1であることがわかります。証明は簡単なので済ませてしまいましょう。

ζ(s,x)Γ(s)=n=0(n+x)s0etts1dt
t=(n+x)uと置換して、
=n=0(n+x)s0e(n+x)u(n+x)s1us1du(n+x)
=n=00e(n+x)tts1dt
見栄えのため積分変数をtに戻しました。
適当な収束性の元無限和と積分を交換できるので、
=0extn=0entts1dt
=0ext1etts1dt
ただしここで等比級数の和公式を用いた。(Q.E.D)

ちなみに上記のような変換は一般のディリクレ級数にも可能で、メリン変換と呼ばれています。

メリン変換

ζA(s):=anAans
ψ(t):=anAeant
に対して、
ζA(s)=1Γ(s)0ψ(t)ts1dt

証明は先ほどと同じ流れです。

解析接続

先ほどのHurwitzのゼータ関数はRe(s)>1でしか定義されていませんでしたが、実はs=1を除く全ての複素数に解析接続できます。早速やっていきましょう。
ψ(t,x)=ext1etとします。
まず積分表示を3つに分解します。
ζ(s,x)=A(s)Γ(s)+B(s)Γ(s)+C(s)Γ(s)
それぞれ
A(s)=1ψ(t,x)ts1dt
B(s)=01(n=1man(x)tn)ts1dt
C(s)=01{ψ(t,x)n=1man(x)tn}ts1dt
ここでan(x)というのはψ(t,x)t=0でのローラン展開の係数で、
ψ(t,x)=ext1et=n=1an(x)tn
と定義されます。
要するにローラン展開の第m項までをくくり出しているわけです。
さて、先ほど分解したそれぞれの関数の収束範囲を見てみましょう。

まずA(s)は積分範囲内に極はなく、textが支配的なので急減少し全ての複素数sに対して収束します。
B(s)は簡単な積分なので計算すると
B(s)=n=1man(x)n+s
となるので、これはs=1,0,1,...,mに一位の極を持つだけの全平面で有理型関数になりましたね。
C(s)は少し面倒ですが、t0の評価を考えます。
ローラン展開の定義よりψ(t,x)n=1man(x)tn=O(tm+1)なので、
被積分関数のt0でのオーダーはO(tm+s)となります。よって積分はs>m1で収束することがわかります。ここでmは任意の自然数なので、Hurwitzのゼータ関数は複素平面全域に解析接続できました。

せっかくなので特殊値を計算してみましょう。

特殊値

公式
0を含む自然数nに対し、
ζ(n,x)=(1)nn!an(x)

ζ(n,x)=limsnA(s)Γ(s)+B(s)Γ(s)+C(s)Γ(s)
ここで、ガンマ関数は0を含む負の整数点で一位の極を持つので、極を持たないA(s)C(s)は0になります。
よってB(s)/Γ(s)を考えればいいですが、B(s)も先ほどと同じ理由でan(x)s+n以外の項は全て0になります。よって、
limsnan(x)1Γ(s)(s+n)
=limsnan(x)s(s+1)...(s+n1)(s+n)Γ(s+n)
=an(x)(n)(n+1)...(1)1
=(1)nn!an(x)
ただし、ガンマ関数の関数等式を用いた。

特に、a0(x)=12x,a1(x)=112x2+x22(これはψ(t,x)をベルヌーイ数を使って頑張って計算できます)なので、次の式が成り立ちます。

特殊値

ζ(0,x)=12x
ζ(1,x)=112+x2x22

これらの式を使って自然数の正規化和が112というような話もできるのですが、本題からズレるので今回は扱いません。

レルヒの公式と正規化積

Hurwitzゼータ関数が用意できたことで、やっと準備が整いました。レルヒの公式とは次のゼータ関数とガンマ関数を対応付ける、多重ガンマにも関わるとても重要な公式です。

レルヒの公式

sζ(s,x)|s=0=logΓ(x)2π

解析接続されたHurwitzゼータ関数のs=0での導関数に驚くことにガンマ関数が現れました。この式は次のように書くこともできます。

正規化積

IIn=0(n+x)=2πΓ(x)

この式の左辺は正規化積といって、普通の積ではありません(下が繋がっていて総乗記号と違うことに注意)
正規化積とはs=0で正則に解析接続できる全てのディリクレ級数に対して定義できるもので、次のように定義されます。

正規化積

ζA(s):=anAans とする。
この時、
IIanAan:=exp(sζA(s)|s=0)

なぜこのように定義されるかというと、ディリクレ級数表示を形式的に微分して0を代入したものに-1をかけてexpすると、形式的にa_nに対する積が現れますが(これは簡単に確認できる)、ディリクレ級数表示がs=0で成り立たない場合はその式はもちろん発散します。しかしs=0まで解析接続できている場合にはその値にも意味が生まれると期待できそうなので、なら新しい記号を定義して扱ってやろうじゃないか、みたいなモチベーションです。
この正規化積、積と呼ばれるだけあっていくつかのそれっぽい性質を備えています。

&&&fml 正規化積の性質
I,Jを集合Aの分割とします。
このとき、

  1. IIanAan=IIanIanIIanJan
  2. IIanAank=(IIanAan)k

これらの性質はそれぞれゼータ関数を二つに分割したり定数をかけて微分してあげるだけで簡単に示せます。まるで本当の積のようですね。特に1の性質を使うと正規化積の中から有限項を抜き出して普通の積として書くことができます。
ちなみに、当たり前ですが例えばζA(s)=n=15nsのようにs=0でも収束するような関数にすると正規化積は普通の積と一致します。

話が逸れてしまいましたが、レルヒの公式
IIn=0(n+x)=2πΓ(x)
にx=1を代入すると、
IIn=1n=2π
という結果が得られます。
自然数の無限積はもちろん発散してしまいますが、正規化積を用いると一定の意味付けが行えるということです。
ところで、逆にガンマ関数が正規化積を用いて表されていると見ることもできて、正規化積を見るとガンマ関数の逆数の零点が一目瞭然です。
また、レルヒの公式の正規化積でxが自然数だと考えると、左辺は形式的にxからまでの無限積だと思うことができて、右辺は形式的に1からまでの積2π1からx1までの積Γ(x)で割っていると考えられるので辻褄が合います。面白いですね。

話がめちゃくちゃ長引いてしまいましたが、早速レルヒの公式の証明を参考文献にある現代三角関数論に沿って三段階に分けて行います。
f(x)=sζ(s,x)|s=0logΓ(x)として、
(1)f(x)=0を示す。これによってf(x)=ax+bがわかる。
(2)f(x+1)=f(x)を示す。これによってf(x)=bがわかる。
(3)f(12)=12log2πを示す。

まず先に3つの補題を証明します。

&&&lem xでの偏微分
xζ(s,x)=sζ(s+1,x)

対数ガンマの2階微分

d2dx2logΓ(x)=ζ(2,x)

x+1

ζ(s,x+1)=ζ(s,x)xs

補題2の証明

xn=0(n+x)s=sn=0(n+x)s1
=sζ(s+1,x)

補題3の証明

1Γ(x)=xeγxn=1(1+xn)exn
なので、(詳しくは参考文献の前に書いた記事をみてください)
logΓ(x)=logx+γx+{n=1log(1+xn)xn}
である。これをxで二階微分すると、
ddxlogΓ(x)=1x+γ+n=1(1n+x1n)
d2dx2logΓ(x)=1x2n=11(n+x)2
=n=0(n+x)2
=ζ(2,x)

補題3の証明

ζ(s,x+1)=n=0(n+x+1)s
=n=1(n+x)s=ζ(s,x)xs

(1)の証明を始めます。
f(x)=3x2sζ(s,x)|s=0d2dx2logΓ(x)
補題2と3より
=s(s(s+1)ζ(s+2,x))|s=0ζ(2,x)
=ζ(2,x)ζ(2,x)=0
よって(1)が示された。

(2)の証明
f(x+1)=sζ(s,x+1)|s=0logΓ(x+1)
補題3とガンマ関数の周期性より
=s(ζ(s,x)xs)|s=0logΓ(x)logx
=sζ(s,x)|s=0+logxx0logΓ(x)logx
=f(x)
(3)の証明
f(x)=sζ(s,12)|s=0logΓ(12)
まずゼータ関数の方から計算します。
ζ(s,12)=n=0(n+12)s=2sn=0(2n+1)s
=2s{n=1nsn=1(2n)s}
=2s(12s)ζ(s)=(2s1)ζ(s)
これを微分すると、
sζ(s,12)|s=0=(11)ζ(0)+log2ζ(0)
=12log2
ただし、先に計算したHurwitzゼータ関数の特殊値にs=0,x=1を代入したものを用いた。
また、Γ(12)=πなので、(証明は略しますが調べればいくつも出てきます)
f(12)=12log212logπ
=12log2π
以上の結果から、
sζ(s,x)|s=0logΓ(x)=12log2π
sζ(s,x)|s=0=logΓ(x)2π
を得るので、レルヒの公式を証明することができました。

終わりに

モチベーション次第ですが、次回にこのレルヒの公式からガンマ関数を拡張した多重ガンマ関数、さらにそれを拡張したBarnes-Milnor Type(BM型)多重ガンマ関数の解説を行いたいと思います。では。

参考文献

投稿日:2021410
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  1. Hurwitzのゼータ関数
  2. 基本的な性質
  3. 解析接続
  4. レルヒの公式と正規化積
  5. 参考文献