参考書ってのは前野さんのやつ。これは身内の勉強会用です。
参考書では4元ベクトル$ V^{\mu}, W^{\mu} $と、それに関する不変量$ \eta_{\mu\nu}V^{\mu}W^{\nu} $がでてきた。
実は$ \eta $は計量と呼ばれるものであり、接ベクトル2つから実数への対称で非退化な線形写像である。ここで、$ V, W $は接ベクトルである。
$ \eta $が非退化である、とは$ \forall v \forall v'\neq\boldsymbol{0} (\eta(v,v') \neq 0 )$
$ \eta $は行列$
\begin{pmatrix}
-1 & 0 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 & 0 \\
0 & 0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0 & 1 \\
\end{pmatrix}$でもあるので、
というか計量自体が定義から明らかにタイプ$ (0,2) $のテンソル($ \mathbb{R}^4 \times \mathbb{R}^4 \rightarrow \mathbb{R} $)である。
接ベクトルは説明してないがとりあえずそういうものだと思っておくとしても、そのあとこんな物が出てくる。
$ W_{\mu} = \eta_{\mu\nu}V^{\nu}$
という量について、添字が下についている方を共変ベクトルと呼び、今まで扱ってきた上についている方は反変ベクトルという。
参考書ではとりあえず添え字の位置の違いで説明し、大した違いはないとして他の説明をとばしている。
ここで、接ベクトルと双対ベクトル、テンソルについて見てこれらをそれなりに納得したいと思う。
まず、特殊相対性理論では基本的に空間は$ \mathbb{R}^3 $でそれに時間が加わった直感的なEuclid空間しか扱っていないっぽいが、それを多様体に拡張する。
多様体はHausdorff空間$ M $と、$ M $の開集合族$ U_{\alpha} $とそれらから$ \mathbb{R}^n $への写像族で定義される(ちょっと雑すぎるので追記するかもしれない)。これで我々が扱いやすい空間ができあがる。
この多様体の上に定義される接ベクトルは、$ \mathbb{R}^3 $の一番自然な例などをとって直感的にいえば接平面のベクトルのことである。これを多様体一般に拡張すると、
多様体の点$ p $における接ベクトルは線形性とライプニッツ則(積の微分の形のやつ)を満たす$ M $から$ \mathbb{R} $への$ C^{\infty} $級関数から実数への関数として定義される(ライプニッツ則で外に出る関数には$ p $を渡す)。これらはやってみるとベクトルであること(ベクトルの公理を満たす)ことがわかり、$ \mathbb{R} $を係数体とする線型空間(ベクトル空間)を成す。
このベクトル空間を接ベクトル空間$ V_p(M) $と呼ぶが、これの基底として、
$$ \boldsymbol{X}_{\mu}(f) = \left.\frac{\partial}{\partial x^{\mu}}(f \circ \psi^{-1}) \right|_{\psi(p)}$$ ($ \psi $は$ p $を含む開集合についての局所座標の終域を像に絞り全射化した写像で、また$ \mu = 1, 2, ..., n $)
がとれる(雑だけど証明略)。$ \boldsymbol{X}_{\mu} $は単に$ \frac{\partial}{\partial x^{\mu}} $とも書く。
局所座標は多様体の点の位置をユークリッド空間の点として表してくれる地図みたいなものだと思えばいい。
局所座標はどうとってもかまわない(極座標とかそういったのもそう)が、実は別の局所座標$ \psi' $から得られる先の基底$ \boldsymbol{X}'_{\mu} $について、
$$ \boldsymbol{X}_{\mu} = \sum_{\nu=1}^{n} \left. \frac{\partial x'^{\nu}}{\partial x^{\mu}} \right|_{\psi(p)} \boldsymbol{X}'_{\nu}$$
だから、基底を$ \boldsymbol{X}_{\mu} $にとったときの座標を$ v^{\mu} $で書くと、
$$ v'^{\nu} = \sum_{\mu=1}^{n} v^{\mu} \frac{\partial x'^{\nu}}{\partial x^{\mu}}$$
これが反変ベクトルの変換則であり、つまり反変ベクトルとは接ベクトルのことだった。
すこし接ベクトルのことはさておいて、双対空間について見る。
双対空間$ V^* $はある有限次元ベクトル空間$ V $について随伴的に定義されるベクトル空間で、
写像$ V \rightarrow \mathbb{R} $で成る。和と積は自然に定義する。
$ V $の基底$ \boldsymbol{e}_{\nu} $について、$ \boldsymbol{e}^{*\mu}(\boldsymbol{e}_{\nu})= \delta_{\nu}^{\mu} $(クロネッカーのデルタ)となるように$ \boldsymbol{e}^{*\mu} $を定めるとこれは$ V^{*} $の基底になるので、これを双対基底という。
双対空間の双対空間$ V^{**} $は$ V $と自然な形(これはとりあえずは略す)で同型である(同一視できる)ことが双対と呼ばれる理由である。
接ベクトル空間も当然ベクトル空間だから、その双対空間を考えることができる。それは余接(よせつ)ベクトル空間と呼ばれる。余接ベクトルが共変ベクトルである。
反変ベクトルの座標を$ v^{\mu} $、共変ベクトルは$ \omega_{\mu} $とすると、変換則は
$$ v'^{\mu'} = \sum_{\mu=1}^{n} v^{\mu} \frac{\partial x'^{\mu'}}{\partial x^{\mu}}$$
$$ \omega'_{\mu} = \sum_{\mu=1}^{n} \omega_{\mu} \frac{\partial x^{\mu}}{\partial x'^{\mu'}}$$
で表される。ここに添え字の位置が変えられているが、その説明のためにテンソルを見る。
有限次元ベクトル空間$ V $について、$ V $上のテンソル$ \boldsymbol{T} $は
$ \boldsymbol{T} : V^{*} \times \ldots \times V^{*} \times V \times \ldots \times V \rightarrow \mathbb{R} $で多重線型性(行列式を思い出して)を満たすものとして定義される。$ \boldsymbol{T} $の$ V^{*} $の引数の数を$ k $、$ V $の引数の数を$ l $とすると、テンソル$ \boldsymbol{T} $はタイプ$ (k, l) $であるという。
タイプ$ (0,1) $のテンソル$ \boldsymbol{T} $は$\boldsymbol{T} : V \rightarrow \mathbb{R}$であるから双対ベクトルである。
タイプ$ (1,0) $のテンソル$ \boldsymbol{T} $は$\boldsymbol{T} : V^{*} \rightarrow \mathbb{R}$であるから双対ベクトルの双対ベクトルであるが、前述の通りこれは$ V $と同一視できるため、$ \boldsymbol{T} $は元のベクトルそのものである。
ベクトル空間$ V $の基底$ e_{\mu} $とその双対基底$ e^{*\nu} $を用いて、タイプ$ (k, l) $のテンソル$ \boldsymbol{T} $は
$$ \boldsymbol{T} = \sum T^{\mu_1\mu_2\ldots \mu_{k}}_{\nu_1\nu_2\ldots \nu_l} \boldsymbol{e}_{\mu_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}_{\mu_k} \otimes \boldsymbol{e}^{*\nu_1} \otimes \cdots \otimes \boldsymbol{e}^{*\nu_l} $$
と成分$ T^{\mu_1\mu_2\ldots \mu_{k}}_{\nu_1\nu_2\ldots \nu_l} $で表せる。我々が見ていた謎の添字はこれだったのだ。
これで反変ベクトルが上の添字(タイプ$(1,0)$のテンソルが元のベクトルと同一視できることを思い出す)で共変ベクトルが下の添字(タイプ$(0,1)$のテンソルが双対ベクトルであることを思い出す)であるというのはわかった気がする。
これで全てつながった。
有限次元ベクトル空間$ V $について、計量$g : V \times V \rightarrow \mathbb{R}$がタイプ$ (0,2) $のテンソルであること、その部分適用$g(\boldsymbol{v}) (\boldsymbol{v} \in V)$が双対ベクトルであることがわかる。
我々に馴染みのある計量はRiemann計量と呼ばれるもので、相対論であつかっているのはLorentz計量である。
ちなみに微分演算子を共変ベクトルとして紹介しているが、上の定義に従えば微分演算子自体は反変ベクトルである。
接ベクトル$ \boldsymbol{v} $は
$$ \boldsymbol{v} = \sum_{\mu=1}^{n} v^{\mu}\boldsymbol{X}_{\mu} $$
と表せるから、$\boldsymbol{X}_{\mu}$が微分演算子で、$ v^{\mu} $が微分演算子であるのは$\boldsymbol{X}_{\mu}$が微分形式($dx^{\mu}$ってやつで、接ベクトルである微分演算子の双対ベクトル)、つまり共変ベクトルのときである。
つまり、
$$ v'^{\mu'} = \sum_{\mu=1}^{n} v^{\mu} \frac{\partial x'^{\mu'}}{\partial x^{\mu}}$$
の$ v^{\mu} $が微分演算子のとき、これからなるベクトルは共変ベクトルではない。
自分の理解が適当すぎる... テンソルをちゃんと勉強する必要がある。