3
大学数学基礎解説
文献あり

一様有界性原理の簡単な証明

1869
0
$$$$

Sokal [1] による,一様有界性原理のBaireのカテゴリー定理を経由しないシンプルな証明を紹介します.

一様有界性原理

$\mathcal{F}$をBanach空間$X$からノルム空間$Y$への有界線形作用素の族とする.$\mathcal{F}$が各点で有界(すなわち,任意の$x\in X$に対し$\sup_{T\in \mathcal{F}} \| Tx \| < \infty$)ならば,$\mathcal{F}$は一様有界(すなわち,$\sup_{T\in \mathcal{F}} \| T \| < \infty$)である.

$T$をノルム空間$X$からノルム空間$Y$への有界線形作用素とする.このとき,任意の$x \in X$$r>0$に対し,
\begin{align} \sup_{x' \in \overline{B(x,r)}} \| T x' \| \ge \| T \| r \end{align}
が成立する.ただし,ここで
$\overline{B(x,r)} = \{ x' \in X : \| x' - x \| \le r \}$
である.

補題2の証明

$x \in X, r>0$とする.三角不等式より,任意の$\xi \in X$に対し,
\begin{align} \| T \xi \| &= \left\| T \left( \frac{1}{2}(x+\xi) - \frac{1}{2}(x-\xi) \right) \right\| \\ &\le \frac{1}{2} \left( \| T(x+\xi) \| + \| T(x-\xi) \| \right) \\ &\le \max\left\{ \| T(x+\xi) \|, \|T(x-\xi)\| \right\} \end{align}
が成立する.ここで両辺の$\xi \in \overline{B(0,r)}$についての上限をとると,右辺は$\sup_{x'\in \overline{B(x,r)}} \| Tx'\|$に,左辺は$\|T\| r$になる(補足:右辺の書き換えについては,$\sup_{\xi \in \overline{B(0,r)}} \| T(x+\xi) \| = \sup_{x'\in \overline{B(x,r)}} \| Tx' \|$となることに注意すればよい.左辺の書き換えについては,作用素ノルムの定義から,$\| T \| = \sup_{\|\xi\| \le 1} \| T \xi \| = \sup_{\| \xi \| \le r} \| T (\frac{\xi}{r}) \| = \frac{1}{r} \sup_{\xi \in \overline{B(0,r)}} \| T \xi \|$となることを用いればよい).

定理1の証明

対偶を示す.すなわち,$\sup_{T\in \mathcal{F}} \| T \| = \infty$を仮定し,$\mathcal{F}$が各点で有界でないこと(すなわち,ある$x\in X$が存在して$\sup_{T \in \mathcal{F}} \|Tx \| = \infty$)を示す.まず仮定より,$\mathcal{F}$から列$\{ T_n \}_{n=1}^{\infty}$を適当に選び,$\|T_n\| \ge 4^n$が成立するようにできる.次に,補題2を用いると,点列$x_n \in X \ (n = 0,1,2,\ldots)$を帰納的に,
\begin{align} x_0 = 0,\quad \| x_n - x_{n-1} \| \le 3^{-n},\quad \| T_n x_n \| \ge \frac{2}{3}3^{-n} \| T_n \| \quad (n=1,2,\ldots) \end{align}
をみたすように選ぶことができる(補足:$x_1$を定めるときは,補題2を$T=T_1$, $x=x_0$, $r= 3^{-1}$として適用した後,$\sup$の性質を使うと$\| T_1 x_1 \| \ge \frac{2}{3}3^{-1} \|T_1\|$をみたす$x_1$の存在がいえる.以下帰納的に,$x_{n-1}$まで定まったとき,補題2を$T=T_n$, $x = x_{n-1}$, $r= 3^{-n}$として適用すると上の条件をみたす$x_n$の存在がいえる).上の条件から,$\{ x_n \}_{n=1}^{\infty}$$X$のCauchy列になっており,$X$の完備性からある$x\in X$に収束する.また,任意の$n \ge 1$に対し,
\begin{align} \| x - x_n \| &= \lim_{m\to \infty} \| x_m - x_n \| \\ &= \lim_{m\to \infty} \left\| \sum_{j=n+1}^m (x_j - x_{j-1}) \right\| \\ &\le \lim_{m\to \infty} \sum_{j=n+1}^{m} \| x_j - x_{j-1} \| \\ &\le \lim_{m\to \infty} \sum_{j=n+1}^{m} 3^{-j}\\ &= \frac{1}{2} 3^{-n} \end{align}
が成立する.これより,
\begin{align} \| T_n x \| &= \| T_n((x-x_n)+x_n) \| \\ &\ge \| T_n x_n \| - \| T_n (x-x_n) \| \\ &\ge \frac{2}{3} 3^{-n} \| T_n \| - \| T_n \| \| x- x_n \| \\ &\ge \frac{2}{3} 3^{-n} \| T_n \| - \frac{1}{2} 3^{-n} \| T_n \| \\ &= \frac{1}{6} 3^{-n} \| T_n \| \\ &\ge \frac{1}{6} 3^{-n} \cdot 4^n \\ &= \frac{1}{6} \left( \frac{4}{3} \right)^n \to \infty \quad (n\to \infty) \end{align}
を得る(補足:一つ目の不等号では三角不等式,二つ目の不等号では条件$\| T_n x_n \| \ge \frac{2}{3} 3^{-n} \|T_n \|$$\| T_n (x-x_n) \| \le \|T_n\| \|x-x_n\|$,三つ目の不等号では$\| x - x_n \| \le \frac{1}{2}3^{-n}$,4つ目の不等号では$\| T_n \| \ge 4^n$をそれぞれ使った).以上で$\sup_{T \in \mathcal{F}} \|Tx \| = \infty$が示された.

参考文献

[1]
A. D. Sokal, A Really Simple Elementary Proof of the Uniform Boundedness Theorem, Amer. Math. Monthly, 2011, pp.450--452
投稿日:2021411

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中