Radon変換は1917年にJ.Radonによって導入された積分変換である.
Radon変換は波動方程式やFourier解析などと相性が良く,純粋数学の面で重要である. 一方,Radon変換はCT-スキャンや非破壊検査の中心的な道具でもある.
1979年に電子工学者のHounsfieldと応用物理学者のCormackがRadon変換を用いてCT-スキャナーを開発しノーベル生理学・医学賞を受賞したことは数学史的にも意味があることであった.
$\mathbb{R}^n$での超平面$\alpha$を
$$\alpha\colon\langle \boldsymbol x, \boldsymbol e\rangle=p,\quad (\boldsymbol e\in\mathbb{S}^{n-1},\ p\in\mathbb{R})$$で定義する. ここで, $\langle\cdot,\cdot \rangle$はEuclid空間の通常内積である. この超平面$α$は$p>0$のとき,原点からの距離が$p$である点を通って, $\boldsymbol e$を法線ベクトルに持つ超平面を表していることに注意せよ.
$\mathbb{P}^n$を$\mathbb{R}^n$内全ての$n-1$次元超平面の集合と定義する. $(\boldsymbol e,p)\in\mathbb{S}^{n-1}\times\mathbb{R}$で決まる超平面と$(-\boldsymbol e,-p)$で決まる超平面が同一のものであることは容易にわかるので, $\mathbb{S}^{n-1}\times\mathbb{R}$は$\mathbb{P}^n$の2重被覆を与えている.
これ以降, $f\in\mathcal{S}(\mathbb{R}^n)$を仮定する. また,$\Omega_n$は$\mathbb{S}^{n-1}$の表面積,つまり$\mathbb{R}^n$内の単位球の表面積を表し, 具体的には,
$$\Omega_n=\frac{2\pi^{n/2}}{\Gamma(n/2)}$$で求まるものとする.
関数$f\colon\mathbb{R}^n\to\mathbb{C}$に対して,超平面$\alpha\colon\langle \boldsymbol x, \boldsymbol e\rangle=p$上のRadon変換$\mathcal{R}$を
$$
\mathcal{R}[f](\boldsymbol e,p)=\int_\alpha f(\boldsymbol x)\,d\sigma(\boldsymbol x),\quad (\boldsymbol e\in\mathbb{S}^{n-1},\ p\in\mathbb{R})
$$
で定義する. ここで, $d\sigma$は超平面$\alpha$上の面積測度である.
定義から, Radon変換は$\mathbb{R}^n$上の関数を${n-1}$次元の超平面上で面積分している. これに自由度を持たせて, $0< k< n$を満たす任意の$k$次元超平面上で面積分する変換は$k$-plane Radon変換と呼ばれている. 特に, $k=1$のときはX-ray変換という.
一般に, Radon変換の計算は容易ではないが, 対称性の高い関数に限っては手計算可能である.
Gauss関数$f( \boldsymbol{x})=e^{-|\boldsymbol{x}|^2}$のRadon変換(X-ray変換)を求めてみよう.
今, 積分路は$\alpha\colon\langle \boldsymbol x, \boldsymbol e\rangle=p$で表される直線であるが, $\boldsymbol e\in \mathbb{S}^{1}$をベクトル$(\cos\theta,\sin\theta)^t$と同一視する. すると, $\alpha$上の点$(x,y)$は位置ベクトルで,
$$
\begin{eqnarray}
\left(
\begin{array}{c}
x \\
y
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
p\cos\theta \\
p\sin\theta
\end{array}
\right)
+
\left(
\begin{array}{c}
-s\sin\theta \\
s\cos\theta
\end{array}
\right)
=
\left(
\begin{array}{c}
p\cos\theta-s\sin\theta \\
p\sin\theta+s\cos\theta
\end{array}
\right),
\ s\in\mathbb{R}
\end{eqnarray}
$$
と表すことができる. また,
$$
\frac{dx}{ds}=-\cos\theta,\ \frac{dy}{ds}=-\sin\theta,\ \sqrt{\left(\frac{dx}{ds}\right)^2+\left(\frac{dy}{ds}\right)^2}=1
$$
から, 線素は以下のようになる:
$$
d\sigma( \boldsymbol{x})=\sqrt{\left(\frac{dx}{ds}\right)^2+\left(\frac{dy}{ds}\right)^2}ds=ds.
$$
従って, $-x^2-y^2=-p^2-s^2$なので,
$$\mathcal{R}[f](\boldsymbol \theta,p)=\int_\alpha f(\boldsymbol x)\,d\sigma(\boldsymbol x)=\int_{-\infty}^\infty e^{-p^2-s^2}ds=e^{-p^2}\int_{-\infty}^\infty e^{-s^2}ds=\sqrt{\pi}e^{-p^2}
$$
を得る. Gauss関数の圧倒的対称性により, 角度パラメーターが消失し, かつGauss関数が再び現れたことが分かる.
先ほどX-ray変換という単語が出てきたが, この機会にCT-スキャナーの仕組みを簡単に説明する. もちろん, 筆者はこの話題の専門家ではない.
我々は3次元空間内に存在している. CT-スキャンは被検体を輪切りに撮影するが, その輪切りになった2次元面の密度分布を完全に特定することができれば嬉しい(生物ならば腫瘍などの発見, 物質ならば非破壊検査).
ここでは生物で考えてみよう. 断面における何らかの情報を持った関数を$f(\boldsymbol x)$とする. 関数$f$は微小片$\Delta u$の密度$\rho$と細胞分布$\lambda$の積$\rho\lambda$によって特徴付けられるので, 関数$f$は$f(\boldsymbol x)=\rho(\boldsymbol x)\lambda(\boldsymbol x)$と表されるはずである.
さて, 強度$I_0$のX線が微小片$\Delta u$に入射して出力される強度$I$は,
$$
I=I_0e^{-\rho\lambda\Delta u}
$$
という関係で与えられることは認めてほしい(と言っても, これは超基本な常微分方程式の解). すると, 被検体を細かく微小片分割したときのX線の出力強度は,
$$
I=I_0e^{-\sum_{n}\rho_n\lambda_n\Delta u_n}
$$
となることが分かる. 従って, 無限分割の極限で上式は以下に収束する:
$$
I=I_0e^{-\int_{\text{ X-ray}}\rho(\boldsymbol x)\lambda(\boldsymbol x)d\sigma(\boldsymbol x)}=I_0e^{-\int_{\text{ X-ray}}f(\boldsymbol x)d\sigma(\boldsymbol x)}.
$$
すなわち, X線の経路を直線$\langle \boldsymbol x, \boldsymbol e\rangle=p$とすることにより,
$$
-\log\left(\frac{I}{I_0}\right)=\int_{\langle \boldsymbol x, \boldsymbol e\rangle=p} f(\boldsymbol x)\,d\sigma(\boldsymbol x)
$$
が導かれた. 右辺に関数$f$のRadon変換(今の場合はX-ray変換でもある)が出てきたことが分かるだろう. 左辺は既に観測された「値」であるので, この値から関数$f$を再構成できれば嬉しい. このようなモチベーションからRadon変換の再生公式を最終目標にしていこう.
前半はこの定理で終わりにする. この定理はRadon変換のある意味のスライスが元の関数のある線上のFourier変換に一致することを述べている. 証明は簡単だが, Radon変換の強力な武器である.
$s\in\mathbb{R}$に対して
$$
\mathcal{F}[f](s\boldsymbol e)=\mathcal{F}_{2}[\mathcal{R}[f](\boldsymbol e, \cdot)](s)
$$
が成り立つ. ここで, $\mathcal{F}_{2}$は2変数目にFourier変換を施したことを意味する.
以下のような直接計算で求まる:
$$
\begin{split}
\mathcal{F}_{2}[\mathcal{R}[f](\boldsymbol e, \cdot)](s)&=\int_{-\infty}^\infty \mathcal{R}[f](\boldsymbol e,p) e^{-ips}dp\\
&=\int_{-\infty}^\infty \left\{\int_{\langle \boldsymbol x, \boldsymbol e\rangle=p}f(\boldsymbol x) d\sigma(\boldsymbol x)\right\} e^{-ips}dp\\
&=\int_{-\infty}^\infty \int_{\langle \boldsymbol x, \boldsymbol e\rangle=p}f(\boldsymbol x) e^{-ips}d\sigma(\boldsymbol x)dp\\
&=\int_{\mathbb{R}^n}f(\boldsymbol x)e^{-is\langle\boldsymbol x,\boldsymbol e \rangle}d\boldsymbol x\\
&=\mathcal{F}[f](s\boldsymbol e).
\end{split}
$$
参考文献は以下のノートと, そのノートの参考文献になります.