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大学数学基礎解説
文献あり

ちょっと強めの線形空間の基底変換について

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とある演習問題をずっと考えていた

Lang Linear Algebra を読み終えて、線形代数の本、2冊目に取り組んでいました。次の問題をずーっと考えていました。

Steven Roman著 Advanced Linear Algebra Exercise 1.23より引用
Let B={b1,,bn} and C={c1,,cn} be bases for a vector space V. Let 1mn1. Show that there is a permutation σ of {1,,n} such that
b1,,bm,cσ(m+1),,cσ(n)
and
cσ(1),,cσ(m),bm+1,,bn
are both bases for V.

要するに、基底の入れ替えは全取り換えでなくても一部同士でできるよという話なわけですね。主張としては直感的にわかりやすいのですが、いざ証明してみようとすると……。

うーんわからない。私の頭の問題かもしれませんが、思ったより手強いぞと。

よく教科書に載っているやつを思い出してみる

上記の演習問題は、線形空間の基底変換としては強めの命題です。よく一般的な教科書に載っているやつを思い出してみます。いわゆる演習問題の「片側」バージョンです。

線形空間の基底変換

B={b1,,bn} および C={c1,,cn}を線形空間Vの基底とする. 1mn1とする. このとき, {1,,n}の置換σであって, 次を満たすものが存在する.
b1,,bm,cσ(m+1),,cσ(n)
Vの基底である.

b1,,bmで張られるVの部分空間をSm=b1,,bmとすると, ある cim+1(1im+1n)について cim+1Sm が成り立つ. なぜなら, すべてのi,1inについてciSmとすれば, V=c1,,cnSmとなり, dimV=nに反するからである.
よってcim+1Smであるから, Sm,1=b1,,bm,cim+1 とすれば,b1,,bm,cim+1は一次独立であり,SmSm,1が得られる。
m=n1の場合, これで証明は完了する.
m<n1の場合, ある cim+2 (1im+2n,im+2im+1)について cim+2Sm,1が成り立つ.なぜなら, すべてのi,1in,iim+1についてciSm,1とすれば, V=c1,,cnSm,1となり,やはりdimV=nに反するからである.
同様の議論によって, 帰納的に, 一次独立なVn個の元 b1,,bm,cim+1,,cinが存在して,
Sm,nm=b1,,bm,cim+1,,cin=V
である.
したがって, {1,,n}の置換σσ(k)=ik,m+1knとなるように定めれば,
b1,,bm,cσ(m+1),,cσ(n)
Vの基底である. □

よく載っているやつと同じ方法ではできない

上記の証明では、あまり細かいことは気にしないで、とにかくSm,k=b1,,bm,cim+1,,cim+kに属していない元をCの中から取ってくればよかったわけです。

線形代数の教科書によく載っている、一次独立な元の組を拡張して基底とすることができるというアレと本質的には同じ議論で示せるわけです。

しかしながら、

cσ(1),,cσ(m),bm+1,,bn

も同時に基底にしようと思うと、同様の(雑な)論法でやっていると簡単に破綻してしまいます。例を挙げてみます。

命題1の証明法では上手くいかない

R2の基底 B={(10),(01)}, C={(11),(01)} を考える.
命題1の証明の論法に従うと, (11)(10) であり, 確かに {(10),(11)}R2の基底となっている.
しかし,{(01),(01)} は明らかにR2の基底ではない!

この例からもわかるように、演習問題を解くにあたっては、さらなる精査が必要なようです。

余因子展開(ラプラス展開)の一般化

実はこの演習問題にはヒントが付いていました。それによると、余因子展開の一般化を利用してくれということです。

1行1列の余因子展開はともかく、一般形は今まで使ったこともない式だったのですが、調べてみました。証明は自分なりに付けてみました(誤りがあるかもしれません)。

一般の余因子

An×n行列とする. Aのうち, 任意のkk列を選んで交差する部分のなすk×k行列の行列式をAk-minerという.
dAk-minerとする. このとき, 選ばなかった(nk)(nk)列の交差する部分のなす(nk)×(nk)行列の行列式をdのcomplement minerといい,dで表す.
i1,i2,,ik行とj1,j2,,jk列を選んだとする.
また, I=i1+i2++ik,J=j1+j2++jkとする.
dのcofactor(余因子)d~
d~=(1)I+Jd
で定める.

一般の余因子展開

An×n行列とする. i1,i2,,ik行とj1,j2,,jk
i1<i2<<ik,j1<j2<<jk)を選んで構成したAk-minerd(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)に対して, 余因子 d~(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk) とする.
このとき,
detA=1j1<j2<<jknd(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)d~(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)
が成り立つ.

A(i,j)成分をai,jとする.
また, 写像{j1,,jk}{j1,,jk}のうち全単射であるもの全体の集合とk次対称群Skを対応 pjp(1pk)によって同一視する.
それから,{1,,n}{i1,,ik}={i~1,,i~nk},{1,,n}{j1,,jk}={j~1,,j~nk} と表しておくこととし, 写像{j~1,,j~nk}{j~1,,j~nk}うち全単射であるもの全体の集合と(nk)次対称群 Snkを同様に同一視する.
以上の同一視の下で,
1j1<j2<<jknd(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)d~(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)
=1j1<j2<<jknσSksgn(σ)ai1,σ(j1)aik,σ(jk)×(1)I+JτSnksgn(τ)ai~1,τ(j~1)ai~nk,τ(j~nk) 

ここで, σSkSnの元であってj1,,jk以外を動かさないものと同一視し,τSnkSnの元であってj1,,jkを動かさないものと同一視できる.
この同一視において,
σ(jp)=στ(jp)(1pk),τ(j~q)=στ(j~q)(1qnk)
が成り立つこと,それと σSkおよびτSnkが全体を動くとき,στ{ψSn|ψ({j1,j2,,jk})={j1,,jk}}全体を動くことに注意すると, ①は次のように変形できる.

1j1<j2<<jkn(1)I+JψSn,ψ({j1,j2,,jk})={j1,,jk}sgn(ψ)ai1,ψ(j1)aik,ψ(jk)ai~1,ψ(j~1)ai~nk,ψ(j~nk) 

ここで, sgn(ψ)ai1,ψ(j1)aik,ψ(jk)ai~1,ψ(j~1)ai~nk,ψ(j~nk) は,次の行列B=(bi,j)の行列式の項を表す.
bi,j={aip,jq(1pk,1qk)aip,j~qk(1pk,k+1qn)ai~pk,j~qk(k+1pn,1qk)ai~pk,j~qk(k+1pn,k+1qn)

この行列Bは,Aから次のように行基本変形と列基本変形を施すことによって得られる.
 Ai1行目が1行目に来るように, 隣同士の行をi11回交換する.
 Ai2行目が2行目に来るように, 隣同士の行をi22回交換する.
 ……
 Aik行目がk行目に来るように, 隣同士の行をikk回交換する.
 Aj1列目が1列目に来るように, 隣同士の列をj11回交換する.
 Aj2列目が2列目に来るように, 隣同士の列をj22回交換する.
 ……
 Ajk列目がk列目に来るように, 隣同士の列をjkk回交換する.

したがって,
detB=(1)p=1k(ipp)+q=1k(jqq)detA=(1)I+JdetA
が成り立つ.

このことに注意して, 上記基本変形に対応する置換を各項 sgn(ψ)ai1,ψ(j1)aik,ψ(jk)ai~1,ψ(j~1)ai~nk,ψ(j~nk) で考える. すなわち, 以下の置換を行および列に施す.
(i1iki~1i~nk1kk+1  n),(j1jkj~1j~nk1kk+1  n)

すると, ②は次の式に等しいことがわかる.

1j1<j2<<jknφSn,φ({1,2,,k})={j1,,jk}sgn(φ)a1,φ(1)ak,φ(k)ak+1,φ(k+1)an,φ(n)
1j1<j2<<jkn を動かして和をとると, これはdetAに等しい. □

本題の証明に戻る

一般の余因子展開を用いて、次を示します。

Aを可逆なn×n行列とする. Aの列を適当に入れ替えることで, 左上のkk列を取り出したk×k行列と右下の(nk)(nk)列を取り出した(nk)×(nk)行列が共に可逆であるようにできる.

Aが可逆であることから,
detA=1j1<j2<<jknd(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)d~(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)0
が成り立つので, 少なくとも1つの組{j1,jk}について,
d(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)d~(i1,i2,,ik ; j1,j2,,jk)0
よって, 各jp(1pk)列がp列に来るように列を入れ替えると, 求める可逆行列を得る. □

いよいよ本丸へと突入します。

演習問題の証明

補題3より, 基底C={c1,,cn}を適当に並べ替えたC={cσ(1),,cσ(n)} の基底Bによる表現行列Aは可逆行列であり, さらに
A=(Am,mBm,nmCm,nmAnm,nm)
と区分けしたとき, m×m行列Am,mおよび(nm)×(nm)行列Anm,nmがともに可逆となるようにできる.
b1,,bm,cσ(m+1),,cσ(n)を基底Bで表現した行列は
X=(Em,mBm,nmOm,nmAnm,nm)
となり, 可逆であるから,
b1,,bm,cσ(m+1),,cσ(n)
Vの基底である.
また,
cσ(1),,cσ(m),bm+1,,bnを基底Bで表現した行列は
Y=(Am,mOm,nmCm,nmEnm,nm)
となり, 可逆であるから,
cσ(1),,cσ(m),bm+1,,bn
Vの基底である. □

ふう。大変でしたが、何とか着地できました。

もしもっと簡単に証明できるよという方法があればぜひ教えて下さい!

参考文献

[1]
Steven Roman, Advanced Linear Algebra
投稿日:2021415
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趣味でカジュアルに数学をしている社会人です。そんなに数学ができるわけではありませんが、楽しもうと思います。

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