0
大学数学基礎解説
文献あり

線形空間上での射影と冪等写像(おまけが本編)

824
0

線形空間上での射影と冪等写像

線形空間上での射影

V,S,Tを線形空間とする.V=STと表されるとき,VTに沿ったSへの射影ρとは, 次のような線形写像
ρ:VV
v=s+ts  (vV,sS,tt)
をいう.

冪等写像

線形空間V上の線形写像f:VVが冪等であるとは,f2=fが成り立つことをいう.

実は、冪等写像であることと射影であることは同値になります。

V,S,Tを線形空間とする。V=STと表されるとき,VTに沿ったSへの射影ρは冪等である.逆に, 冪等写像f:VVに対してV=Im fKer fが成り立ち,VKer fに沿ったIm f への射影を与える.

射影ρ が冪等であることを示す.
任意のvVに対して,v=s+t,sS,tTとただ1通りに分解したとき,
ρ2(v)=ρ(ρ(s+t))=ρ(s)=s=ρ(v)
であるから, 射影ρ は冪等である.

冪等写像f:VVに対してV=Im fKer fが成り立ち,VKer fに沿ったIm f への射影を与えることを示す.
任意のvVに対して, v=f(v)+(vf(v))が成り立ち, さらにf(vf(v))=f(v)f2(v)=0であるから,f(v)Im f,vf(v)Ker fであり,V=Im f + Ker f が成り立つ.
また,yIm f Ker fとすると, y=f(x) とかけて,yKer f だから,
0=f(y)=f2(x)=f(x)=y
より,Im f Ker f={0}
以上から, V=Im fKer fが成り立つ.
上記の直和分解とIm fの定義より, fVKer fに沿ったIm f への射影を与えることは明らか. □ 

命題1を示すにあたっては、特に体上のベクトル空間であるという情報は用いていないため、命題1は一般に環上の加群においてもまったく同様に成り立つ。

(おまけ)有限次元のときは仮定を弱められるという話

上の命題は任意の線形空間について成り立つ話だったわけですが、Vが有限次元のときに限定すると、冪等よりはもう少し弱い仮定でいけます。

Vを有限次元線形空間とし,dimV=nとする.線形写像 f:VVdimIm f 2=dimIm f を満たすならば, V=Im fKer fが成り立つ.

dimKer f=0またはdimKer f=n ならば主張は明らか.
dimKer f=k(1<k<n)とする.Ker f の基底v1,,vkを延長して,Vの基底v1,vk,vk+1,,vnとすることができる.
このとき,f(vk+1),,f(vn)Im f の基底を与え, さらにv1,vk,f(vk+1),,f(vn)Vの基底を与えることを示そう.このことが示されれば,V=Im fKer f はただちにしたがう.
f(vk+1),,f(vn)Im f の基底となることを示す.
任意のxIm f に対し, x=f(v)とかける.
v1,vk,vk+1,,vnVの基底であるから,
v=a1v1++akvk+ak+1vk+1++anvn
とかけて,v1,,vkKer fに注意すると,
x=f(v)  =f(a1v1++akvk+ak+1vk+1++anvn)  =ak+1f(vk+1)++anf(vn)
となり,xf(vk+1),,f(vn)の線形結合で表される.
f(vk+1),,f(vn)が線形独立であることを示す.
ak+1f(vk+1)++anf(vn)=0
とすると,ak+1vk+1++anvnKer f であるから,
ak+1vk+1++anvn=a1v1++akvk
a1v1akvk+ak+1vk+1++anvn=0
となり,v1,vk,vk+1,,vnの一次独立性からak+1==an=0となる.
次に,v1,vk,f(vk+1),,f(vn)Vの基底となることを示す.
dimV=nであるから, 一次独立性を示せばよい.
a1v1++akvk+ak+1f(vk+1)++anf(vn)=0
であるとする.両辺にfを作用させると,v1,,vkKer fに注意して,
ak+1f2(vk+1)++anf2(vn)=0
である.
ここで,dimIm f 2=dimIm f<であるから,fIm fへの制限f:Im fIm f 2は同型写像となり,特にIm fの基底f(vk+1),,f(vn)Im f 2の基底f2(vk+1),,f2(vn)に移す.
したがって,f2(vk+1),,f2(vn)の線形独立性から,ak+1==an=0となる.
すると,
a1v1++akvk+ak+1f(vk+1)++anf(vn)=0

a1v1++akvk=0
となるので,v1,,vkの線形独立性から,a1==ak=0となる.
以上より, 示された. □

命題2において, Vが有限次元であるという仮定を外すことはできない.
例えば, 実数列全体のなすベクトル空間RNにおいて,線形写像f:RNRNを,
f((an))=(bn) ただし,bn=an+1
で定める.すると,Im f 2=Im f=RNなので,
dimIm f 2=dimIm f
であるが,一方,
Ker f={(an) | n2,an=0}
であるので,Im f Ker f=Ker f{(0)}

参考文献

[1]
Steven Roman, Advanced Linear Algebra
投稿日:2021423
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

趣味でカジュアルに数学をしている社会人です。そんなに数学ができるわけではありませんが、楽しもうと思います。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 線形空間上での射影と冪等写像
  2. (おまけ)有限次元のときは仮定を弱められるという話
  3. 参考文献