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大学数学基礎解説
文献あり

線形空間上での射影と冪等写像(おまけが本編)

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

線形空間上での射影と冪等写像

線形空間上での射影

$V,S,T$を線形空間とする.$V=S \oplus T$と表されるとき,$V$$T$に沿った$S$への射影$ \rho$とは, 次のような線形写像
$$\rho:V \rightarrow V$$
$$ v=s+t \mapsto s \ \ (v\in V,s\in S,t \in t) $$
をいう.

冪等写像

線形空間$V$上の線形写像$f:V\rightarrow V$が冪等であるとは,$f^2=f$が成り立つことをいう.

実は、冪等写像であることと射影であることは同値になります。

$V,S,T$を線形空間とする。$V=S \oplus T$と表されるとき,$V$$T$に沿った$S$への射影$ \rho$は冪等である.逆に, 冪等写像$f:V\rightarrow V$に対して$V=\rm{Im}\ \it{f} \oplus \rm{Ker}\ \it{f}$が成り立ち,$V$$\rm{Ker}\ \it{f}$に沿った$\rm{Im}\ \it{f}$ への射影を与える.

射影$ \rho $ が冪等であることを示す.
任意の$v \in V $に対して,$v=s+t,s \in S,t \in T$とただ1通りに分解したとき,
$$ \rho^{2}(v)=\rho(\rho(s+t))=\rho(s)=s=\rho(v) $$
であるから, 射影$ \rho $ は冪等である.

冪等写像$f:V\rightarrow V$に対して$V=\rm{Im}\ \it{f} \oplus \rm{Ker}\ \it{f}$が成り立ち,$V$$\rm{Ker}\ \it{f}$に沿った$\rm{Im}\ \it{f}$ への射影を与えることを示す.
任意の$v \in V $に対して, $ v=f(v)+(v-f(v))$が成り立ち, さらに$$ f(v-f(v))=f(v)-f^2(v)=0$$であるから,$ f(v) \in \rm{Im}\ \it{f}$,$v-f(v) \in \rm{Ker}\ \it{f}$であり,$V=\rm{Im}\ \it{f} \ \rm{+} \ \rm{Ker}\ \it{f}$ が成り立つ.
また,$ y \in \rm{Im}\ \it{f} \ \cap \rm{Ker}\ \it{f}$とすると, $ y=f(x) $ とかけて,$ y \in \rm{Ker}\ \it{f} $ だから,
$$ 0=f(y)=f^2(x)=f(x)=y$$
より,$\rm{Im}\ \it{f} \ \cap \rm{Ker}\ \it{f}=\rm \{0\}$
以上から, $V=\rm{Im}\ \it{f} \oplus \rm{Ker}\ \it{f}$が成り立つ.
上記の直和分解と$\rm{Im}\ \it{f}$の定義より, $f$$V$$\rm{Ker}\ \it{f}$に沿った$\rm{Im}\ \it{f}$ への射影を与えることは明らか. □ 

命題1を示すにあたっては、特に体上のベクトル空間であるという情報は用いていないため、命題1は一般に環上の加群においてもまったく同様に成り立つ。

(おまけ)有限次元のときは仮定を弱められるという話

上の命題は任意の線形空間について成り立つ話だったわけですが、$V$が有限次元のときに限定すると、冪等よりはもう少し弱い仮定でいけます。

$V$を有限次元線形空間とし,$ \dim V = n $とする.線形写像 $ f:V\rightarrow V$$ \dim \rm{Im}\it \ f\ \rm ^{2}= \dim \rm{Im}\it \ f$ を満たすならば, $V=\rm{Im}\ \it{f} \oplus \rm{Ker}\ \it{f}$が成り立つ.

$ \dim \rm{Ker}\it \ f=\rm0$または$ \dim \rm{Ker}\it \ f=n$ ならば主張は明らか.
$ \dim \rm{Ker}\it \ f=k$$(1 < k < n)$とする.$ \rm{Ker}\it \ f$ の基底$v_1,…,v_k$を延長して,$V$の基底$ v_1,…v_k,v_{k+1},…,v_n$とすることができる.
このとき,$f(v_{k+1}),…,f(v_n)$$ \rm{Im}\it \ f$ の基底を与え, さらに$ v_1,…v_k,f(v_{k+1}),…,f(v_n)$$V$の基底を与えることを示そう.このことが示されれば,$V=\rm{Im}\ \it{f} \oplus \rm{Ker}\ \it{f}$ はただちにしたがう.
$f(v_{k+1}),…,f(v_n)$$ \rm{Im}\it \ f$ の基底となることを示す.
任意の$ x \in \rm{Im}\ \it{f}$ に対し, $ x=f(v)$とかける.
$ v_1,…v_k,v_{k+1},…,v_n$$V$の基底であるから,
$$v=a_1v_1+…+a_kv_k+a_{k+1}v_{k+1}+…+a_nv_n$$
とかけて,$v_1,…,v_k \in \rm{Ker}\it \ f$に注意すると,
$$ x=f(v) \\ \ \ =f(a_1v_1+…+a_kv_k+a_{k+1}v_{k+1}+…+a_nv_n) \\ \ \ =a_{k+1}f(v_{k+1})+…+a_nf(v_n) $$
となり,$x$$f(v_{k+1}),…,f(v_n)$の線形結合で表される.
$f(v_{k+1}),…,f(v_n)$が線形独立であることを示す.
$a_{k+1}f(v_{k+1})+…+a_nf(v_n)=0$
とすると,$a_{k+1}v_{k+1}+…+a_nv_n \in \rm{Ker}\it \ f$ であるから,
$$a_{k+1}v_{k+1}+…+a_nv_n=a_1v_1+…+a_kv_k$$
$$-a_1v_1-…-a_kv_k+a_{k+1}v_{k+1}+…+a_nv_n=0$$
となり,$ v_1,…v_k,v_{k+1},…,v_n$の一次独立性から$a_{k+1}=…=a_n=0$となる.
次に,$ v_1,…v_k,f(v_{k+1}),…,f(v_n)$$V$の基底となることを示す.
$ \dim V = n $であるから, 一次独立性を示せばよい.
$$ a_1v_1+…+a_kv_k+a_{k+1}f(v_{k+1})+…+a_{n}f(v_{n})=0$$
であるとする.両辺に$f$を作用させると,$v_1,…,v_k \in \rm{Ker}\it \ f$に注意して,
$$a_{k+1}f^{2}(v_{k+1})+…+a_{n}f^{2}(v_{n})=0$$
である.
ここで,$ \dim \rm{Im}\it \ f\ \rm ^{2}= \dim \rm{Im}\it \ f < \infty $であるから,$f$$\rm{Im}\ \it{f}$への制限$f: \rm{Im}\ \it{f} \rightarrow \rm{Im}\it \ f\ \rm ^{2}$は同型写像となり,特に$\rm{Im}\ \it{f}$の基底$f(v_{k+1}),…,f(v_n)$$\rm{Im}\it \ f\ \rm ^{2}$の基底$f^{2}(v_{k+1}),…,f^{2}(v_n)$に移す.
したがって,$f^{2}(v_{k+1}),…,f^{2}(v_n)$の線形独立性から,$a_{k+1}=…=a_n=0$となる.
すると,
$$ a_1v_1+…+a_kv_k+a_{k+1}f(v_{k+1})+…+a_{n}f(v_{n})=0$$

$$a_1v_1+…+a_kv_k=0$$
となるので,$v_1,…,v_k$の線形独立性から,$a_1=…=a_k=0$となる.
以上より, 示された. □

命題2において, $V$が有限次元であるという仮定を外すことはできない.
例えば, 実数列全体のなすベクトル空間$ \mathbb{R}^{\mathbb{N}}$において,線形写像$ f:\mathbb{R}^{\mathbb{N}} \rightarrow \mathbb{R}^{\mathbb{N}} $を,
$ f((a_n))=(b_n)$ ただし,$b_n=a_{n+1}$
で定める.すると,$ \rm{Im}\it \ f\ \rm ^{2}= \rm{Im}\it \ f=\mathbb{R}^{\mathbb{N}}$なので,
$ \dim \rm{Im}\it \ f\ \rm ^{2}= \dim \rm{Im}\it \ f$
であるが,一方,
$ \rm{Ker}\it \ f$$= \{(a_n) \ | \ \forall n \geq 2,a_n=0 \} $
であるので,$\rm{Im}\ \it{f} \ \cap \rm{Ker}\ \it{f}=\rm{Ker}\ \it{f} \rm \not \supset \{(0)\}$

参考文献

[1]
Steven Roman, Advanced Linear Algebra
投稿日:2021423

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投稿者

趣味でカジュアルに数学をしている社会人です。そんなに数学ができるわけではありません。数学小説の連載を構想中。

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