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大学数学基礎解説
文献あり

「ロピタルの定理」と言ってるソレ

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この記事では,よく人々が誤解してしまう【ロピタルの定理】について,定理が適用できない例を紹介していくことで,ロピタルの定理の正しい用法を守りましょう! という 注意喚起 を目的とします。

動機(無視しても良いです)

最近,数学に関するコンテンツが増えてきて飽きない生活を送れていますね。YouTubeにも様々な問題解説があったり,オンライン上で閲覧できる教科書があったり,MathlogやMathpediaなどの数学専用コンテンツが出来たり。。。
それらのコンテンツは気軽に全世界へ発信できるため,時にはミスであったり事実と異なることを説明してしまったり。それらを指摘して修正する(させる)ことでコンテンツの質は高まっていくものと考えます。

解説する側も間違えてしまうことで悪名高い有名な【ロピタルの定理】という定理があります。YouTube上で“ロピタルの定理”と検索したところ,ここ1年間(2020/04/25~2021/04/24)で27本の動画がヒットしました。特にその中で,ロピタルの定理の主張を述べて問題に適用したり証明している動画は23本ありましたが,その23本のうち明確に間違っていると判断したものは9本ありました。

「ぱるちが流し見で動画を見ていたところ,明確にロピタルの定理の主張を間違えており,口頭でも説明がない」ものが9本ありました。だからといって他の14本がすべて正しかったかを精査したわけではありません。「少なくとも9本は間違っていた」という表現です。ご自身で調べたければ, このリンクで検索結果が見れます ので参考にしてください。

YouTube上のコンテンツでは, ヨビノリさんのロピタルの定理 が最も丁寧に,かつ分かりやすく教えてくれていますので,正しい【ロピタルの定理】を知りたい! という人はそちらを閲覧してください。その他参考になるサイトは最後尾にとどめておきます。

よくもまあ数学系のコンテンツで正しくないことを世に出す勇気があるなぁ。。。なんなら,「大手予備校講師」を名乗ってる人も適当だなあなどと思ってしまいました。
従って,彼らの主張するロピタルの定理のどこが間違っているのかを指摘してみよう! と思い立ちましたので,文章に起こすこととしました。

ヨビノリさんの動画との差別化

ヨビノリさんの動画では, ロピタルの定理②(成り立たないケース) と称した解説があり,この記事はその二番煎じに見えるかもしれません。(実際半分以上は内容が被っています。)
が,ヨビノリさんの動画では『g(x)0を満たさない場合( 6分12秒 からの内容)』の説明においてxのときの説明となっていまして,なんでこの条件だけxなんだよ!x0の例じゃないのかよ!とツッコミを入れたくなってしまいました。
故にこの記事では,すべてx0のときのロピタルの定理で納得してもらうことを目標としています。

ロピタルの定理ってなんだっけ?

この記事では,次の形のロピタルの定理を扱います。(xf(x)のときは考えません。考えなくてもこの記事の目的は達成されるからです。)

ロピタルの定理

aを実数とし,aを含む十分小さな開区間Iを適当にとる。f(x)g(x)I{a}上で定義され,I{a}上微分可能な関数とする。limxaf(x)=0,limxag(x)=0
で,任意のxI{a}に対してg(x)0であるとする。このときlimxaf(x)g(x)
が(実数内に)存在するならば,limxaf(x)g(x)=limxaf(x)g(x)

要するに,次の4つの条件

① (大前提)aは実数,Iaを含む開区間,fgI{a}上で微分可能な関数

limxaf(x)=limxag(x)=0

③ 任意のxI{a}に対してg(x)0

limxaf(x)g(x)が実数内に存在

が仮定としてあり,結論limxaf(x)g(x)=limxaf(x)g(x)を得るのがロピタルの定理です。後から説明するように,②③④はどれが欠けてもいけません。

なお,関数がI{a}上で定義されることに対して違和感を持つ場合は,次の形がロピタルの定理であると思ってもらっても,以降の説明には支障がありません。

強いロピタルの定理

実数aをとり,aを含む開区間Iを適当にとる。f(x)g(x)I上で微分可能な関数で,f(a)=g(a)=0とする。任意のxI{a}g(x)0であり,limxaf(x)g(x)
が(実数内に)存在するならば,limxaf(x)g(x)=limxaf(x)g(x)

こちらの形では,次の4つの仮定が要求されています。

(大前提)aは実数,Iaを含む開区間,fgI上で微分可能な関数

f(a)=g(a)=0

任意のxI{a}に対してg(x)0

limxaf(x)g(x)が実数内に存在

どちらの形であっても特に気を付けたいのは,③の条件です。これをしっかりと説明できていないため,低俗な解説,低俗な動画ばかりになってしまっています。(どうしてCauchyの平均値の定理を証明しているときはg(x)0に敏感になっていたのに,ロピタルの定理になると忘れるのか,甚だ不思議です。)

条件②③④はすべて必要なの?

さすがに①の条件は大前提ですから,他の②③④の条件について,どれか1つでも欠けてはいけないことを説明しましょう。特に,

  • ①②③は満たされるが ④ が満たされない例
  • ①③④は満たされるが ② が満たされない例
  • ①②④は満たされるが ③ が満たされない例

を提示していくことで納得してもらいます。

①②③は満たされるが ④ が満たされない例

a=0とし,I=(1,1)とします。関数f(x)g(x)を,f(x)={x2sin1xifx00ifx=0,g(x)=x
と定めますと,f(x)g(x)I上で連続な関数です。

f(x)x=0で連続かは非自明なので証明します。

limx0|f(x)f(0)|=limx0|x2sin1x|limx0|x2|=0
よってlimx0f(x)=f(0)=0よりf(x)x=0で連続。

特にf(x)={2xsin(1x)cos(1x)ifx00ifx=0,g(x)=1
と計算されますので,f(x)g(x)I上で微分可能であることが分かります(これで①を満たすことが確認できました。)

②についても,f(x)g(x)I上で連続であることから明らかです。

さらにg(x)=0となるxI{0}上には存在しませんので,③も満たされています。

④について考えていきましょう。
limx0f(x)g(x)=limx0{2xsin(1x)cos(1x)}
ですが,limx02xsin(1x)=0に対してlimx0cos(1x)は振動しますので,結局limx0f(x)g(x)
は存在しません。これで④が満たされていないことが分かりました。またこのとき,
limx0f(x)g(x)=limx0xsin1x=0
ですので,limx0f(x)g(x)limx0f(x)g(x)
であることが確認できました。

①③④は満たされるが ② が満たされない例

a=0とし,I=(1,1)とします。関数f(x)g(x)を,
f(x)=1+2x,g(x)=1+x
と定めますと,これらが①を満たすこと,②が満たされていないことは明らかです。さらに,
f(x)=2,g(x)=1
と計算できますので,③を満たすのも明らかであり,limx0f(x)g(x)=2(収束)
よって④も満たされています。ですが②は満たされていないために,1=limx0f(x)g(x)limx0f(x)g(x)=2
であることが確認できました。

①②④は満たされるが ③ が満たされない例

③の条件の否定について

③の条件「任意のxI{a}に対してg(x)0」を正確に否定すると,「aを含むどんなに小さな開区間Iに対しても,あるxI{a}が存在して,g(x)=0を満たす」となります。

つまり③が満たされないことを確認したければ,任意に正の実数εをとり,I=(aε,a+ε)と定めておいて,どんなに正の数εを小さくしてもあるxI{a}が存在して,g(x)=0を満たすことを示せば十分です。

a=0とし,任意に正の実数εをとってI=(ε,ε)とおきます。また関数f(x)g(x)を,
f(x)={x3(4+2xcos1x2+3x2sin2x2+4x3sin1x2)ifx00ifx=0
g(x)={x3(4+xcos1x2+3x2sin2x2+2x3sin1x2)ifx00ifx=0
と定めます。少し考えれば,f(x)g(x)は共にx=0で連続であることが分かります。またf(x)g(x)I上で微分可能で,特に
f(x)={2xsin1x2(2+12xsin1x2+15x3cos1x2+12x4)ifx00ifx=0
g(x)={2xsin1x2(1+12xsin1x2+15x3cos1x2+6x4)ifx00ifx=0
と計算されます。(計算の詳細は省略してしまいましたが,時間のある方は考えてみてください。)上記計算から,このf(x)g(x)は①を満たしていることが分かり,f(x)g(x)の連続性から②を満たすことも分かりました。また④については,limx0f(x)g(x)=limx02+12xsin1x2+15x3cos1x2+12x41+12xsin1x2+15x3cos1x2+6x4=2+0+0+01+0+0+0=2(収束)
と計算できますので,④が満たされていることも確認できました。

しかし,
limx0f(x)g(x)=4+0+0+04+0+0+0=1
ですので,1=limx0f(x)g(x)limx0f(x)g(x)=2
と,ロピタルの定理を否定するような結論が得られました。これは③の条件が満たされていないためです。

③を満たしていないことの確認

任意に正の実数εをとり,I=(ε,ε)とする。このときnε>1πε2
を満たすように正の整数nεがとれる。x0=1bnεπとすれば,0<x0<εよりx0I{0}であり,sin1x02=sinnεπ=0
故に,g(x0)=0である。よって③は満たされない。

以上より,①②③④のいずれについても述べる必要があることが分かってもらえたでしょうか?

まとめ

ロピタルの定理の発動条件は,しっかり確認しようね!!

ちなみに[三宅 入門微分積分]のような大学1年生の標準的な教科書でさえロピタルの定理を間違っていることを確認しました。③の条件を考えていませんでした。なんでCauchyの平均値の定理の時にはg(x)0について言及しているのに,ロピタルの定理で(書き)間違えるかなあ。

参考文献の『きみは「ロピタルの定理」を本当に知っているか』も③を考えていません。筆者の長谷川先生の主張には同意しますが。

追記

参考文献の『きみは「ロピタルの定理」を本当に知っているか』の閲覧が,2022/03/11時点で出来ないことを確認しております。2021/04/24時点のアーカイブをとっていましたので,参考にしたい方は次のリンクから飛んでください。

https://web.archive.org/web/20210424201231/https://saitei.net/2016/07/22/post-179/

参考文献

[2]
加藤 文元, 大学教養 微分積分, チャート式シリーズ , 数研出版, 2019, p.97~103
[4]
三宅 敏恒, 入門微分積分, 培風館, 1992, p.36
投稿日:2021424
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ぱるち
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数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

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  2. ロピタルの定理ってなんだっけ?
  3. 条件②③④はすべて必要なの?
  4. ①②③は満たされるが ④ が満たされない例
  5. ①③④は満たされるが ② が満たされない例
  6. ①②④は満たされるが ③ が満たされない例
  7. まとめ
  8. 参考文献