小学校では割り算というものを習います。
これは、数を対象にした計算方法で、
$$7 \div 2 = 3 ... 1$$
といった計算でした。
この記事では、数を拡張した「箱の並べ方」に対する割り算というものを考察します。
※$k$-core、$k$-quotientなどと呼ばれる対象についての話ですが、小学生でも楽しめます。
この記事では、次の図のように、正方形の"箱"を敷き詰めて得られる図形について考えます。
この図形には、ヤング図形(Young図形)という名前がついています。Youngというのはこの図形を考察した人の名前です。また、ヤング図形は分割(Partition)と呼ばれることもあります。
なぜ分割なのか?という事については、次の図をご覧ください。
このように、ヤング図形は自然数により多くの情報を付加した対象とみなすことができます。
※このあたりが気になる場合は、末尾の
余談
を参照してください。
ちなみに、次のような図形はヤング図形ではありません。左上から密に敷き詰められていないからです。
おわかり頂けたでしょうか?
ここで、ヤング図形から"ドミノ"="2つの隣接した箱"を取り除いていくゲームを考えます。ドミノを取り除いた後もヤング図形になるようにドミノを取り除いていきます。
このようにドミノを取り除いていくと、虚無になる場合とならない場合がありますね。
「ドミノをこれ以上とれない形」には、以下のようなものがあります。
このようなヤング図形を2-coreと呼びます。ドミノは2つの箱で出来ていますが、この2つの箱をセットにして取り除く作業をしたときに、残るコア部分というような意味合いです。
このドミノを取り除いていくゲームは、2で割るということの一般化と考えることができます。
一部、2-coreが絡むところは普通の割り算と異なっていますね。数を拡張してヤング図形として取り扱うときには、数だけでは微妙に説明しきることのできない要素があるということですね。
数学の世界では、このようにある概念を拡張して考察をするときに、従来の考え方が成り立たなくなるという事がしばしばあります。逆に言うと、従来の考え方が成り立たなくなる部分にこそ、新しい考え方の本質があるとも言えます。
ところで、この"割り算"ですが、なんと割った結果もヤング図形で表現することができます。
と言っても意味不明ですね?これから説明していきます。
いま、ドミノやヤング図形に色をつけるという事を考えます。
具体例を示したほうがはやいので、次の図を見てください。
色と言っているのに0と1の数字を入れるあたりが破綻していますが、その辺は無視して話を進めます。要は、それぞれの箱に、交互に0と1の2つでラベリングをしていくということですね。
さて、このように色をつけたヤング図形からドミノ取りをする事を考えると、出てくるドミノには2種類あります。右上の箱が0になっているものと、右上の箱が1になっているものです。
先ほど挙げた例では、右上が1のものしかなかったのですが、実際には右上が0のものもあります。
ところで、このハイブリッド形に関しては、2種類のドミノ取りの方法がありますが、どちらの取り方をしても右上が0のものと、右上が1のものが一つずつ出てくるようになっています。
不思議ですね!
横2、高さ4の長方形からなるヤング図形から、ドミノを取り除くことを考えてみます。
取り除く方法には様々なパターンがありますが、どのパターンで取り除いても、必ず右上が0のものと右上が1のものが一つずつ出てきます。
じつは、次のような事がわかっています。
定理:任意のヤング図形からドミノ取りをするとき、取り去ったドミノたちの右上の数は順序を除いて一意である。
しかし、さきほどの定理よりもさらに強い事実が分かっています。
定理:任意のヤング図形からドミノ取りをするとき、取り去ったドミノたちの右上の数ごとにヤング図形を構成すると、そのヤング図形の形は一意に決まる。
?????
何を言っているのか、ちょっとわからないですね。
ちょっと図を見てみましょう。
まだちょっとよくわからないかもしれません。さきほど「おもしろドミノ」で考察した、2×4の長方形で考えてみましょう。ドミノを取り去る方法としては、順序を区別すると6通り、ドミノへの分割のみを考慮すると5通りの方法がありますが、どの方法で取り去った場合にも、右上が0のドミノと右上が1のドミノが2つずつ出ていました。この2つのドミノの位置的な関係性を考慮すると、次の図のような対応付けができます。
初見ではよく意味がわからないかもしれませんが、後で振り返ることにして、引き続き読み進めてみましょう。
この"割り算"を、あえて掛け算のような方式で表現してみます。
このような考え方では、$2\times 3=6$という計算にも次のような解釈を加えることができます。
この話は、なんとドミノ以外についても成立します。
定理:ドミノの代わりに、$n$個からなるブロックでも同様の主張が成り立つ。
つまり、$n$色で塗り分けられたヤング図形が与えられたとき、ヤング図形であることを維持してそこから$n$個連続する箱からなる"リボン"を取り去る操作を考える。このとき、その操作によって$n+1$個のヤング図形の組を構成することができ、それによって得られるヤング図形の組は取り去り方によらず一意に決まる。
Young図形におけるある種の割り算が、またYoung図形になるってすごくないですか?
初等的だけどあまり知られていない、面白い話だと思っています。
一般的には、割り算の拡張は体の理論であったり、環の理論であったり、あるいは同値類で割るというようなレベルでの一般論であったりしますが、そういった考え方を離れて、ごく素朴な割り算の拡張について、このような驚くべき規則性があるというのは、本当に素晴らしいことだと思います。
小学校で"つるかめ算"という謎の計算方法を習うとき、計算の途中でつるとかめの数を足すという事をします。しかし、実際にはつるとかめは異なる個体であって、「その数を足すという計算にどのような本質的な意味があるのか?」という事は意味不明です。
言い換えると、物事を数で表現するとき、その物事の元々持っている性質のいくつかは捨てられます。つるとかめの数を足すという事は、個体としてのつるやかめの情報を捨て去ることによって成立します。
このような観点で数というものを捉えたとき、数というものの持つ情報量は極限まで減らされているとも言えます。そこで、例えば5という数について、5個のものが存在しているというだけではなくて、「5個のものがどのように配置されているか」という情報まで含めて考えることにすると、情報量が少し増えることになります。
それがまさに、ヤング図形という対象なのでした。