$\sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}$の三乗根を外す問題とその解法を見たとき、数値の設定によっては高校生にも解きやすい問題を作れそうだと思い、覚書として記事を作ります。
[問]
\begin{align}
\sqrt[3]{-5+2\sqrt{13}}
\end{align}
の根号を外せ
[解]
$$u=\sqrt[3]{-5+2\sqrt{13}}\quad ,\quad v=\sqrt[3]{-5-2\sqrt{13}}$$
とする。このとき、$t=u+v$とおくと
$$t^3=u^3+v^3+3uv(u+v) = -10-9t \Longleftrightarrow t^3+9t+10=0$$
$t=-1$のとき左辺は$0$になるので因数定理より
$$(t+1)(t^2-t+10)=0$$
$$\therefore t=-1\quad ,\quad \frac{1\pm \sqrt{39}i}{2}$$
ここで$t\in \mathbb{R} $より$t=-1 $なので、
$$
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
u+v=-1 \\
uv=-3
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
を満たす。従って、$u,v$は次の二次方程式を満たす:
$$s^2+s-3=0$$
$$\Longleftrightarrow s=\frac{-1\pm\sqrt{13}}{2}$$
ここで、$-5+2\sqrt{13}>0より、u=\frac{-1+\sqrt{13}}{2}$
よって
$$\sqrt[3]{-5+2\sqrt{13}}=\frac{-1+\sqrt{13}}{2}$$
この解法を見たとき、
なぜ$\sqrt[3]{-5+2\sqrt{13}}+\sqrt[3]{-5-2\sqrt{13}}$を考えるのか
なぜ$\sqrt[3]{-5-2\sqrt{13}}$を足しているのか
等について疑問を抱きました。初めはピンときませんでしたが、実は三次方程式の解の公式としてよく知られているカルダノの公式を導出する際に似たことをしていることを思い出したため、カルダノの公式と比較しながら考えてみることにしました。今回の記事ではカルダノの公式の導出の一部を用いるだけなので、読み飛ばしていただいてもかまいません。
$ax^3+bx^2+cx+d=0$の解の公式は両辺をaで割ることによって$$x^3+\frac{b}{a}x^2+\frac{c}{a}x+\frac{d}{a}=0$$を得る。ここで、
$$x=y-\frac{b}{3a}$$
とおき代入することで二次の項を消去できるため次の三次方程式を得る:
$$y^3+py+q=0 $$
ここで、$y=u+v$とおき整理することで
$$(u+v)^3+p(u+v)+q=0 \Longleftrightarrow u^3+v^3+(3uv+p)(u+v)+q=0$$
このとき、$u,v$の値が下の連立方程式を満たすように取れば$u^3+v^3+(3uv+p)(u+v)+q=0$の解の候補を導出できる。
$$
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
u^3+v^3=-q \\
uv=-\frac{p}{3}
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
$$
\Rightarrow
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
u^3+v^3=-q \\
u^3v^3=\left(-\frac{p}{3}\right)^3
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
$$
上の連立方程式から$(t-u^3)(t-v^3)=0$を考えることで、
$$t^2+qt-\left( \frac{p}{3}\right)^3=0 \Longleftrightarrow t=\frac{-q\pm\sqrt{q^2+4\left(\frac{p}{3}\right)^3}}{2} \in \mathbb{C}$$
ここで、
$$t_1=\frac{-q+\sqrt{q^2+4\left(\frac{p}{3}\right)^3}}{2} \quad ,\quad t_2=\frac{-q-\sqrt{q^2+4\left(\frac{p}{3}\right)^3}}{2}$$
とすると、$t_1t_2\in \mathbb{R}よりu^3v^3\in \mathbb{R}$が分かるので、$\omega=\frac{-1+\sqrt{3}i}{2}$を用いて
$$uv\in \mathbb{R}\quad もしくは\quad uv\in \mathbb{R}\omega\quad もしくは\quad uv\in \mathbb{R}\omega^2$$
となるが、これは$uv=-\frac{p}{3}$より$uv\in \mathbb{R}$であることが分かる。従って、
$$u_1=\sqrt[3]{t_1}=\sqrt[3]{\frac{-q+\sqrt{q^2+4\left(\frac{p}{3}\right)^3}}{2}}\quad ,\quad v_1=\sqrt[3]{t_2}=\sqrt[3]{\frac{-q-\sqrt{q^2+4\left(\frac{p}{3}\right)^3}}{2}}$$
とおくと、$u,v$の組合わせ$(u,v)$として適しているのは、$(u_1,v_1),(u_1\omega,v_1\omega^2),(u_1\omega^2,v_1\omega)$となる。
従って、
$$y=\sqrt[3]{t_1}+\sqrt[3]{t_2}\quad,\quad \sqrt[3]{t_1}\omega+\sqrt[3]{t_2}\omega^2\quad ,\quad \sqrt[3]{t_1}\omega^2+\sqrt[3]{t_2}\omega$$
の3通りが解となる。
上記がカルダノの公式の導出となります。
これから、$u=\sqrt[3]{a+b\sqrt{c}}$の三乗根を外す問題について考えていきたいと思います。
カルダノの公式を導出する中で、
$y=u+v$とおき整理することで
$$(u+v)^3+p(u+v)+q=0 \Longleftrightarrow u^3+v^3+(3uv+p)(u+v)+q=0$$
このとき、$u,v$の値が下の連立方程式を満たすように取れば$u^3+v^3+(3uv+p)(u+v)+q=0$の解の候補を導出できる。$$ \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} u^3+v^3=-q \\ uv=-\frac{p}{3} \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
$$ \Rightarrow \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} u^3+v^3=-q \\ u^3v^3=\left(-\frac{p}{3}\right)^3 \end{array} \right. \end{eqnarray} $$
としていることから、
ことが大切であることが分かります。$(uv)^3$が簡単な数になるためには、$u^3=a+b\sqrt{c}$より$v^3=a-b\sqrt{c}$とおいてやれば根号が消えて簡単な数になります。そのため、$v=\sqrt[3]{a-b\sqrt{c}}$とおいていたわけですね!また、このように$v$をおいたとき、$u^3+v^3=2a$となり、簡単な数になることもカルダノの公式の導出を使いやすくしていますね!
これで、初めに抱いた疑問について解消することができました。
最後に、問題を作るときの手順を紹介して終わりにしようと思います。
$t=1\quad$ を入れると、$1-3uv-(u^3+v^3)=0$
$t=1\quad$ を入れると、$1-3uv-(u^3+v^3)=0$
従って$2a=-3uv+1$なので、$uv$を奇数で取れば$a$が整数となるため、$uv=-5$とする。このとき、$a=8$となる。
$t=1\quad$ を入れると、$1-3uv-(u^3+v^3)=0$
従って$2a=-3uv+1$なので、$uv$を奇数で取れば$a$が整数となるため、$uv=-5$とする。このとき、$a=8$となる。
ここで、$b^2c=a^2-(uv^3)=64+125=189=3^2\times21$なので、$b=3,c=21$
従って、$u=\sqrt[3]{8+3\sqrt{21}}$は例1の解法で簡単に三乗根を開くことのできる数値設定である。
以上がすべての工程になります。始めの方に決める$t$や$uv$の値によって$a,b,c$の値がいい感じになるかならないかが決まるので、とりあえず適当に入れてみるといいと思います。
三次方程式の解の公式が立方根を開く際に役立つ事実が私には驚きだったため、使う機会があれば(果たしてそんな機会はあるのかはさておき)使いたいです。