東大(理系)の数学最後の問題は整式に関する問題ですが,見かけの割には大した問題ではないです.しかし,答案を書くという点では面倒かもしれません.
定数 $b$, $c$, $p$, $q$, $r$ に対し,
\begin{equation}
x^4 + bx + c = (x^2 + px + q)(x^2 - px + r)
\end{equation}
が $x$ についての恒等式であるとする。
$p \ne 0$ であるとき,$q$, $r$ を $p$, $b$ で表せ。
$p \ne 0$ とする。$b$, $c$ が定数 $a$ を用いて
\begin{align}
b &= (a^2 + 1)(a + 2),&
c &= - \left(a + \frac{3}{4}\right)(a^2 + 1)
\end{align}
と表されているとき,有理数を係数とする $t$ の整式 $f(t)$, $g(t)$ で
\begin{equation}
\{p^2 - (a^2 + 1)\}\{p^4 + f(a) p^2 + g(a)\} = 0
\end{equation}
を満たすものを $1$組求めよ。
$a$ を整数とする。$x$ の $4$次式
\begin{equation}
x^4 + (a^2 + 1)(a+2) x - \left(a + \frac{3}{4}\right)(a^2 + 1)
\end{equation}
が有理数を係数とする2次式の積に因数分解できるような $a$ をすべて求めよ。
この問題は簡単なので落とせません.右辺を展開してまとめて,左辺と係数を比較するだけです.
\begin{equation}
\mbox{右辺} = x^4 + (q + r - p^2) x^2 + p(r - q) x + qr
\end{equation}
であるので,$p \ne 0$ より
\begin{align}
q + r &= p^2 \cdots ①\\
r - q &= \frac{b}{p} \cdots ②\\
qr &= c \cdots ③
\end{align}
が得られます.このうち,式 ①, ② を使うことで
\begin{align}
q &= \frac{1}{2}\left(p^2-\frac{b}{p}\right),&
r &= \frac{1}{2}\left(p^2 + \frac{b}{p}\right)
\end{align}
が得られます。
この問題は (1) の式 ③ を使います.(1) の答えを ③ 代入すると,
\begin{equation}
qr = \frac{1}{4}\left\{p^4 - \left(\frac{b}{p}\right)^2\right\} = c\mbox{ すなわち } p^6 - b^2 = 4c p^2
\end{equation}
が得られます.ここで (1) で得られた $b$ と $c$ の式を代入すると,
\begin{equation}
p^6 - (a^2 + 1)^2 (a + 2)^2 = - (4a + 3)(a^2 + 1)p^2
\end{equation}
が得られ,これを変形すると
\begin{equation}
p^6 + (4a + 3)(a^2 + 1)p^2 - (a^2 + 1)^2 (a + 2)^2 = 0
\end{equation}
となります.この左辺を因数分解すると
\begin{equation}
\mbox{左辺} = \{p^2 - (a^2 + 1)\}\{p^4 + (a^2 + 1)p^2 + (a^2 + 1)(a + 2)^2\}
\end{equation}
となるので,$f(t) = t^2 + 1$ かつ $g(t) = (t^2 + 1)(t + 2)^2$ が求める整式(の一例)となります.
この問題で注意して欲しいことは,すぐに (2) の事実に飛びつかないことです.与えられた数式を因数分解したときに $(x^2 + px + q)(x^2 - px + r)$ の形になることを示す必要があります.それがないと大幅な減点は免れないでしょう.
与えられた整式が $2$次式の積に因数分解できるとすると,$(x^2 + px + q)(x^2 +p'x + r)$ で表されますが,この式を展開して3次の項を取り出すと $(p + p') x^3$ となり,与えられた整式の $3$次の係数が $0$ であることから $p' = -p$ となります.
よって,$(x^2 + px + q)(x^2 +p'x + r)$ に $p' = -p$ を代入して,与えられた式は $(x^2 + px + q)(x^2 -px + r)$ の形に因数分解できます.
さて,これで $p \ne 0$ である限り (1) と (2) の条件が適用されるので,$p$ は
\begin{equation}
\{p^2 - (a^2 + 1)\}\{p^4 + (a^2 + 1)p^2 + (a^2 + 1)(a + 2)^2\} = 0
\end{equation}
を満たします.ここで,$p^2 > 0$, $a^2 + 1 > 0$, $(a+2)^2 ≧ 0$ なので,$p^4 + (a^2 + 1)p^2 + (a^2 + 1)(a + 2)^2 > 0$ となります.よって,$p^2 = a^2 + 1$ となり,$(p+a)(p-a) = 1$ が得られます.
$a$ は整数なので $p^2=a^2+1$ も整数です.$p$ は有理数であるので $p$ 自身も整数となり,$p + a = p - a = \pm 1$ となります.よって、$p = \pm 1$ かつ $a = 0$ が得られ,このとき,$b = 2$, $c = -3/4$ となり,(1) から $q$ と $r$ も有理数となります.
次に $p = 0$ とします.このとき,$(x^2 + px + q)(x^2 - px + r)$ の $1$次の係数は $p(r-q) = 0$ です.よって,$b = (a^2 + 1)(a + 2) = 0$ となるので,$a^2 + 1 > 0$ より $a = -2$ となります.したがって,$c = qr = 25/4$ です.
一方,$(x^2 + px + q)(x^2 - px + r)$ の2次の係数は $q + r = 0$ であるので,$r = -q$ が成り立ち,これを $qr = 25/4$ に代入すると $-q^2 = 25/4$ すなわち $q^2 = -25/4$ が得られ,条件を満たす実数 $q$ は存在しません.
以上のことから,条件を満たす $a$ は $a = 0$ のみとなります。
この問題は,難しくはないですが,条件をきちんと整理して答案を書くという点では面倒だと思います.時間が取られます.
私はこういうときに大きな流れが分かっているかを重視するのですが,実際の採点ではどういうところを見るのでしょう.
受験生からは採点はブラックボックスになっているので,時間がないときにどちらを重視するかで天国と地獄かもしれません.
そういう意味ではあまりいい問題とは思えないですが,それも入試というものと思ってあきらめるしかないのでしょう.