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形式的冪級数環に関するHilbertの基底定理

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Noether環上の多項式環がNoether環になることは,一般にHilbertの基底定理として知られている.本稿では,これを形式的冪級数環に適用し,全く同様の定理が成り立つことを見る.

基本的には,Hilbertの基底定理の証明と方針は変わらない.しかしながら,通常の多項式では「最高次」を議論することができたが,形式的冪級数において同じことは不可能である.そこで,「最低次」の項に注目することが証明の肝になる.

$A$を可換環,$A[[x]]$$A$係数の形式的冪級数環とする.

$A$がNoether環ならば,$A[[x]]$もNoether環である.

形式的冪級数$f=a_rx^r+a_{r+1}x^{r+1}+\ldots, \, a_r\neq 0$に対し,$r$$f$の次数,$a_r$を先頭係数と呼ぶことにする.

$I\subseteq A[[x]]$を任意のイデアルとし,$I$が有限生成であることを示す.$I=(0)$のときは明らかであるから,$I\neq (0)$とする.$f_1\in I$を,$0$でない元のうち次数が最小になるようにとる.各$i\in \mathbb{N}$に対し,$f_i$の次数を$d_i$,先頭係数を$a_i$とし,次の条件に従って$f_i$を帰納的に定める:
1.  $f_{i+1}\in I$
2.  $a_{i+1}\in A\backslash (a_1,\ldots,a_i)$
3.  $f_{i+1}$の次数は,条件1,2を満たす元の中で最小である.

このとき,イデアルの昇鎖$(a_1)\subsetneq (a_1,a_2)\subsetneq (a_1,a_2,a_3)\subsetneq \cdots$を考えると,$A$はNoether環よりこれは有限の長さで停止する.$(a_1,\ldots,a_k)$で停止するとき,$Iがf_1,\ldots,f_k$によって生成されることを示す.

$g=ax^d+\ldots$$I$の任意の元とする.(ここに,$g$の次数は$d$,先頭係数は$a$である.)このとき,$a\in (a_1,\ldots,a_k)$となる.実際,$a\not\in (a_1,\ldots,a_k)$とすると,上の条件を満たす$f_{k+1}$が存在することになり矛盾である.

まず,$d\geq d_k$の場合を考える.任意の$i$に対して,$d_i\leq d_{i+1}$であるから,$d\geq d_i$が成り立つ.いま,$a\in (a_1,\ldots,a_k)$より$a=\sum_{i=1}^kc_ia_i, \, c_i\in A$と書ける.$g_0$
$$\begin{eqnarray} g_0=\sum_{i=1}^kc_ix^{d-d_i}f_i\end{eqnarray}$$と定めれば,$g-g_0$$I$に属し,その次数は$>d$である.これを繰り返し,各$r$に対して,$g-\sum_{i=0}^rg_i$の次数が$>d+r$となるように$g_r\in (f_1,\ldots,f_k)$を定めていくことができる.このとき,$g-\sum_{r=0}^{\infty}g_r=0$となる.実際,$g-\sum_{r=0}^{\infty}g_r\neq 0$とすると,$\text{deg}(g-\sum_{r=0}^{\infty}g_r)<\infty$であるが,任意の$n$に対して$\text{deg}(g-\sum_{r=0}^{\infty}g_r)>d+n$であることに矛盾する.従って,$g=\sum_{r=0}^{\infty}g_r\in (f_1,\ldots,f_k)$である.

次に,$d< d_k$の場合を考える.$a\in (a_1,\ldots,a_k)$より,$a\in (a_1,\ldots,a_m)$となるような最小の$m(1\leq m\leq k)$がとれる.このとき,$a\not\in (a_1,\ldots,a_{m-1})$より,$g$は上の条件1,2を満たすが,$f_m$はそのような条件を満たすものの中で最小の次数をもつから,$d\geq d_m$が成り立つ.いま,$a=\sum_{i=1}^mc_ia_i, \, c_i\in A$と書ける.$h$
$$\begin{eqnarray} h=\sum_{i=1}^mc_ix^{d-d_i}f_i\end{eqnarray}$$と定めれば,$g-h$$I$に属し,その次数は$>d$である.$g$$g-h$に置き換えて,同様の操作を適用する.これを繰り返せば,ついには次数が$\geq d_k$である多項式$\tilde{g}=g-\sum h_i\in I$を得る.従って,結局上の場合に帰着させることができ,$\tilde{g}\in (f_1,\ldots,f_k)$となる.よって,$g=\tilde{g}+\sum h_i\in (f_1,\ldots,f_k)$となる.

投稿日:202159

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