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大学数学基礎解説
文献あり

Cauchy列を用いた実数の構成

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本稿では順序体Qから連続公理を満足するRを構成する。また、一部の証明を省略した。(『解析入門I』に載っている。)

特に記載のない限り0N とする。

順序体

(R,+,×,)が順序体であるとは次の4条件を満たすことである。
1)(R,+,×)は体である。
2)R上の全順序集合である。
3)abならば任意の元cRに対してa+cb+cが成立する。
4)0a,bならば0abが成立する。

Qは自然に順序体と見れる。このQからRを作るのである。

順序体Rの空でなく上に有界な任意の部分集合が上限を持つときRは連続公理を満たすという。

R,Rを順序体とする。写像f:RRが順序同型かつ体同型でもあるときfは順序体同型であるという。

連続公理を満たす順序体は順序体同型を除いて一意的に存在する。

以下、これを示す。まずは存在性に関してである。

命題名(任意)

Qは最小の順序体である。すなわち、任意の順序体Rに関して順序を保つ単射体準同型QRが存在する。

Rの標数が0であることを示したら良い。(3)より1,1のいずれか一方のみが0より大きいことがわかるが、(4)より0<1がわかる。(3)を繰り返し使うことによって0<1++1(n回)が任意の正の整数nについて成立することが確かめられる。

順序体の元aに対して、max{a,a}|a|で表す。

Rを順序体とする。各項がRの元からなる数列をR数列という。R数列{xn}aR

ε>0,NN;n>N|xna|<ε

という条件を満たすとき{xn}aに収束するという。R数列{xn}

ε>0,NN;n,m>N|xnxm|<ε

という条件を満たすとき、{xn}はCauchy列であるという。

(1)数列が収束したとすると収束先は唯一つである。(2)Cauchy列は有界である。(3)Cauchy列が収束する部分列を持てばもとの列も同じ値に収束する。(4)収束する数列はCauchy列である。

(1){an}b,cに収束する数列とする。bcだとすると、N1N;n>N1|anb|<|bc|2

N2N;n>N2|anc|<|bc|2

となる。このようなN1,N2と、N>max{N1,N2}となるNNをとると、|bc||aNb|+|aNc|<|bc|2+|bc|2=|bc|

これは矛盾である。よって、b=cである。
(2){an}をCauchy列とする。

nN;n,m>N|anam|<1

このようなNNをとると、n>N|anaN+1|<1

となる。よって、A=max{|a0|,|aN|,|aN+11|,|aN+11|}とすると、nN,|an|<A

となり、{an}は有界であることがわかる。
(3)Cauchy列{an}の部分列{ank}aRに収束したとする。ε>0を任意にとる。{ank}は収束するから、KN;k>K|anka|<ε2

このようなkNをとる。{an}はCauchy列であるから、NN;n,m>N|anam|<ε2

このようなNNをとる。また、l>K,nl>Nを同時に満たすlNをとると、n>N|ana||ananl|+|anla|<ε2+ε2=ε

よって、{an}aに収束する。
(4){an}aに収束する数列とする。ε>0を任意にとる。

nN;n>N|ana|<ε2

このようなNNをとる。

n,m>N|anam||ana|+|ama|<ε2+ε2=ε

よって、{an}はCauchy列である。

Q数列でCauchy列であるもの全体の集合をEとする。E上に和と積を次の様に定める。

{xn}+{yn}={xn+yn}

{xn}{yn}={xnyn}

この演算はwell-definedである。(つまり、Cauchy列の和と積は再度Cauchy列になる。)さらに、Eはこの演算に関して環になる。

環になることは面倒なので省略する。(作業的にできる。){xn},{yn}Eを任意の元とする。ε>0を任意にとる。和がwell-definedであることを確かめる。

NN;n,m>N|xnxm|,|ynym|<ε/2

である。このようなNNをとる。

n,m>N|(xn+yn)(xm+ym)||xnxm|+|ynym|<ε2+ε2=ε

より{xn}+{yn}Eである。積がwell-definedであることを示す。

n0N;n,m>n0|xnxm|<1

n0N;n,m>n1|ynym|<1

となる。このようなn0,n1Nをとると、n>n0|xn|<max{|1xn0+1|,|1+xn0+1|}(=X)

n>n1|yn|<max{|1yn1+1|,|1+yn1+1|}(=Y)

となる。再度Cauchy性を用いると、n2N;n,m>n2|xnxm|<ε/2X

n3M;n,m>n3|ynym|<ε/2Y

となる。このようなn2,n3Nをとり、N=max{n0,n1,n2,n3}

n,m>N|xnynxmym|=|xnynxnym+xnymxmym||xn||ynym|+|ym||xnxm|<X(ε/2X)+Y(ε/2Y)=ε/2+ε/2=ε

となり、{xn}{yn}Eである。

E上の関係R{xn}R{yn}数列{xnyn}は0に収束する、と定義する。これはE上の同値関係になる。

反射律と対称律は作業的に示せるから推移律のみ示す。{xn}R{yn},{yn}R{zn}であるとする。ε>0を任意にとる。

n0N;n>n0|xnyn|<ε/2

n1N;n>n1|ynzn|<ε/2

が成立する。このようなn0,n1Nをとり、N=max{n0,n1}とする。

n>N|xnzn||xnyn|+|ynzn|<ε2+ε2=ε

よって{xn}R{zn}である。

商集合E/Rを実数集合といい、Rと書く。{xn}Eを代表元とする同値類を[xn]と書く。

Rに次の様に2つの演算+,を次の様に定義する。

和)[xn]+[yn]=[xn+yn][xn][yn]=[xnyn]この演算はwell-definedであり、(R,+,)は環とくに体になる。

[xn]=[xn],[yn]=[yn]であるとする。和がwell-definedであることを示す。ε>0を任意にとる。

NN;n>N|xnxn|,|ynyn|<ε/2

である。このようなNNをとると、n,m>N|(xn+yn)(xn+yn)||xnxn|+|ynyn|<ε2+ε2=ε

となるから和はwell-definedである。積のwell-defined性も同様に示すことができる。(命題9の証明を参照せよ。)体であることを示す。Eが環であることと演算の定めた方よりRは環である。0[xn]Eを任意の元とする。まず、ある番号以降xnは符号が一定になることを示す。[xn]0であるから

ε>0;MN,nM>M;|xnM|ε

そのようなεをとる。また、各MNに対して上記の条件を満たすnMをとる。{xn}はCauchy列であるから

NN;n,m>N|xnxm|<ε/2

となる。このようなNNをとり、上の式においてn=nNとすると、m>NxnNε/2<xm<xnN+ε/2

これはxmxnNが同符号であることを表している。(|xnN|ε>0よりxnN0に注意せよ。)したがって、N番以降符号は変化しない。特に、n>Nε/2<xn<3ε/2

のように正の符号をとるしても一般性は失われない。新たに、数列{yn}yn=ε(0nN),yn=xn(n>N)と定めることで、[xn]=[yn]が得られる。さらに、任意のnに対してε/2<yn<3ε/2である。必要ならば[xn][yn]で置き換えることによって、nN,ε/2<xn<3ε/2

としても一般性は失われない。{1/xn}Eであることを示す。(もしEの元であれば明らかに[1/xn][xn]の逆元となり体であることが示される。)ε>0を任意にとる。任意のn,m>0について|xnxm|>ε2/4である。よって、1/|xnxm|<4/ε2である。{xn}はCauchy列であるから、NN;n,m>N|xnxm|<ε2ε/4

となる。このようなNNをとると、n,m>N|1xn1xm|=|xnxm|xnxm<ε24ε4ε2=ε

である。よって、{1/xn}EであるからRは体である。

R上の順序[xn][yn]

ε>0,NN;n>Nxn+εyn[xn]=[yn]

と定義する。はwell-definedであり、R上の全順序になる。

まず、well-definedであることを示す。[xn]=[xn],[yn]=[yn]とする。ここで、ε>0;MN;n>Mxn+εyn[xn]=[yn]

だとする。このようなε,Nこのとき、ε>0;MN;n>Mxn+εyn[xn]=[yn]

を示したい。[xn]=[yn]のときは[xn]=[yn]が成立するからそうでないときのみを考えたら良い。[xn]=[xn],[yn]=[yn]

n0N;n>n0|xnxn|<ε/4,

n1N;n>n1|ynyn|<ε/4

このようなn0,n1NをとりM=max{N,n0,n1}とすると、n>Mxn+ε/2yn

となり条件が示される。よって、はwell-definedである。

次に全順序性を示す。反射律と推移律は明らかだから比較可能性のみを調べたら良い。[xn][yn]だとする。{xnyn}は0に収束しないCauchy列だからRが体であることを示したのと同様にある番号以降同符号になる。正ならば[yn][xn]が、負ならば[xn][yn]である。

a,bQとする。このとき、ab[{a}][{b}]

面倒なので省略する。(作業的にできる。)

以降、[a]のことを単にaと記すことにする。

Rは上の演算と順序に関して順序体になる。

面倒なので省略する。(作業的にできる。)

次に、順序体Rが連続の公理を満足することを示すが、その前に連続の公理を使いやすい形に変更する。Rを順序体とする。

R数列{an}

δ>0;nN,|an|<δ(有界性)

nN,an<an+1(単調増加性)

を満たすとき、{an}は単調増加数列であるという。

R数列{an}が正の無限大に発散するとは、δR,NN;n>Nan>δ

という条件を満たすことである。このとき、limnan=と記す。

③2元a,bR(a<b)を用いて[a,b]={xR|axb}と表されるRの部分集合を有界閉区間という。有界閉区間の列{In}

nN,In+1In

という条件を満たすとき、この列は狭義単調減少であるという。

{an}R数列とする。ある狭義単調増加なNの数列{nk}kを用いて{ank}kと表されるRの数列を{an}の部分列という。

順序体Rに関する次の条件を考える。

連続の公理を満たす。条件1

任意の上に有界な単調増加数列は収束する。 条件2

limnn=条件3

狭義単調減少な有界閉区間の共通部分は空ではない。条件4

任意の有界数列は収束部分列を持つ。条件5

任意のCauchy列は収束する。条件6

この6つの条件には次の様な関係がある。

順序体に関して次の5条件は同値である。

(1)条件1を満たす。

(2)条件2を満たす。

(3)条件3と条件4を満たす。

(4)条件5を満たす。

(5)条件3と6を満たす。

『解析入門I』の定理3.6

の後の注意4を参照されたい。ただし、それまでに用いている定理(例えば、はさみうちの原理など)は一般の順序体上でも成立することに注意されたい。また、文献では(2)(3)などを示す際にR上すなわち(1)が成立しているという仮定の元で議論しているが実際のところ(1)は使っておらず(2)の性質のみを使っていることに注意せよ。

Qは条件3を満たす。

Rは条件3を満たす。

εRを任意にとる。あるEの元{εn}が存在して、ε=[εn]となる。{εn}はCauchy列であるから有界である。よって、あるCQが存在して

n>0an<C

となる。Qは条件3を満たすからあるmNが存在してC<mとなる。よって、n>0εn<m

であるから、εmを得る。εの任意性より、条件3は満たされる。

a,bRa<bを満たせば、cQが存在してa<c<bとなる。

abと条件3よりあるnNが存在してn>1/(ba)となるが、ba>0よりn(ba)>1つまりnb>na+1となる。条件3よりあるlNが存在してl>naとなるがそのようなlのうち最小なものをmとする。このとき、a<m/n<bが成立する。実際、mna=mnan>0(m>naより)

bmn=nbmn>na+1mn0(mの最小性を利用)

これをRにおけるQの稠密性という。

Rは条件6を満たす。

{rn}RのCauchy列とする。まず、あるkNが存在して無限のnNに対してrk=rnとなる場合を考える。このとき、そのようなnをとり続けることで{rn}は収束する部分列を持つことがわかる。よって、命題10より{rn}は収束する。次に、そうでないときを考える。kNを任意にとる。仮定より、nN;k<n,rkrn

そのようなnのうち最小なものをlkとする。|rkrlk|>0より、rk|rkrlk|<rk+|rkrlk|

よって、Qの稠密性より、aQ;rk|rkrlk|<a<rk+|rkrlk|

kNについてこのようなaをとりakとする。すると、|rkak|<|rkrlk|

である。この{ak}QのCauchy列であることが、|akam||akrk|+|rkrm|+|rmam|<|rlrlk|+|rkrm|+|rmrlm|

{rn}のCauchy性、Qの稠密性より示される。よって、{an}Eであるから、R=E/Rに送って、r=[an]とする。すると、|rnr||rnan|+|anr|<|rnrln|+|anr|

より、{rn}rに収束することがわかる。

命題22,24,26よりRは連続の公理を満たす。次に一意性を示す。

Rを連続公理を満たす順序体とする。任意の元xRに対してあるR数列{an}が存在して、limnan=x

nN,anQ

を満たす。

『解析入門I』定理3.9

R,Rを連続公理を満たす順序体とする。順序体同型RRが存在する。

xRを任意の元とする。命題27よりあるR数列{an}が存在して、limnan=x,nN,anQ

を満たす。命題10より{an}Cauchy列である。よって、ε>0(inR),nN;n>N|anam|<ε

特に、ε>0(inQ),nN;n>N|anam|<ε

となる。ここでQ

ε>0(inR),nN;n>N|anam|<ε

であるから、数列{an}R数列とみてもCauchy列である。(anQRよりR数列としても見れる。)よって、命題22よりこの数列は(Rの中に)収束する。収束先をf(x)とする。f:RRはwell-definedであり(すなわち収束列の選び方によらない)、順序体同型である。

これで一意性も示すことができた。This is real number!!!!!!!!!!!!
[1]は一意性を示す過程で、[2]は存在性を示す過程で参考にした。

参考文献

投稿日:202159
OptHub AI Competition

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投稿者

B2 現在代数学(特に環論)を勉強中。 将来は群論やりたいとか思ってます。 気が向いた時に更新していく感じでいきます。

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