私は「問題が解法を訴えかけている」を口癖とするほど誘導問題の意図を的確に掴む能力が高いため,この手の問題に対して難しいと感じることはないのですが,おそらくは苦労する受験生が多かったであろうと思います.
$n$ を自然数とし,$t$ を $t\geqq 1$ を満たす実数とする.
$n\geqq t$のとき,不等式
\begin{equation}
-\frac{(x-t)^2}{2}\leqq \log x-\log t -\frac{1}{t}(x-t)\leqq 0
\end{equation}
が成り立つことを示せ.
不等式
\begin{equation}
-\frac{1}{6n^3}\leqq \int_{t}^{t+\frac{1}{n}}\log xdx - \frac{1}{n}\log t-\frac{1}{2tn^2}\leqq 0
\end{equation}
が成り立つことを示せ.
$a_n=\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1}\log\left(1+\frac{k}{n}\right)$とおく.$\displaystyle \lim_{n\to\infty}(a_n-pn)=q$ をみたすような実数 $q$, $q$ の値を求めよ.
これを見た瞬間に (1) を区間$\displaystyle\left[t,t+\frac{1}{n}\right]$ で積分して (2) を示し,(2) に $\displaystyle t=1+\frac{k}{n}$ を代入した式を $k=0$ から $n-1$ まで足して、両辺をはさみうちして (3) を出すんだろうな,と思えるかどうかがすべてです.
逆に,それ以外にやることがないように見えるのですが,受験生にはこの問題がどのように見えているのでしょう?私にとってこの問題が簡単に見える理由はこの点です.
右辺 $-$ 左辺 $\geqq 0$ を示せればいいんでしょ,という感覚で,
\begin{align}
f(x) &= -\displaystyle\frac{(x-t)^2}{2},\\
g(x) &=\log x-\log t -\displaystyle\frac{1}{t}(x-t)
\end{align}
とおいておきます.証明すべきは $x\geqq t$ に対して $f(x)\leqq g(t)\leqq 0$ です.
まず $f(x)$, $g(x)$, $g(x)-f(x)$ を微分してみますが,
\begin{align}
f'(x)&=-2(x-t)\\
g'(x)&=\frac{1}{x}-\frac{1}{t}=-\frac{(x-t)}{xt}\\
g'(x)-f'(x)&=\frac{(2xt-1)(x-t)}{xt}
\end{align}
であり,$x\geqq t\geqq 1$ から $x\geqq t$, $xt\geqq 1$ が成立するので,$x\geqq t$ の範囲で $g'(x)\leqq 0$, $g'(x)-f'(x)\geqq 0$となり,$g(x)$ は単調減少,$g(x)-f(x)$ は単調増加します.
また,$f(t) = 0$, $g(t)=0$, $g(t)-f(t)=0$ であるので,$x\geqq t$ のとき $g(x)\leqq 0$, $g(x)-f(x)\geqq 0$ すなわち $f(x)\leqq g(x)\leqq 0$ が成立することが言えました.
予定通りに (1) で得られた式を区間$\displaystyle\left[t,t+\frac{1}{n}\right]$ で積分してみます.
\begin{align}
\int_{t}^{t+\frac{1}{n}}f(x)dx
&=\left[-\frac{1}{6}(x-t)^3\right]_{t}^{t+\frac{1}{n}}
=-\frac{1}{6}\left(\frac{1}{n}\right)^3
=-\frac{1}{6n^3}\\
\int_{t}^{t+\frac{1}{n}}g(x)dx
&=\int_{t}^{t+\frac{1}{n}}\log xdx-\left[x\log t+\frac{1}{2t}(x-t)^2\right]_{t}^{t+\frac{1}{n}}\\
&=\int_{t}^{t+\frac{1}{n}}\log xdx-\frac{1}{n}\log t - \frac{1}{2tn^2}
\end{align}
となるので
\begin{equation}
-\frac{1}{6n^3}\leqq \int_{t}^{t+\frac{1}{n}}\log xdx-\frac{1}{n}\log t - \frac{1}{2tn^2} \leqq 0
\end{equation}
が得られました.
前問で得られた式に $t=1+\displaystyle\frac{k}{n}$ を代入して全体を $n$ 倍します.すると,
\begin{equation}
-\frac{1}{6n^2}\leqq n\int_{1+\frac{k}{n}}^{1+\frac{k+1}{n}}\log xdx-\log\left(1+\frac{k}{n}\right) - \frac{1}{n}\times\frac{1}{\displaystyle 2\left(1+\frac{k}{n}\right)} \leqq 0
\end{equation}
が得られます.これを $k=0$ から $n-1$ まで足すと,
\begin{equation}
-\frac{1}{6n}\leqq n\int_{1}^{2}\log xdx - a_n - \frac{1}{n}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{\displaystyle 2\left(1+\frac{k}{n}\right)}\leqq 0
\end{equation}
となります.したがって,
\begin{equation}
-\frac{1}{n}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{\displaystyle 2\left(1+\frac{k}{n}\right)}\leqq a_n - n\int_{1}^{2}\log xdx \leqq -\frac{1}{n}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{\displaystyle 2\left(1+\frac{k}{n}\right)} +\frac{1}{6n}
\end{equation}
となります.ここで,
\begin{align}
\lim_{n\to\infty}\frac{1}{n}\sum_{k=0}^{n-1}\frac{1}{\displaystyle 2\left(1+\frac{k}{n}\right)}
&=\frac{1}{2}\int_{1}^{2}\frac{1}{x}dx = \frac{1}{2}\left[\log x\right]_{1}^{2}=\frac{1}{2}\log 2\\
\int_{1}^{2}\log xdx
&=\left[x\log x\right]_{1}^{2}-\int_{1}^{2}dx = 2\log 2 -[x]_{1}^{2}=2\log 2-1\\
\lim_{n\to\infty}\frac{1}{6n}&=0
\end{align}
であるので,はさみうちの原理より
\begin{equation}
\lim_{n\to\infty}\{a_n-(2\log 2-1)n\}=-\frac{1}{2}\log2
\end{equation}
が得られ,答えは $p=2\log 2-1$, $q=-\displaystyle\frac{1}{2}\log 2$ となります.
この問題を解く側からすると,誘導が懇切丁寧であるため,素直に指示に従っていけば解けると思います.少なくとも (2) までは何も困ることはないでしょう.
おそらく差がつくであろう (3) でさえも,$\displaystyle\log\left(1+\frac{k}{n}\right)$ の和をとっているのだから,(2) に $\displaystyle t=1+\frac{k}{n}$ を代入するのは自然です.逆に,自然に思えないのだとしたら素直さが足りないと言わざるを得ません.
誘導問題は,文字通りに解法に誘導するための問題なので,意図が分かればどうということはありません.しかし,相手の意図を掴むことができない受験生が残念ながら多いのでしょう.
これは数学の能力の問題ではなく,コミュニケーション能力の不足です.ご自覚がないとしたら重症です.受験バカになっている証拠.受験が大変なのは分かりますが,どんな状況下でも人としての能力も大切になさってください.