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ここでは東大数理の修士課程の院試の2023A06の解答例を解説していきます。解答例はあくまでも例なので、最短・最易の解答とは限らないことにご注意ください。またこの解答を信じきってしまったことで起こった不利益に関しては一切の責任を負いませんので、参照する際は慎重に慎重を重ねて議論を追ってからご参照ください。また誤り・不適切な記述・非自明な箇所などがあればコメントで指摘していただけると幸いです。
2023A06
実数$a\in(0,1]$をとる。
- $\mathbb{C}$上の有理型関数
$$
f(z)=\frac{\pi}{(4z^2-a^2)\sin(\pi z)}
$$
の極及びそこでの留数を全て求めなさい。 - 級数
$$
\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{4n^2-a^2}
$$
を計算しなさい。
- まず分母が$0$になるのは$\color{z=\pm\frac{a}{2}}$のときと$\color{red}z\in\mathbb{Z}$のときである。前者の場合の留数は
$$
\color{red} \frac{\pi}{4a\sin(\frac{\pi a}{2})}
$$
である。後者の場合は
$$
\color{red}\frac{(-1)^n\pi}{4n^2-a^2}
$$
である。 - まず積分
$$
I_n:=\int_{C_n}\frac{\pi}{(4z^2-a^2)\sin(\pi z)}dz
$$
を考える(但し$C_n$は原点を中心とする半径$R_n=\pi (n+\frac{1}{4})$の円に反時計回りの経路を入れたものである)。この積分は
$$
\begin{split}
\left|\int_{C_n}\frac{\pi}{(4z^2-a^2)\sin(\pi z)}dz\right|&\leq\pi\int_0^{2\pi}\left|\frac{R_n}{(4R_n^2e^{i2\theta}-a^2)\sin(\pi R_ne^{i\theta})}\right|d\theta\\
&=\pi\int_0^{2\pi}\left|\frac{R_n}{(4R_n^2e^{i2\theta}-a^2)\frac{e^{iR_ne^{i\theta}}-e^{-iR_ne^{i\theta}}}{2i}}\right|d\theta\\
&=\pi\int_0^{2\pi}\left|\frac{2R_n}{(4R_n^2e^{i2\theta}-a^2)({e^{-R_n\sin\theta+iR_n\cos\theta}-e^{R_n\sin\theta-iR_n\cos\theta}})}\right|d\theta\\
&\leq\frac{\pi R_n}{4R_n^2-a^2}\int_0^{2\pi}\left|\frac{1}{{e^{-R_n\sin\theta+iR_n\cos\theta}-e^{R_n\sin\theta-iR_n\cos\theta}}}\right|d\theta\\
&=\frac{\pi R_n}{4R_n^2-a^2}\int_0^{2\pi}\sqrt{\frac{1}{{e^{-2R_n\sin\theta}+e^{2R_n\sin\theta}}-e^{2iR_n\cos\theta}-e^{-2iR_n\cos\theta}}}d\theta\\
&=\frac{\pi R_n}{4R_n-a^2}\int_0^{2\pi}\sqrt{\frac{1}{{e^{-2R_n\sin\theta}+e^{2R_n\sin\theta}}-2\cos(2R_n\cos\theta)}}d\theta\\
\end{split}
$$
ここで左辺の積分値は有限の正の値をとり、$n$に対して広義単調増加減少するから、$\lim_{n\to\infty}I_n=0$である。いま上の結果と留数定理と(1)から
$$
\begin{split}
\sum_{n=1}^\infty\frac{(-1)^n}{4n^2-a^2}&=\frac{1}{2}\left(\sum_{n=-\infty}^\infty \frac{(-1)^n}{4n^2-a^2}+\frac{1}{a^2}\right)\\
&=\color{red}\frac{1}{2a^2}\left(1-\frac{\pi a}{2\sin(\frac{\pi a}{2})}\right)
\end{split}
$$
が従う。