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理論を使うということ~簡単な方程式を例に~

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ある日の放課後

太郎さんと花子さんは期末試験に向けて教室で数学の勉強をしています.ちょうど次の問題について話しているところのようです.

実数xについての方程式
x+1x=52
を解け.

太郎「これって簡単じゃない?答えすぐ見つけられるもん」

花子「どういうこと?」

太郎「52=2+12なわけだからさ,両辺を見比べてx=2が解だってすぐわかるでしょ」

花子「確かに.よく気づいたね」

太郎「いや,それだけじゃなくて12でもいいのか.じゃあこんな感じでどうかな」

太郎の答案

x=2,12は与えられた式を満たす.

花子「もしかしてこれで終わりのつもり?」

太郎「うん」

花子「これじゃ満点はこないよ」

太郎「どうして?」

花子「先生に言われたじゃん,方程式を解けって書いてあったら解となるもの全て求めなきゃダメだって」

太郎「知ってるよ,だから全部書いた」

花子「太郎が勝手に全部だと思ってるだけでしょ」

太郎「そうだけど多分これ以外ないもの」

花子「多分じゃなくて数学なんだからしっかり示さないと.現にx=12をさっき見落としかけてたでしょ」

太郎「なら花子だったらどうするの?」

花子「私なら太郎の観察は脇に置いて,こうする」

花子の答案

x+1x52=0
1x(x252x+1)=0
ここでx252x+1=0を解くと,解公式より
x=52±25442x=2,12
いずれの解も分母を0にしない.

太郎「うーん,なるほど.確かにこれなら問題ないね」

花子「ちょっと納得いってない感じ?」

太郎「いや,花子の答案は正しいとは思うよ」

??「二人とも熱心だね」

花子「先生!」

先生「教室の前を通りかかったら話し声が聞こえてきてね.それぞれの答案を見せてもらえるかな.……ふむふむ,花子さんのは2次式の理論の体系的な理解が伝わってきてもちろん優秀だけど,問題の特殊性に着目した太郎さんも無視できないな」

太郎「やっぱり?」

先生「うん.確かに花子さんの指摘は全く正しくて,解を列挙するだけでは厳密さに欠けるね.でも,せっかくのアイデアを生かさないのはもったいない気がしてくる.そこで,こういうのはどうだろう」

先生の答案

与えられた方程式が
x+1x=2+12
と書けることをふまえれば,x=2,12は明らかに解である.
また,この方程式はxのある実数係数2次式P(x)を用いて
1xP(x)=0 (x0P(x)=0)
と書けるから,実数係数2次方程式の実数解の個数が高々2個であることより,この解も高々2個である.
以上から解はx=2,12で尽くされる.

先生「花子さんの答案のように機械的に処理できる万能な解法も重要だけど,今回の問題でそれを選択するのは理論によって束縛されている印象を少し受ける.発見的解法など,自由な振る舞いを保証するために理論を使うこともできることを知ってもらいたいんだ.きっと広がりのある学習につながるはずだよ」

注) 本記事は,日頃から漠然と思っていたことを以下の動画によって強くインスパイアされ実現したものです.筆者自身も高校生の時はやや花子さんタイプの人間でした.その反省も込めたつもりです.
ヨビノリたくみ入試解説 2020一橋極限
#181 難関大学入試問題解説 2013佐賀大学入試 数Ⅰ 連立方程式

読者への演習問題

sinπ20=1221210+25であることが知られている.
では,sin7π20の値は何か.

N倍角の公式を作って計算しても求まりますが,答えのカタチの予想は立つのではないでしょうか.それを正当化するにはどうしたらいいか考えてみましょう.

注) sinπ20の値の表示に現れる一番外側の根号は外すこともできますが,出題趣旨に基づきあえてそのままにしています.

略解

1221210+25<122121025<122+121025<122+1210+25
であって,左から順にsinπ20,sin3π20,sin7π20,sin9π20と対応しているだろう

投稿日:2021516
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つむり
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図形っぽいこと? あまり専門的な話題について書くつもりはありません. interested in 位相幾何/群論

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