京都大学文系の第3問は割とよく見かける問題です.難しくはないですが,入試らしいきれいな問題です.
$n$ を $2$以上の整数とする.$1$ から $n$ までの番号が付いた $n$ 個の箱があり,それぞれの箱には赤玉と白玉が $1$個ずつ入っている.このとき操作(*)を $k = 1, \ldots, n - 1$ に対して,$k$ が小さい方から順に $1$回ずつ行う.
(*) 番号 $k$ の箱から玉を $1$個取り出し,番号 $k + 1$ の箱に入れてよくかきまぜる.
一連の操作がすべて終了した後,番号 $n$ の箱から玉を $1$個取り出し,番号 $1$ の箱に入れる.このとき番号 $1$ の箱に赤玉と白玉が $1$個ずつ入っている確率を求めよ.
箱 $k$ から取り出された玉が箱 $1$ から取り出された玉と同じ色である確率を $P_k$ とおいてみましょう.求めるものは $P_n$ となります.
$k = 2$ のときは,箱 $1$ から取り出されたのと同じ色の玉が $2$ 個、違う色の玉が $1$ 個であるので,$P_2=\displaystyle\frac{2}{3}$ となります.
$P_k$ が分かっていると仮定して $P_{k+1}$ を求めてみます.
したがって,$P_{k+1}$ は次のように表されます.
\begin{equation}
P_{k+1} = \frac{2}{3} P_k + \frac{1}{3}(1-P_k) = \frac{1}{3}P_k+\frac{1}{3} (\mbox{ただし,}k=2,\ldots,n-1)
\end{equation}
これを解くと,$\displaystyle P_{k+1}-\frac{1}{2} = \frac{1}{3}\left(P_k-\frac{1}{2}\right)$ から
\begin{equation}
P_{k}-\frac{1}{2}=\left(\frac{1}{3}\right)^{k-2}\left(P_2-\frac{1}{2}\right)=\frac{1}{6}\left(\frac{1}{3}\right)^{k-2}
\end{equation}
となります.これは $k = 2, \ldots, n$ で成立します.
よって,求める確率は $P_n = \displaystyle\frac{1}{2}+\frac{1}{6}\left(\frac{1}{3}\right)^{n-2}$ となります.
ようやく入試らしい問題が出てきました.そんな感じです.
理系の受験生ならば難しくないと思いますが,文系の受験生には難しいというか,あまりなじみがないかもしれません.
しかし,こういう確率と数列をミックスした問題は古くからいろいろな大学で出題されていて,どの大学で出題されても不思議ではないので,抑えておくといいでしょう.
ちなみに,この問題の背景をお話しすると,人工知能で使われている確率過程を元にしていています.
例えば,ロボット自身が自分の状況・状態がどうなっているかを確率的に推定するときに,直前の状態と今の状態の間の関係を表す漸化式を作って,直前の状態の推定結果から今の状態の推定結果を導き出すということを行います.
一般にはベクトルと行列を使って連立漸化式が立てられますが,今回は箱 $1$と同じ色の玉と違う色の玉の個数の対が $(2, 1)$ か $(1, 2)$ の2つの状態しかないために,一方の状態を取る確率のみで議論が可能で,1本の漸化式が出てきているわけです.
状態が $2$つしかない場合,「(もう一方の状態を取る確率)$= 1 -$(一方の状態を取る確率)」が成立するので,一方の状態についてのみ考えればよくなります.
第1問の2進数といい,情報由来の問題が文系で出題されているところを見ると,そういう知識が文系でも必要であるという京都大学からのメッセージなのかもしれません.