この記事の目標
この記事では、タイトルにあるような式がいくらでも作れるという、次の定理を一風変わった方法で証明します。
任意の無理数と任意の実数が与えられたとき、任意の正の数に対して
を満たす整数が存在する。すなわち、
である。ただし、で小数部分を表す。
この定理の主張は、砕けた言い方をすれば、「がほぼ整数になるようにが取れる」ということです。つまりが無理数なら、の形で、与えられた小数部分にいくらでもいい精度で近づけることができる、というわけです。例えば、の形で、小数部分がとが個続くものも存在するし、とまるでネイピア数のようなものも存在する(完全にの小数部分と一致するわけではありません)、というのですから、なかなか非自明に思われます。実際の例をいくつか書いておきます。
(最後の式は比較的小さな値でかなり整数に近づいていて面白いですね!)
言い換え
この定理は、次の定理に言い換えることができます。
を、の冪根でない絶対値の複素数とする。このとき、単位円において、その部分集合は稠密である。
稠密(ちゅうみつ)という言葉を知らない人のために言い換えておくと、の任意の点において、そのいくらでも近くにの元が存在する、ということです。例えば任意の無理数はそのいくらでも近くに有理数がありますから、有理数は実数の中で稠密です。
では、定理1と定理2が同値であることを確かめておきましょう。
定理2において、とおくと、がの冪根でない絶対値の複素数であるとは、が無理数であることと同値である。そして、が稠密であるとは、上で述べたように、の任意の点においてそのいくらでも近くにの元が存在する、ということだから、を任意の実数としてとしたとき、にいくらでも近いが存在するということであり、偏角で言い換えればそれはまさに定理1の主張である。
証明
準備はここまでで、定理2を証明します。この証明は、ある意味で幾何学的であり、その点でエレガントな証明になっているのではないかと思います。
定理2
における距離を、に対して、を結ぶ円弧のうち長くない方の長さと定義して、この距離空間でが稠密であることを示せばよい。
背理法で示す。が稠密でないとすると、
は空でない。ただし、である。そこでとおく。上限の定義より、任意の正の数に対して、
なるが存在する。このとき、任意のに対して、明らかに
である。そこで、とおこう。の異なる二点を取る。もしなら、とは重なるので、
なるがとの中間に取れて、
となるから、である。ここでの定義を思い出すと、
でなければならない。すなわち、の異なる二点は、
を満たす。とは回転の関係にあるので、上の条件はの異なる二点も満たす。は任意だったから、の異なる二点は
を満たすことになるが、これはに反する。ゆえには稠密である。
系
定理2から、次のような系も導かれます。
定理2
をの冪根でない絶対値の複素数とする。有理型関数がを満たすなら、定数関数である。
特異点でない点をとると、の点では一定の値をとる。定理2よりは円において稠密であるから、の零点集合は集積点を持つ。よって一致の定理から、であり、は定数関数である。
おわりに
いかがだったでしょうか。つい、いろんな実数を用いて、がほぼ整数になるようなを見つけて遊びたくなってしまいますよね!簡単なプログラムを書けばすぐにそのような遊びができるので、ぜひ皆さんも楽しんでみてください。
今回の記事はここまでです。読んでいただきありがとうございました。