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1022883π-e=3213479.0000000...

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この記事の目標

この記事では、タイトルにあるような式がいくらでも作れるという、次の定理を一風変わった方法で証明します。

任意の無理数$x$と任意の実数$y$が与えられたとき、任意の正の数$\epsilon$に対して
$$ |nx-y+m|<\epsilon $$
を満たす整数$m,n$が存在する。すなわち、
$$ \varliminf_{n\to\infty}\{nx-y\}=0 $$
である。ただし、$\{\}$で小数部分を表す。

この定理の主張は、砕けた言い方をすれば、「$nx-y$がほぼ整数になるように$n$が取れる」ということです。つまり$x$が無理数なら、$nx(n\in \mathbb{Z})$の形で、与えられた小数部分にいくらでもいい精度で近づけることができる、というわけです。例えば、$n\pi(n\in \mathbb{Z})$の形で、小数部分が$*.0000\cdots$$0$$100$個続くものも存在するし、$*.71828\cdots$とまるでネイピア数$e$のようなものも存在する(完全に$e$の小数部分と一致するわけではありません)、というのですから、なかなか非自明に思われます。実際の例をいくつか書いておきます。
\begin{eqnarray*} 1022883\pi-e&=&3213479.000000060\cdots \\ 9648\sqrt[3]{2}-e&=&12153.0000075\cdots \\ 67\sqrt[3]{2}-\sqrt{2}&=&83.00049\cdots \end{eqnarray*}

(最後の式は比較的小さな値でかなり整数に近づいていて面白いですね!)

言い換え

この定理は、次の定理に言い換えることができます。

$\alpha$を、$1$の冪根でない絶対値$1$の複素数とする。このとき、単位円$C=\{z\in \mathbb{C}||z|=1\}$において、その部分集合$C'=\{\alpha^n|n\in\mathbb{Z}\}$は稠密である。

稠密(ちゅうみつ)という言葉を知らない人のために言い換えておくと、$C$の任意の点において、そのいくらでも近くに$C'$の元が存在する、ということです。例えば任意の無理数はそのいくらでも近くに有理数がありますから、有理数は実数の中で稠密です。
では、定理1と定理2が同値であることを確かめておきましょう。

定理1と定理2は同値である。

定理2において、$\alpha=e^{i2\pi x}(x\in\mathbb{R})$とおくと、$\alpha$$1$の冪根でない絶対値$1$の複素数であるとは、$x$が無理数であることと同値である。そして、$C'$が稠密であるとは、上で述べたように、$C$の任意の点においてそのいくらでも近くに$C'$の元が存在する、ということだから、$y$を任意の実数として$\beta=e^{i2\pi y}$としたとき、$\beta$にいくらでも近い$\alpha^n$が存在するということであり、偏角で言い換えればそれはまさに定理1の主張である。

証明

準備はここまでで、定理2を証明します。この証明は、ある意味で幾何学的であり、その点でエレガントな証明になっているのではないかと思います。

定理2

$C$における距離$d:C^2\to \mathbb{R}_{\geq 0}$を、$x,y\in C$に対して、$x,y$を結ぶ円弧のうち長くない方の長さと定義して、この距離空間$(C,d)$$C'$が稠密であることを示せばよい。
背理法で示す。$C'$が稠密でないとすると、
$$ R=\{r\in \mathbb{R}_{>0}|\exists x\in C,\ U(x;r)\cap C'=\emptyset\} $$
は空でない。ただし、$U(x;r)=\{z\in C|d(x,z)< r\}$である。そこで$r=\sup R$とおく。上限の定義より、任意の正の数$\epsilon< r$に対して、
$$ U(c;r-\epsilon)\cap C'=\emptyset $$
なる$c\in C$が存在する。このとき、任意の$n\in \mathbb{Z}$に対して、明らかに
$$ U(c\alpha^n;r-\epsilon)\cap C'=\emptyset $$
である。そこで、$C''=\{c\alpha^n|n\in \mathbb{Z}\}$とおこう。$C''$の異なる二点$s,t$を取る。もし$d(s,t)<2(r-\epsilon)$なら、$U(s;r-\epsilon)$$U(t;r-\epsilon)$は重なるので、
$$ U(s;r-\epsilon)\cup U(t;r-\epsilon)=U(u;r-\epsilon+d(s,t)/2) $$
なる$u$$s$$t$の中間に取れて、
$$ U(u;r-\epsilon+d(s,t)/2)\cap C'=\emptyset $$
となるから、$r-\epsilon+d(s,t)/2\in R$である。ここで$r$の定義を思い出すと、
$$ r-\epsilon+d(s,t)/2\leq r\ \ \therefore d(s,t)\leq 2\epsilon $$
でなければならない。すなわち、$C''$の異なる二点$s,t$は、
$$ d(s,t)\leq 2\epsilon \ \ \lor\ \ d(s,t)\geq 2(r-\epsilon) $$
を満たす。$C''$$C'$は回転の関係にあるので、上の条件は$C'$の異なる二点も満たす。$\epsilon$は任意だったから、$C'$の異なる二点$s,t$
$$ d(s,t)\geq 2r $$
を満たすことになるが、これは$|C'|=\infty$に反する。ゆえに$C'$は稠密である。

定理2から、次のような系も導かれます。

定理2

$\alpha$$1$の冪根でない絶対値$1$の複素数とする。有理型関数$f(z)$$f(z)=f(\alpha z)$を満たすなら、定数関数である。

特異点でない点$z_0≠0$をとると、$Z_0'=\{z_0\alpha^n|n\in \mathbb{Z}\}$の点で$f(z)$は一定の値をとる。定理2より$Z_0'$は円$Z_0=\{z\in \mathbb{C}||z|=|z_0|\}$において稠密であるから、$F(z)=f(z)-f(z_0)$の零点集合は集積点を持つ。よって一致の定理から、$F(z)=0$であり、$f(z)$は定数関数である。

おわりに

いかがだったでしょうか。つい、いろんな実数を用いて、$nx-y$がほぼ整数になるような$n$を見つけて遊びたくなってしまいますよね!簡単なプログラムを書けばすぐにそのような遊びができるので、ぜひ皆さんも楽しんでみてください。

今回の記事はここまでです。読んでいただきありがとうございました。

投稿日:2021523

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