$\mathbb{Z}_{>0},\mathbb{Z}_{\geq 0}$をそれぞれ正整数全体、非負整数全体の集合とする。このとき、直積$\underbrace{\mathbb{Z}_{>0}\times\cdots\times\mathbb{Z}_{>0}}_{n},\underbrace{\mathbb{Z}_{\geq0}\times\cdots\times\mathbb{Z}_{\geq0}}_{n}$をそれぞれ$I_n,J_n$とおく($I_0=J_0:=\{\varnothing\}$)。それらの直和$\ds\bigsqcup_{n\geq0}I_n,\bigsqcup_{n\geq0}J_n,\bigsqcup_{n>0}I_n,\bigsqcup_{n>0}J_n$をそれぞれ${\cal{I}}_0,{\cal{J}}_0,{\cal{I}},{\cal{J}}$と表す。
この時の${\cal I}_0$の元をインデックスという。$I_0$の唯一の元を空インデックスといい、$\varnothing$で表す。
また、インデックス${\bm k}=(k_1,\cdots,k_n)\in {\cal I}_0$に対して$\ds\wt ({\bm k})=\sum_{m=1}^n k_m$とおき${\bm k}$の重さといい、$\dep({\bm k})=n$とおき${\bm k}$の深さという。インデックス${\bm k}=(k_1,\cdots,k_n)$の$k_n$が$2$以上のとき、$\bm k$を許容インデックスという。簡単のため許容インデックス全体の集合を${\cal I}'$とする。
許容インデックス${\bm k}=(k_1,\cdots,k_n)$に対して
$$
\zeta({\bm k}):=\sum_{0< m_1<\cdots< m_n} \frac{1}{m_1^{k_1}\cdots m_n^{k_n}}
$$
で定義される実数をインデックス${\bm k}$の多重ゼータ値(multiple zeta value,MZV)という。
インデックス${\bm k}$に同じ数字の配列が複数回連続して含まれているとき、以下のような特殊な記法を用いることがある。
\begin{align} &(1,1,1,1,1,1,1)=(\{1\}^7)\\ &(1,2,1,2,1,2,1,2)=(\{1,2\}^4)\\ &(1,1,1,3,1,2,2,1)=(\{1\}^3,3,1,\{2\}^2,1) \end{align}
また、あえてこのように表記することも可能である。
$$(2,3)=(2,\{1\}^0,3)$$
任意の許容インデックス${\bm k}$は正整数$s,a_1,\cdots,a_s,b_1,\cdots,b_s$を用いた一意な表示
$${\bm k}=(\{1\}^{a_1-1},b_1+1,\cdots,\{1\}^{a_s-1},b_s+1)$$
を持つ。このときの
$${\bm k}^{\dagger}=(\{1\}^{b_s-1},a_s+1,\cdots,\{1\}^{b_1-1},a_1+1)$$
を${\bm k}$の双対インデックスという。
${}^\forall {\bm k}\in {\cal I}’$に対して、等式
$$\zeta({\bm k})=\zeta({\bm k}^{\dagger})$$
が成り立つ。
$\varepsilon_1,\cdots,\varepsilon_n\in\{0,1\}$に対して、
$$I(\varepsilon_1,\cdots,\varepsilon_n):=\int\cdots\int_{0< t_1<\cdots< t_n<1}\prod_{i=1}^n \frac{dt_i}{A_{\varepsilon_i}(t_i)}$$(ただし、$\ds A_{\varepsilon_i}(t_i)$は$\varepsilon_i=1$のとき$1-t_i$、$\varepsilon_i=0$のとき$t_i$とする。)
と定めると、等式$\zeta(k_1,\cdots,k_n)=I(1,\{0\}^{k_1-1},\cdots,1,\{0\}^{k_n-1})$が成り立つ。
まず対数関数$-\ln(1-x)$のMaclaurin展開から出発する。
$$-\ln(1-x)=\sum_{m=1}^\infty \frac{x^m}{m}$$
この級数は$|x|<1$で収束するが、$x\to 1$とすると発散する。このとき、$x\to 1$で$\zeta(x)=-O(\ln(1-x))$である。また、左辺は
$$\int_0^x\frac{dt}{1-t}$$とかける。ここで、最初の等式の両辺を$x$で割りもう一度$0$から$x$まで積分すると等式
$$\int_0^x(-\ln(1-t))\frac{dt}{t}=\sum_{m=1}^\infty \frac{x^m}{m^2}$$
を得る。これは$x\to 1$としても収束し、$\zeta(2)$を与える。
このとき、上の式の左辺は
$$\int_0^x\left(\int_0^{t_1}\frac{dt_2}{1-t_2}\right)\frac{dt_1}{t_1}=\iint_{0< t_1< t_2< x}\frac{dt_1}{1-t_1}\frac{dt_2}{t_2}$$
と変形できるから$I(1,0)=I(1,\{0\}^{2-1})=\zeta(2)$で定理は$\bm k=2$のとき正しい。同様にして
$$\int\cdots\int_{0< t_1<\cdots< t_n< x}\frac{dt_1}{1-t_1}\frac{dt_2}{t_2}\cdots\frac{dt_n}{t_n}=\sum_{m=1}^\infty\frac{x^m}{m^n}$$
を得るから
\begin{align}I(1,\{0\}^{n-1})&=\int\cdots\int_{0< t_1<\cdots< t_n<1}\frac{dt_1}{1-t_1}\frac{dt_2}{t_2}\cdots\frac{dt_n}{t_n} \\
&=\sum_{n>0}\frac{1}{m^n} \\
&=\zeta(n)
\end{align}
が(比較的容易に)わかる。
先ほどの式
$$\int\cdots\int_{0< t_1<\cdots< t_n< x}\frac{dt_1}{1-t_1}\frac{dt_2}{t_2}\cdots\frac{dt_n}{t_n}=\sum_{m=1}^\infty\frac{x^m}{m^n}$$
の両辺を$(1-x)$で割って$0$から$x$まで積分すると、
\begin{align}
\int_0^x\int\cdots\int_{0< t_1<\cdots< t_n< t}\frac{dt_1}{1-t_1}\frac{dt_2}{t_2}\cdots\frac{dt_n}{t_n}\frac{dt}{1-t}&=\sum_{m=1}^\infty\int_0^x\frac{t^m}{m^n}\frac{dt}{1-t} \\
&=\int_0^x\sum_{m=1}^\infty\frac{t^m}{m^n}\sum_{k=0}^\infty t^k \ dt \\
&=\sum_{m,k>0}\frac{x^{m+k}}{m^n(m+k)}
\end{align}
を得る(これは$|x|<1$で収束する)。ここで$m+k\mapsto k$とすれば
$$\sum_{m,k>0}\frac{x^{m+k}}{m^n(m+k)}=\sum_{0< m< k}\frac{x^k}{m^nk}$$
となる。これは$x\to 1$では収束しないが、これを$x$で割って$0$から$x$まで積分した級数
$$\sum_{0< m< k}\frac{x^k}{m^nk^2}$$
は収束し、$\zeta(n,2)$となる。
以下、同様にして$(1-x)$で割って$0$から$x$まで積分すればインデックスの深さが$1$増え、$x$で割って$0$から$x$まで積分すればインデックスの末尾が$1$増える。
よって、$\zeta(\bm k)=I(1,\{0\}^{k_1-1},\cdots,1,\{0\}^{k_n-1})$が成り立つ。
双対インデックスの定義より、${\bm k}=(\{1\}^{a_1-1},b_1+1,\cdots,\{1\}^{a_s-1},b_s+1)$としたときの$\bm k^{\dagger}$は$(\{1\}^{b_s-1},a_s+1,\cdots,\{1\}^{b_1-1},a_1+1)$だから
\begin{align}\zeta(\bm k)&=I(\{1\}^{a_1-1},1,\{0\}^{b_1},\cdots,\{1\}^{a_s-1},1,\{0\}^{b_s}) \\
&=I(\{1\}^{a_1},\{0\}^{b_1},\cdots,\{1\}^{a_s},\{0\}^{b_s})
\end{align}
また、
\begin{align}\zeta(\bm k^{\dagger})&=I(\{1\}^{b_s},\{0\}^{a_s},\cdots,\{1\}^{b_1},\{0\}^{a_1})
\end{align}
である。ここで変数変換$t_i\mapsto1-t_{k+1-i}$を施せば、上の等式が成り立つことが(比較的容易に)わかる。