はじめに
本記事では、LU分解の幾何的な解釈を紹介する。また、LU分解後の行列の対角成分についての性質を幾何的に証明する。
LU分解の定義
行列のLU分解とは、となる下三角行列と上三角行列を求めることである。
このような行列は無数に存在するが、行列のどちらか一方の対角成分をに固定すると、このような行列は一意になる。本記事では、行列の対角成分をに固定する。
LU分解の幾何的解釈
行列の列ベクトルと行列の列ベクトルを考える。
このとき、ベクトルはベクトルの線形結合で表せる。ただし、すべてのベクトルを使えるわけではなく、添え字のベクトルでは、ベクトルしか使えない。添え字が大きくなるにしたがって、使えるベクトルが一つずつ増えていく。
また、線形結合に使うベクトルは、では空間から選べるが、添え字が大きくなるにしたがって、存在範囲が狭まっていく。例えば、では、ベクトルはxyz空間、ベクトルはyz平面、ベクトルはz直線から選ぶ。
一般に、次元空間に線形独立な本のベクトルがあるとき、任意のベクトルはそれらの線形結合で表せる。LU分解とは、使用できるベクトルが制限されている下で、すべてのベクトルを線形結合で表せるベクトルとその係数を求めることであると言える。
では、LU分解の流れを幾何的に解釈していく。以下では、での例を示す。図1に説明に使用するベクトルを示す。ここで、青色がx軸、緑色がy軸、赤色がz軸である。
ベクトル
まず、ベクトルを線形結合で表せるように、ベクトルを選ぶ。であり、ベクトルはxyz空間上にあるため、ベクトルをベクトル(青色)として選べばよい(図2)。
ベクトル
次に、ベクトルを線形結合で表せるように、ベクトルを選ぶ。であり、ベクトルはyz平面上にあるため、ベクトルからベクトルをyz平面と交差するように伸ばすと、交点がベクトル(緑色)となる(図3)。
ベクトル
最後に、ベクトルを線形結合で表せるように、ベクトルを選ぶ。であり、ベクトルはz直線上にあるため、ベクトルからベクトルをz直線と交差するように伸ばすと、交点がベクトル(赤色)となる(図4)。
ベクトル
行列の対角成分の性質
行列の対角成分について、以下の性質が成り立つ。ただし、行列は、行列から行と列を抜き出した行列である。
の場合で証明するが、一般のにも拡張できる。なお、以下の図は前節と同じ数値であるが、見やすいように見方を変えている。
まず、ベクトルが作る平行体を考える(図5)。
平行体
次に、ベクトルが作る平行体を考える(図6)。
平行体
そして、ベクトルが作る平行体考える。ここで、ベクトルは、第成分がで、それ以外の成分がのベクトルである(図7)。
平行体
ここで、平行体は平行体のベクトルを平行に移動したものであるため、平行体の体積は平行体の体積と等しい(図8)。
平行体の体積
また、平行体は平行体のベクトルを倍に伸ばしたものであるため、平行体の体積は平行体の体積の倍である(図9)。
平行体の体積
以上より、
平行体の体積=平行体の体積=平行体の体積、
である(図10)。
平行体の体積
平行体の体積は、それを作るベクトルを並べた行列の行列式に等しい。ここで、ベクトルを並べた行列の行列式(平行体の体積)は、行列の行列式に等しいことに注意する。であり、が成り立つ。
付録
定理1を代数的に証明する。