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LU分解の幾何的解釈

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はじめに

本記事では、LU分解の幾何的な解釈を紹介する。また、LU分解後の行列Lの対角成分についての性質を幾何的に証明する。

LU分解の定義

行列ARn×nのLU分解とは、A=LUとなる下三角行列LRn×nと上三角行列URn×nを求めることである。

(a11a12a13a21a22a23a31a32a33)=(l1100l21l220l31l32l33)(u11u12u130u22u2300u33)

このような行列L,Uは無数に存在するが、行列L,Uのどちらか一方の対角成分を1に固定すると、このような行列は一意になる。本記事では、行列Uの対角成分を1に固定する。

(a11a12a13a21a22a23a31a32a33)=(l1100l21l220l31l32l33)(1u12u1301u23001)

LU分解の幾何的解釈

行列Aの列ベクトルa1,...,anと行列Lの列ベクトルl1,...,lnを考える。

(a1a2a3)=(l1l2l3)(1u12u1301u23001)

このとき、ベクトルaiはベクトルl1,...,lnの線形結合で表せる。ただし、すべてのベクトルl1,...,lnを使えるわけではなく、添え字iのベクトルaiでは、ベクトルl1,...,liしか使えない。添え字iが大きくなるにしたがって、使えるベクトルが一つずつ増えていく。

a1=l1a2=u12l1+l2a3=u13l1+u23l2+l3

また、線形結合に使うベクトルliは、i=1ではRn空間から選べるが、添え字iが大きくなるにしたがって、存在範囲が狭まっていく。例えば、n=3では、ベクトルl1はxyz空間、ベクトルl2はyz平面、ベクトルl3はz直線から選ぶ。

一般に、n次元空間に線形独立なn本のベクトルがあるとき、任意のベクトルはそれらの線形結合で表せる。LU分解とは、使用できるベクトルが制限されている下で、すべてのベクトルa1,...,anを線形結合で表せるベクトルl1,...,lnとその係数Uを求めることであると言える。

では、LU分解の流れを幾何的に解釈していく。以下では、n=3での例を示す。図1に説明に使用するベクトルa1,...,anを示す。ここで、青色がx軸、緑色がy軸、赤色がz軸である。

ベクトル!FORMULA[40][-1334035532][0] ベクトルa1,a2,a3

まず、ベクトルa1を線形結合で表せるように、ベクトルl1を選ぶ。l1=a1であり、ベクトルl1はxyz空間上にあるため、ベクトルa1をベクトルl1(青色)として選べばよい(図2)。

ベクトル!FORMULA[47][36557034][0] ベクトルl1

次に、ベクトルa2を線形結合で表せるように、ベクトルl2を選ぶ。l2=a2u12l1であり、ベクトルl2はyz平面上にあるため、ベクトルa2からベクトルl1をyz平面と交差するように伸ばすと、交点がベクトルl2(緑色)となる(図3)。

ベクトル!FORMULA[55][36557065][0] ベクトルl2

最後に、ベクトルa3を線形結合で表せるように、ベクトルl3を選ぶ。l3=a3u13l1u23l2であり、ベクトルl3はz直線上にあるため、ベクトルa3からベクトルl1,l2をz直線と交差するように伸ばすと、交点がベクトルl3(赤色)となる(図4)。

ベクトル!FORMULA[63][36557096][0] ベクトルl3

行列Lの対角成分の性質

行列Lの対角成分liiRについて、以下の性質が成り立つ。ただし、行列AiRi×iは、行列Aから1,...,i行と1,...,i列を抜き出した行列である。

lii=det(Ai)det(Ai1)

n=3,i=3の場合で証明するが、一般のn,iにも拡張できる。なお、以下の図は前節と同じ数値であるが、見やすいように見方を変えている。

まず、ベクトルa1,...,ai1,aiが作る平行体P1を考える(図5)。

平行体!FORMULA[76][35722886][0] 平行体P1

次に、ベクトルa1,...,ai1,liが作る平行体P2を考える(図6)。

平行体!FORMULA[79][35722917][0] 平行体P2

そして、ベクトルa1,...,ai1,eiが作る平行体P3考える。ここで、ベクトルeiは、第i成分が1で、それ以外の成分が0のベクトルである(図7)。

平行体!FORMULA[86][35722948][0] 平行体P3

ここで、平行体P2は平行体P1のベクトルaiを平行に移動したものであるため、平行体P1の体積は平行体P2の体積と等しい(図8)。

平行体!FORMULA[92][-1454011693][0]の体積 平行体P1,P2の体積

また、平行体P2は平行体P3のベクトルeilii倍に伸ばしたものであるため、平行体P2の体積は平行体P3の体積のlii倍である(図9)。

平行体!FORMULA[100][-566507981][0]の体積 平行体P2,P3の体積

以上より、

平行体P1の体積=平行体P2の体積=lii×平行体P3の体積、

である(図10)。

平行体!FORMULA[105][-668025147][0]の体積 平行体P1,P2,P3の体積

平行体の体積は、それを作るベクトルを並べた行列の行列式に等しい。ここで、ベクトルa1,...,an1,enを並べた行列の行列式(平行体P3の体積)は、行列An1の行列式に等しいことに注意する。det(An)=liidet(An1)であり、lii=det(An)/det(An1)が成り立つ。

付録

定理1を代数的に証明する。

Ai=LiUi

det(Li)=l11××liidet(Ui)=1

det(Ai)=det(LiUi)=det(Li)det(Ui)=l11××l(i1)(i1)×lii=det(Ai1)×lii

lii=det(Ai)det(Ai1)

投稿日:2021523
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seytwo
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