よく、高校数学で
複素数$\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3$が正三角形をなす条件を求めよ。
などという問題を目にしますよね。ここではその解説はしませんが、簡単にいうと、三角形の相似条件を使って解くのが一般的でした。しかし、一般の正$n$角形のなす条件は、その方法をそのまま使おうとしてもうまくいきません。では、どうしたらよいのでしょうか?
この記事では、正n角形の成立条件を与える、次の定理を証明したいと思います。
$n$個の複素数$\alpha_1,\cdots,\alpha_n$について、次の3つは同値である。
正直、愚直に計算していけば証明すること自体はそう難しくはないような気がしますが、以下に記す証明は、正$n$角形の図形的な対称性をうまく活かしたもので、とても面白いです。
(ii)と(iii)の同値は明らかである。実際、(ii)は
$$
f'(z)=n\left(z-\frac{\alpha_1+\cdots+\alpha_n}{n}\right)^{n-1}
$$
すなわち
$$
f(z)=\left(z-\frac{\alpha_1+\cdots+\alpha_n}{n}\right)^n+c
$$
であるということなので、係数比較して整理すれば(iii)を得る。よって、以下では(i)と(ii)が同値であることを示す。(ii)ならば(i)も上の式から明らかなので、(i)から(ii)を導けばよい。
関数$\phi(z)$を
$$
\phi(z)=\left(z-\frac{\alpha_1+\cdots+\alpha_n}{n}\right)e^{i\frac{2\pi}{n}}+\frac{\alpha_1+\cdots+\alpha_n}{n}
$$
とおく。正$n$角形の重心周りの$\frac{2\pi}{n}$回転である。このとき、
$$
f(\phi(z))=(\phi(z)-\alpha_1)\cdots(\phi(z)-\alpha_n)\\
=(\phi(z)-\phi(\alpha_1))\cdots(\phi(z)-\phi(\alpha_n))\\
=\{e^{i\frac{2\pi}{n}}(z-\alpha_1)\}\cdots \{e^{i\frac{2\pi}{n}}(z-\alpha_n)\}\\
=f(z)
$$
となり、$f(z)$は$\phi$で不変である。ただし、上の二つ目の$=$は、(i)を用いた。$f(\phi(z))=f(z)$を$z$で微分して、
$$
f'(z)=\frac{df(\phi(z))}{dz}=f'(\phi(z))e^{i\frac{2\pi}{n}}
$$
であるから、$f'(z)$の零点集合も、重複を含めて$\phi$で不変である、すなわち正$n$角形の重心周りの$\frac{2\pi}{n}$回転に関して対称性を持つ。しかし、この零点集合は元が$n-1$個しかない。それなのにこのような対称性を持つのは、$n-1$個の零点がすべて重心に一致する場合のみであり、(ii)が導かれた。
以下、少し高度な内容なので、読み飛ばしてもらって構いません。
全体を平行移動させて、重心が原点に一致する場合で考えましょう。すると、定理1の(ii)は、$f(z)$が$z^n+c$の形($z^n$の多項式)をしている、ということになります。上の証明を少し一般化することによって、全く同様にして、次の定理が導かれます。
複素数係数の多項式$f(z)$の根全体が、重複も含めて原点周りの$\frac{2\pi}{n}$回転対称性を持つことと、
$$
f(z)=z^rg(z^n)
$$
なる複素数係数の多項式$g(z)$および$0$以上$n$未満の整数$r$が存在することと同値である。
$g(z^n)$の次数は$n$の倍数なので、$r$は$f(z)$の次数を$n$で割ったあまりに相当し、$z^r$というのは$r$個の零点が対称性を邪魔しないように原点に集まっている、というだけのことなので、「原点周りの$\frac{2\pi}{n}$回転対称性を持つ多項式は"本質的には"$z^n$の多項式である」と言うことができます。ここで、上の証明からわかるように、$f(z)$の次数が$n$の倍数なら、多項式の根が原点周りの$\frac{2\pi}{n}$回転対称性を持つことと、$f(z)$自体が原点周りの$\frac{2\pi}{n}$回転対称性を持つことは同値であることに注意してください。
さて、この事実の裏には、次のような命題があると言えるでしょう。
一変数有理関数体$\mathbb{C}(z)$の自己同型群の、$\sigma:f(z)\mapsto f(e^{\frac{2\pi}{n}}z)$で生成される部分群$\langle \sigma \rangle$の不変体は$\mathbb{C}(z^n)$である。
$\langle \sigma \rangle$の位数は$n$である。よって、その不変体を$K$とすると、$[\mathbb{C}(z):K]=n$が成り立つ。明らかに$z^n\in \mathbb{C}(z)$は$K$の元だから、$K\supset \mathbb{C}(z^n)$である。$X^n-z^n\in \mathbb{C}(z^n)[X]$は$z$を根にもつので、$\mathbb{C}(z)=\mathbb{C}(z^n)(z)$と合わせて、$[\mathbb{C}(z):\mathbb{C}(z^n)]\leq n$である。よって、$[K: \mathbb{C}(z^n)]=1$すなわち$K=\mathbb{C}(z^n)$となる。
つまり、$z$の有理関数で、原点周りの$\frac{2\pi}{n}$回転対称性を持つものは、$z^n$の有理関数である、ということもわかりました!
今回の記事はここまでです。読んでいただきありがとうございました。