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大学数学基礎解説
文献あり

LittlewoodによるTauberの定理の拡張

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「Tauberの定理」と呼ばれる、次の命題があります。

Tauberの定理

複素数列{an}n=0
limnnan=0
及び
limx1n=0anxn=αC
を満たすとき
n=0an=α
が成り立つ.

これは次のように容易に証明できます。

NNとし、x=11Nとおく。三角不等式より
|n=0Nanf(x)|=|n=0Nann=0Nanxnn=N+1anxn||n=0Nan(1xn)|+|n=N+1anxn|n=0N|an|(1xn)+n=N+1|an|xn
となるが、最右辺第一項は
1xn=(1x)k=1nxk1<(1x)k=1n1=n(1x)
より
n=0N|an|(1xn)<(1x)n=0Nn|an|
と評価でき、x=11Nを代入すると、limnnan=0及びCesaro平均より
(1x)n=0Nn|an|=1Nn=0Nn|an|0(N)
を得る.また,第二項は
n=N+1|an|xn=n=N+1n|an|1nxn<1nn=N+1n|an|xn1nn=N+1(supkN+1k|ak|)xn<1nn=0xn(supkN+1k|ak|)=supkN+1k|ak|lim supnn|an|(N)=0
となる。以上から
limNn=0Nan=limNf(x)
すなわち
n=0an=α
が従う。

limnnan=0が上手く効いていますね。

さて、Littlewoodはこの条件を弱めることに成功し、次の定理を得ました。

Littlewoodにより拡張されたTauberの定理

複素数列{an}n=0
an=O(1n)
及び
limx1n=0anxn=αC
を満たすとき
n=0an=α
が成り立つ.

この定理のLittlewood自身による証明は非常に複雑で、定理1に比べて難解なものになっています。しかし、その後Karamataという数学者によって、比較的簡単な証明が得られました。それを紹介します。

先に補題を2つ提示しておきましょう。

定数c(0,1)に対して、関数g:[0,1]{0,1}, h:[0,1]R
g(t):={0(0t<c)1(ct1),h(t):=g(t)tt(1t)
で定めると、任意のε>0に対し,多項式Pεpεが存在して
pεh(t)Pε(t)(t[0,1]),01{Pε(t)h(t)}dt<ε,01{h(t)pε(t)}dt<ε
が成り立つ。

定義からh(t)は端点t=0,1でもキチンと値を持ちます。

Weierstrassの多項式近似定理(実はこの補題の証明に用います)とよく似ていますが、hのような不連続関数についてはL1ノルムでないと近似できません(一般のLpでも多分近似できます)。

次の極限が成り立つ。ただし,Pは任意の多項式とする。
limx10(1x)n=1xnP(xn)=01Pε(t)dt,limx10(1x)n=1xnh(xn)=01h(t)dt

それぞれの補題の証明は後で行います。では定理2の証明を見てゆきましょう。

定理2のKaramataによる証明

以下、ε>0を任意とする。f(x):=n=0anxnとおく。まず、limnnanが収束するので、ある定数C>0が存在し、任意のnN|an|<Cnが成り立つ。また
limn|an+1an|=1
より、fの収束半径は1である。

さて、補題3における関数g,h
g(t):={0(0t<e1)1(e1t1)
により定める(すなわちc=e1)と、NNに対し
n=0ang(enN)=n=0Nan
となる。ここで、補題3におけるPεに対し、多項式Q
Q(t):=t(1t)Pε(t)+t
で定めると
Q(1)=1,Q(t)g(t),Q(t)g(t)1t=t{Pε(t)h(t)}(t[0,1])
となる。さらに、多項式QQ(x)=kckxkとおくと、fの収束半径が1であることから、|x|<1のとき次のように和の交換が可能で、x10
n=0anQ(xn)=n=0ankckxkn=kckn=0an(xk)n=kckf(xk)kckα=Q(1)α=α
となる。よってx=e1Nとおけば、あるN1Nが存在して,N>N1なら
|n=0anQ(enN)α|<ε
が成り立つ。

また、補題4よりx=e1Nとおけば、あるN2Nが存在して、N>N2なら
|(1e1N)n=1enNPε(enN)01Pε(t)dt|<ε|(1e1N)n=1enNh(enN)01h(t)dt|<ε
が成立する。

以上から、N>max{N1,N2}のとき
|n=0Nanα|=|n=0ang(enN)α||n=0ang(enN)n=0anQ(enN)|+|n=0anQ(enN)α|=|n=1an{g(enN)Q(enN)}|+|n=0anQ(enN)α|<n=1|an||g(enN)Q(enN)|+εn=1Cn{Q(enN)g(enN)}+εCn=11e1N1enN{Q(enN)g(enN)}+ε(1enN1e1N=k=1nek1Nn)=C(1e1N)n=1enN{Pε(enN)h(enN)}+ε=C{(1e1N)n=1enNPε(enN)01Pε(t)dt}C{(1e1N)n=1enNh(enN)01h(t)dt}+C01{Pε(t)h(t)}dt+ε<(3C+1)ε
となる。従って
n=0an=α
であることが示された。

どうでしたでしょうか。関数gの定め方が秀逸ですね。

では、最後に補題の証明を行います。

補題3

ε>0を任意にとる。まずPεについて示す。y=h(t)は、0t<cct1において共に単調減少し
h(c0):=limtc0h(t)<h(c)
を満たす。これより、あるδ>0が存在し。0<ctδなら
0<h(t)h(c0)ε
が成り立つ。また、ε+0のときδ+0なので、δ
δ<min{εh(c)h(c0),12}
を満たすようにとれる。ここで、単調増加な一次関数L
L(cδ)=h(cδ)+ε,L(c)=h(c)+ε
を満たすように定めると、cδt<cのとき
L(t)h(t)=L(t)h(cδ)+h(cδ)h(c0)+h(c0)h(t)=L(t){L(cδ)ε}+{h(cδ)h(c0)}{h(t)(c0)}<L(t)L(cδ)+ε+ε<L(c)L(cδ)+2ε=h(c)h(cδ)+2ε=h(c)h(c0)+h(c0)h(cδ)+2ε<εδ+2ε<2εδ
が成り立つ。さらに、関数M:[0,1]R
M(t)={h(x)+ε(0t<cδc<t1)max{L(t),h(t)+ε}(cδtc)
で定めると
01{M(t)h(t)}dt=0cδ{M(t)h(t)}dt+cδc{M(t)h(t)}dt+c1{M(t)h(t)}dt=0cδεdt+cδc{K(t)h(t)}dt+c1εdt<ε+cδc{M(t)h(t)}dtε+cδcmax{L(t)h(t),ε}dtε+cδcmax{2εδ,ε}dt=ε+δ2εδ(δ<12)=3ε
を得る。またMは連続なので、Weierstrassの近似定理より、多項式Pεが存在して
|M(t)Pε(t)|ε
が成り立つ。常にM(t)h(t)+εが成り立つから、以上より
h(t)M(t)εPε(t)
及び
01{Pε(t)h(t)}dt=01{Pε(t)M(t)}dt+01{M(t)h(t)}dt<4ε
が従い、示された。

次にpεについて示す。ε>0δ>0Pεのときと同じようにとり、単調増加な一次関数l
l(cδ)=h(cδ)ε,l(e1)=h(c)ε
を満たすように定める。すると、上と同様に評価することで、cδt<cにおいて
h(t)l(t)<2εδ
が成り立つことが分かる。さらに、関数m:[0,1]R
m(t)={h(x)ε(0t<cδc<t1)min{l(t),h(t)ε}(cδtc)
で定めると、関数Mのときと同様にして
01{h(t)m(t)}dt<3ε
を得る。またmは連続なので、Weierstrassの近似定理より、多項式pεが存在して
|m(t)pε(t)|ε
が成り立つ。常にm(t)h(t)εが成り立つから、以上より
h(t)m(t)+εpε(t)
及び
01{h(t)pε(t)}dt=01{h(t)m(t)}dt+01{m(t)pε(t)}dt<4ε
が従い、示された。

補題4

P(x)=kbkxkとおくと、|x|<1に対し、x10
(1x)n=1xnP(xn)=(1x)n=0xnP(xn)(1x)P(1)=(1x)n=0kbkx(k+1)n(1x)P(1)=(1x)kbkn=0(xk+1)n(1x)P(1)=kbk1x1xk+1(1x)P(1)kbkk+1=kbk01tkdt=01kbktk=01P(t)dt
となり一つ目の極限が示された。

また、0<x<1に対し、x10において
(1x)n=1xnh(xn)01h(t)dt(1x)n=1xnPε(xn)01h(t)dt01{Pε(t)h(t)}dt<ε
及び
(1x)n=1xnh(xn)01h(t)dt(1x)n=1xnpε(xn)01h(t)dt01{pε(t)h(t)}dt>ε
となるが、ε>0は任意であったので、ε+0とすれば
limx10{(1x)n=1xnh(xn)01h(t)dt}=0
となり2つ目の極限も示された。

これにて定理2の証明は完了です。疲れたー。。。

ちなみに、anの条件を定理1と2の間の条件にすると証明はどうなるでしょうか。つまり

定理2において、{an}n=0の満たす条件「limnnan=O(1n)」を「limnnanがある値に収束する」に変えると、定理の証明はどうなるか?

実は、これに関して次の命題が得られます。

複素数列{an}n=0について、limnnan及びlimx1n=0anxnがそれぞれ収束するとき、nanの極限値は0に限る。

an=sn+tni (sn,tnR)とし、limnnsn=s, limnntn=tとおく(すなわち、limnnan=s+ti (s,tR))。また、f(x):=n=0anxnとおく。このとき
f(x)=n=0anxn=n=0snxn+(n=0tnxn)i
となる。ここでs>0と仮定すると、limnnsn=sより、任意のε>0に対してあるNNが存在し、n>Nなら
|nsns|<ε
が成り立つ。よって、ε(0,s)を満たすようにεをとると
nsn>sε>0
となる。このεを固定し、それに対するNをとると
n=0snxn=n=0Nsnxn+n=N+1snxn>n=0Nsnxn+n=N+1sεnxn=n=0Nsnxn(sε)n=1N1nxn+(sε)n=1xnn=n=0Nsnxn(sε)n=1N1nxn(sε)log(1x)=n=0Nsnxn(sε)n=1N1nxn+(sε)log(11x)(x10)
となり、limx10f(x)が収束することに矛盾する。s<0のときも同様の議論により矛盾が導かれ、またtについても同様の結果を得る。これより、limnnanが収束するならば、その値は0に限られることが示された。

このように、nanの極限値が0以外だと、級数f(x)logの速度で発散してしまうので、結局極限値は0となって、定理1の証明に帰着されます。

これにて終わりです。誤字脱字や、数学的誤りなどがあれば教えて頂けると幸いです。

参考文献

投稿日:2021525
OptHub AI Competition

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投稿者

京大理学部B3数理科学系

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