今回から5回にわたって東工大の入試問題を取り上げます.最初の問題は調和数に似ていますが,調和数が発散する一方,この和は有界です.
正の整数に関する条件
(*) $10$進法で表したときに,どの位にも数字$9$が現れない}
を考える.以下の問に答えよ.
$k$ を正の整数とするとき,$10^{k-1}$ 以上かつ $10^{k}$ 未満であって条件(*)を満たす正の整数の個数を $a_k$ とする.このとき,$a_k$ を $k$ の式で表せ.
正の整数 $n$ に対して,
\begin{equation}
b_n = \begin{cases}
\displaystyle\frac{1}{n}&(n\mbox{ が条件(*)を満たすとき})\\
0 &(n\mbox{ が条件(*)を満たさないとき})
\end{cases}
\end{equation}
とおく.このとき,すべての正の整数 $k$ に対して次の不等式が成り立つことを示せ.
\begin{equation}
\sum_{n=1}^{10^{k}-1} b_{n} < 80
\end{equation}
どちらも簡単です.迷う余地がないと思います.
最上位桁は $1$ ~ $8$ までの任意の数字が使え,それ以外の桁は $0$ ~ $8$ までの任意の数字が使えるので,$10^{k-1}$ 以上かつ $10^{k}$ 未満の正の整数,すなわち,$k$ 桁の正の整数で条件(*)を満たすものは $a_k = 8 \times 9^{k-1}$ 個存在します.
任意の正の整数 $i$ に対して, $10^{i-1} \leqq n < 10^{i}$ であるならば $\displaystyle\frac{1}{n}\leqq 10^{-i+1}$ であることに注意すると,
\begin{align}
\sum_{n=1}^{10^{k}-1} b_n
&= \sum_{i=1}^{k} \sum_{n=10^{i-1}}^{10^{i}-1} b_n
\leqq \sum_{i=1}^{k} a_i\times 10^{-i+1}
= 8 \times \sum_{i=1}^{k} \left(\displaystyle\frac{9}{10}\right)^{i-1}\\
&= 8\times\frac{\displaystyle 1 -\left(\frac{9}{10}\right)^{k}}{\displaystyle 1-\frac{9}{10}}
< 80
\end{align}
となり不等式が証明されました.ここで,$\displaystyle\left(\frac{9}{10}\right)^{k} > 0$ であることに注意してください.
正直ガッカリです.その一言につきます.
出身大学ということもあり,どうしても厳しめに評価してしまうかもしれませんが,それを差し引いても東工大でこの問題はないでしょう.バカにしすぎです.
この問題は (1) なしでも成立すると思います.(1) がないとかなりハードルが上がりますが,受験生の $2$割くらいは解けると思います.逆に,$1$割も解けないとしたら,それはそれでガッカリです.というか,日本は大丈夫なのか深刻になります.
さて,この問題を見て調和数(harmonic number)を思い浮かべた方も多いかと思います.$n$番目の調和数 $H_n$ は
\begin{equation}
H_n = 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \cdots + \frac{1}{n}
\end{equation}
として定義され,$H_n \fallingdotseq \ln n$ と近似されます.ここで,$\ln$ は自然対数です.実際,$\ln n \leqq H_n \leqq \ln n + 1$ が証明できます.教科書レベルの問題ですので,解いてみてください.
ということで,$H_n$ は $n \to\infty$ とすると発散するのですが,問題は $9$ を含まない整数のみ逆数をとり,それ以外を $0$ として $n$ 部分和を取ると,任意の $n$ に対して有界である(ので無限和は収束する)ことを示しています.
そのあたりの事実は面白いかもしれないし,その証明も易しい.その意味で数学的に綺麗ですが,入試としては易しすぎました.