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現代数学解説
文献あり

【解答のみ】射影加群・移入加群・平坦加群のなす圏が核・余核を持つのはいつか?

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以前投稿した問題、 【問題】射影加群・移入加群・平坦加群のなす圏が核・余核を持つのはいつか? について、この記事では解答のみを書きます。

問題を思い出すと、「有限生成射影・平坦・射影・移入加群のなす圏それぞれが、核または余核を持つのはいつか?」という問題で、8個組み合わせがあります。

証明や詳しい用語の定義はしないので(ヒントくらいはちょっとのせます)、各自証明を試みてみるとよい練習問題になります。よく分からない概念(特に連接環と完全環)については、参考文献のLamの本を見てみると良いでしょう。

簡単なやつ

まずはホモロジー次元の定義から直ちに従うものについてです。

$\Lambda$について次が成り立つ。

  1. 射影$\Lambda$加群のなす圏が核を持つことと、$\Lambda$大域次元が$2$以下なことは同値。
  2. 平坦$\Lambda$加群のなす圏が核を持つことと、$\Lambda$の弱大域次元が$2$以下なことは同値。

ヒント:これらの圏での核は、通常の加群としての核と一致することが確かめられます。

少しだけ難しいが同様に次も分かります。

$\Lambda$について次が成り立つ。

  1. 移入$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つことと、$\Lambda$大域次元2以下なことは同値。
  2. 有限生成射影$\Lambda$加群のなす圏が核を持つことと、$\Lambda$連接(left coherent)かつ弱大域次元$2$以下なことは同値。

ヒント:上の場合は、余核が通常の余核と一致することが分かります。下については、連接知らない人は初めから$\Lambda$を左ネーターくらい仮定してみるとよいでしょう。また左連接環の場合は「有限表示左加群の射影次元のsup = 弱大域次元」なことも使います。

また上を利用して次がすぐに分かります。左右がひっくり返る条件が出るのが面白いですね。

$\Lambda$について次が成り立つ。

  1. 有限生成射影$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つことと、$\Lambda$連接かつ弱大域次元$2$以下なことは同値。

ヒント:有限生成射影加群の圏と、有限生成射影加群の圏は反変同値です。

難しめなやつ

実は平坦加群のほうが、(無限生成)射影加群よりも簡単です。割と議論が複雑なのでヒントは控えめにします。

$\Lambda$について、次は同値。

  1. 平坦$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つ。
  2. 有限生成射影$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つ。
  3. $\Lambda$連接かつ弱大域次元$2$以下。

ヒント:2と3の同値性はすでに上にあります。1と2が同値なことは、平坦加群の圏と有限生成射影加群の圏がある意味対応するという、「平坦加群の圏=有限生成射影加群のdirect limit closure」「有限生成射影加群の圏=平坦加群の圏のなかで有限表示対象の圏」という2つの事実を念頭において考えてみましょう。

さらに飛び道具がいるやつ

あと残っているのは「射影が余核を持つ」と「移入が核を持つ」の2つです。実は射影加群についてのほうが平坦より難しいです。なので条件がかなりきつくなります。

$\Lambda$について、次は同値。

  1. 射影$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つ。
  2. $\Lambda$大域次元$2$以下かつ、連接かつ、完全(left perfect)。

ここで左完全環は連接環よりもマイナーだと思うのですが、一つの(同値な)定義(の一つ)は「平坦左加群=射影左加群」が成り立つことです。なので結局この場合は考えている圏は平坦加群のなす圏と一致しています。

ヒント:参考文献の Chaseの論文 を見てみよう。そして上で述べた「平坦が余核」の特徴づけに帰着しよう。

また残り一つの場合について、いろんな証明がありうると思われるので、誰か簡単な証明を考えて教えて下さい。

$\Lambda$について、次は同値。

  1. 移入$\Lambda$加群のなす圏が核を持つ。
  2. $\Lambda$ネーターかつ大域次元が$2$以下。

ヒント:左ネーターなことと、移入加群が直和で閉じることは同値で、その場合の移入加群は、環を左イデアルで割ったものの移入包絡たちの直和で表せます(とくに直和についての「生成集合」みたいなのが取れる状況なわけです)。

最初っからネーターや可換を仮定したらどうなの?

よく分からない「連接」やら「完全」やらが出てきたので、もう初めから環は両側ネーター環だと仮定すれば次が成り立ちます(両側ネーター環では大域次元は左右の区別がいりません)。これは以上の解答から従いますが、多分初めから両側ネーターを仮定したほうが最初は証明しやすいと思うので、初めにこれを考えてみるといいかもしれません。

$\Lambda$を両側ネーター環とすると、次はすべて同値。

  1. $\Lambda$の大域次元が$2$以下。
  2. 有限生成射影左$\Lambda$加群のなす圏が核を持つ。
  3. 有限生成射影左$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つ。
  4. 移入左$\Lambda$加群のなす圏が核を持つ。
  5. 移入左$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つ。
  6. 平坦左$\Lambda$加群のなす圏が核を持つ。
  7. 平坦左$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つ。
  8. 射影左$\Lambda$加群のなす圏が核を持つ。

つまり一つを除いてすべて「大域次元$2$以下」と同値です($\Lambda$が可換なら、これは「$2$次元以下の正則環」と同じですね)。

残りの一つだけが違っていて、意外な印象です。:

$\Lambda$を左 or 右ネーター環とすると、次は同値。

  1. 射影左$\Lambda$加群のなす圏が余核を持つ。
  2. $\Lambda$が両側アルティンかつ、大域次元が$2$以下。

ヒント:片側ネーターかつ片側完全から両側アルティンが出るし、アルティン環は完全です。

また可換の場合も面白いです。

$R$を可換環とすると、次は同値。

  1. 射影左$R$加群のなす圏が余核を持つ。
  2. $R$は体の有限直積。

ヒント: Chaseの論文 を見てみましょう。

参考文献

[1]
T.Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, Springer GTM, Springer
[2]
S.U. Chase, Direct product of modules, Trans. Amer. Math. Soc., 1960, pp. 457 - 473
投稿日:2021531
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H.E.
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某大ポスドク、詳しくはtwitterまで。自分の分野(環の表現論)でよく使われるfolkloreの解説記事を主に書いています。

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