Eisenteinの既約性判定法とは
Eisensteinの既約性判定法は,有理数体 上の1変数多項式の既約性判定には大変便利なものです.
Eisensteinの既約性判定法
整数係数多項式を考える.以下を充たす素数が存在するとき,はにおいて既約である:
- はの倍数ではない.
- 各に対し,はの倍数である.
- はの倍数ではない.
次数の制約もなく,ある素数と係数との関係のみから形式的に既約性が導かれる判定法は大変ありがたいものです.Eisensteinの判定法に頼るために多項式を少しずらすこともしばしばです.
整数係数多項式および整数に対し,が内で既約が内で既約である.
何を当たり前なことを,と思われるかもしれません.実際その通りで,対偶を考えれば証明はあっという間です.と分解できればと分解できますし,となるならばとできます.記号の操作で左のものを右にずらしただけに見えるのですが,見た目の変化は侮れません.例を2つばかりご覧いただきましょう.
とおく.にはEisensteinの判定法の条件を充たす素数は存在しない.一方
はが判定法の条件を充たすので内で既約,特にも内で既約である.
円分多項式
を素数とし,を考える.等比数列の和と同様に計算すれば有理式としてと整理でき,ここから
を得る.素数が判定法の条件を充たすのでは内で既約,特にも内で既約である.
かようにうまくいく例ばかり見ていると,ついEisensteinの判定法が一点の曇りもない,つまり,次が成り立つような気がしてしまいます.
この記事の主課題
整数係数多項式が内で既約ならば,適切な整数および素数をとれば,が素数に関してEisensteinの判定法の条件を充たすようにできるか?
反例の構成
今回はこの問題に対する反例を紹介します.
主課題に対する反例
とする.は内で既約であるが,いかなる整数および素数に対しても,は素数に対してEisensteinの判定法の条件を充たさない.
証明に進みます.2つの主張を順番に示しましょう.
既約性
背理法によります.がで既約でない,すなわち定数でない多項式2本の積に分解できたとします.は2次式なので,その分解は1次式2本の積しかありえず,はに根を持つはずです.
ところで,の根をにおいて探すとの2個で,には根をもちません.これは矛盾であり,はで既約です.
判定法の条件を充たさないこと
こちらも背理法によります.を整数とし,が素数に対して判定法の条件を充たすとします.条件を書き下すと
- はで割り切れる;
- はで割り切れる;
- はで割り切れない;
です.順番に吟味しますが,途中で用いる素数の性質を先に紹介しておきます.
を素数,を整数とする.がの倍数ならば,のいずれかはの倍数である.特に平方がの倍数ならば自身の倍数である.
がで割り切れますから,とのいずれかがで割り切れます.
がで割り切れるのはしかなく,さらにがで割り切れるのでは偶数です.するとはの倍数にならざるを得ませんが,これは(3)に反します.
がで割り切れるとします.さらにがで割り切れるので,がの倍数でなければなりませんが,は素数なのでしかありえません.このときは偶数なのではで割り切れ,やはり(3)に反します.
件の多項式をどうずらそうとも,議論はあれよあれよと素数に絡め取られ,判定法の条件は同時に成り立てない立場に追い込まれてしまいました.
より高次数の例のために
より次数の高い例にはどんなものがあるでしょうか?
安易に考え始めましたが,個人的にはなかなか難しいところです.変数が増える一方で条件も増えるので,判定法の条件を充たさない多項式の構成はさほど難しくないように思います.
一方で,この証明は低次数ゆえの既約判定が容易さに頼っている部分が大きく,より高次数の例を与えたいと思った場合,多項式の既約性を(_Eisensteinの判定法以外の方法で!_)示さねばならない課題に直面します.
限界に関する記事を書いてみて,改めてその偉大さに気づかされますね.