初めまして.kissshotと申します.初投稿として,位相的不動点定理としてよく知られているBrouwerの不動点定理(のコンパクト凸集合上の任意の自己連続写像は不動点をもつ)の拡張であるLefschetzの不動点定理と更にその一般化を紹介しようと思います.
Lefschetz数
をコンパクトENRとする.連続写像のLefschetz数を
により定義する.
がコンパクトENRならば次数つき加群は有限生成であるからこの定義はwell-definedである.特にはのEuler標数に一致する.
ここで,ENR(Euclidean Neighborhood Retract)とは,ある次元のユークリッド空間の近傍レトラクトと同相な位相空間のことである.特にコンパクト多面体はENRである.
(因みにENRは局所コンパクト可分有限次元距離空間で局所可縮とも言い換えられる.)
Lefschetzの不動点定理とは,次のようなステートメントである.
Lefschetzの不動点定理
をコンパクトENR,を連続写像とする.このとき,ならば.
特にを閉球とすれば,は可縮だから任意のに対してである.従って,Brouwerの不動点定理を得る(Brouwerの不動点定理自体はもっと簡単に証明できる).
また,コンパクト多面体上のLefschetzの不動点定理は係数でも成立する.
Lefschetzの不動点定理をもう少し詳しく見るために不動点指数という概念を定義する.
以下,生成元を1つ固定する.
を開集合,の不動点集合はコンパクトとする.
をの周りの基本ホモロジー類とするとき,切除同型によってに写るの元をと表す.
不動点指数
連続写像
の誘導準同型に対して,の不動点指数をによって定義する.
今,をコンパクトENRとすれば,をのある近傍レトラクトと同一視できる.すなわち,連続写像でを満たすものが存在する.ここにはの開集合である.
よって,の合成を考えれば,より,はコンパクトであるから不動点指数が定まる.このとき,はのとり方に依存せずに決まるから,これを(コンパクトENRにおける)の不動点指数といい,で表す.はホモトピー不変量である.また,明らかにならばが成り立つ.
不動点指数は局所的にも定めることができる.をの孤立不動点とする.このとき,の近傍でを満たすものがとれる.このとき,不動点指数の性質よりはのとり方によらない.よってこれをで表し,におけるの不動点指数という.
Lefschetzの不動点公式
をコンパクトENR,を連続写像とする.このとき,が成り立つ.特にが有限個の孤立不動点をもつとき,が成り立つ.
省略.
(基本コホモロジー類とかを使う.機会があれば別記事で.)
従って,定理2よりLefschetzの不動点定理を得る.
ここではLefschetz数の係数は有理数体としているが,一般の可換体に対してLefschetz数が同様の定義で定まる.このに対するLefschetz数をと書くとき,Lefschetzの不動点公式の主張は正確には「をコンパクトENR,を連続写像とするとき,任意の可換体に対して,である.
一致点への拡張
つの連続写像に対してを満たすようなのことをの一致点と呼ぶ.特にの不動点はとの一致点である.向きのついたコンパクト多様体(境界があってもよい)に対しては,次のLefschetzの一致点定理が成り立つ.
Lefschetzの一致点定理
を向きのついたコンパクト次元多様体とし,を連続写像とする.このとき,に対してならばは一致点をもつ.但し,はGysin準同型である.
Nielsenの理論
Lefschetzの理論だけでは不動点の存在性までしかわからないが,不動点がいくつあるかという疑問に対してNielsenの理論はその下界を与える.
Nielsen同値
をコンパクト連結多面体,を連続写像とする.このとき,上の同値関係を次で定義する.
この同値関係をNielsen同値といい,各同値類をNielsen classという.
はコンパクトだからNielsen classは有限個しかない.
今,をNielsen class,をを満たすの近傍とする.このとき,不動点指数はのとり方に依らない.
はホモトピー不変量であり,次の不等式が成り立つ.
よって,は少なくとも個の不動点をもつ.
Reidemeister traceについて
そして,Lefschetz数とNielsen数の両方を包含する不変量であるReidemeister trace(一般化Lefschetz数)というものがある.
Reidemeister trace
をNielsen classの集合で生成される自由アーベル群として,のReidemeister traceを次で定義する.
定義よりReidemeister traceはホモトピー不変量で,ならばである.
具体的な空間の自己写像に対するReidemeister traceの計算について,円周のbouquetの自己写像に対してFox微分を用いてReidemeister traceを計算している論文もあった.