2
大学数学基礎解説
文献あり

Jacobi三重積

131
0
$$$$
$q$二項係数

$$(n)_q=\prod_{j=1}^n (1-q^j)=(1-q)(1-q^2)\cdots(1-q^n)$$
ただし、$(0)_q=1$と定める。
また、
$$(\infty)_q=\prod_{j=1}^{\infty} (1-q^j)=(1-q)(1-q^2)\cdots$$と定める。このとき、以下を$q$二項係数とよぶ。
$$\binom{n}{k}_q=\frac{(n)_q}{(n-k)_q (k)_q} =\frac{(1-q^n)\cdots(1-q^{n-k+1})}{(1-q)\cdots(1-q^k)}$$

Euler 恒等式あるいは$q$二項定理

(1). 有限ver.
$$\prod_{j=1}^{n}(1+xq^{j-1})=\sum_{k=0}^nq^{\frac{k(k-1)}{2}}\binom{n}{k}_q x^k$$

(2).無限ver.
$$\prod_{j=1}^{\infty}(1+xq^{j-1})=\sum_{k=0}^{\infty} q^{\frac{k(k-1)}{2}}\frac{1}{(k)_q} x^k$$

(3).
$$\prod_{j=1}^{\infty}\frac{1}{1+xq^{j-1}}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(k)_q}x^k$$

(1)を認めると、(1)に$x=-1$を代入し、左辺を$0$にする。
$$0=\sum_{k=0}^nq^{\frac{k(k-1)}{2}}\binom{n}{k}_q (-1)^k=\sum_{k=0}^nq^{\frac{k(k-1)}{2}}\frac{(n)_q}{(n-k)_q (k)_q} (-1)^k$$
両辺に$$\frac{(-1)^n}{(n)_q}x^n (n\geqq1)$$
をかけると、
$$0=\sum_{k=0}^nq^{\frac{k(k-1)}{2}}\frac{(-1)^{n-k}}{(n-k)_q (k)_q} x^kx^{n-k}$$
となる。ここで、
$$\bigg( \sum_{l=0}^{\infty}\frac{(-1)^l}{(l)_q}x^l \bigg)\bigg( \sum_{k=0}^{\infty}q^{\frac{k(k-1)}{2}}\frac{1}{(k)_q}x^k \bigg)=1+\lim_{n\rightarrow \infty} \sum_{k=0}^nq^{\frac{k(k-1)}{2}}\frac{(-1)^{n-k}}{(n-k)_q (k)_q} x^kx^{n-k}=1$$
となるので、(1)と(2)から(3)が得られる。
$$\lim_{n\rightarrow\infty}\frac{(n)_q}{(n-k)_q}=\frac{(\infty)_q}{(\infty)_q}=1$$
より、(1)から(2)が得られる。

(1)の証明
$$\prod_{j=1}^{n}(1+xq^{j-1})=\sum_{k=0}^n A_k x^k $$とおく。$A_k$$k,n,q$に依存するので、そのことを強調するときは$A_k=A(n,k,q)$と表すことにする。
$x=yq$を代入しても等式は成り立つから、
$$\prod_{j=1}^{n}(1+yq^{j})=\sum_{k=0}^n A_k q^k y^k $$
ここで、
$$\prod_{j=1}^{n}(1+yq^{j})=\frac{1+yq^n}{1+y}\prod_{j=1}^{n}(1+yq^{j-1})$$
より、両辺に$1+y$をかける。
$$(1+y)\sum_{k=0}^{n}A_kq^ky^k=(1+yq^n)\sum_{k=0}^{n}A_k y^k$$
$y^k$の係数を比較すると、
$$A_k q^k+A_{k-1}q^{k-1}=A_k+A_{k-1}q^n$$
を得る。
$$\prod_{k=1}^m\frac{A_k}{A_{k-1}}=\prod_{k=1}^m\frac{q^{k-1}-q^n}{1-q^k}$$
だから、
$$\frac{A_m}{A_0}=\frac{(1-q^n)(q-q^n)\cdots(q^{m-1}-q^n)}{(m)_q}=\frac{(1-q^n)(1-q^{n-1})\cdots(1-q^{n-m+1})}{(m)_q}qq^2 \cdots q^{m-1}$$
$$=\binom{n}{m}_q q^{\frac{m(m-1)}{2}}$$
となる。$A_0=1$なので、(1)が得られる。

Jacobi三重積

$$\prod_{j=1}^{\infty}(1-q^{2j})(1+q^{2j-1}x)\left(1+q^{2j-1}\frac{1}{x}\right)=\sum_{m=-\infty}^{\infty}q^{m^2}x^m$$

$q$二項定理(2)において、$q$$q^2$$x$$qx$に変換すると、
$$\prod_{j=1}^{\infty}(1+xq^{2j-1})=\sum_{k=0}^{\infty} q^{k^2}\frac{1}{(k)_{q^2}} x^k$$
ここで、$(\infty)_{q^2}=\prod_{m=1}^{\infty}(1-q^{2m})$を両辺にかける。
$$\prod_{j=1}^{\infty}(1-q^{2j})(1+xq^{2j-1})=\sum_{k=0}^{\infty} q^{k^2}\frac{(\infty)_{q^2}}{(k)_{q^2}} x^k \cdots(A)$$

また、
$$\frac{(\infty)_q}{(k)_q}=\frac{(1-q)\cdots}{(1-q)\cdots(1-q^k)}=(1-q^{k+1})\cdots=\prod_{j=1}^{\infty}(1-q^{k+j})$$
ここで$k<0$ならば$j=-k>0$のときがあるので、この値は$0$となる。
そこで、
$$\sum_{k=0}^{\infty} q^{k^2}\frac{(\infty)_{q^2}}{(k)_{q^2}} x^k=\sum_{k=-\infty}^{\infty} q^{k^2}\frac{(\infty)_{q^2}}{(k)_{q^2}} x^k$$
としてもよい。
次に、$q$二項定理(3)において、$q$$q^2$$x$$qx^{-1}$に変換すると、
$$\prod_{j=1}^{\infty}\frac{1}{1+x^{-1}q^{2j-1}}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(k)_{q^2}}(qx^{-1})^k$$
を得る。
$q$二項定理(2)において、$q$$q^2$$x$$-q^{2n+2}$に変換すると、
$$\prod_{j=1}^{\infty}(1-q^{2n+2}q^{2j-2})=\sum_{k=0}^{\infty} q^{k(k-1)}\frac{1}{(k)_{q^2}} (-1)^k (q^{2n+2})^k$$
$$=\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(-1)^k}{(k)_{q^2}} q^{k^2+2nk+k}=q^{-n^2}\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(-1)^k}{(k)_{q^2}} q^{(k+n)(k+n)}q^k $$
そこで、
$$\frac{(\infty)_{q^2}}{(n)_{q^2}}=\prod_{j=1}^{\infty}(1-q^{2n+2j})$$
を利用すると、$(A)$より、
$$\prod_{j=1}^{\infty}(1-q^{2j})(1+xq^{2j-1})=\sum_{n=-\infty}^{\infty} q^{n^2}\frac{(\infty)_{q^2}}{(n)_{q^2}} x^n$$
$$=\sum_{n=-\infty}^{\infty} \sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(k)_{q^2}} q^{(k+n)(k+n)}(qx^{-1})^k x^{k+n}$$
$$=\sum_{k=0}^{\infty} \frac{(-1)^k}{(k)_{q^2}}(qx^{-1})^k \sum_{n=-\infty}^{\infty} q^{(k+n)(k+n)}x^{k+n}$$
$$=\prod_{j=1}^{\infty}\frac{1}{1+x^{-1}q^{2j-1}} \sum_{m=-\infty}^{\infty} q^{m^2}x^{m}$$
となるので、定理を得る。

参考文献

[1]
George E. Andrews, A simple proof of Jacobi’s triple product identity, Proc. Amer. Math. Soc. 16 (1965), 333-334
投稿日:2021622

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。

投稿者

DIO
DIO
18
3903

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中