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或る三角形の存在性

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三角関数をどう定義すれば, それは曖昧ではない定義といえるかということについて話します。これは三角関数が満たす性質として何を挙げれば, 三角関数がもつ他の性質を全て導き出せるのかという話に関係します。このことは単純とはいえないことの確認から始めていきます。なお本記事は受講している教職の授業に関係する形で執筆することを決めた次第です。

単位円を使った定義から

三角関数cosθ,sinθの定義を復習すると

0<θπ2とし, xy平面上の原点を中心とする半径1の円Cのx0,y0の部分をC+とします。Aを点(1,0)としC+上の点P(x,y)を, AOPθとなるように取ります。このとき, cosθ=x, sinθ=y としてcosθsinθ を定義します。

これには不十分な点があって, 実数θ に対して弧AOP=θを満たす点Pはなぜ存在するのかという点です。これを保証するのが実数の連続性の公理(中間値の定理と同値)と呼ばれているものです。これから別の方法で定義することについて述べますが, 上のような曖昧さは回避できるのでしょうか?

等速円運動の方程式から

「三角関数の性質」の中で特に大事なのは加法定理でしょうが, 微分公式
(cosx)=sinx,  (sinx)=cosxcos0=1, sin0=1

すべての実数に対して定義された微分可能な関数f(x),g(x)f(x)=g(x), g(x)=f(x), f(0)=1, g(0)=0を満たすものがただ1組存在します(証明では実数の連続性の公理というより完備性が重要な働きをする)

そんな1組のf(x),g(x)cosx,sinxとかき三角関数を定義します。

また定理1よりcos2x+sin2x=1となることを得ます。

指数関数から

実数xに対して三角関数を
cosx=Re(eix)=eix+eix2=n=0(1)nx2n(2n)!, sinx=Im(eix)=eixeix2i=n=0(1)nx2n+1(2n+1)!

によって定義することも十分です。でもテイラー展開可能性とか知っておく必要があります。また, ここから微分公式を示すには, 項別微分ができる条件に関する定理と用語を使うことになります(実数の公理が必要)。

逆三角関数の逆関数として

ここでは, まず曲線の長さを定義しますが, 連続微分可能な関数f:[a,b]Rによる[a,b]上の曲線の長さをab1+f(x)2dxで表します。なお, はじめに, AOP=θとなる点Pの存在性について疑義が感じられると書いたことは今0p1として, 円x2+y2=10xp,y0の部分である弧APの長さ(AP)θと一致する点Pがあるのかについてに置き換わっています。逆関数の微分等を述べる余力がないので, この節でいう所の定義については種本である「微積分」(斎藤毅[著])などをご参照ください。

2番目に微分公式から定義したものの, 加法定理によって三角関数を定義することはできる (どのような条件を課せば十分か?)のか、他の数学的対象から三角関数を定義できたりするのか(利点があれば)、考える余地があると思います。

余談

  1. このように三角関数(や指数関数)を良く定義するためには実数とは何かから考え直す必要に迫られました。実数の連続性の公理については平方根の存在等にも関係していたものでしたが、また復習する機会に恵まれました。杉浦氏著『解析入門I』7ページのAの定義ではx2aと記してありますがこれは<としても次のように直せば問題ありません。まず, (R17)の連続性の公理より順序体Rのある元bがあってb=supA>0は (R17)内の条件を今満たすので変わりなく使えます。後の方でϵ:=min{b,a4b25b}とおき, (b+ϵ)2<(2b+ϵ)2aよりb+ϵAとなりbAの上限であることに矛盾し, またb2>aと仮定する場合にはϵ はテキスト通りの数として(bϵ)2abϵAかつAの元なのでこの時も矛盾します。
  2. 上記の定理は初期値問題の一意性を表すものですが, g(x)=g(x),g(0)=0での微分方程式はg=g(x)dxと変形できてg=F(x,g(x))という正規形です。
  3. どの方法による三角関数の定義でも実数の公理によって(説明していませんが)数学的な定義となっていることが, 実数の性質の非自明さを表しています。

[補遺]ある三角形の限局的存在について

ある性質を満たす三角形は限定的な存在であることについて示します。可換体論の知識を仮定します。

T=ΔABCα=BAC,β=ABC,γ=ACBをもつ三角形とし, 頂点Aから線分BC上の点に向かって引く線分とAB,ACによってTはαn等分するn個の部分三角形に分割されるとき, Tはn扇子的三角形又はn扇子的であるといいます。ここで, n扇子的なTに対するその辺の長さと, n個の部分三角形の構成要素であるTの内部にある辺の長さは有理数であるとするとき, 特に, Tは本当のn扇子であると呼びます。そのような性質を満たすTはどの位珍しいものでしょうか。

このようなn扇子的三角形Tはn=2,3の時にしか存在しません。つまり,

Tは本当のn扇子n=2,3

となります。

オイラー関数ϕ(n)nn=k=1dpkekと素因数分解されるとき,
ϕ(n)=nk=1d(1pk1)と表せます。

cosπnQ (n2)n=2,3

)は明らか。
) ξ2n=cos2π2n+isin2π2nとおくと, ξ2nf(X)=X2(2cos2π2n)X+1Q[X]の根より, ξ2nQ上の最小多項式の次数は1または2である一方で, ξ2nQ上最小多項式は円分多項式Φ2n(X)です。degΦ2n(X)=#{iN | 1i2n, GCD(i,2n)=1}=:ϕ(2n)=2np11p1pd1pdが補題より成り立ちます。ϕ(2n){1,2}と, p1,...,pd2nを割り切る互いに相異なる素数としているため, n=2,3です。

任意のnNに対し, fn(X),gn1(X)Q[X]であって
(1) deg(fn)=n,
XR s.t. fn(X)=2n1Xn+cos(nX)=fn(cosX)
(2) deg(gn1)=n1,
XR{kπ | kZ} s.t. gn1(X)=2n1Xn1+sin(nX)sinX=gn1(cosX)を満たすものが存在します。

加法定理より, k1
cos (k+1)X=cos(kX)cosXsin(kX)sinX(1cos2X)sin(k+1)XsinX=sin(kX)sinXcosX+cos(kX)
が成り立つので,
f1(X):=X, g0(X):=1 fk+1(X):=fk(X)Xgk1(X)(1X2) gk(X):=gk1(X)X+fk(X)
と定めれば良いです。

nN,qQ>0,X1,...,XnRとします。
{cosX1,qsinX1,...,cosXn, qsinXn}Q{cos(X1+Xn),qsin(X1++Xn)}Q
が成り立ちます。

次の加法定理とn1に関する帰納法からO.K.
cos(X1+Xn+1)=cos(X1+Xn)cosXn+11q(qsin(X1+Xn))(qsinXn+1)qsin(X1+Xn+1)=(qsin(X1+Xn))cosXn+1+cos(X1+Xn)(qsinXn+1)

a=|BC|,b=|AC|,c=|AB|,α=BAC,β=ABC,γ=BCAをもつ三角形Tがあります。nNに対し{cosαn,cosβn,cosγn}Qならば,
(1){ba,ca}Q(2){sinβnsinαn,sinγnsinαn}Q

正弦定理より,
ba=sinβsinα=sinβsinβnsinαnsinαsinβnsinαn
補題3(2)の条件を満たすような βn,αnR{kπ | kZ}については, 補題3(2)により
sinβsinβnsinαnsinαQ>0 (今はnNなので常に成立)

よって,
baQsinβnsinαnQ (caについても同様)

cotπ2n=1+cosπnsinπn,cosαn=1tan2α2n1+tan2α2n,sinαn=2tanα2n1+tan2α2n

()=cosπ2nsinπ2n=cosπ2nsinπn2cosπ2n=1+cosπnsinπn
もう一方はcosαn(1+tan2α2n)=1tan2α2nが成り立つことと同値で
1+tan2α2n=1cos2α2n=21+cosαn1tan2α2n=21cos2α2n=221+cosαn
また最後は
()=2sinα2ncosα2n1cos2α2n=()

nN2,0<α,β,γ<π は三角形Tの構成要素としての角度とし, このときTの構成要素としての辺とn扇子的なTを分割する部分三角形の構成要素としての, Tの内部にある辺の長さが有理数である必要十分条件は,
(1)cosπnQ,  (2)cotπ2ntanω2nQ (ω{α,β})
が満たされること。つまりγに対しては要求しないでO.K.

) A0,...,Anを線分BC上の点であって, A0=B,An=C,Ai1AAi=αn (1in)を満たすものとしai:=|Ai1Ai|とおきます。するとTはn扇子的なこと及び, 三角形の面積公式よりi{1,...,n1}に対して次の等号が成り立ち, そして仮定から
aiai+1=|AAi1||AAi+1|Q
これとa1++an=|BC|Q, ai>0により, 任意のi (1in)aiQであることが判明します。
) qpQ ai=a1qpqpQs.t. a1++an=a1qpQよりa1Qであり, 同様にしてiに対してaiQです。
余弦定理から
cosαn=|AA02|+|AA1|2a122|AA0||AA1|Q, cosβn,cosγnQ
q=(1cos2αn)1とおくと, 補題5より
{qsinαn,qsinβn,qsinγn}Q
であり, 以上と補題4とα+β+γ=πより
{cosπn,qsinπn}Q
が言えます。これと上の公式から
cotπ2ntanα2n=1+cosπnqsinπnqsinαn1+cosαnQ
同様に
cotπ2ntanω2nQ
となります。
)
仮定よりq:=sin2πnQです。qcotπ2n=q1+cosπnsinπnQなので
qtanα2n=qcotπ2ncotπ2ntanα2ncot2π2n=qpqp(qp1q)2Q,   qtanω2nQcosαn=1tan2α2n1+tan2α2n=1(qpcotπ2n)21+(qpcotπ2n)2=(srq)2(qp)2(srq)2+(qp)2Q
これらより
qsinαn=2qtanα2n1+tan2α2n=cos2α2n2qtanα2nQ, qsinβnQ
となります。補題4から, cosγn,qsinγnQです。
ここで補題5の(2)(1)を使うことができ, もし一辺が有理数となるようなTを選んで取るとTの全ての辺は有理数であることがわかります。正弦定理によってi{0,1,...,n}に対して
|AAi|=|AB|sinβsin(iαn+β)
が成り立ち, 加法定理から
sin(iαn+β)sinβ=siniαnsinαnqsinαnqsinβnsinβnsinβcosβ+cosiαn
であって, 補題3(1)はあるQ係数多項式fnがあってcos(β)=fn(cosβn)を満たすことを意味する他, (2)を第一項に用いることで所望の|AAi|Qを得て, Tは本当のn扇子です。

Tが本当のn扇子ならばn=2,3に限られます。

さて、最後になりますがこのように、初等的なEuclid幾何学の範疇でも知らないことが山ほど潜んでいることが期待されます。私は双曲幾何学等の非Euclid幾何学の文献を読む機運が高まっていますが、現在は余裕がない感じです。

投稿日:2021628
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societah
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現在は量子誤り訂正、位相線形構造とバナッハ環論に関心を持つ。 趣味 : SPY×FAMILY、ハンガリー史、Official髭男dism

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