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大学数学基礎解説
文献あり

引っかかりやすい空集合の扱い(記事作成の練習も兼ねて)

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初めに

集合論において,空集合とは,元を全く含まない集合として定義されます.この空集合について,私が気をつけたほうがいいなという注意点についてまとめてみようと思います.

添字集合が空集合であるような部分集合の族

いま$U$を全体集合とします.集合$I$が与えられており,$I$の任意の元$i$に対して$U$の部分集合$U_i$が定められるものとします.このとき$(U_i)_{i\in I}$を,部分集合の族と言います.そして,部分集合の族$(U_i)_{i\in I}$合併および共通部分をそれぞれ

$\bigcup_{i \in I} U_i =\{x\in U\vert ( \exists i\in I)(x \in U_i)\} $,

$\bigcap_{i\in I}U_i =\{x\in U\vert( \forall i\in I)(x\in U_i)\}$

というように定義します.すなわち,合併とは「ある部分集合に含まれる元の集まり」,共通部分とは「すべての部分集合に含まれる元の集まり」を表します.(わかりにくいと感じる方は,$I$が有限集合の場合を考えるといいかもしれません.)

今から考えるのは,添字集合である$I$が空集合である場合です.このとき,以下の命題が成り立ちます.

$\bigcup_{i \in \emptyset} U_i =\emptyset,\ \bigcap_{i\in \emptyset}U_i =U.$

まずこれを見て戸惑うのは,「添字集合には元が全く含まれていないのに,対応する部分集合を取り出すことなんてできるのか?」と言うことでしょう.命題1を証明するのに大事なことは,そうした具体的直感によるイメージは忘れて,ひたすら定義に戻って考えることです.では,実際にやって見ましょう.

まず,$\bigcup_{i \in \emptyset} U_i =\emptyset$を示します.そのためには$x\in \bigcup_{i \in \emptyset} U_i$となる$x$が存在するとして矛盾を導けばいいですね.左のような$x$を取れると仮定すると,$x\in U_i$を満たすような$i\in \emptyset$を取ることができます.しかしこれは,空集合が元を含まないことに矛盾します.
次に,$\bigcap_{i\in \emptyset}U_i =U$を示します.$x\in \bigcap_{i\in \emptyset}U_i $$(\forall i)(i\in\emptyset \Longrightarrow x\in U_i)$と同値です.$i\in \emptyset$は全ての$i$に対して偽ですから,$(\forall i)(i\in\emptyset \Longrightarrow x\in U_i)$は全ての$x\in U$に対して成り立ちます(仮定が偽となる命題は全て真であることに注意してください!).よって$\bigcap_{i\in \emptyset}U_i =U$が成り立ちます.

如何でしょうか? ぱっと見ると難しそうでも,1つ1つ論理を追っていけば怖くないですね.

参考文献

[1]
斎藤 毅, 集合と位相, 大学数学の入門⑧, 東京大学出版会, pp.34-36
投稿日:2021628

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