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リーマン積分の定義

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$$\newcommand{bunsuu}[2]{\dfrac{\,#1\,}{\,#2\,}} \newcommand{suuretu}[1]{\left\{#1\right\}} $$

この記事の目標

この記事では,リーマン積分(いわゆる,高校生が区分求積法として教わるような定積分)のあらましを見ていきます。また,僕のMathlogの練習も目的としています。

以下を仮定します。

  • $\mathbb N$は正の整数全体の集合とします。僕は“#0は自然数”という宗派には属していません。
  • $\mathbb R$は実数全体の集合とします。
  • 関数$f\colon A\to B$と書いたら,定義域が$A$で,$a\in A$ならば$f(a)\in B$を満たすものと考えてください。
  • 関数とは1変数のものを考えます。

区間上のリーマン積分

$a< b$とします。区間$[a,b]$上の(連続とは限らない)関数$f\colon [a,\,b]\to \mathbb R$について考えていきましょう。このとき区間$[a,\,b]$から$N+1$個の点列$\suuretu{x_n}_{n=0}^N$を,$$ a=x_0< x_1< x_2< \dots < x_{N-1}< x_N=b $$を満たすようにとります。このとき$$ \Delta=\suuretu{x_0,\,x_1,\,x_2,\,x_3,\,\dots,\,x_{N}} $$のことを,区間$[a,\,b]$分割 と呼ぶことにします。分割のとり方は何通りもあるでしょう。
この$\Delta$に対して,$k=1,2,\dots,N$に対し$x_{k-1}\leq x_k^\ast\leq x_k$を満たすように点列$\suuretu{x_n^\ast}_{n=1}^N$をとります。このとき$$ \Delta^\ast=\suuretu{x_1^\ast,\,x_2^\ast,\,x_3^\ast,\,\dots,\,x_{N}^\ast} $$
のことを,分割$\Delta$代表点集合 と呼びましょう。もちろん代表点集合のとり方は何通りもあり,一意的ではありません。

リーマン和

関数$f\colon [a,b]\to \mathbb R$に対して,分割$\Delta$とその代表点集合$\Delta^\ast$を適当に定めたとき,その3つから得られる和$$\displaystyle S(f,\Delta,\Delta^{\ast})=\sum_{k=1}^{N}f(x_k^\ast)(x_k-x_{k-1}) $$を,関数$f$の($\Delta,\ \Delta^\ast$による)リーマン和という。

抽象的な議論ですので,ここで2つばかり例を考えましょう。高校数学における区分求積法は,このリーマン和を具体化して考えています。

高校の区分求積法との対応

高校の数学の教科書では,上記の流れをより具体的に扱っています。例えば数研出版の「改訂版 数学III」による区分求積法のページでは,分割$$ \Delta=\suuretu{x_0,\dots,x_N} $$について,$$ x_k=a+\bunsuu{b-a}{n}k $$という定め方をしており,さらにその代表点分割$\Delta^\ast$については$$ x_k^\ast=x_{k-1} $$と定めていると解釈できます。そしてその時の和$$\displaystyle S(f,\Delta,\Delta^{\ast})=\sum_{k=1}^{N}f(x_k^\ast)(x_k-x_{k-1}) $$については,$$\displaystyle \int_a^b f(x)\,dx=\lim_{N\to\infty}\sum_{k=1}^{N}f(x_k^\ast)(x_k-x_{k-1}) $$が成り立つことを説明しています。

簡単なリーマン和

ここでは実際に,簡単な例として,関数$f\colon [3,\,8]\to \mathbb R$を,$f(x)=2$によって定めたときのリーマン和を考えます。

任意に分割$\Delta=\suuretu{x_0,\dots,x_N}$をとり,任意に代表点集合$\Delta^\ast=\suuretu{x_1^\ast,\dots,x_N^\ast}$をとります。このときリーマン和$$\displaystyle S(f,\Delta,\Delta^{\ast})=\sum_{k=1}^{N}f(x_k^\ast)(x_k-x_{k-1}) $$を考えますが,任意の$x\in[3,\,8]$に対して$f(x)=2$であったことを思い出すと,$$\displaystyle S(f,\Delta,\Delta^{\ast})=\sum_{k=1}^{N}\pmb{2}(x_k-x_{k-1}) $$です。しかも,$$ \begin{align} \sum_{k=1}^{N}(x_k-x_{k-1})&=(x_1-x_0)+(x_2-x_1)+\dots+(x_{N}-x_{N-1})\\ &=x_N-x_0\\ &=8-3=\pmb 5 \end{align} $$と計算できますから,任意に分割や代表点集合をとっても,$$ S(f,\Delta,\Delta^{\ast})=10 $$となることが分かりました。

例2では,かなり簡単な関数に対してリーマン和を計算しましたが,すべての関数が簡単であるわけではなく,特に今回は$f$が連続であるとは限らない場合を考えています。

$N\to\infty$(特に$x_k-x_{k-1}\to+0$)とした時に$S(f,\Delta,\Delta^{\ast})$の値が,$\Delta$$\Delta^\ast$に依存しないで一意に決まるかどうかが問題なのです。

一意に決まった場合はリーマン積分可能,一意に決まらない場合はリーマン積分可能でないと呼ぶことにします。具体的には次の状況です。

なお定義のステートメントを述べるために,分割の“幅”という言葉を定義しておきます。$\Delta$に対して分割の幅$|\Delta|$とは,$$ |\Delta|=\max\suuretu{x_{k}-x_{k-1}\mid k=1,2,\dots,N} $$のことです。

リーマン積分可能であるとは

任意の正の数$\varepsilon$に対し,ある正の数$\delta$が存在して,ある定数$A$が存在して,
分割$\Delta$を,$|\Delta|<\delta$を満たすようにとったときに,その分割と代表点集合$\Delta^\ast$に対して,$$ |f(S,\Delta,\Delta^\ast)-A|<\varepsilon $$を満たすとき,$f$は区間$[a,\,b]$リーマン積分可能 であるという。このとき,$$\displaystyle \int_a^b f(x)\,dx=A $$と表す。

定性的にはこんなかんじで説明できます。

  • 分割の“幅”を限りなく小さくする。(例えば正の数$\delta$より小さいとする。)
  • このとき,幅が$\delta$より小さくなるように分割をとれば,分割の仕方は何でもよいとする。
  • 分割のとり方がなんでも良かったのに対して,リーマン和の値がただ1つの値に収束するならば,その値のことを“定積分”と呼ぶことにしよう
  • すごい適当に言えば,$\displaystyle \lim_{\text{$\Delta$の幅}\to0}S(f,\Delta,\Delta^\ast)$が存在するときに,リーマン積分可能だと言っており,$$\displaystyle \int_a^b f(x)\,dx=\lim_{|\Delta|\to+0}S(f,\Delta,\Delta^\ast) $$と書くよといっています。

といった感じです。雰囲気を説明することは簡単ですが,定義を理解する(ちゃっかり$\varepsilon$-$\delta$論法で定義してしまいました)ことは難しいですね。

リーマン積分可能かどうかというのを判定するためには,あらかじめ定積分$A$の値を知っている必要があります。

しかし例えば,「区間$[a,\,b]$上で定義される連続関数はリーマン積分可能である。」という命題が真であることを証明したいとき,定積分の値なんてまったくわかりません。そういった背景から,$A$が分からなくてもリーマン積分可能であるかどうか,という判定方法が熱望されます。

注意に書いた通り,リーマン積分可能であるための必要十分条件を,もう少し探っていきます。

リーマン積分可能かの判定

とりあえずここでは,閉区間$[a,\,b]$で有界な関数$f$を考えます。$f$が有界であるとは,ある定数$A,B\in \mathbb R$が存在して,任意の$x\in \mathbb R$に対して$A\leq f(x)\leq B$を満たすことです。ざっくりいえば無限大に発散することはないということです。

$f\colon [a,\,b]\to\mathbb R$とその分割$\Delta=\suuretu{x_n}_{n=0}^N$に対して,次の量を定義しておきます。$$ m_k=\inf\suuretu{f(x)\mid x_{k-1}\leq x\leq x_k} $$$$ M_k=\sup\suuretu{f(x)\mid x_{k-1}\leq x\leq x_k} $$ここで$\inf$$\sup$とは,その集合における下限上限 を意味します。$f$が連続関数ならば最小値や最大値と同じです。今回は下限や上限の定義は省略しますが,$A\leq m_k\leq M_k\leq B$が成り立つことには思い出しておきます。

さらに,この$m_k$$M_k$を用いて,次の量を定義します。$$ S_m(f,\Delta)=\sum_{n=1}^N m_k(x_k-x_{k-1}) $$$$ S_M(f,\Delta)=\sum_{n=1}^N M_k(x_k-x_{k-1}) $$この定義によって,次の関係式が成り立ちます。$$ A(b-a)\leq S_m(f,\Delta) \leq S(f,\Delta,\Delta^\ast)\leq S_M(f,\Delta)\leq B(b-a) $$つまり$S_m(f,\Delta)$$S_M(f,\Delta)$というのは,有界であることが分かったので,$\Delta$に依らない値として,
$$ S_m(f)=\sup_{\Delta}\suuretu{S_m(f,\Delta)},\quad S_M(f)=\inf_{\Delta}\suuretu{S_M(f,\Delta)} $$を定義することが出来ます。標語的に名付ければ,“下限の上限”と“上限の下限”をとっています。この“下限の上限”と“上限の下限”が一致することが,リーマン積分可能であるための必要十分条件なのです。

以下が成り立ちます。

ダルブーの定理

有界な関数$f\colon [a,\,b]\to\mathbb R$に対して,$$\displaystyle \lim_{|\Delta|\to+0}S_m(f,\Delta)=S_m(f),\quad \lim_{|\Delta|\to+0}S_M(f,\Delta)=S_M(f) $$が成り立つ。

ダルブーの定理を認めることで,わざわざ“上限の下限”をとるのではなく,“上限の極限”をとるだけで良いことが分かりました。さらに,次の定理があります。

リーマン積分可能かどうかの判定条件

有界な関数$f\colon [a,\,b]\to\mathbb R$がリーマン積分可能であるための必要十分条件は,$S_m(f)=S_M(f)$を満たすことである。

このように,必要十分条件ならば定積分$A$の値が分かっていなくてもリーマン積分可能かどうかが分かることが知られています。

まとめ

今回はリーマン積分可能であることの定義,そして有界な関数ならば判定条件があることについて説明しました。高校生にもわかる?と言ってるくせに,$\varepsilon$-$\delta$論法を持ち出さないとしっかり定義できないものや,$\sup$$\inf$についてもある程度知識がないと困ってしまう記述があり,申し訳ない気持ちです。もしも今読んでくださっている方が高校生ならば,以下の事実は知っておいてください。

  • 高校の区分求積法の正当性はかなりガバガバだ
  • ただし高校の教科書の方がイロイロ理解しやすい
  • 厳密にするには,より基礎から学んでいく必要がある

というわけで本日はこの辺で〆させていただきます。ここまでお読みいただきありがとうございます。

(もしかして,長い?分割すべき?)

投稿日:2020117

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ぱるち
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数学屋さんをしています。代数,数論系に興味があり,今は楕円曲線と戯れています。Mathlogは現実逃避用という噂もあります。@f_d00123

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