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大学数学基礎解説
文献あり

群の拡大の分類について(群コホモロジー)

1875
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この記事は、群Nと群Gについて、NGによる拡大を分類する。つまり、次のような完全系列の分類である:
1NG^πG1.
単射NG^によってNG^の正規部分群と思える。このとき、gG^は共役ngng1Nに作用する。

(以下では、全ての群を有限とする。)

分裂する完全系列

これが最も簡単な場合である。

分裂する完全系列

完全系列1NG^πG1分裂するとは、πの切断s:GG^が存在することである。ここで切断とは群準同型sであってπs=idGとなるものである。

このような切断があるとき、G^Nへの作用から準同型sによって誘導されるGNへの作用がある。つまり、gGNへの作用をns(g)ns(g)1によって定める。
よく知られているように、次が成り立つ:

1NG^πG1を切断sを持つ完全系列として、φ:GAut(N)を誘導されるGNへの作用とする。このとき、この完全系列は完全系列1NNφGG1と同型である。

この命題によって、NGによる分裂する拡大G^を定めることはGNへの作用を決めることと同値であることがわかる。ここで、半直積NφGは以下のように定義される:

半直積

G,Nを群としてφ:GAut(N)を群準同型とする。このとき、NφGを集合としてはN×Gとして、演算を以下のように定義する:

  • n,nNg,gGに対して、(n,g)(n,g):=(ngn,gg)。ここで、gn(ϕ(g))(n)のこと。

ここで、残る質問はGNへの作用が与えられたとき、完全系列1NNGG1の切断sの分類である。簡単のため、以下ではNをアーベル群とする。このとき、定義より分裂はs(g)=(dg,g)の形になっている。s(gh)=s(g)s(h)とならなければならないので、計算してみると関係d(gh)=dggdhを得る。

二つの分裂s1,s2N-共役であるとは、nNが存在して、s1(g)=ns2(g)n1となることである。これを計算すると、d1g=d2gaga1となる。つまり、分裂の共役類と群コホモロジーH1(G,N)の元が対応する。つまり:

分裂する完全系列の分類

分裂する完全系列1NG^G1GNへの作用で一意に決まる。そして、Nがアーベル群のときは、NG-加群になり、分裂s:GG^の共役類は1次のコホモロジー群H1(G,N)の元と一対一対応する。

余談

H1(G,N)には以下の考え方もある:

N-torsor

G-集合Xに対して、N-torsorとは、XへのNの左作用で、以下を満たすものである:

  • 任意のx,yXに対して、ただ一つのnNが存在して、y=xnとなる。(正則)
  • 任意のxXnNgGに対して、g(xn)=gxgn。(Gの作用と可換)

ここで、NXへの作用は正則であることから、集合としてXNである。つまり、N-torsor Xとは、Nに「変わった」Gの作用を定めることであると考えれる。

N-torsorの同型類の集合をTORS(N)と記す。このとき、次が成り立つ:

点付き集合の全単射H1(G,N)TORS(N)がある。

XN-torsorとして、xXを固定する。すると、gGに対して、ngNが存在して、gx=xngとなる。ngH1(G,N)であることがわかる。xxbで置き換えると、ngb1nggbに置き換わるので、良い。

逆に、ngH1(G,N)とする。Xを集合としてNとして、Gの作用をgx:=nggxで定義する。そして、Nの作用を普通の掛け算による左作用とする。すると、XN-torsorになり、同型類はH1(G,N)の元の代表元の選び方によらない。

つまり、こうなる:

G-加群Nに対して、以下が一対一対応する:

  • H1(G,N)の元。
  • N-torsorの同型類。
  • 完全系列1NNGG1の切断。

ここで、切断s:GNGが与えられたとき、対応するN-torsorは集合論的射影NGNpと書くと、集合NG-作用をgn:=p(s(g)(n,1))で定まることで決まる。

分裂しない完全系列

今後は、一般の完全系列について見ていくが、引き続きNはアーベルであると仮定する。ここで、群の完全系列1NG^πG1があるが、以前と同様に、Nに共役によってG^-作用が入る。しかし、Nはアーベルなので、NG^の作用は自明になり、結局G^/NGの作用が入る。

s:GG^を集合論的な切断で、s(1)=1となるものとすると、上で定義されたGの作用はgGに対してns(g)ns(g)1で与えられる。

sは一般には群準同型ではなかったが(そうであれば完全系列が分裂する)、sがどれほど群準同型から遠いからを以下の関数で定義する:

s(g)s(h)=f(g,h)s(gh); g,hG
すると、π(f(g,h))=(g)(h)(gh)1=1なので、f(g,h)ker(π)=Nとなる。つまり、今関数f:G×GNを定義した。コサイクル条件を満たすことがわかるので、コホモロジー群H2(G,N)の元を定義する。しかも、切断の選び方はf(g,h)をコバウンダリでしか変化させないので、この対応はwell-definedである。

逆に、任意の関数f:G×GAが与えられたとき、集合N×Gに「ツイスト」された演算(a,g)f(b,h)=(agbf(g,h),gh)を入れたものが群になるかを考える。これには、結合則
[(n1,g1)f(n2,g2)]f(n3,g3)=(n1,g1)f[(n2,g2)f(n3,g3)]
が必要だが、これはコサイクル条件である。以上の議論により、以下が示せた:

アーベル群の拡大の分類

コホモロジー群H2(G,N)の元とG-加群NGによる拡大1NG^G1が一対一対応する。

しかも、この対応によってH2(G,N)の単位元は分裂する拡大1NNGG1に対応する。

巡回群の拡大

Gが巡回群のとき、同型H2(G,N)NG/NGNが知られている。ここで、NGN:={gGgn:nN}はノルムの像で、NG:={nN:gG,gn=n}NG-不変部分群である。特に、GNへの作用が自明のときは、NG/NGNN/|G|Nである。

Schur–Zassenhaus定理

一般に、H2(G,N)は指数|G|を持つので、|G||N|が互いに素であるときは、自己同型|G|:NNが誘導する同型H2(G,N)|G|H2(G,N)を見ることでH2(G,N)=0であることが示せる。つまり、位数が互いに素な群による拡大は半直積NGしかない。これは、Schur-Zassenhaus定理の特別な場合である。(Nはアーベルであると仮定していた。この仮定を落としても、コホモロジーの手法で示すことができる。)

参考文献

[1]
Kenneth S. Brown, Cohomology of Groups, Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1982, pp. 86-104
[2]
Jurgen Neukirch, Cohomology of Number Fields, A Series of Comprehensive Studies in Mathematics, Springer, 2000
投稿日:2021730
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