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大学数学基礎解説
文献あり

群の拡大の分類について(群コホモロジー)

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この記事は、群$N$と群$G$について、$N$$G$による拡大を分類する。つまり、次のような完全系列の分類である:
$$1\to N\to \widehat G\xrightarrow{\pi} G\to 1.$$
単射$N\to\widehat G$によって$N$$\widehat G$の正規部分群と思える。このとき、$g\in\widehat G$は共役$n\mapsto gng^{-1}$$N$に作用する。

(以下では、全ての群を有限とする。)

分裂する完全系列

これが最も簡単な場合である。

分裂する完全系列

完全系列$1\to N\to\widehat G\xrightarrow{\pi} G\to 1$分裂するとは、$\pi$の切断$s\colon G\to\widehat G$が存在することである。ここで切断とは群準同型$s$であって$\pi\circ s=\mathrm{id}_G$となるものである。

このような切断があるとき、$\widehat G$$N$への作用から準同型$s$によって誘導される$G$$N$への作用がある。つまり、$g\in G$$N$への作用を$n\mapsto s(g)ns(g)^{-1}$によって定める。
よく知られているように、次が成り立つ:

$1\to N\to\widehat G\xrightarrow{\pi}G\to1$を切断$s$を持つ完全系列として、$\varphi\colon G\to\mathrm{Aut}(N)$を誘導される$G$$N$への作用とする。このとき、この完全系列は完全系列$1\to N\to N\rtimes_\varphi G\to G\to 1$と同型である。

この命題によって、$N$$G$による分裂する拡大$\widehat G$を定めることは$G$$N$への作用を決めることと同値であることがわかる。ここで、半直積$N\rtimes_\varphi G$は以下のように定義される:

半直積

$G,N$を群として$\varphi\colon G\to\mathrm{Aut}(N)$を群準同型とする。このとき、$N\rtimes_\varphi G$を集合としては$N\times G$として、演算を以下のように定義する:

  • $n,n'\in N$$g,g'\in G$に対して、$(n,g)*(n',g'):=(n\cdot{^g}n',gg')$。ここで、${^g}n'$$(\phi(g))(n')$のこと。

ここで、残る質問は$G$$N$への作用が与えられたとき、完全系列$1\to N\to N\rtimes G\to G\to 1$の切断$s$の分類である。簡単のため、以下では$N$をアーベル群とする。このとき、定義より分裂は$s(g)=(dg,g)$の形になっている。$s(gh)=s(g)s(h)$とならなければならないので、計算してみると関係$d(gh)=dg\cdot {^g}dh$を得る。

二つの分裂$s_1,s_2$$N$-共役であるとは、$n\in N$が存在して、$s_1(g)=ns_2(g)n^{-1}$となることである。これを計算すると、$d_1g=d_2g\cdot a{^g}a^{-1}$となる。つまり、分裂の共役類と群コホモロジー$H^1(G,N)$の元が対応する。つまり:

分裂する完全系列の分類

分裂する完全系列$1\to N\to\widehat G\to G\to 1$$G$$N$への作用で一意に決まる。そして、$N$がアーベル群のときは、$N$$G$-加群になり、分裂$s\colon G\to\widehat G$の共役類は1次のコホモロジー群$H^1(G,N)$の元と一対一対応する。

余談

$H^1(G,N)$には以下の考え方もある:

$N$-torsor

$G$-集合$X$に対して、$N$-torsorとは、$X$への$N$の左作用で、以下を満たすものである:

  • 任意の$x,y\in X$に対して、ただ一つの$n\in N$が存在して、$y=xn$となる。(正則)
  • 任意の$x\in X$$n\in N$$g\in G$に対して、${^g}(xn)={^g}x{^g}n$。($G$の作用と可換)

ここで、$N$$X$への作用は正則であることから、集合として$X\cong N$である。つまり、$N$-torsor $X$とは、$N$に「変わった」$G$の作用を定めることであると考えれる。

$N$-torsorの同型類の集合を$TORS(N)$と記す。このとき、次が成り立つ:

点付き集合の全単射$H^1(G,N)\cong TORS(N)$がある。

$X$$N$-torsorとして、$x\in X$を固定する。すると、$g\in G$に対して、$n_g\in N$が存在して、${^g}x=xn_g$となる。$n_g\in H^1(G,N)$であることがわかる。$x$$xb$で置き換えると、$n_g$$b^{-1}n_g{^g}b$に置き換わるので、良い。

逆に、$n_g\in H^1(G,N)$とする。$X$を集合として$N$として、$G$の作用を${^g}'x:=n_g\cdot{^g}x$で定義する。そして、$N$の作用を普通の掛け算による左作用とする。すると、$X$$N$-torsorになり、同型類は$H^1(G,N)$の元の代表元の選び方によらない。

つまり、こうなる:

$G$-加群$N$に対して、以下が一対一対応する:

  • $H^1(G,N)$の元。
  • $N$-torsorの同型類。
  • 完全系列$1\to N\to N\rtimes G\to G\to 1$の切断。

ここで、切断$s\colon G\to N\rtimes G$が与えられたとき、対応する$N$-torsorは集合論的射影$N\rtimes G\to N$$p$と書くと、集合$N$$G$-作用を${^g}'n:=p(s(g)\cdot(n,1))$で定まることで決まる。

分裂しない完全系列

今後は、一般の完全系列について見ていくが、引き続き$N$はアーベルであると仮定する。ここで、群の完全系列$1\to N\to \widehat G\xrightarrow{\pi} G\to 1$があるが、以前と同様に、$N$に共役によって$\widehat G$-作用が入る。しかし、$N$はアーベルなので、$N\subseteq\widehat G$の作用は自明になり、結局$\widehat G/N\cong G$の作用が入る。

$s\colon G\to\widehat G$を集合論的な切断で、$s(1)=1$となるものとすると、上で定義された$G$の作用は$g\in G$に対して$n\mapsto s(g)ns(g)^{-1}$で与えられる。

$s$は一般には群準同型ではなかったが(そうであれば完全系列が分裂する)、$s$がどれほど群準同型から遠いからを以下の関数で定義する:

$$s(g)s(h)=f(g,h)s(gh);\ g,h\in G$$
すると、$\pi(f(g,h))=(g)(h)(gh)^{-1}=1$なので、$f(g,h)\in\ker(\pi)=N$となる。つまり、今関数$f\colon G\times G\to N$を定義した。コサイクル条件を満たすことがわかるので、コホモロジー群$H^2(G,N)$の元を定義する。しかも、切断の選び方は$f(g,h)$をコバウンダリでしか変化させないので、この対応はwell-definedである。

逆に、任意の関数$f\colon G\times G\to A$が与えられたとき、集合$N\times G$に「ツイスト」された演算$(a,g)*_f(b,h)=(a{^g}b\cdot f(g,h),gh)$を入れたものが群になるかを考える。これには、結合則
$$[(n_1,g_1)*_f(n_2,g_2)]*_f(n_3,g_3)=(n_1,g_1)*_f[(n_2,g_2)*_f(n_3,g_3)]$$
が必要だが、これはコサイクル条件である。以上の議論により、以下が示せた:

アーベル群の拡大の分類

コホモロジー群$H^2(G,N)$の元と$G$-加群$N$$G$による拡大$1\to N\to\widehat G\to G\to 1$が一対一対応する。

しかも、この対応によって$H^2(G,N)$の単位元は分裂する拡大$1\to N\to N\rtimes G\to G\to 1$に対応する。

巡回群の拡大

$G$が巡回群のとき、同型$H^2(G,N)\cong N^G/N_GN$が知られている。ここで、$N_GN:=\{\prod_{g\in G}{^g}n:n\in N\}$はノルムの像で、$N^G:=\{n\in N:\forall g\in G,{^g}n=n\}$$N$$G$-不変部分群である。特に、$G$$N$への作用が自明のときは、$N^G/N_GN\cong N/|G|N$である。

Schur–Zassenhaus定理

一般に、$H^2(G,N)$は指数$|G|$を持つので、$|G|$$|N|$が互いに素であるときは、自己同型$|G|\colon N\to N$が誘導する同型$H^2(G,N)\xrightarrow{|G|}H^2(G,N)$を見ることで$H^2(G,N)=0$であることが示せる。つまり、位数が互いに素な群による拡大は半直積$N\rtimes G$しかない。これは、Schur-Zassenhaus定理の特別な場合である。($N$はアーベルであると仮定していた。この仮定を落としても、コホモロジーの手法で示すことができる。)

参考文献

[1]
Kenneth S. Brown, Cohomology of Groups, Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1982, pp. 86-104
[2]
Jurgen Neukirch, Cohomology of Number Fields, A Series of Comprehensive Studies in Mathematics, Springer, 2000
投稿日:2021730

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jenta
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