この記事は、群と群について、のによる拡大を分類する。つまり、次のような完全系列の分類である:
単射によってをの正規部分群と思える。このとき、は共役でに作用する。
(以下では、全ての群を有限とする。)
分裂する完全系列
これが最も簡単な場合である。
分裂する完全系列
完全系列が分裂するとは、の切断が存在することである。ここで切断とは群準同型であってとなるものである。
このような切断があるとき、のへの作用から準同型によって誘導されるのへの作用がある。つまり、のへの作用をによって定める。
よく知られているように、次が成り立つ:
を切断を持つ完全系列として、を誘導されるのへの作用とする。このとき、この完全系列は完全系列と同型である。
この命題によって、のによる分裂する拡大を定めることはのへの作用を決めることと同値であることがわかる。ここで、半直積は以下のように定義される:
半直積
を群としてを群準同型とする。このとき、を集合としてはとして、演算を以下のように定義する:
ここで、残る質問はのへの作用が与えられたとき、完全系列の切断の分類である。簡単のため、以下ではをアーベル群とする。このとき、定義より分裂はの形になっている。とならなければならないので、計算してみると関係を得る。
二つの分裂が-共役であるとは、が存在して、となることである。これを計算すると、となる。つまり、分裂の共役類と群コホモロジーの元が対応する。つまり:
分裂する完全系列の分類
分裂する完全系列はのへの作用で一意に決まる。そして、がアーベル群のときは、は-加群になり、分裂の共役類は1次のコホモロジー群の元と一対一対応する。
余談
には以下の考え方もある:
-torsor
-集合に対して、-torsorとは、へのの左作用で、以下を満たすものである:
- 任意のに対して、ただ一つのが存在して、となる。(正則)
- 任意の、、に対して、。(の作用と可換)
ここで、のへの作用は正則であることから、集合としてである。つまり、-torsor とは、に「変わった」の作用を定めることであると考えれる。
-torsorの同型類の集合をと記す。このとき、次が成り立つ:
を-torsorとして、を固定する。すると、に対して、が存在して、となる。であることがわかる。をで置き換えると、がに置き換わるので、良い。
逆に、とする。を集合としてとして、の作用をで定義する。そして、の作用を普通の掛け算による左作用とする。すると、が-torsorになり、同型類はの元の代表元の選び方によらない。
つまり、こうなる:
ここで、切断が与えられたとき、対応する-torsorは集合論的射影をと書くと、集合に-作用をで定まることで決まる。
分裂しない完全系列
今後は、一般の完全系列について見ていくが、引き続きはアーベルであると仮定する。ここで、群の完全系列があるが、以前と同様に、に共役によって-作用が入る。しかし、はアーベルなので、の作用は自明になり、結局の作用が入る。
を集合論的な切断で、となるものとすると、上で定義されたの作用はに対してで与えられる。
は一般には群準同型ではなかったが(そうであれば完全系列が分裂する)、がどれほど群準同型から遠いからを以下の関数で定義する:
すると、なので、となる。つまり、今関数を定義した。コサイクル条件を満たすことがわかるので、コホモロジー群の元を定義する。しかも、切断の選び方はをコバウンダリでしか変化させないので、この対応はwell-definedである。
逆に、任意の関数が与えられたとき、集合に「ツイスト」された演算を入れたものが群になるかを考える。これには、結合則
が必要だが、これはコサイクル条件である。以上の議論により、以下が示せた:
アーベル群の拡大の分類
コホモロジー群の元と-加群のによる拡大が一対一対応する。
しかも、この対応によっての単位元は分裂する拡大に対応する。
巡回群の拡大
が巡回群のとき、同型が知られている。ここで、はノルムの像で、はの-不変部分群である。特に、のへの作用が自明のときは、である。
Schur–Zassenhaus定理
一般に、は指数を持つので、とが互いに素であるときは、自己同型が誘導する同型を見ることでであることが示せる。つまり、位数が互いに素な群による拡大は半直積しかない。これは、Schur-Zassenhaus定理の特別な場合である。(はアーベルであると仮定していた。この仮定を落としても、コホモロジーの手法で示すことができる。)