ファインマンは、経路積分を発明した天才物理学者です。
「ご冗談でしょう、ファインマンさん」では、何回か暗算勝負を仕掛けていますが、その暗算の方法を紹介します。
※問題に挑戦したい人は、少しずつスクロールしてください。
ネイピア数$e$の定義は、人によってまちまちですが、値は同じです。
ヤコブ・ベルヌーイの定義
$e =\lim _{{n\to \infty }}\left(1+{\frac {1}{n}}\right)^{n}$
オイラーの定義
${\frac {d}{dx}}e^{x}=e^{x}$
テイラー展開
${e^{x}=\sum _{n=0}^{\infty }{\frac {x^{n}}{n!}}}$
では問題です。次の値を概算で求めてください。
$$問1 e^{3.3}$$
$$問2 e^{3}$$
$$問3 e^{1.4}$$
ヒント
ファインマンは以下のことを知っています。
$$①log_e{10} = 2.3026$$
$$②log_e{2} = 0.69315 (放射能の半減期と崩壊定数の関係式から)$$
$$③e=2.71828$$
では、解答です。
ファインマンの解答
$$問1 e^{3.3}$$
$e^{3.3} = e^{2.3}・e = 10・2.71828 = 27.1828$
$$問2 e^{3}$$
$e^{3} = e^{2.3}・e^{0.7} ≒ 10・2 = 20$
$$問3 e^{1.4}$$
$e^{1.4} = (e^{0.7})^2 ≒ 2^2 = 4$
ファインマンはベーテが行った暗算に驚いていました。
では、次の値を暗算してください。
$$問4 48^2$$
ヒントはなしです。
では、解答です
ベーテの解答
$$問4 48^2$$
$$48^2 = 50^2 - (50-48)*100 + 2^2$$
$$=2500-200+4=2304$$
$50$に近い数字の2乗は、以下の計算式で求められることを利用しています。
$$(50+a)^2 = 50^2 + 2・50・a + a^2$$
$$= 2500 + 100a + a^2$$
$48$の場合、$a=-2$とすれば計算できます。
これはまだまだ序の口です。
次の値を概算で求めてください。
$$問5 2.5^{\frac{1}{3}} $$
$$問6 28^2 $$
$$問7 \frac{1}{1.73} $$
$$問8 \frac{1}{1.75} $$
ヒント
ベーテは以下のことを知っています。
$$①log_e{2.5} = 0.916$$
$$②log_e{1.3} = 0.262$$
$$③log_e{1.4} = 0.3365$$
$$④\sqrt 2 = 1.41$$
$$⑤\sqrt 3 = 1.73$$
$$⑥\frac{4}{7} = 0.571428...$$
では、解答です。
ベーテの解答
$$問5 2.5^{\frac{1}{3}}$$
$$\frac{1}{3}log_e{2.5} = 0.305$$
$$log_e{1.3} < \frac{1}{3}log_e{2.5} < log_e{1.4}$$
$$∴2.5^{\frac{1}{3}} ≒ 1.35$$
$$問6 28^2$$
$$28^2 = (1.4×20)^2 ≒ (\sqrt2×20)^2 = 2×400 = 800$$
$$問7 \frac{1}{1.73} $$
$$\frac{1}{1.73} ≒ \frac{1}{\sqrt 3} = \frac{\sqrt 3}{3} ≒ \frac{1.73}{3} ≒ 0.576$$
$$問8 \frac{1}{1.75} $$
$$\frac{1}{1.75} = \frac{4}{7} = 0.571428...$$
ファインマンは60秒すれすれで答えられたそうです。
答えは本に載っていなかったので、実際にやってみます。
$$問9 (1+x)^{20}を展開したときのx^{10}の係数$$
$$ファインマンの解答$$
$$問9 (1+x)^{20}を展開したときのx^{10}の係数$$
$$(1+x)^{20}を展開したときのx^{10}の係数は$$
$${}_{20} \mathrm{C}_{10} = \frac{20・19・18・...・11}{10!}$$
$$=\frac{2・19・2・17・2・15・2・13・2・11}{5!}$$
$$=19・2・17・13・2・11$$
$$=209・221・4$$
$$=46189・4$$
$$=184756$$
ちなみに2桁×2桁の暗算については以下の記事にあります。
2桁×2桁の暗算の方法
https://mathlog.info/articles/2198
最終問題です。
以下の問題は、日本人が算盤を使っても勝てなかった問題です。
次の値を概算で求めてください
$$問10 \sqrt[3]{1729.03}$$
ヒント
ファインマンは以下のことを知っているとします。
$$①(1フィート)^3 = 1728インチ$$
$$②1フィート = 12インチ$$
では、解答です。
$$ファインマンの解答$$
$$問10 \sqrt[3]{1729.03}$$
$$\sqrt[3]{1729.03} = (1728 + 1.03)^\frac{1}{3}$$
$$= 12・(1+\frac{1}{1728}・1.03)^\frac{1}{3}$$
$$≒ 12+12・\frac{1}{1728}・\frac{1}{3} (∵\frac{1}{1728}・1.03 << 1)$$
$$= 12+\frac{1}{432}$$
$$≒ 12.002$$
$|x|<<1のとき$
$(1+x)^\frac{1}{n} ≒ 1+\frac{1}{n}x$というのは
平均値の定理からわかります。
$f(x)が区間[a,b]で連続のとき、$
$∃c \in [a,b] s.t. f'(c)=\frac{f(b)-f{(a)}}{b-a}$
$これは、f(x)が区間[a,b]で点(a,f(a))と点(b,f(b))を結ぶ直線と$
$同じ傾きの接線を必ず持つ、ということを意味します。$
$さらに整理すると$
$f(b) = f(a) + (b-a)f'(c)$
$b=a+hとすると$
$f(a+h) = f(a) + hf'(c)$
$a=1, f(x) = x^\frac{1}{n}(n \in \mathbb{N})とすると$
$(1+h)^\frac{1}{n} = 1 + h・\frac{1}{n}c^{\frac{1}{n}-1}$
$特に|h|<<1の時$
$a < c < a+h, |h|<<1 なので c ≒ a$
$(1+h)^\frac{1}{n} ≒ 1 + \frac{1}{n}h$
ファインマンはただ丸暗記をしているのではなく、その知識を十分に活用しており、その姿勢は見習いたいものです。