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数学好きのための音楽理論入門!!

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数学好きのための音楽理論入門!!

鍵盤

音楽は数学だ!?

 お久しぶりです! 練乳愛飲家 兼 セカンドスリーパーの みゆ🌹ฅ^•ω•^ฅ でございます。

 今回のテーマは「音楽の世界にひそむ数学」。数学がお好きな方は音楽もお好き(!?)というウワサを風の便りで耳にしたのですが、確かに音楽理論のコアな部分ってだいぶ数学よりなんですよね。理系っぽくいうなら、

 『音楽つまり音というのは空気振動を人間の耳が感知した結果認識されるものであり、究極的には物理学や生理学などの理系学問で説明がつくはずである。従ってそこに数学が用いられるのはむしろ必然といえる。』

かな?

 本記事は数学よりな理系クラスタさんの知的好奇心を満たすことに主眼をおいています。音楽のことはよくわからんけど数学が絡むお話には興味あるぞっていうリケメン&リケジョさんもたくさんおられることでしょうから、実践的なことよりも数学アプローチによる音楽豆知識とか雑学紹介みたいなゆる~いノリで、音楽理論の基礎の基礎をガッツリ解説したいと思います。もしかしたら、既に音楽をかじっておられる方にもこの視点は目からウロコかも知れませんよ(*´ω`*)

人間の感覚は対数的

 ドイツの生理学者にヴェーバーさんという方がおりまして、人間の五感は外部からの刺激に対してその刺激レベルの「差」ではなく「比」について直線的に強さの度合いを感じる、というようなことを発見しました。どういうことか簡単な例をあげてみましょう。

 お米1kgが入った袋に微量ずつお米粒を入れていったとき、一体何g増えた時点で「増した」ことを感知できるでしょうか? 仮にAさんの場合、100g増えた1.1kgで初めて気付くことができたとします。このときAさんは、お米2kgが入った袋に対して同じように100g増した2.1kgでは気づくことができず、1.1倍した2.2kgでようやく気付けるんだよっていうのがヴェーバーさんの主張です。

 もちろん、人間の感覚というのはメンタル状態や体調や肉体限界的な要素、学習や経験によるバイアスなどさまざまな要因にも影響を受けますので必ずしも厳密にこの通りの実験結果を得られるとは限りません。ただ、そのような外的要素を除外すれば、1万円もっているときにもらう千円の価値と1億円もっているときにもらう千円の価値みたいなことが人間の五感にも起きているってことはなんとなくご理解いただけるかと思います。

 ヴェーバーさんはこのことを数式で表現してみました。





ヴェーバーの法則( Wikipedia さんより引用)
はじめに加えられる基礎刺激量の強度をRとし、これに対応する識別閾値をΔR とすると、
R の値にかかわらず

ΔRR=constant

が成り立つ。※constantは定数(ヴェーバー比)

 さらに、ヴェーバーさんのお弟子さんのフェヒナーさんはこれを積分して





フェヒナーの法則( Wikipedia さんより引用)
刺激量の強度R が変化する時、これに対応する感覚量E

E=ClogR

の関係となる。※Cは定数

と表しています。

 これを聴覚に適用してみましょう。「周波数100Hzの音」というのは毎秒100回の空気振動が耳に伝わったときの音ですが、人間は1秒あたりの振動数(周波数)が多い音ほど高い音として感知します。この、「音の高さ」のことを音高(ピッチ)、2つの音の音高の差(隔たり)のことを音程(インターバル)というのですが、上記のヴェーバー・フェヒナーの法則に従えば、音高が100Hzの音と200Hzの音との間の音程は、音高が200Hzの音と400Hzの音との間の音程の感覚と同レベルくらいに感じるというわけですね。

 とはいえ、実際に聴き比べてみないとピンとこないかもしれません。こればかりは文字で表現不可能なもので、理論的にご納得いただくか、あるいは任意の周波数で発音可能なシンセサイザーなどをお持ちの方はぜひ試してみて下さい!(丸投げ

安定と不安定

 さて、人間には単純で整っているものほど安定感(あるいは安心感)を、複雑でいびつなものほど不安定感(あるいは不安感)を覚え、不安定な状態は脱したくなるという傾向があります。ドラマや小説、マンガなどでも、安定のシチュエーションと不安定なシチュエーションを絶妙なバランスで作り出すことで人の心を安心させたり不安にさせたりして揺さぶっていますよね。実はコレ、音楽でも同じなんです。

 音楽の場合、異なる周波数の組み合わせや刻むリズムの時間的変化などによって、安定な状態や不安定な状態を作り出すことができます。具体的な手法を説明するには少し知識が必要になりますが、イメージでお伝えするとしたら次のような感じでしょうか。

 例えば a秒おきに鳴るクリック音とb秒おきに鳴るクリック音を同時にスタートさせた場合、両者が同時に鳴るのは最小公倍数であるlcm(a,b)秒おきですよね。この周期が長くなると毎秒ごとの両者の不揃いなズレが気になって、最小公倍数な周期に近づくと音が揃ってきて謎の安心感を覚えるというアレです。実際の音楽ではそれのもっと高度で複雑なことをやっているわけですが、いずれにしても安定/不安定という要素が重要なエッセンスとなっています。

 このクリック音の例のような現象は、異なる周波数の音同士を同時に発音しても同じ様なことを感じることができます。音というのは空気振動であるため二つの音の共通周期内で振動が微妙にズレたり重なったりする様が安定/不安定を引き起こします。ということは、周波数の比が単純な整数比の音同士ほど安定して聞こえるということになりますよね。この比率がハーモニーの性質として聴こえてくるから人間の聴覚ってホント不思議

 最も単純な整数比である1:1については、これはさすがに同じ音高同士(ユニゾンと呼びます)なのでハモるというより完全に同じ音です。次に単純な1:2については理論通り非常によくハモるといいますか、あまりにハモりすぎて人間の脳が「ユニゾンと同質の音程」と認識してしまうほど。ちなみにこの周波数比1:2からなる音程には「オクターブ」という名前がついています。

 というわけで、いわゆる「ハモり」らしい響き(という表現には語弊アリですが汗)を感じるのは実質的には1:3(あるいは2:3)から。意図的か、はたまた必然的な偶然か、これを用いたのが数学界でもおなじみ、あの超有名人です!!

ピタゴラスさん降臨!!

 整数比といえばピタゴラスの定理でおなじみのピタゴラスさん。泣く子も黙るピタゴラス教団のカリスマ教祖で大の有理数推しとして有名ですね。なんでも、無理数の存在に触れてしまったお弟子さんを死刑にしたとかしなかったとか。というエピソードは都市伝説らしいので、信じるか信じないかはアナタ次第です!

 それ以前に、ピタゴラスの定理も後ほど出てくるピタゴラス律というのも、本当にピタゴラスさんが見い出したものかどうかは分かっていません。確かめようもないですし、ここは大人の対応で「ピタゴラスさんの功績」ということにしておきましょう。本記事は理系さんをメインターゲットとしておりますので、歴史的事実やその経緯をたどるのではなく理論的本質の方に視点をむけて再構築/再発明のプロセスをお魅せできたらなと思います(*´ω`*)

 話を戻しまして、ピタゴラスさんはなんやかんやあって結果的に周波数比 1:3(あるいは2:3)からなる音程のみでさまざまな音高の音を作り出しました。それがピタゴラス律(ピタゴラス音律)です。どういうものかといいますと


  • 基準となる最初の音「基音」の周波数倍率を30=1として、31=3倍、32=9倍、と三倍の関係で異なる音高の音を作り出し、それらの音高に対して名前(音名)をつけます。
  • オクターブをなす音高同士は(ユニゾンと同質の音程に聴こえるため)同じ音名をつけることでグループ化します。
  • どこか都合の良いところで打ち切ります。(さもなくば、23が互いに素であることから無限に異なる音名をつけ続けなくてはなりません)

 整理すると、作られるのは音高が3の累乗倍の周波数の音のみで、3倍と32倍の音には同じ音名、32=9倍と322=92倍と3223=98倍の音にも同じ音名がつけられるってことね。では、このルールで作られる音が感覚的にどのくらいの高さの音高になるのか、数値で表して可視化してみましょう。

音階(スケール)

 最初は試しに30倍~34倍くらいの範囲でと思ったのですが、数学的には対称性を重視した方が見通しがよいため、32倍~3+2倍の範囲でみてみます。

周波数比
1:3n
二進対数値(lbx=log2x)
p=lb3nlb3n+12
pの近似分数
5nmod1212
1:32lb32lb32+120.169925 2120.16666
1:31lb31lb31+12+0.415      +512+0.41666
1:30   lb30   lb30   +12=   0      012   0   
1:3+1lb3+1lb3+1+120.415      5120.41666
1:3+2lb3+2lb3+2+12+0.169925 +212+0.16666

 右の二列ですが、人間の感覚が対数的であるということとオクターブ関係にある音同士つまり周波数が二倍の関係の音同士を同一視するということから、2を底とする対数(二進対数)とその近似値を併記しました。もちろん、ピタゴラスさん自身が対数関数を用いていたというわけではありませんが、とはいえピタゴラスさんも人間ですし、精度はともかく感覚的にはだいたいこのくらいに感じ取っていたはずと考えてよいでしょう。

 カンタンに解説しますと、まず、オクターブ違いの音をまとめるため、lb3n(=log23n) として基音からオクターブごとに整数値となるように周期を調整しています。要するに小数部分が同じだったら同じ音名となるようにしたってことね。

 次に整数部分をカットするべく lb3n+12 で小数点以下を四捨五入した値を引いています。切り捨てや切り上げではなく四捨五入を採用した理由もやはり対称性で、オクターブの範囲を3031ではなく30±0.5の範囲として均一公平にオクターブ補正を計りました。

 再右列の近似分数の求め方については lb31912からの1975(mod12) であることを利用しています。掛け算というのは対数的にみれば足し算ですから 7nmod12125nmod1212 によって近似できるってワケ。

 表の意味がだいたい分かったところでそれぞれの近似分数を元とする集合を音高順に昇順に並べてみますと、{512,212,012,+212,+512} という感じになりました。近似値ではありますが、階段グラフにしてみると均等とまではいかないまでも一段ごとの段差にさほど大きな偏りもなく、オクターブ内(612+612)にまずまずバランスよく配置されていることがわかります。

 実はこの五音、日本のいわゆる「ヨナ抜き長音階」や「ニロ抜き短音階」という五音階に対応しているんです。っていきなり言われても音楽に詳しくない方にはなんのこっちゃですが、これら五音とそのオクターブ違いの音(ちょうどおピアノの黒鍵のみに相当)で適当に旋律を弾くだけでも日本人の聴き慣れた日本人ホイホイなフレーズになって面白いですよ。

 このように、いくつかの音とそのオクターブ違いだけで適当に演奏してもメロディーっぽくなるのですが、このような音のセットのことを音の階段に例えて「音階(スケール)」と呼びます。特に五音からなる音階のことは「五音音階(ペンタトニックスケール)」と呼び、日本古来の音階や琉球音階、中国、アイルランドなどなど民族音楽系によく使われているようです。

全音階(ダイアトニックスケール)

 一方、西洋ではさらに3±3まで範囲を広げた七音の音階が主に使われ、現代音楽にも広く用いられています。

周波数比
1:3n
二進対数値(lbx=log2x)
p=lb3nlb3n+12
pの近似分数
5nmod1212
1:33lb33lb33+12+0.2451125+312+0.25      
1:32lb32lb32+120.169925 2120.16666
1:31lb31lb31+12+0.415      +512+0.41666
1:30   lb30   lb30   +12=   0      012   0   
1:3+1lb3+1lb3+1+120.415      5120.41666
1:3+2lb3+2lb3+2+12+0.169925 +212+0.16666
1:3+3lb3+3lb3+3+120.24511253120.25      

 この七音、いわゆるドレミファソラシに対応するのですが、これだけみても一体どれがドで、どれがレで、どれがドレなの? と気になって夜もグッスリだと思います。そういえば音高に名前をつける工程をすっかり忘れていましたね。まあ、ワザと忘れていたんですけども(←)

 というわけで、先程同様に音高順に並び替えてこれら七音にA B CGまたはイロハ ~ トと順に名前をつけてあげましょう。「ドレミ」ではない名前をつけるのにはちょっとした理由がありますのでその辺りは後ほど解説いたしますね。

周波数比
1:3n
二進対数値(lbx=log2x)
p=lb3nlb3n+12
pの近似分数
5nmod1212
英語音名日本語音名
1:3+1lb3+1lb3+1+120.415      5120.41666A
1:3+3lb3+3lb3+3+120.24511253120.25      B
1:32lb32lb32+120.169925 2120.16666C
1:30   lb30   lb30   +12=   0      012   0   D
1:3+2lb3+2lb3+2+12+0.169925 +212+0.16666E
1:33lb33lb33+12+0.2451125+312+0.25      F
1:31lb31lb31+12+0.415      +512+0.41666G

 こちらも近似分数を元とする集合を昇順に並べてみますと、{512,312,212,012,+212,+312,+512} となり、隣り合う音程の狭いところと広いところが見てとれます。階段グラフでみれば段差の小さいところと大きいところがハッキリしていますね。もうちょっと詳しく分析するために、これを数列とみて階差数列をとってみましょうか。

212, 112, 212, 212, 112, 212

 この212の音程を「全音」、112の音程を「半音」と呼ぶことにするならば、このスケールは「-全-半-全-全-半-全-」という並びの音程で構成されているといえます。オクターブのループを考慮すれば「-全-半-全-全-半-全-全-全-半-全-全-半-全-」と無限に続く円順列であることもわかるハズ。

 今回はたまたまオクターブ範囲を基音±0.5 で区切っていますが、円順列ですので区間の大きささえ1で固定していればどこで区切っても問題ありません。例えば「-全-全-半-全-全-全-」をオクターブ範囲とみることだってできます。この並びの円順列構造を持つ七音の音階には「全音階(ダイアトニックスケール)」という名前がついていまして、おピアノでいう白鍵がまさに全音階です。半音も混じってるのに、なんで「全音階」って名前なんだ?というごもっともな疑問については、「たし蟹」としかいえなくてゴメンナサイ!

 で、実は日本語における「ドレミファソラシ」や英語における「Do Re Mi Fa Sol La Ti」というのは、全音階の円順列の並びを前提としてそれぞれの音の相対的な配置関係を表す名前「階名」なんです。具体的には「半(ド)全(レ)全(ミ)半(ファ)全(ソ)全(ラ)全(シ)半」という感じで並びに対して割り当てられまして、もし先程の 3+1, 3+3, 32, 30, 3+2, 33, 31 の並び、すなわち「A B C D E F G」という英語音名をつけられた音に対して階名をつけるのであれば、全と半の関係から「ラ シ ド レ ミ ファ ソ」ということになります。今は七音しかないため音名と階名がたまたま一対一に対応しているように見えますが、音数が増えるとさまざまな対応関係ができてくるんですよ。

 どういうことなのか、思い切って3±6の範囲まで広げてみましょう。

ピタゴラス律と平均律

 合計十三音になりましたね。音名の話については一旦おいておくとして、数値の方でなにかお気づきになられたことはございますでしょうか?

周波数比
1:3n
二進対数値(lbx=log2x)
p=lb3nlb3n+12
pの近似分数
5nmod1212
英語音名日本語音名
1:36lb36lb36+120.490225  6120.5        A♭)(変イ)
1:35lb35lb35+12+0.0751875+112+0.08333E変ホ
1:34lb34lb34+120.33985    4120.33333B変ロ
1:33lb33lb33+12+0.2451125+312+0.25      F
1:32lb32lb32+120.169925 2120.16666C
1:31lb31lb31+12+0.415      +512+0.41666G
1:30   lb30   lb30   +12=   0      012   0   D
1:3+1lb3+1lb3+1+120.415      5120.41666A
1:3+2lb3+2lb3+2+12+0.169925 +212+0.16666E
1:3+3lb3+3lb3+3+120.24511253120.25      B
1:3+4lb3+4lb3+4+12+0.33985    +412+0.33333F嬰ヘ
1:3+5lb3+5lb3+5+120.07518751120.08333C嬰ハ
1:3+6lb3+6lb3+6+12+0.490225  +612+0.5        G嬰ト

 注意深くみると近似分数がかぶってしまっている音高がありまして、どこかといいますと、363+6における 6mod1212+6mod1212 です。これまで、オクターブ範囲を0.5+0.5とガバガバに想定していましたが、この範囲はオクターブ的にループしているわけですからゲンミツには[0.5,+0.5)または(0.5,+0.5]半開区間である必要があります。というわけで、363+6のうちどちらかの音高を採用(どちらかの音高を除外)して計十二音にしましょう。

 どっちでもよいといえばよいんですけど、伝統的な理由 & 本記事の続編にて(要望があれば)書く予定の純正音程というハーモニーとの対比上の理由から、353+6の十二音を採用しておくと何かと都合がよいので、ここではオクターブ範囲を(0.5,+0.5]として3+6を採用(36を除外)する方向ですすめます。

 ここまでお読みいただければ、よくある疑問「1オクターブが十二音なのはどうして?」の理由がなんとなく見えてきたのではないでしょうか。最も基本的なハモりの周波数比である1:3(あるいは2:3)について、数学的にはlb3=log231912で近似されるというところが根本的な理由ですね。そして、1912が互いに素であることから1:3を十二回連続で繰り返せば近似的に元の音(と同じ音名の音高)に戻り、その過程で得られる十二音の半音階(クロマティックスケール)によって1オクターブが構成されるってことです。

 カンのいい数学屋さんはここで「lb38453lb31054665で近似したら1オクターブ五十三音とか六百六十五音でもワンチャンいけんじゃね?」と思われたかもしれません。大正解です!! が、現実的には音数が多すぎて実際に演奏したり曲を作ったりするのはかなりタイヘンなため、ちょうどお手頃サイズなのが十二音だったというわけですね。

 ところで、結局ピタゴラス律って対数値側と近似分数側のどちらの感覚になるの?と分からなくなってしまった方もいらっしゃるかもしれません。ズバリ、対数値の方の感覚がピタゴラス律です!! どの二音の周波数比もゲンミツに3の累乗倍(のオクターブ違い)の関係となるため単音の旋律(メロディー)が美しいという特徴がある反面、「和音」という三音以上のハーモニーを美しくする五倍音(これも続編にて触れたいお話です)が含まれていないという弱点があります。また、23が互いに素であることからどこか都合のよいところで打ち切る必要があって、例えば先程打ち切った範囲の353+6では36から35へと無理やりループさせているため、実際の演奏上もここだけ不自然さが残るところも玉にキズ

 一方、近似分数値の方は1オクターブを厳密に十二等分して作られた十二平均律というもので、恐らく大多数のみなさんが普段耳にしている音楽は99%コレで作られている、といっても過言ではないでしょう。(なんて書くと微分音クラスタの方が自己紹介始めてくださりそうですが笑) オクターブ内に一様に均等なため何かと都合がよく、ピタゴラス律によく近似してはいるものの厳密な三倍音とはなっていない点と、やはり五倍音(の近似)が甘いという弱点もあるため、僅かながらハーモニーに濁りが生じています。(とはいえ、アカペラなどを除けば現代音楽においてそれが大きく問題となることはほとんどありません。)

 ちなみに、近似分数の精度次第で違う音数の平均律を作ることもできるのですが、若干高度な知識が必要となりますのでコワイもの見たさでも興味あるって方はコチラをどうぞ→ 半音階系平均律をまとめたスプレッドシート

音名と階名

 そういえば、十三音改め十二音まで増やしたのは音名と階名の対応関係について確認するためでもありました。というわけで毎度お馴染み音高順並び替えと、ついでに二進対数値をもう少し感覚的に分かりやすくするため1200倍に拡大してみましょう。それによって1オクターブの大きさも1から1200となり、この拡大された値は音楽理論界隈では標準的な「セント」という単位で表される数値となります。1セントがちょうど十二平均律の半音を100分割した大きさとなるため、十進数に慣れすぎた人類が音程の比較をするのに都合がよいんですよ。

周波数比
1:3n
ピタゴラス律における感覚
1200(lb3nlb3n+12)
平均律における感覚
1200(5nmod12)12=100(5nmod12)
英語音名日本語音名
1:3+11200(lb3+1lb3+1+12)498.045100(5+1mod12)=500A
1:341200(lb34lb34+12)407.82  100(54mod12)=400B変ロ
1:3+31200(lb3+3lb3+3+12)294.135100(5+3mod12)=300B
1:321200(lb32lb32+12)203.91  100(52mod12)=200C
1:3+51200(lb3+5lb3+5+12)  90.225100(5+5mod12)=100C嬰ハ
1:30   1200(lb3  0lb3  0+12)        0        100(5   0mod12)=       0D
1:351200(lb35lb35+12)+  90.225100(55mod12)=+100E変ホ
1:3+21200(lb3+2lb3+2+12)+203.91  100(5+2mod12)=+200E
1:331200(lb33lb33+12)+294.135100(53mod12)=+300F
1:3+41200(lb3+4lb3+4+12)+407.82  100(5+4mod12)=+400F嬰ヘ
1:311200(lb31lb31+12)+498.045100(51mod12)=+500G
1:3+61200(lb3+6lb3+6+12)+588.27  100(5+6mod12)=+600G嬰ト

 1オクターブがほぼほぼ十二等分され、七音の全音階に加えて

 B♭(変ロ)、C♯(嬰ハ)、E♭(変ホ)、F♯(嬰ヘ)、G♯(嬰ト)

という五音が増えています。この音名の付け方、一体どういうルールなの?とモヤモヤされている方もおられると思いますが、実はこの♭(フラット/(へん))というのは37倍を意味し、♯(シャープ/(えい))というのは3+7倍を意味しているんです。(例:C♯ → 32×3+7=3+5

ピタゴラス律における感覚
1200(lb3nlb3n+12)
十二平均律における感覚
1200(5nmod12)12=100(5nmod12)
全音1200(lb3+2lb3+2+12)+203.91  100(5+2mod12)=+200
全音階的半音1200(lb35lb35+12)+  90.225100(55mod12)=+100
♯(シャープ/(えい))
半音階的半音
1200(lb3+7lb3+7+12)+113.685100(5+7mod12)=+100
♭(フラット/(へん))
(半音階的半音)
1200(lb37lb37+12)113.685100(57mod12)=100
全音階的半音と
半音階的半音の差
1200(lb3+12lb3+12+12)+23.46  100(512mod12)=        0

 ご覧の通り、実は半音には二種類ありまして、十二平均律では112+112=212 つまり「半音+半音=全音」だと思っていたものが、厳密にいうとlb35+lb3+7=lb3+2 つまり「全音階的半音+半音階的半音=全音」というトリッキーな仕組みの近似値表現にすぎなかったということがわかります。恐らく学校では「ソの♯とラの♭の音の高さは同じですよ~」みたいに習ったかと思いますが、それは学校で扱うのが十二平均律のため、全音階的半音と半音階的半音がたまたま一致するから成り立つお話だったんですね。でも、この視点でみるとたとえ音高が同じであっても理論的には意味しているものが異なりますので、♯なのか♭なのかという区別はとても重要です。ちなみにピタゴラス律においては、全音階的半音に「リンマ」、半音階的半音に「アポトメ」、という別名がありまして、この2つの半音の差

1200(lb3+7lb3+7+12)1200(lb35lb35+12)=1200(lb3+12lb3+12+12)23.46

にも「ピタゴラスコンマ」という名前がついています。

 階名の「ドレミ」は全音階を前提としているため、「ミ」と「ファ」の間の半音や「シ」と「ド」の間の半音も原則として全音階的半音です。従って、ゲンミツなことをいえばピタゴラス律に対して階名を割り当てるときは少し注意が必要となるのですが、少なくとも十二平均律の円順列に対しては12C1=12通りの階名の割り当て方が存在することになります。具体的には次の表の十二種類!!

英語音名

日本語音名
A

B
A
変ロ
嬰イ
B

C

D
C
変ニ
嬰ハ
D

E
D
変ホ
嬰ニ
E

F

G
F
変ト
嬰ヘ
G

A
G
変イ
嬰ト
♭×5
♯×7
ファ
♭×4ファ
♭×3ファ
♭×2ファ
♭×1ファ
ファ
♯×1ファ
♯×2ファ
♯×3ファ
♯×4ファ
♯×5
♭×7
ファ
♯×6
♭×6
ファ

 最左列については続編あたりで解説したい内容ですので今はガン無視していただいてオッケーです♪ って言われると余計に気になっちゃう方のために一応軽く触れておきますと、最左列は五線譜上に記される調号の数で、この表はそれが指定されているときの音名&階名の対応表となっています。まあそれはともかく、ちゃんと十二種類全ての組み合わせがありますので、おヒマな方は確かめてみてね。

 さてここで、よく混同される音名と階名について改めておさらいしておきましょう。音名というのは一つの音の絶対的な高さ(音高)に対してつけられる名前で、階名というのはそれぞれの音の相対的な配置関係に対して割り当てられる名前ということで、それぞれ全く別の概念であることを思い出していただけましたでしょうか。

 実は、当初より "階名として" 用いられてきたはずの「ドレミ」だったんですが、歴史の過程において "音名としても" 使われるようになるという、とんでもない大事故に見舞われています。現代でもおピアノ教室などで各鍵盤に「A B C」ではなく「ドレミ」を割り当てる、いわゆる「固定ド」指導を行っているケースが多くみられ、音名と階名の混乱は令和になった今なお続いているのです。これ、意外と深い問題でして、「音名は絶対音感、階名は相対音感によってそれぞれ認識されるもので、音楽的感性を身につける上で重要なのは相対音感であるから階名唱で指導すべき」という音楽教育者さんもいらっしゃいます。

 コミュニケーション上においても、非理系的な疎通トラブルなどは避けたいところですので、本記事における「ドレミ」は日本語の"階名"ですよ~、っていうことを改めて強調しておきますね。

突然の打ち切り

 まだまだ音楽理論のほんの入り口にすぎないんですが、想定以上に記事が大長編ドラえもん化してきましたので、一旦このあたりで区切りとします。続編につきましては、皆様からの反響次第で書くかもカモ? おそらく、均、旋法、度数、和音、純正音程、機能和声、カデンツ あたりのお話になりそうです。(というか、実は少し書きかけていたのを泣く泣く削ったの涙)

 というわけで、ここまで長々とお読みくださいまして、本当にありがとうございました(*´∀`*)

 また、記事公開にあたって査読に協力してくださった、 日本コダーイ協会 理事であられる 大島俊樹 様、微分音・変拍子理論の第一人者であられる 変拍子兄さん 様、ボカロP・作曲家の いおたす 様、みゆ的ハーディ先生の nayuta_ito 様にも厚く感謝申し上げます。

投稿日:202185
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https://mathlog.info/articles/323         数学を愛する会 副会長 CCO / ガラパゴ数学 開拓者 / 猫舌・甘党・薄味派

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