ヴェーバーの法則([Wikipedia](https://ja.wikipedia.org/?curid=561393)さんより引用) |
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はじめに加えられる基礎刺激量の強度を$\mathrm{R}$とし、これに対応する識別閾値を$\Delta\mathrm{R}$ とすると、 $\mathrm{R}$ の値にかかわらず $\displaystyle\frac{\Delta\mathrm{R}}{\mathrm{R}}=\mathrm{constant}$ が成り立つ。※$\mathrm{constant}$は定数(ヴェーバー比) |
フェヒナーの法則([Wikipedia](https://ja.wikipedia.org/?curid=561393)さんより引用) |
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刺激量の強度$\mathrm{R}$ が変化する時、これに対応する感覚量$\mathrm{E}$ は $\displaystyle\mathrm{E}=C\log\mathrm{R}$ の関係となる。※$\mathrm{C}$は定数 |
お久しぶりです! 練乳愛飲家 兼 セカンドスリーパーの みゆ🌹ฅ^•ω•^ฅ でございます。
今回のテーマは「音楽の世界にひそむ数学」。数学がお好きな方は音楽もお好き(!?)というウワサを風の便りで耳にしたのですが、確かに音楽理論のコアな部分ってだいぶ数学よりなんですよね。理系っぽくいうなら、
『音楽つまり音というのは空気振動を人間の耳が感知した結果認識されるものであり、究極的には物理学や生理学などの理系学問で説明がつくはずである。従ってそこに数学が用いられるのはむしろ必然といえる。』
本記事は数学よりな理系クラスタさんの知的好奇心を満たすことに主眼をおいています。音楽のことはよくわからんけど数学が絡むお話には興味あるぞっていうリケメン&リケジョさんもたくさんおられることでしょうから、実践的なことよりも数学アプローチによる音楽豆知識とか雑学紹介みたいなゆる~いノリで、音楽理論の基礎の基礎をガッツリ解説したいと思います。もしかしたら、既に音楽をかじっておられる方にもこの視点は目からウロコかも知れませんよ(*´ω`*)
ドイツの生理学者にヴェーバーさんという方がおりまして、人間の五感は外部からの刺激に対してその刺激レベルの「差」ではなく「比」について直線的に強さの度合いを感じる、というようなことを発見しました。どういうことか簡単な例をあげてみましょう。
お米
もちろん、人間の感覚というのはメンタル状態や体調や肉体限界的な要素、学習や経験によるバイアスなどさまざまな要因にも影響を受けますので必ずしも厳密にこの通りの実験結果を得られるとは限りません。ただ、そのような外的要素を除外すれば、
ヴェーバーさんはこのことを数式で表現してみました。
さらに、ヴェーバーさんのお弟子さんのフェヒナーさんはこれを積分して
と表しています。
これを聴覚に適用してみましょう。「周波数
とはいえ、実際に聴き比べてみないとピンとこないかもしれません。こればかりは文字で表現不可能なもので、理論的にご納得いただくか、あるいは任意の周波数で発音可能なシンセサイザーなどをお持ちの方はぜひ試してみて下さい!(丸投げ
さて、人間には単純で整っているものほど安定感(あるいは安心感)を、複雑でいびつなものほど不安定感(あるいは不安感)を覚え、不安定な状態は脱したくなるという傾向があります。ドラマや小説、マンガなどでも、安定のシチュエーションと不安定なシチュエーションを絶妙なバランスで作り出すことで人の心を安心させたり不安にさせたりして揺さぶっていますよね。実はコレ、音楽でも同じなんです。
音楽の場合、異なる周波数の組み合わせや刻むリズムの時間的変化などによって、安定な状態や不安定な状態を作り出すことができます。具体的な手法を説明するには少し知識が必要になりますが、イメージでお伝えするとしたら次のような感じでしょうか。
例えば
このクリック音の例のような現象は、異なる周波数の音同士を同時に発音しても同じ様なことを感じることができます。音というのは空気振動であるため二つの音の共通周期内で振動が微妙にズレたり重なったりする様が安定/不安定を引き起こします。ということは、周波数の比が単純な整数比の音同士ほど安定して聞こえるということになりますよね。この比率がハーモニーの性質として聴こえてくるから人間の聴覚ってホント不思議。
最も単純な整数比である
というわけで、いわゆる「ハモり」らしい響き(という表現には語弊アリですが汗)を感じるのは実質的には
整数比といえばピタゴラスの定理でおなじみのピタゴラスさん。泣く子も黙るピタゴラス教団のカリスマ教祖で大の有理数推しとして有名ですね。なんでも、無理数の存在に触れてしまったお弟子さんを死刑にしたとかしなかったとか。
それ以前に、ピタゴラスの定理も後ほど出てくるピタゴラス律というのも、本当にピタゴラスさんが見い出したものかどうかは分かっていません。確かめようもないですし、ここは大人の対応で「ピタゴラスさんの功績」ということにしておきましょう。本記事は理系さんをメインターゲットとしておりますので、歴史的事実やその経緯をたどるのではなく理論的本質の方に視点をむけて再構築/再発明のプロセスをお魅せできたらなと思います(*´ω`*)
話を戻しまして、ピタゴラスさんはなんやかんやあって結果的に周波数比
整理すると、作られるのは音高が
最初は試しに
周波数比 | 二進対数値 | |
---|---|---|
右の二列ですが、人間の感覚が対数的であるということとオクターブ関係にある音同士つまり周波数が二倍の関係の音同士を同一視するということから、
カンタンに解説しますと、まず、オクターブ違いの音をまとめるため、
次に整数部分をカットするべく
再右列の近似分数の求め方については
表の意味がだいたい分かったところでそれぞれの近似分数を元とする集合を音高順に昇順に並べてみますと、
実はこの五音、日本のいわゆる「ヨナ抜き長音階」や「ニロ抜き短音階」という五音階に対応しているんです。
このように、いくつかの音とそのオクターブ違いだけで適当に演奏してもメロディーっぽくなるのですが、このような音のセットのことを音の階段に例えて「音階(スケール)」と呼びます。特に五音からなる音階のことは「五音音階(ペンタトニックスケール)」と呼び、日本古来の音階や琉球音階、中国、アイルランドなどなど民族音楽系によく使われているようです。
一方、西洋ではさらに
周波数比 | 二進対数値 | |
---|---|---|
この七音、いわゆるドレミファソラシに対応するのですが、これだけみても一体どれがドで、どれがレで、どれがドレなの? と気になって夜もグッスリだと思います。そういえば音高に名前をつける工程をすっかり忘れていましたね。まあ、ワザと忘れていたんですけども(←)
というわけで、先程同様に音高順に並び替えてこれら七音に
周波数比 | 二進対数値 | 英語音名 | 日本語音名 | |
---|---|---|---|---|
イ | ||||
ロ | ||||
ハ | ||||
ニ | ||||
ホ | ||||
ヘ | ||||
ト |
こちらも近似分数を元とする集合を昇順に並べてみますと、
この
今回はたまたまオクターブ範囲を基音
で、実は日本語における「ドレミファソラシ」や英語における「Do Re Mi Fa Sol La Ti」というのは、全音階の円順列の並びを前提としてそれぞれの音の相対的な配置関係を表す名前「階名」なんです。具体的には「半(ド)全(レ)全(ミ)半(ファ)全(ソ)全(ラ)全(シ)半」という感じで並びに対して割り当てられまして、もし先程の
どういうことなのか、思い切って
合計十三音になりましたね。音名の話については一旦おいておくとして、数値の方でなにかお気づきになられたことはございますでしょうか?
周波数比 | 二進対数値 | 英語音名 | 日本語音名 | |
---|---|---|---|---|
( | (変イ) | |||
変ホ | ||||
変ロ | ||||
ヘ | ||||
ハ | ||||
ト | ||||
ニ | ||||
イ | ||||
ホ | ||||
ロ | ||||
嬰ヘ | ||||
嬰ハ | ||||
嬰ト |
注意深くみると近似分数がかぶってしまっている音高がありまして、どこかといいますと、
どっちでもよいといえばよいんですけど、伝統的な理由 & 本記事の続編にて(要望があれば)書く予定の純正音程というハーモニーとの対比上の理由から、
ここまでお読みいただければ、よくある疑問「1オクターブが十二音なのはどうして?」の理由がなんとなく見えてきたのではないでしょうか。最も基本的なハモりの周波数比である
カンのいい数学屋さんはここで「
ところで、結局ピタゴラス律って対数値側と近似分数側のどちらの感覚になるの?と分からなくなってしまった方もいらっしゃるかもしれません。ズバリ、対数値の方の感覚がピタゴラス律です!! どの二音の周波数比もゲンミツに
一方、近似分数値の方は1オクターブを厳密に十二等分して作られた十二平均律というもので、恐らく大多数のみなさんが普段耳にしている音楽は99%コレで作られている、といっても過言ではないでしょう。(
ちなみに、近似分数の精度次第で違う音数の平均律を作ることもできるのですが、若干高度な知識が必要となりますのでコワイもの見たさでも興味あるって方はコチラをどうぞ→ 半音階系平均律をまとめたスプレッドシート
そういえば、十三音改め十二音まで増やしたのは音名と階名の対応関係について確認するためでもありました。というわけで毎度お馴染み音高順並び替えと、ついでに二進対数値をもう少し感覚的に分かりやすくするため
周波数比 | ピタゴラス律における感覚 | 平均律における感覚 | 英語音名 | 日本語音名 |
---|---|---|---|---|
イ | ||||
変ロ | ||||
ロ | ||||
ハ | ||||
嬰ハ | ||||
ニ | ||||
変ホ | ||||
ホ | ||||
ヘ | ||||
嬰ヘ | ||||
ト | ||||
嬰ト |
という五音が増えています。この音名の付け方、一体どういうルールなの?とモヤモヤされている方もおられると思いますが、実はこの♭(フラット/変)というのは
ピタゴラス律における感覚 | 十二平均律における感覚 | |
---|---|---|
全音 | ||
全音階的半音 | ||
♯(シャープ/嬰) 半音階的半音 | ||
♭(フラット/変) (半音階的半音) | ||
全音階的半音と 半音階的半音の差 |
ご覧の通り、実は半音には二種類ありまして、十二平均律では
にも「ピタゴラスコンマ」という名前がついています。
階名の「ドレミ
英語音名 日本語音名 | イ | 変ロ 嬰イ | ロ | ハ | 変ニ 嬰ハ | ニ | 変ホ 嬰ニ | ホ | ヘ | 変ト 嬰ヘ | ト | 変イ 嬰ト |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
♭× ♯× | ラ | シ | ド | レ | ミ | ファ | ソ | |||||
♭× | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド | |||||
♭× | ソ | ラ | シ | ド | レ | ミ | ファ | |||||
♭× | シ | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | |||||
♭× | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド | レ | |||||
♮ | ラ | シ | ド | レ | ミ | ファ | ソ | |||||
♯× | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド | |||||
♯× | ソ | ラ | シ | ド | レ | ミ | ファ | |||||
♯× | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | |||||
♯× | ファ | ソ | ラ | シ | ド | レ | ミ | |||||
♯× ♭× | シ | ド | レ | ミ | ファ | ソ | ラ | |||||
♯× ♭× | ミ | ファ | ソ | ラ | シ | ド | レ |
最左列については続編あたりで解説したい内容ですので今はガン無視していただいてオッケーです♪
さてここで、よく混同される音名と階名について改めておさらいしておきましょう。音名というのは一つの音の絶対的な高さ(音高)に対してつけられる名前で、階名というのはそれぞれの音の相対的な配置関係に対して割り当てられる名前ということで、それぞれ全く別の概念であることを思い出していただけましたでしょうか。
実は、当初より "階名として" 用いられてきたはずの「ドレミ
コミュニケーション上においても、非理系的な疎通トラブルなどは避けたいところですので、本記事における「ドレミ」は日本語の"階名"ですよ~、っていうことを改めて強調しておきますね。
まだまだ音楽理論のほんの入り口にすぎないんですが、想定以上に記事が大長編ドラえもん化してきましたので、一旦このあたりで区切りとします。続編につきましては、皆様からの反響次第で書くかもカモ? おそらく、均、旋法、度数、和音、純正音程、機能和声、カデンツ
というわけで、ここまで長々とお読みくださいまして、本当にありがとうございました(*´∀`*)
また、記事公開にあたって査読に協力してくださった、 日本コダーイ協会 理事であられる 大島俊樹 様、微分音・変拍子理論の第一人者であられる 変拍子兄さん 様、ボカロP・作曲家の いおたす 様、みゆ的ハーディ先生の nayuta_ito 様にも厚く感謝申し上げます。