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大学数学基礎議論
文献あり

束の ideal の standard という性質について

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わたしはいま束論を学んでいて, ideal に関する節に入ったのですが, そこに standard という概念が現れました. うまくその概念を捉えきれず,何週間か悩み続けているので,整理するとともになにかまちがっている理解をしていないか,誰かに見てもらいたいのでこの記事を書きます.

これから行うことは環における ideal を束に適用したもので,あまり新しいことはありません. そこでは加法 $+$ を join $\lor$,および乗法 $\cdot$ を meet $\land$ として置き換えられます. 環 $R$の空でない部分集合 $I$ は, 次の性質をみたすとき ideal とよばれるのでした.
1 $\quad x, y \in I \Rightarrow x + y \in I$
2.1 $\quad x \in I, a \in R \Rightarrow a \cdot x \in I$
2.2 $\quad x \in I, a \in R \Rightarrow x \cdot a \in I$
したがって束 $L$ の ideal $I$ は次のように定義されます.
1’ $\quad x, y \in I \Rightarrow x \lor y \in I$
2.1’ $\quad x \in I, a \in L \Rightarrow a \land x \in I$
2.2’ $\quad x \in I, a \in L \Rightarrow x \land a \in I$
束において, 演算 $\land$ (および $\lor$) は可換性をもつので, 2.1’ と 2.2’ は同値です. なので右 ideal とか 左 ideal の区別はありません.

ただ, 束における双対性を考えると, ideal の双対概念を考えることができます. それは直接に定義すれば,
1” $\quad x, y \in I \Rightarrow x \land y \in I$
2” $\quad x \in I, a \in L \Rightarrow a \lor x \in I$
となり, これを双対 ideal とよびます. また, 束は代数系としての側面をもつとともに, 順序集合としての側面をもつので, ideal は順序的 (?) に定義することもできます. すなわち 2.1’$\Leftrightarrow$ 2.2’ は次と同値です.
$$x \in I, a \in L, a \leqq x \Rightarrow a \in I$$
これは, $a \leqq x \Leftrightarrow a \land x = a$ と, $a \land x \leqq x$から導けます.

$H$ を群 $G$ の部分群として, $x, y \in G$ に対して $x^{-1}y \in H$が成り立つとき, 関係 $x \sim y$ を定めると, これは同値関係となるのでした. ここがよくわからないのですが, 束 $L$ とその ideal $I$ が与えられたとき, $x, y \in L$ に対してある $z \in I$が存在して $x \lor z = y \lor z$ となるとき, $x \sim y$ を定義すると, $\sim$ は同値関係になります. なにがわからないのかというと, 環の ideal $I$ が与えられたときの同値関係
$$x \equiv y \pmod I \Leftrightarrow x - y \in I$$
と, 束の ideal $I$ が与えられたときの同値関係
$$x \equiv y \pmod I \Leftrightarrow \exists z \in I, x \lor z = y \lor z$$
とがどのように対応してるのかということです. たとえば束の ideal に関して上のように同値関係を定めたとして, それを環に置き換えてみると, ある $z \in I$ が存在して $x + z = y + z$ というふうに解釈できますが, このとき $x = y$ となってしまい, $R$ において最も細かい (?) 同値関係になってしまいます. つまりこの解釈のしかただと $x \equiv y \Leftrightarrow x = y$ となって, ideal の出る幕がありません.
ひとつめの疑問は, 束とその ideal に対して, なぜこのように同値関係を定めるか, ということです.

ひとつおもったのは, 環の空でない部分集合が ideal となるための必要十分条件についてです. それは, ある環準同型写像の核と一致するということで, $R, R'$ を環として $\pi : R \to R'$ を環準同型写像としたとき, $\ker{\pi}$$R$ の ideal となるのでした. このとき $a, b \in R$ に対して
$$a \equiv b \pmod{\ker{\pi}} \Leftrightarrow \pi(a) = \pi(b)$$
と定義すると, これは同値関係となり, さらに $a - b \in \ker{\pi}$ と同値となります.
環の ideal $I$ を法とする同値関係を $a - b \in I$ と定義するのは, これが背景にあるからなのでしょうか. むずかしいです... 環 $R$ の ideal $I$ が与えられ, $I$ を法とする同値関係を忘却したとき, $I$ はある環準同型写像 $\pi : R \to R'$ の核と一致するでしょうか. うーん... こうしてみてはどうでしょうか. ある環準同型写像が与えられたとき, その核を ideal と呼ぶことにする, と. え... ちがうな あ, でも そうか, もともと ideal の概念は環準同型写像の核の性質を備えた $R$ の部分集合のことでした. ideal という概念を忘れて, $\ker$ のみ知っているとしてはなしを進めてみます. そうすれば, 上で述べたことから, 自然な同値関係 $a \equiv b \pmod{\ker{\pi}} \Leftrightarrow \pi(a) = \pi(b)$$a - b \in \ker{\pi}$ と同値になり, さらに $R \, / \, \ker{\pi}$ はふたたび環となり, あ, そうか, それで準同型定理が, なんていうか, 考えられるのですね. なにを考えていたんだっけ, えっと, 環 $R$ の ideal が与えられたとき, なぜ $a \equiv b \pmod I \Leftrightarrow a - b \in I$ という同値関係を定めて, その商集合 $R \, / \, I$ がなぜふたたび環の構造をもつのか, ということでした. なるほど... ideal にしばられて, 環準同型写像の核というさいしょの概念をすっかり忘れていました.

これを束にも適応してみればよいのでしょうか. そのためには束の ideal を忘れて, 束準同型写像の核について考察すればよいですか?
束準同型写像の核はどのように定義されるのでしょうか. あ... わからない… 環には零元がありますが, 束にはありません. さっきやったのは環準同型写像の核が ideal みたいな性質をもつ, ということだったので, $\ker$ の定義がわからないいまは, もういちど ideal を思い出して, 束の ideal の性質をもつ部分集合と一致するような束準同型写像の逆像を $\ker$ としてみて考えればよい...?
ちょっとだけ ideal を思い出して, その性質をもつような逆像を $\ker$ として, また ideal を忘れて $\ker$ について考えればよいのでしょうか.
ideal を忘れたとします. 束準同型写像 $f : L \to L'$ が与えられたとき, ただの記号としての $\ker{f} \subset L$
$$x, y \in \ker{f} \Rightarrow x \lor y \in \ker{f}$$
$$x \in \ker{f}, a \in L \Rightarrow a \land x \in \ker{f}$$
をみたすものとします.
そうして自然に同値関係 $a \equiv b \Leftrightarrow f(a) = f(b)$ を定めると, これが, ある $d \in \ker{f}$ が存在して$a \lor d = b \lor d$ が成り立つことと同値であることを示せれば, 束の ideal による同値関係において $\exists d \in I, \, a \lor d = b \lor d$ と定義することが適切であることがわかります.
やっぱりわかりません. $0' \in L'$ を使いたくなかったのですが, $L$ から, $0'$ をもつ $L'$ への束準同型写像 $f$ について $\ker{f} = \{ x \mid f(x) = 0' \}$ としてみます. このとき $x, y \in \ker{f}$ ならば
$$f(x \lor y) = f(x) \lor' f(y) = 0' \lor' 0' = 0'$$
となって$x \lor y \in \ker{f}$ であり, また $x \in \ker{f}$$a \in L$に対して
$$f(a \land x) = f(a) \land' f(x) = f(a) \land' 0' = 0'$$
から $a \land x \in \ker{f}$ が成り立ちます.
ある $d \in \ker{f}$ が存在して$a \lor d = b \lor d$ をみたすとき,
$$\begin{eqnarray*} f(a \lor d) &=& f(b \lor d) \\ f(a) \lor' f(d) &=& f(b) \lor' f(d) \\ f(a) \lor 0' &=& f(b) \lor' 0' \\ f(a) &=& f(b) \end{eqnarray*} $$
となって $a \equiv b$ が成り立ちます. $f$ が単射であれば逆も成り立ちますが, 束準同型写像 $f$ が単射であるということは, ええっと, わかんない...

わからないので素直に質問させてください. すなわち, ふたつめの疑問は, 束準同型写像 $f$ の核 $\ker{f}$ がどのように定義されるのか, と, それによる自然な同値関係 $a \equiv b \Leftrightarrow f(a) = f(b)$ がどのように表現されるかで, 願わくば $\exists d \in \ker{f}, a \lor d = b \lor d$ と表わされるか, ということです.
もうひとつ気づいたことで,群とその準同型写像と異なる状況にあるのは $0 \in L$$0' \in L'$ としてその間の束準同型写像 $f$ を与えたときに, $f(0) = 0'$ が成り立つとは限らないということです. 反例として考えたのは $L$$0$ を有する分配束のとき, $d \neq 0$ である $d \in L$ を固定して $f : L \ni x \mapsto x \lor d \in L$ とすると $f$ は準同型写像となりますが, $f(0) = 0 \lor d = d$ となることです.

目をつむって先に進みます. 環 $R$ の ideal $I$ が与えられたとき, それによる同値関係において, $a \equiv b, \, c \equiv d \pmod I$ ならば $a + c \equiv b + d \pmod I$ および $a \cdot c \equiv b \cdot d \pmod I$ が成り立つのでした.
束の ideal についても同じことは成り立つでしょうか. つまり
$$a \equiv b \pmod I \Leftrightarrow \exists x \in I, \, a \lor x = b \lor x$$
としたとき, $a \equiv b \pmod I$ および $c \equiv d \pmod I$ ならば
(i) $\quad a \lor c \equiv b \lor d \pmod I$
(ii) $\quad a \land c \equiv b \land d \pmod I$
は成り立つでしょうか.

なぜこんなことを考えているのかというと, $\equiv \pmod I$ による剰余集合 $L \, / \, \equiv$ (剰余群とか剰余環にならってこれを $L \, / \, I$ と表わすことにすると) は再び束になるか, が気になるからです. (この$L \, / \, I$ を剰余束とよびたいところなのですが, ためしに「剰余束」と調べてみたところ, もっとむずかしそうな論文がでてきました... )

$L$ の元 $x$ の, ideal $I$ による同値関係の同値類を $\overline{x}$ とします. そうして剰余群にならって $\overline{x}, \overline{y} \in L \, / \, I$ に対して
$$\overline{x} \lor' \overline{y} = \overline{x \lor y}$$
と定義したいとおもいます. 気になるのはこの演算の定義が well-defined であるかということです.
群では, 部分群が正規部分群であれば剰余集合に定められた演算が well-defined となり, ふたたび群の構造をもつのでした.

おなじことを束で考えます. $x \equiv x' \pmod I$ および $y \equiv y' \pmod I$ としたとき, $x \lor y \equiv x' \lor y' \pmod I$ であるか? ということが示せれば,$\overline{x \lor y} = \overline{x' \lor y'}$ となって, 上で定めた演算 $\lor'$ は適切に定義されることとなります. 実は (i) は任意の join-semilattice において成り立ちます.
join-semilattice とは, 集合 $S$ に演算 $\lor$ が入っていて, 任意の $x, y, z \in S$ に対して, べき等律 $x \lor x = x$, 交換律 $x \lor y = y \lor x$, および結合律 $x \lor (y \lor z) = (x \lor y) \lor z$ が成り立つ代数系のことをいいます. join-semilattice の ideal を考えるとき, $\land$ が使えないので, 順序を使った定義が役に立ちます. そこでは, $a \leqq b$$a \lor b = b$ と解釈します.
join-semilattice $S$ の ideal $I$ が与えられ, それによる同値関係において, $a \equiv b \pmod I$ および $c \equiv d \pmod I$ が成り立つとすると, ある $x, y \in I$ が存在して $a \lor x = b \lor x$ および$c \lor y = d \lor y$ をみたすのでした. このとき,
$$(a \lor x) \lor (c \lor y) = (b \lor x) \lor (d \lor y)$$
となって, 交換律と結合律から
$$(a \lor c) \lor (x \lor y) = (b \lor d) \lor (x \lor y)$$
が成り立ちます. $I$ は ideal であったので, $x \lor y \in I$ であり, $a \lor c \equiv b \lor d \pmod I$, すなわち (i) が示せました.
lattice は join-semilattice なので, 同様に (i) が成り立ちます. したがって, 先に定めた $\lor'$ は well-defined となり, また, べき等律 $\overline{x} \lor' \overline{x} = \overline{x}$, 交換律 $\overline{x} \lor' \overline{y} = \overline{y} \lor' \overline{x}$, そして結合律 $\overline{x} \lor' (\overline{y} \lor' \overline{z}) = (\overline{x} \lor' \overline{y}) \lor' \overline{z}$ が成り立ち, $(L \, / \, I, \lor')$ は join-semilattice をなします.

いま行ったことは, 環における加法 $+$ と, 束における join $\lor$を対応させたもので, 剰余環というよりは加法群の剰余群を束に適応した結果です.
考えていることは環 $R$ とその ideal $I$ が与えられたときの剰余集合 $R \, / \, I$ がふたたび環をなすことの対応である, $L \, / \, I$ がふたたび束をなすか? ということなので, $\overline{x}, \overline{y} \in L \, / \, I$ に対して
$$\overline{x} \land' \overline{y} = \overline{x \land y}$$
と定義したときに, これが well-defined となるかが気になります. つまり (ii) が任意の束において成り立つことをしめせればよいのですが, わたしにはむずかしい疑問になります. たぶんその原因は ideal による同値関係の定めかたで $\lor$ を使っている, というところにあるとおもいます. ふりかえれば, (i) が成り立つのも$a \equiv b \pmod I$$\lor$ をつかっているから簡単だった, と言うことができます. がんばって (ii) について考えてみます.
$a, a', b, b' \in L$$a \equiv a'$ および $b \equiv b' \pmod I$ であるとき,
$$(a \land b) \lor d = (a' \land b') \lor d$$
をみたす$d \in I$ が存在するか, ということになります.
ここで束 $L$ の条件を強くしてみようとおもいます. $L$ を分配束としてみると, $a \lor x = a' \lor x$ かつ $b \lor y = b' \lor y$ をみたす $x, y \in I$ に関して,
$$ \begin{eqnarray*} (a \land b) \lor (x \lor y) &=& (a \lor (x \lor y)) \land (b \lor (x \lor y)) \\ &=& (a' \lor x \lor y) \land (b' \lor x \lor y) \\ &=& (a' \land b') \lor (x \lor y) \end{eqnarray*} $$
$x \lor y \in I$ であったので $a \land b \equiv a' \land b' \pmod I$ が成り立ちます.
したがって $L$ が分配束であれば (ii) が成り立ち, 剰余集合 $L \, / \, I$ は演算 $\land'$ (および $\lor'$ )に関して束をなします. (ii) が成り立てば剰余集合は束をなす, ということなので, そこで一般の束の ideal で (ii) が成り立つものを standard ideal とよぶことにする, とわたしは解釈しました. すなわち standard ideal は, それによる剰余集合をふたたび束となすような ideal と. みっつめの疑問は, standard ideal という概念の理解がこれで正しいか, ということです.

いま述べたことは, 分配束のすべての ideal は standard であるということです. じつは [1] pp.27 のさいごの行に, 「逆に, $L$ のすべての ideal が standard ならば $L$ は分配束である」と書かれています.
これについていろいろと考えてみましたが,だめな結果しか得られませんでした. よっつめの質問です...

わからないことばかりでごめんなさい. もしよろしければ丁寧な証明をわたしに恵んでください. よろしくお願いします.

参考文献

[1]
G.Birkhoff, Lattice Theory
投稿日:2021814
OptHub AI Competition

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投稿者

isumi
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