2

なぜ「完備」測度空間なのか

3020
1

この記事の目的

測度論(ルベーグ積分)を勉強していると, 必ず出てくる完備測度空間. しかし, なぜ「完備」なのだろう? そう疑問に思ったことがある人は少なくないのではないでしょうか. この記事では, 完備測度空間の「完備」と位相的な意味の完備性には関係があることを説明します.

予備知識

測度論のごく基本的な事柄が分かっていれば十分です. 関数解析の知識があると, よりモチベーションを理解しやすいかもしれません.

本論

この記事を通して, (X,A,μ)は測度空間とします.
まず, 完備測度空間の定義を思い出しましょう.

完備測度空間

(X,A,μ)が完備測度空間である.
:⇔NAμ(N)=0を満たすならば, 任意のNNに対して, NAとなる.

さて, A-可測関数f:XRの全体を, M(X)と書くことにします.

通常, M(X)に位相的な概念は定義されませんが, ここではあえて, 次のようにM(X)の完備性を定義してみましょう.

M(X)が完備であるとは, 次が成立することである:
(fn)n=1M(X),f:XRとする.(fM(X)は仮定していないことに注意.) さらにfn(x)f(x) a.e.xXであるとする. このとき, fM(X)となる.

定義2の直感的な意味

この定義は, 直感的には, “XからRへの写像全体”という非常に大きな集合に, a.e.の収束によって「位相」を定義すれば, M(X)は閉集合であることを意味します.

さて, 次の定理が成立します.

(X,A,μ)は完備測度空間である.
M(X)は完備である.

つまり, 測度空間の完備性は, その空間上の可測関数全体がa.e.の収束について閉じている(=「完備」である)ための必要十分条件だったのですね. この定理を証明して, この記事を終えることにします.

まず, ()を示す.
対偶を示す. (X,A,μ)が完備測度空間でないと仮定する. このとき, 仮定から, NAANが存在して, μ(N)=0かつAAとなる.
fn:=0,f:=χAと定義する. ただし, χAAの定義関数である. このとき, 任意のxXNに対してfn(x)f(x)なので, fnf a.e.が成立している. 一方, AAなのでf=χAA-可測ではない. つまりfM(X). これでM(X)は完備ではないことが示された.

次に, ()を示す.
fnf a.e.を仮定する. つまり, ある零集合NAが存在して, 任意のxXNに対してfn(x)f(x)となる. g:XRを次のように定めよう.
g(x):={f(x)ifxXN0ifxN
fn(x)χXN(x)g(x),(xX)なので, gM(X). これに注意すれば, 任意のボレル可測集合IRに対して,
f1(I)={xXf(x)I}={xXNf(x)I}{xNf(x)I}={xXNg(x)I}{xNf(x)I}.
gの可測性より{xXNg(x)I}A. {xNf(x)I}N(X,A,μ)が完備測度空間であることより{xNf(x)I}A. これで, f1(I)Aが分かった. つまりfA-可測である.

投稿日:2021820
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

ときどき何か書けたらいいな, と思っています.

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. この記事の目的
  2. 予備知識
  3. 本論