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大学数学基礎解説
文献あり

外積の行列式表記の意味付け

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概要

 外積(クロス積)の計算法に関して、行列式を用いた手法が良く見かける1( http://hooktail.sub.jp/mathInPhys/determinant/)[[2]](https://www.wakhok.ac.jp/~asami/linalge/pdf/04-5-6.pdf)[[3]](https://jsciencer.com/unimath/linarge/3789/)。基底を!FORMULA[0][1860499620][0]と置くと、ベクトル!FORMULA[1][285334278][0] b=bxex+byey+bzezの外積a×bは、式(1)のように行列式を使って形式的に表現できる。

式(1):
  a×b=|exeyezaxayazbxbybz|=|axbyexaxbyeyaxbyez|

これは飽くまでも外積の計算手順の暗記術であり、行列積が持つ平行六面体の体積などの幾何的意味などが無いとされる。計算手順の形式的な暗記術であるのはその通りだが、幾何的意味が考えれば全く無くも無い。本記事ではその無いとされる幾何的意味を考えてみる。

問題点

 式(1)の計算結果が良く知られている外積の定義式と一致するため、手法が正しい結果を与えるのは問題ない。行列式が行の並び順、列の並びい順、転置に対して不変なため、2つの行列式表現は同じ値であり、流儀違いでしかないのも事実。

 問題は、この行列計算の意味付けである。まずex自体がベクトルである。良く見かける行列は全ての成分がスカラであり、ベクトルが成分に入るのは別途定義の要る大事である。次に、3つのベクトルa,b,cのスカラ三重積(a×b)cを行列式|axbycxaxbycyaxbycz|として、3つのベクトルが張る平行六面体の体積という幾何的意味と結びつかれるが、成分にベクトル値が含まれるのと、a×bがの一部分でしかないため、解釈に苦しむ。

 そもそも冒頭で「形式的」と形容したように、これはあくまでもスカラ成分の行列式の演算規則を守った上で行列式を展開すると、外積の式が得られる。これが紹介される殆どの文脈では、ベクトル値を成分とする行列やベクトルの話をしてないとも。ある意味定義せずに使っている簡便的な手法でしかない。

多重基底による意味付け(邪道)

多重基底の導入

 第1の問題は、成分にベクトル値が含まれる場合の解釈である。c=cxex+cyey+czezであるように eを形式的に解釈しようとすると、e=?exex+eyey+ezezという怪しい計算になる。

 しかし、一旦別の基底εx,εy,εzを考えると、e=exεx+eyεy+ezεzとなり、怪しさが軽減される。注意すべきは、基底をεと考えている際、eは成分でしかなく、もはや基底と考えないこと。逆も然り。eεを太字で表示しているのは、ベクトルと成分を太字で区別する習慣の名残でしかなく、本質的な違いはない。多重基底では、任意の基底が基底であると同時に、他の基底の成分でもある。

 理解を深めるため、多重基底の具体例として物理量を示す。mとcmを大きさの異なる基底ベクトルと思えば物理量がベクトル空間を成し、単位変換を基底変換と見なせる。例えば、加法の結合律の具体例を式(2)に示す。

式(2):
  1m+(2m+3m)=(1m+2m)+3m

これに対し、ベクトル量は空間ベクトルでありながら、物理単位も付くため、二重に基底を持っている状態と言える。計算ではそれぞれの基底の計算ルールに従って進めば良く、多重基底を考えずとも様々な分野で日常的に扱われている。係数が体を成さない場合は厳密にベクトルでなくなるが、その場合は共通の係数体を成分に持つテンソルと考えれば良い。

内積およびベクトルに対する正規直交基底の割り込み

 一般に、ベクトルの内積では基底が消えてスカラー値になる。ここで、スカラー値とは基底を含まない、成分の空間に属する元を意味する。例えば、ex,ey,ezが正規直交基底の場合、ax,bの内積abは式(3)のように計算できる。

式(3):
  ab=(axex+ayey+azez)(bxex+byey+bzez)=axbx+ayby+azbz

同様に、εx,εy,εzも正規直交基底ならば、式(4)も成り立つ。

式(4):
  ab=(axεx+ayεy+azεz)(bxεx+byεy+bzεz)=axbx+ayby+azbz

 ここで、式(3)と式(4)を逆方向から見れば、積和式に正規直交基底を割り込ませること分かる。他方、ベクトルの成分表記を良く見ると、これまた積和式の形をしているのが分かる。そのため、e系で成分表示された式にε系の基底を割り込ませると、ベクトルを内積の形に分解できる。

式(5):
    a=axex+ayey+azez=(axεx+ayεy+azεz)(exεx+eyεy+ezεz)

このとき、第2因数が二重基底を持つ量になるが、第1因数の基底が成分表記に使ったe系ではなく、割り込んだεであることに注意。ある意味で基底の付け替えが発生している。

外積に対する正規直交基底の割り込み

 一般に、外積の計算結果はベクトル値である。すると、eで成分表記でき、ε系の基底で割り込める。外積a×bx成分を[a×b]xと表記すると、式(6)のように計算できる。

式(6):
  a×b=[a×b]xex+[a×b]yey+[a×b]zez=([a×b]xεx+[a×b]yεy+[a×b]zεz)(exεx+eyεy+ezεz)

 式(6)の第1因数[a×b]xεx+[a×b]yεy+[a×b]zεzは基底がε系に変っているものの、abε系で表記した外積である。外積自体がベクトル量で基底に依らないため、これがa×bと何も変わらない。一方で、第2因数exεx+eyεy+ezεzεを基底として見れば、eを成分とするベクトルに他ならない。すなわち、ε系で見れば、式(6)は式(7)のよに見える。ε系で見ればeはただの成分でしかないから、(a×b)eがベクトル三重積として行列式に繋がる。

式(7):
  a×b=(a×b)e=|axbyexaxbyeyaxbyez|

参考文献

投稿日:2021915
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  1. 概要
  2. 問題点
  3. 多重基底による意味付け(邪道)
  4. 多重基底の導入
  5. 内積およびベクトルに対する正規直交基底の割り込み
  6. 外積に対する正規直交基底の割り込み
  7. 参考文献