これまで私の趣味でフィボナッチ数から円周率を作る式をいろいろ作ってきました。
過去記事: フィボナッチ数から円周率を作る自作の式たち
今回、これまでとは違う方法で円周率を作る方法を思いついてツイートしました。
そのときのツイート
【改良版】フィボナッチ数からキモい定数を作ってから円周率を作るの図
— apu (@apu_yokai) August 26, 2021
収束はかなり遅め pic.twitter.com/4knaXGtJRF
数列 $a(n)$ を次のように漸化式で定義します。ただし、$F_{max}$ は $k$ より小さいフィボナッチ数のうち最大のものを表します。
${\displaystyle \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a(1)=1\\ a(2)=0\\ a(k)=a(k-F_{max}) &\qquad \text{for}\,\,k\gt2 \end{array} \right. \end{eqnarray} }$
いくつか具体的に書くとこんな感じになります。
${\displaystyle a(4)=a(4-3)=a(1)=1\\ a(5)=a(5-3)=a(2)=0\\ a(12)=a(12-8)=a(4)=a(4-3)=a(1)=1\\ }$
このとき、次のような定数 $A$ を考えます。
${\displaystyle \begin{align} A&=\sum_{k=1}^{\infty} \left(\frac{a(k)\sin\left(k\right)}{k}\right)^2\\ &=0.80044\cdots \end{align} }$
さらに、次のような定数 $B$ を考えます。ただし $\varphi=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$ です。
${\displaystyle \begin{align} B&=\sum_{k=1}^{\infty} \left(\frac{\sin\left(\left\lfloor \varphi^2 \,k\right\rfloor\right)}{\left\lfloor \varphi^2 \,k\right\rfloor}\right)^2\\ &=0.27035\cdots \end{align} }$
このとき、次の式は円周率 $\pi$ になります!
$2A+2B+1=\pi$
この記事では、この式からなぜ円周率 $\pi$ が出てくるのか解説します。
まずは略解で概要を説明し、それから詳しく解説したいと思います。
$A,B$ の定義式を展開すると次のようになります。
${\displaystyle \begin{align} A&=\sum_{k=1}^{\infty} \left(\frac{a(k)\sin\left(k\right)}{k}\right)^2\\ &=\left(\frac{\sin1}{1}\right)^2 +\left(\frac{\sin3}{3}\right)^2 +\left(\frac{\sin4}{4}\right)^2 +\left(\frac{\sin6}{6}\right)^2 +\left(\frac{\sin8}{8}\right)^2 +\left(\frac{\sin9}{9}\right)^2 +\left(\frac{\sin11}{11}\right)^2 \cdots \end{align} }$
${\displaystyle \begin{align} B&=\sum_{k=1}^{\infty} \left(\frac{\sin\left(\left\lfloor \varphi^2 \,k\right\rfloor\right)}{\left\lfloor \varphi^2 \,k\right\rfloor}\right)^2\\ &=\left(\frac{\sin2}{2}\right)^2 +\left(\frac{\sin5}{5}\right)^2 +\left(\frac{\sin7}{7}\right)^2 +\left(\frac{\sin10}{10}\right)^2 +\left(\frac{\sin13}{13}\right)^2 +\left(\frac{\sin15}{15}\right)^2 +\left(\frac{\sin17}{17}\right)^2 \cdots \end{align} }$
よく似た式になりましたね。実は、それぞれの項にもれやダブりなく、すべての自然数が1回ずつ出てきますので、$A+B$ を計算するとこうなります。
${\displaystyle \begin{align} A+B &=\left(\frac{\sin1}{1}\right)^2 +\left(\frac{\sin2}{2}\right)^2 +\left(\frac{\sin3}{3}\right)^2 +\left(\frac{\sin4}{4}\right)^2 +\left(\frac{\sin5}{5}\right)^2 +\left(\frac{\sin6}{6}\right)^2 +\left(\frac{\sin7}{7}\right)^2 \cdots\\ &=\sum_{k=1}^{\infty} \left(\frac{\sin k}{k}\right)^2\\ &=\frac{\pi-1}{2} \end{align} }$
$\therefore 2A+2B+1=\pi$
もう少し詳しく解説していきます。
まずは、キモとなる無限級数 ${\displaystyle
\sum_{k=1}^{\infty}
\left(\frac{\sin k}{k}\right)^2
}$ の部分をどうやって計算したのか見てみましょう。
まず収束することの確認ですが、
${\displaystyle \begin{align} 0<\sum_{k=1}^{\infty} \left(\frac{\sin k}{k}\right)^2 &<\sum_{k=1}^{\infty} \frac{1}{k^2} =\frac{\pi^2}{6}<1.65 \end{align} }$
と評価できますから、この無限級数は絶対収束します。
では、具体的な値を計算しましょう。
二重対数関数と呼ばれる関数 $\operatorname{Li}_2(z)$ を使います。
${\displaystyle \begin{align} \operatorname{Li}_2(z) &:= \sum_{k=1}^{\infty} \frac{z^{k}}{k^2}\\ \end{align} }$
$\operatorname{Li}_2(z)$ について、次のような関係式が知られています。
${\displaystyle \begin{align} \operatorname{Li}_2(z) +\operatorname{Li}_2\left(\frac{1}{z}\right) &= -\frac{\pi^2}{6} -\frac{1}{2} \left( \log(-z) \right)^2 \qquad(z\in\mathbb{C} \backslash[0,+\infty)\,) \end{align} }$
証明は
でーすくん
さんの記事
二重対数関数の公式
などを参考にしてください。
この関係式を使うと
${\displaystyle \begin{align} \sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sin^2 kz}{k^2} &=\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\left( \frac{e^{ikz}-e^{-ikz}}{2i} \right)^2 }{k^2}\\ &=-\frac{1}{4}\sum_{k=1}^{\infty} \frac{-2+e^{2ikz}+e^{-2ikz} }{k^2}\\ &=\frac{1}{2}\zeta(2) -\frac{1}{4}\left( \operatorname{Li}_2(e^{2iz}) +\operatorname{Li}_2(e^{-2iz}) \right)\\ &=\frac{\pi^2}{12} -\frac{1}{4}\left( -\frac{\pi^2}{6} -\frac{1}{2} \left( \log(-e^{2iz}) \right)^2 \right)\\ &=\frac{\pi^2}{8} +\frac{1}{8} \left( \log(-e^{2iz}) \right)^2\\ \end{align} }$
という無限級数の式が得られます。
$z=1$ を代入すると
${\displaystyle \begin{align} \sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sin^2 k}{k^2} &=\frac{\pi^2}{8} +\frac{1}{8} \left( \log(-e^{2i}) \right)^2\\ &=\frac{\pi^2}{8} +\frac{1}{8} \left( i(2-\pi) \right)^2\\ &=\frac{\pi^2}{8} -\frac{1}{8} \left( 4-4\pi+\pi^2 \right)\\ &=\frac{\pi-1}{2} \end{align} }$
これで、当初の式のキモの部分となる無限級数の完成です!
この無限級数を、もれなくダブりなく$2$つに分けることで、当初の $A$ と $B$ を作ります。
これには、相補的スペクトル数を使います。
「相補的スペクトル数」という用語は、英語の "complementary spectrum number" を私が直訳して作った言葉です。他に適切な日本語訳があれば修正しますので、情報があれば教えていただきたいと思います。
まず、「相補的スペクトル数」について説明します。
たとえば、$\sqrt{2}$ と $2+\sqrt{2}$ は相補的スペクトル数の組み合わせです。相補的スペクトル数の組み合わせをそれぞれ整数倍したものの整数部分は、次のように、決して同じ数になることなく、すべての自然数が1回ずつ現れるという性質があります。
$n$ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | $\cdots$ |
$\left\lfloor{n}\sqrt{2}\right\rfloor$ | 1 | 2 | 4 | 5 | 7 | 8 | 9 | 11 | 12 | $\cdots$ |
$\left\lfloor{n}(2+\sqrt{2})\right\rfloor$ | 3 | 6 | 10 | 13 | 17 | 20 | 23 | 27 | 30 | $\cdots$ |
もう1つ例をあげてみましょう。
$e$ と $\dfrac{e}{e-1}$ は相補的スペクトル数です。これらを整数倍したものの整数部分は、次のように、決して同じ数になることなく、すべての自然数が1回ずつ現れるという性質があります。
$n$ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | $\cdots$ |
$\left\lfloor{n}e\right\rfloor$ | 2 | 5 | 8 | 10 | 13 | 16 | 19 | 21 | 24 | $\cdots$ |
$\left\lfloor\frac{ne}{e-1}\right\rfloor$ | 1 | 3 | 4 | 6 | 7 | 9 | 11 | 12 | 14 | $\cdots$ |
では、どのような数が相補的スペクトル数になるのか考えてみましょう。
相補的スペクトル数の組み合わせのうち片方は「$1$倍したときの整数部分が$1$」になるはずですので、そちらを $a$ とし、もう片方を $b$ ということにします。
当然ですが、$1< a<2$ となります。
ここで、小数部分を表す記号として $\{\cdot\}$ を使うことにします。例えば
$\{3.14\}=0.14$
ということです。
また、特に断りがない限り、$m,n$は自然数とします。
$1< a<2$ であることから、
$\left\lfloor a\right\rfloor,\left\lfloor 2a\right\rfloor,\left\lfloor 3a\right\rfloor,\cdots$
は$1,2,3,\cdots$ と増えていきますが、小数部分の累積が $1$ を超えるごとに1つ飛ばすことになります。
したがって、$\left\lfloor ma\right\rfloor$ としては現れない自然数を $n$ で表すと
$n+\left\lfloor\frac{n}{\{a\}}\right\rfloor$
と書くことができます。
ただし、このように書くことができるのは $a$ が無理数のときだけです。$a$ が有理数のときは分数部分が割り切れるときだけ $1$ つ大きくなってしまいますので、微小な数を引いて調節する必要があります。以下の記事では $a$ が無理数の場合だけを考えます。
この式を変形していくと、
${\displaystyle \begin{align} n+\left\lfloor\frac{n}{\{a\}}\right\rfloor &=\left\lfloor n+\frac{n}{\{a\}}\right\rfloor\\ &=\left\lfloor n\left(1+\frac{1}{\{a\}}\right)\right\rfloor\\ &=\left\lfloor n\left(1+\frac{1}{a-1}\right)\right\rfloor\\ &=\left\lfloor n\left(\frac{a}{a-1}\right)\right\rfloor\\ \end{align} }$
となりますから、
$b=\dfrac{a}{a-1}$
とおけば、$a$ と $b$ は相補的スペクトル数の組み合わせとなります!
なお、この式をさらに変形して
$\dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}=1$
とすると、美しい対称性が現れます!
先ほどの例の組み合わせ、すなわち
$(a,b)=\left(\sqrt{2},2+\sqrt{2}\right)$
や
$(a,b)=\left(e,\dfrac{e}{e-1}\right)$
も上記の式を満たしていることを確認してみてください。
$\dfrac{\varphi}{\varphi-1}=\varphi^2$
ですから、
$(a,b)=\left(\varphi,\varphi^2\right)$
も相補的スペクトル数の組み合わせてとなります。したがって、
$n$ | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | $\cdots$ |
$\left\lfloor{n}\varphi\right\rfloor$ | 1 | 3 | 4 | 6 | 8 | 9 | 11 | 12 | 14 | $\cdots$ |
$\left\lfloor{n}\varphi^2\right\rfloor$ | 2 | 5 | 7 | 10 | 13 | 15 | 18 | 20 | 23 | $\cdots$ |
のように、$\varphi$ と $\varphi^2$ それぞれの整数倍の整数部分には、すべての自然数がもれなく、ダブりなく現れるのです。
当初の式は、この$\varphi$ と $\varphi^2$ の相補的スペクトル数の組み合わせを使って、無限級数を$2$つに分割して作っていたのでした。
ここで、私の推し数列のRabBIT数列との関係をご紹介します。
$\left\lfloor{n}\varphi\right\rfloor$ として現れる数に対応する項を $1$ に、 $\left\lfloor{n}\varphi^2\right\rfloor$ として現れる数 に対応する項を $0$ にした数列を作ると、
$\left\lfloor{n}\varphi\right\rfloor$ | 1 | - | 3 | 4 | - | 6 | - | 8 | 9 | $\cdots$ |
$\left\lfloor{n}\varphi^2\right\rfloor$ | - | 2 | - | - | 5 | - | 7 | - | - | $\cdots$ |
数列 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | $\cdots$ |
$\{1,0,1,1,0,1,0,1,1,0,1,1,0,1,0,1,1,0,1,0,1,\cdots\}$
となります。
この数列は、フィボナッチ数と深い関係があり、フィボナッチ数のもつウサギのイメージと、二進数のBITを組み合わせてRabBIT数列(RabBIT Sequence) と呼ばれています。
この数列は、フィボナッチ数の漸化式のように、次のように構成することができることが知られています。
1
10 (1 & 0)
101 (10 & 1)
10110 (101 & 10)
10110101 (10110 & 101)
1011010110110 (10110101 & 10110)
101101011011010110101 (1011010110110 & 10110101)
$\vdots$
AB (A & B)
もうお分かりでしょうか。
当初の式に出てきた $a(k)$ という数列は、まさにRabBIT数列そのものであり、フィボナッチ数を使ってRabBIT数列を構成する漸化式が
${\displaystyle \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a(1)=1\\ a(2)=0\\ a(k)=a(k-F_{max}) &\qquad \text{for}\,\,k\gt2 \end{array} \right. \end{eqnarray} }$
と書けることを発見したというわけでした。
だいぶ脱線したのでもう忘れてしまっているかもしれませんので、当初の式を再掲します。
数列 $a(n)$ を次のように漸化式で定義します。ただし、$F_{max}$ は $k$ より小さいフィボナッチ数のうち最大のものを表します。
${\displaystyle \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} a(1)=1\\ a(2)=0\\ a(k)=a(k-F_{max}) &\qquad \text{for}\,\,k\gt2 \end{array} \right. \end{eqnarray} }$
いくつか具体的に書くとこんな感じになります。
${\displaystyle a(4)=a(4-3)=a(1)=1\\ a(5)=a(5-3)=a(2)=0\\ a(12)=a(12-8)=a(4)=a(4-3)=a(1)=1\\ }$
このとき、次のような定数 $A$ を考えます。
${\displaystyle \begin{align} A&=\sum_{k=1}^{\infty} \left(\frac{a(k)\sin\left(k\right)}{k}\right)^2\\ &=0.80044\cdots \end{align} }$
さらに、次のような定数 $B$ を考えます。ただし $\varphi=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$ です。
${\displaystyle \begin{align} B&=\sum_{k=1}^{\infty} \left(\frac{\sin\left(\left\lfloor \varphi^2 \,k\right\rfloor\right)}{\left\lfloor \varphi^2 \,k\right\rfloor}\right)^2\\ &=0.27035\cdots \end{align} }$
このとき、次の式は円周率 $\pi$ になります!
$2A+2B+1=\pi$
どうでしょうか。
当初はわけのわからない式に見えたと思いますが、この式から円周率ができることが納得していただけましたでしょうか?
これでこの記事の本編はおしまいですが、最後にこれに関連して私が証明できなかった式を「予想」の形でのせたいと思います。
先ほどの数列 $a(k)$ を使って、次のようなことが言えるでしょうか。
次のような定数 $A$ を考えます。
${\displaystyle \begin{align} A&=\sum_{k=1}^{\infty} \frac{a(k)\sin\left(k\right)}{k}\\ &=0.70022\cdots \end{align} }$
さらに、次のような定数 $B$ を考えます。
${\displaystyle \begin{align} B&=\sum_{k=1}^{\infty} \frac{\sin\left(\left\lfloor \varphi^2 \,k\right\rfloor\right)}{\left\lfloor \varphi^2 \,k\right\rfloor}\\ &=0.37056\cdots \end{align} }$
このとき、次の式は円周率 $\pi$ になる(?)
$2A+2B+1=\pi$
単に2乗が外れただけに見えますが、私にはベースとなる無限級数が絶対収束することを証明できませんでしたので「予想」とします。
もし証明できた方はコメントやTwitterでご報告いただければ幸いです。