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大学数学基礎解説
文献あり

漸近展開とテイラーの定理

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はじめに

この記事では, ランダウの漸近記法についてまとめる.

多項式関数の商の極限

まず, 次の極限について考えてみよう.
$$ \lim_{x\to 0}\frac{x+x^2}{2x+3x^3} $$
これは非常に簡単である. 実際
\begin{eqnarray*} \lim_{x\to 0}\frac{x+x^2}{2x+3x^3} &=& \lim_{x\to 0}\frac{1+x}{2+3x^2}\\ &=& \frac{1}{2} \end{eqnarray*}
と計算できる. ここで重要なことは,
多項式関数が出てくる式の, $x\to 0$での極限においては
高い次数の項はあまり重要ではないということである.

上で見たような計算は, 多項式関数の商の極限を考えるときはいつでも使える.
そうなると, 次のようなことを考えたくなるかもしれない.

一般の関数$f(x)$,$g(x)$に対する次の形の極限
$$ \lim_{x\to 0} \frac{f(x)}{g(x)} $$
についても, $f(x)$$g(x)$をそれぞれ多項式で近似することによって簡単に計算できないだろうか?

この疑問に答えるのがランダウの漸近記法である.

ランダウの漸近記法

まずは定義を述べよう.

ランダウの漸近記法

$a$をある実数とし, $f(x)$,$g(x)$$a$の周りで定義されている関数とする.
このとき, $$f(x) = o(g(x))\quad(x\to a)$$であるとは,
$$ \lim_{x\to a} \frac{f(x)}{g(x)} = 0 $$
であることをさす.

これは関数$g(x)$に対してただ一つ$o(g(x))$という関数が存在するという意味ではない!
$$ \lim_{x\to a} \frac{f(x)}{g(x)} = 0 $$
を満たすような関数$f(x)$について, それが具体的にどのような関数であるかが重要ではないときに, 代わりに$o(g(x))$という省略記号を使うということである.
したがって, 異なる関数$f_0(x)\neq f_1(x)$について$f_0(x)=o(g(x))$, $f_1(x)=o(g(x))$が成り立つこともありうる.

例えば, $$x+x^2 = x+o(x)\quad (x\to 0)$$である. 実際, $f(x)=x+x^2-x=x^2$, $g(x)=x$とすると
\begin{eqnarray*} \lim_{x\to 0}\frac{f(x)}{g(x)} &=& \lim_{x\to 0}\frac{x^2}{x}\\ &=&\lim_{x\to 0} x\\ &=& 0 \end{eqnarray*}
である.

ここで, ランダウの漸近記法についていくつかの性質をまとめておこう.

関数$f_0(x)$, $f_1(x)$, $h_0(x)$, $h_1(x)$, $g(x)$と実数$a$について,
$$ f_0(x)= h_0(x) + o(g(x))\quad(x\to a) \\ f_1(x)= h_1(x)+ o(g(x))\quad(x\to a) $$
とする. このとき以下が成り立つ.

$$ f_0(x)+f_1(x) = h_0(x) + h_1(x) + o(g(x))\quad(x\to a)\\ f_0(x)f_1(x) = h_0(x)h_1(x)+o(g(x))\quad(x\to a) $$

まず一つ目を示す. そのためには
$$f_0(x)+f_1(x)-h_0(x)-h_1(x) = o(g(x))$$を示せば良い.
しかし
$$\lim_{x\to a}\frac{f_0(x)+f_1(x)-h_0(x)-h_1(x)}{g(x)} = \lim_{x\to a}\left(\frac{f_0(x)-h_0(x)}{g(x)}+\frac{f_1(x)-h_1(x)}{g(x)}\right) $$
であり, この二つが$0$に収束することは
$f_0(x) = h_0(x) + o(g(x))$$f_1(x)=h_1(x)+o(g(x))$であることの定義である. これで一つ目の証明が終わった.

次に二つ目を示す. そのためには$f_0(x)f_1(x)-h_0(x)h_1(x) = o(g(x))$を示せば良い.
しかし
$$ \lim_{x\to a}\frac{f_0(x)f_1(x)-h_0(x)h_1(x)}{g(x)}\\ = \lim_{x\to a}\frac{f_0(x)f_1(x)-h_0(x)f_1(x)+ h_0(x)f_1(x)-h_0(x)h_1(x)}{g(x)}\\ = \lim_{x\to a}\left(f_1(x)\frac{f_0(x)-h_0(x)}{g(x)} +h_0\frac{f_1(x)-h_1(x)}{g(x)} \right) $$
となり, やはり$f_0(x) = h_0(x) + o(g(x))$$f_1(x)=h_1(x)+o(g(x))$について, 定義に戻って考えてみれば, この極限が$0$に収束することがわかる.

漸近展開が有益なのは, 多項式関数以外にも使えるからである. しかし, 実際に使うためには考えたい関数に対する漸近展開を予め知っておかなければならない. そこで使えるのがテイラーの定理である.

テイラーの定理

テイラーの定理について述べよう.

テイラーの定理

$f(x)$が区間$I$$n$回微分可能であるとする.
任意の$a\in I$$x\in I$について, $a\leq c_x\leq x$となる$c_x$が存在して以下を満たす.
$$ f(x)=f(a)+f^{(1)}(a)(x-a)+\cdots \frac{f^{n-1}(a)}{(n-1)!}(x-a)^{n-1}+R_n(x). $$
ただし
$$ R_n(x)=\frac{f^{(n)}(c_x)}{n!}(x-a)^n. $$

証明は省略する. (いずれ書くかもしれないが. )

ここから, 次がしたがう.

漸近展開の存在と一意性

$f(x)$を区間$I$上で定義された$C^n$級関数, すなわちn回微分可能であって$f^{(n)}$が連続な関数とする. このとき, 任意の$a\in I$について
$$ f(x) = f(a) + f^{(1)}(a)(x-a) + \cdots \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x-a)^n + o((x-a)^n)\quad (x\to a) $$

しかも, $f(x)=g(x) +o((x-a)^n)$となる$n$次多項式$g(x)$は上であたえたものただひとつである.

つまり, 微分に関して良い振る舞いをする関数, 例えば$e^x$や三角関数などに対しては上の方法で漸近展開を与えることができる.

実践

$\sin(x)$$3$次の漸近展開を与えておく.
$$ \sin x = x - \frac{x^3}{6} + o(x^3)\quad(x\to 0) $$

これを用いると, 次の問題が簡単に示せる.

$$ \lim_{x\to 0}\frac{x-\sin x}{x^3} $$
を求めよ.

\begin{eqnarray*} \lim_{x\to 0}\frac{x-\sin x}{x^3} &=& \lim_{x\to 0}\frac{x-\left(x-\frac{x^3}{6}+o(x^3)\right)}{x^3}\\ &=& \lim_{x\to 0}\left(\frac16+\frac{o(x^3)}{x^3}\right) \end{eqnarray*}
であるが, $o(x^3)$の定義より結局答えは
$$ \frac{1}{6} $$
であることがわかる.

参考文献

[1]
杉浦光夫, 解析入門I
投稿日:2021105
OptHub AI Competition

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spectrum
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