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概要
いくつかの参考書で間違えていた単射についての定理を解説します.
間違いと反例
間違い
写像$f\colon X\to Y$について次は同値.
- $f\colon X\to Y$は単射.
- $g\circ f = \mathrm{id}_X$となる写像$g\colon Y\to X$が存在する.
(2)から(1)は正しいですが、(1)から(2)は反例があります.
- 空写像$\emptyset \colon \emptyset \to \{\emptyset\}$は単射.
- $g\circ \emptyset = \mathrm{id}_\emptyset$となる写像$g\colon \{\emptyset\}\to \emptyset$は存在しない.
修正すると、たとえば次のようになります.
写像$f\colon X\to Y$について次は同値.
- $f\colon X\to Y$は単射.
- $X=\emptyset$または「$g\circ f = \mathrm{id}_X$となる写像$g\colon Y\to X$が存在する」.
少し変形したバージョンで次の間違いがあります.
間違い
集合$X,\ Y$について次は同値.
(1) 単射$f\colon X\to Y$が存在する.
(2) 全射$g\colon Y\to X$が存在する.
(2)から(1)は選択公理からわかります.
(1)から(2)の反例は定理1と同じです.
- 空写像$\emptyset \colon \emptyset \to \{\emptyset\}$は単射.
- 全射$g\colon \{\emptyset\}\to \emptyset$は存在しない.
修正すると、たとえば次のようになります.
- 単射$f\colon X\to Y$が存在する.
- $X=\emptyset$または「全射$g\colon Y\to X$が存在する」.
定理2は濃度の大小関係で大きな影響があります.
全射で濃度の大小関係を扱おうとすると、空集合$\emptyset$の扱いを別にしないといけなくなります.
さらに、選択公理を使わないと苦しい局面が多くなり、議論が複雑になりやすいです.