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大学数学基礎解説
文献あり

多重調和和の母関数

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はじめに

本記事において N は常に正整数であるものとする. 正整数の組 k=(k1,,kr)index と呼び, その成分の個数を dep(k), 成分の総和を wt(k) と書く. dep()=0 を満たす index がただ一つ存在するとし, wt()=0 と考える. index 全体の成す集合を I0 と書く. 正整数 N と index k=(k1,,kr) に対し, 多重調和和 multiple harmonic sum
ζN(k)=0<n1<<nrN1n1k1nrkr,ζN(k)=0<n1nrN1n1k1nrkr
と定義する. 空和は 0 と定め, ζN()=ζN()=1 と定める. 本記事では, 次の公式を示す.

Q[A][[W]] において次の等式が成り立つ.

  1. kI0ζN(k)Adep(k)Wwt(k)=(1(1A)W)N(1W)N.

  2. kI0ζN(k)Adep(k)Wwt(k)=(1W)N(1(1+A)W)N.

ここで (X)N=X(X+1)(X+N1) は Pochhammer 記号である.

記号の準備

H=Qe0,e1, H1=Q+e1H とおく. index k=(k1,,kr) に対し ek=e1e0k11e1e0kr1 とおく. I(ek)=k と定め, これを Q 線型に拡張することで全単射 I:H1spanQI0 が得られる. これを用いて ZN=ζNI とおく (ζNQ 線型に拡張している). H1 上に Q 双線型な積 (調和積 harmonic product) を次の漸化式で導入する:
1w=w1=w,we(k)we(l)=(we(k)w)e(l)+(wwe(l))e(k)+(ww)e(k+l).
ここで w,wH1 であり, k,l は正整数である.

調和関係式

ZN は調和積に関して準同型である. 即ち任意の w,wH1 に対し ZN(ww)=ZN(w)ZN(w) が成り立つ.

調和積を用いた指数関数を exp と書く (即ち exp(X)=1+X+XX/2!+H1[[X]]).

Hirose-Murahara-Saito [1, Proposition 3.1 (1)]

Γ1,I(W)=exp(k=1ekkWk)H1[[W]]
とおくと, H1[A][[W]] において
kI0ekAdep(k)Wdep(k)=Γ1,I(W)Γ1,I((1A)W)
が成り立つ. ここで調和積は Q1[A][[W]] 双線型に延長している.

まず両辺に Wlog を適用すると (log(1+X)=XXX/2+XXX/3) 正しいことを示す. これを行うと示すべき式は (分母を払って)
kI0{}wt(k)ekAdep(k)Wwt(k)1=(kI0ekAdep(k)Wwt(k))(k=2ek(1(1A)k)Wk1)
となるが, index k=(k1,,kr) ごとに ekWwt(k)1 の係数を比較すると, 調和積の定義より
wt(k)Ar=i=1rAr1(1(1A)ki)+i=1rArj=1ki1(1(1A)j)
を示せばよいことになる. これは簡単である. さてこれによって命題の式は定数倍を除いて成り立つことがわかったが, 両辺の定数項が等しいことから証明が完成する.

Q[[W]] において等式
ZN(Γ1,I(W))=exp(k=1ζN(k)kWk)=N!(1W)N
が成り立つ.

一つ目の等号は補題 2 よりわかる. 後半部分は
exp(k=1ζN(k)kWk)=exp(k=1i=1N1kikWk)=exp(i=1Nlog(1Wi))=i=1NiiW
のようになってわかる.

= 定理 1

Q[A][[W]] において次の等式が成り立つ.

  1. kI0ζN(k)Adep(k)Wwt(k)=(1(1A)W)N(1W)N.

  2. kI0ζN(k)Adep(k)Wwt(k)=(1W)N(1(1+A)W)N.

ここで (X)N=X(X+1)(X+N1) は Pochhammer 記号である.

  1. は命題 3 の両辺に ζN を適用することで補題 4 よりわかる. (2) を示す. index k,l に対し, k の隣り合う成分のいくつかを足し合わせて l が得られるとき lk と書く. たとえば (4)(2,2)(2,1,1)(1,1,1,1), (4)(1,3)(1,2,1)(1,1,1,1) である. この関係が成り立っているとき常に wt(k)=wt(l) が成り立つことに注意 (dep はそうではなく, 写像 I0Z0 として単調減少である). このとき定義より ζN(k)=lkζN(k) が成り立つ. このことを用いて
    kI0ζN(k)Adep(k)Wwt(k)=kI0(lkζN(l))Adep(k)Wwt(k)=lI0ζN(l)(lkAdep(k))Wwt(l)
    となるが, 括弧内の部分は Adep(l)(1+A)wt(l)dep(l) であることがわかる: 実際, l=(l1,,ls)=(1++1l1,,1++1ls) と書いたとき, lk であるような k とは即ち dep(k)s 個分だけプラス + をコンマ , に差し替えて得られる index のことである. したがって, lk であって dep(k)=r となる k の数は (wt(l)srs) であり (二項係数の上側はコンマに差し替えうるプラスの総数である), r としてあり得る値は s,s+1,,wt(l) であるから
    lkAdep(k)=r=swt(l)(wt(l)srs)Ar=Asr=0wt(l)s(wt(l)sr)Ar=As(1+A)wt(l)s
    を得る. これと (1) を合わせて (2) を得る.

参考文献

[1]
M. Hirose, H. Murahara and S. Saito, Generating functions for sums of polynomial multiple zeta values, to appear in Tohoku Math J.
投稿日:20211027
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