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大学数学基礎解説
文献あり

行列指数関数:exp(A)exp(B) = exp(A+B) → [A,B]=0は成立しない

1958
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[A,B]=0eAeB=eA+Bは成立する

以下Mn(C)を、複素数を要素にもつn×nの正方行列の集合とします。

行列の指数関数はTaylor展開で定義されます。AMn(C)とすると、以下のようになります:

行列の指数関数

eA:=n=01n!An

行列の指数関数では、A,BMn(C)としたとき、
(1)eAeB=eA+B
は一般には成立しません。eAeBは一般にはBaker-Campbell-Hausdorffの公式

Baker-Campbell-Hausdorffの公式

eAeB=exp(A+B+12[A,B]+112[A,[A,B]]+112[B,[B,A]])

のようになります。
ここで、上記公式の右辺12[A,B]以降の項にはすべて[A,B]が積として含まれることから、[A,B]=0であればeAeB=eA+Bであることがわかります:

[A,B]=0eAeB=eA+B

A,Bが数のとき、eAeB=eA+Bを、両辺を展開することにより証明できますが、この証明はA,Bが可換行列でも成り立つことからも公式2の成立がわかります)

eAeB=eA+B[A,B]=0は成立しない

逆はどうでしょう。すなわち

eAeB=eA+B[A,B]=0

は成立するでしょうか。

実はこれは成立しません

反例を挙げます。例えばA,BM2(C)なら

2×2行列におけるcounter example

A=(iπ00iπ),B=(iπ10iπ)

という例があります(Ref.[1]より引用)。

eAeB=eA+Bだが[A,B]0

この例の場合、eAeB=eA+Bを示すには、A,B,A+Bの固有値さえ求めればよく、固有ベクトルは必要ありません。

  • eAの計算: Aはすでに対角化されており、eA=1である。
    (exp(diag(a1,a2,,an))=diag(exp(a1),exp(a2),,exp(an))に注意)

  • eBの計算: Bの固有値は±iπで対角化可能であり、対角化された行列をDBとするとDB=diag(iπ,iπ)なので、eDB=1。よって対角化するための正則行列をPとするとeB=ePDBP1=P(1)P1=1

  • eA+Bの計算: A+Bの固有値は±2iπであるため、対角化された行列をDA+Bとすると、eDA+B=1。よってeBの計算と同様の議論からeA+B=1

よってeAeB=eA+B=1
[A,B]0は直接計算で簡単に確かめられます。


A,BM3(C)なら

3×3行列におけるcounter example

A=(06π06π00000),B=(000008π08π0)

という例があります(Ref.[2]より引用)。

eAeB=eA+Bだが[A,B]0

これも上の例と同様、固有値を計算すれば示せます。この場合A,B,A+Bの固有値は全て2niπ,nZの形をしており、固有値の縮退もないので対角化可能です。よってM2(C)の例での計算を踏まえれば、
eA=eB=eA+B=1eAeB=eA+B  (=1)
がすぐにわかります。
[A,B]0は簡単に確かめられます。

以上より
eAeB=eA+B[A,B]=0
は成立しません。

参考文献

投稿日:2021112
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