この記事では、数学を愛する会(@mathlava)さんの募集していた【フィボナッチ計算選手権】($n$番目のフィボナッチ数を計算する方法)に私が応募した次のツイートについて解説します。
中心が$(1/\varphi,0)$、頂点の$1$つが$(\sqrt{5},0)$の正$n$角形を描く。
— apu (@apu_yokai) November 6, 2021
$(\sqrt{5},0)$以外の頂点と原点の距離の総積が$n$番目のフィボナッチ数となる。 pic.twitter.com/7IyNskkY3z
つまり、正$n$角形から $n$ 番目のフィボナッチ数を作ることができるというわけです。
実際にやってみるとこんな感じになります。
$F_2=1,F_3=2,F_4=3$
$F_5=5,F_6=8,F_7=13$
$F_8=21,F_9=34,F_{10}=55$
原点から頂点までの距離の中には整数ではないところもありますが、それらの総積は整数になります。近似値ではありません。厳密にフィボナッチ数である整数になっています。
そのことをこれから示したいと思います。
また、その過程で次のようなフィボナッチ数の総積による表現も導出しますのでお楽しみいただきたいと思います。
${\displaystyle F_n =\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) }$
この記事では $\varphi$ は黄金比(黄金数)を表します。
$\varphi=\dfrac{1+\sqrt{5}}{2}$
また、$F_n$ でフィボナッチ数を表します。
$\{F_n\}=\{1,1,2,3,5,8,13,21,34,55,\ldots\}$
突然ですが、$n$ 次方程式 $x^n-1=0$ の複素数範囲の解は、複素数平面上、単位円を $n$ 等分した位置にあることから次のように複素数範囲で因数分解ができます。
${\displaystyle x^n-1=\prod_{k=0}^{n-1} \left( x-e^{\frac{2ik\pi}{n}} \right) }$
複素数平面の単位円上に等間隔に解がある($n=7$の例)
この式を共役複素数となる組合せに書き直します。
$n$ が偶数か奇数かで式の形が変わることに注意します。
${\displaystyle x^n-1= \begin{cases} (x-1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(x-e^{\frac{2ik\pi}{n}}\right) \left(x-e^{\frac{-2ik\pi}{n}}\right)&\text{if n is odd}\\ (x-1)(x+1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(x-e^{\frac{2ik\pi}{n}}\right) \left(x-e^{\frac{-2ik\pi}{n}}\right)&\text{if n is even} \end{cases} }$
右辺のカッコを展開して
${\displaystyle x^n-1= \begin{cases} (x-1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(x^2-x\left(e^{\frac{2ik\pi}{n}}+e^{\frac{-2ik\pi}{n}}\right)+1\right) &\text{if n is odd}\\ (x-1)(x+1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(x^2-x\left(e^{\frac{2ik\pi}{n}}+e^{\frac{-2ik\pi}{n}}\right)+1\right)&\text{if n is even} \end{cases} }$
$\cos \theta=\dfrac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}{2}$ を使って書き換えると
${\displaystyle x^n-1= \begin{cases} (x-1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(x^2+1-2x\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is odd}\\ (x-1)(x+1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(x^2+1-2x\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is even} \end{cases} }$
これで準備が整いました。
ビネの公式に先ほどの定理を適用したいと思います。
${\displaystyle F_n=\frac{\varphi^n-(-\varphi)^{-n}}{\sqrt{5}} }$
まずは、ビネの公式を $x^n-1$ を適用できる形に変形します。
${\displaystyle \frac{\varphi^n-(-\varphi)^{-n}}{\sqrt{5}} =\frac{(-\varphi)^{-n}}{\sqrt{5}} \left( \left( -\varphi^2\right)^{n} -1 \right) }$
$\left(-\varphi^2\right)^{n}-1$ の部分に定理$1$を適用します。
${\displaystyle \begin{align} \left(-\varphi^2\right)^{n}-1 &= \begin{cases} \left(\left(-\varphi^2\right)-1\right)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(\left(-\varphi^2\right)^2+1-2\left(-\varphi^2\right)\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is odd}\\ \left(\left(-\varphi^2\right)-1\right)(\left(-\varphi^2\right)+1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(\left(-\varphi^2\right)^2+1-2\left(-\varphi^2\right)\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is even} \end{cases}\\ &= \begin{cases} -\left(\varphi^2+1\right)\varphi^{n-1}\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(\varphi^2+\varphi^{-2}+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is odd}\\ -\left(\varphi^2+1\right)(-\varphi)\varphi^{n-2}\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(\varphi^2+\varphi^{-2}+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is even} \end{cases}\\ \end{align} }$
ここで
$\varphi^2+1=(\varphi+\varphi^{-1})\cdot\varphi=\sqrt{5}\varphi$
及び
$\varphi^2+\varphi^{-2}=3$
を使うと、
${\displaystyle \begin{align} \left(-\varphi^2\right)^{n}-1 &= \begin{cases} -\sqrt{5}\varphi^{n}\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is odd}\\ \sqrt{5}\varphi^{n}\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is even} \end{cases}\\ \end{align} }$
ですから、元の式に適用して
${\displaystyle \begin{align} \frac{\varphi^n-(-\varphi)^{-n}}{\sqrt{5}} &=\frac{(-\varphi)^{-n}}{\sqrt{5}} \left( \left( -\varphi^2\right)^{n} -1 \right)\\ &= \begin{cases} \frac{(-\varphi)^{-n}}{\sqrt{5}}\cdot(-1)\cdot\sqrt{5}\varphi^{n}\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is odd}\\ \frac{(-\varphi)^{-n}}{\sqrt{5}}\cdot\sqrt{5}\varphi^{n}\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is even} \end{cases}\\ &=\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) \end{align} }$
となります。
最後の行で、偶数の場合も奇数の場合も同じ式になるのが不思議な感じがしますね!
${\displaystyle F_n =\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) }$
フィボナッチ数を、$\cos$ を使った式の総積で表現することができました。なかなか面白い形だと思います。
次に余弦定理を使って、元のグラフの原点と頂点の距離を計算します。
$ a^2=b^2+c^2-2bc\cos\angle A $
下のグラフでいうと$\triangle ABO$の部分について余弦定理を使い、$OB$の長さを計算します。
余弦定理で$OB$の長さを計算する
余弦定理で$OB$の長さを計算すると
${\displaystyle (OB)^2 =\varphi^2+\varphi^{-2} -2 \varphi\varphi^{-1}\left(-\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) }$
ここで
$\varphi^2+\varphi^{-2}=3$
$\varphi\varphi^{-1}=1$
なので
${\displaystyle (OB)^2 =3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}} }$
${\displaystyle \therefore OB =\sqrt{3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}} }$
$OB$の長さ
となります。
したがって、正$n$角形の$(\sqrt{5},0)$以外の頂点と原点の距離の総積を $P_n$ とすれば
${\displaystyle \begin{align} P_n&=\prod_{k=1}^{n-1} \sqrt{3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}} \end{align} }$
と書くことができます。
$(-1,0)$にある頂点と原点の距離が $1$ であることと、$x$ 軸に対する対称性から、この式は次のように整理できます。
${\displaystyle \begin{align} P_n&=\prod_{k=1}^{n-1} \sqrt{3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}}\\ &=\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right)\\ \end{align} }$
定理$2$より $F_n =\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(3+2\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right)$ ですから、$P_n=F_n$ とわかりました!
$P_n=F_n$
というわけで、正$n$角形から $n$ 番目のフィボナッチ数を作ることができることをご理解いただけましたでしょうか。
ところで、証明のために作ったこの式を再掲します。
${\displaystyle x^n-1= \begin{cases} (x-1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(x^2+1-2x\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is odd}\\ (x-1)(x+1)\prod_{k=1}^{\left\lfloor\frac{n-1}{2}\right\rfloor} \left(x^2+1-2x\cos {\frac{2k\pi}{n}}\right) &\text{if n is even} \end{cases} }$
この式にいろんな $x$ を代入してみると、いろいろと面白い式をつくることができます。
是非遊んでみてください。
(2021.11.15追記)
この記事を投稿した後、数学を愛する会さんからとてもシンプルな別解を紹介していただきましたのでここに追記します。
会の中で出た別解ですが、
— 数学を愛する会 (@mathlava) November 14, 2021
正n角形の頂点は方程式(x-1/φ)^n=φ^nを満たすので
解と係数の関係より求める距離の積は、
|((-φ)^-n - φ^n)|/√5
これはビネの公式に等しい。
蛇足かもしれませんがこの別解について少し図解してみたいと思います。
元になる図形を複素数平面上に配置して、全体を実軸マイナス方向に$\dfrac{1}{\varphi}$移動してから全体を$\dfrac{1}{\varphi}$倍に縮小すると、正$n$角形の頂点は単位円上に等間隔に並びます。
平行移動して縮小すると正$n$角形の頂点が単位円上に並ぶ
これらは$n$次方程式 $z^n=1$の複素数範囲の解ですから、頂点の座標は
${\displaystyle \left( \frac{1}{\varphi} \left( z-\frac{1}{\varphi} \right) \right)^n=1 }$
の解となります。
全体を $\varphi^n$ して移項すると
${\displaystyle \left( z-\frac{1}{\varphi} \right)^n-\varphi^n=0 }$
複素数の積の絶対値は複素数の絶対値の積になりますから、求める総積を $P_n$ とすると、上記方程式の解の総積の絶対値と $\sqrt{5}P_n$ が一致することになります。上記方程式の解の総積の絶対値は、解と係数の関係より $\left|\varphi^n-\left(-\frac{1}{\varphi}\right)^n\right|$ ですから、
${\displaystyle \sqrt{5}P_n=\left|\varphi^n-\left(-\frac{1}{\varphi}\right)^n\right| }$
${\displaystyle P_n=\frac{\varphi^n-\left(-\frac{1}{\varphi}\right)^n}{\sqrt{5}} }$
${\displaystyle \therefore P_n=F_n }$
となり、総積がフィボナッチ数となることが示せました。
実にシンプルでキレイな証明ですね!
(2021.11.15追記)
フィボナッチ数の総積表示については、 🌹 みゆ@ますらば副会長🌹 さんの
という記事でも取り扱われておりますので、あわせて見ていただくとより楽しめると思います。