多項式(とその根)を考える上で,最初の手掛かりになるのは判別式でしょう.
多項式 $F(T) = a_0 T^n + a_1 T^{n-1} + \cdots + a_n$ の根を $\alpha_1, \ldots, \alpha_n$ とする.次で定義される値 $D$ を $F(T)$ の判別式という:
$$ D := a_0^{2n-2} \cdot \prod_{u < v} (\alpha_u - \alpha_v)^2.$$
判別式は体拡大を考える上でもしばしば重宝しますが,その理由のひとつとして $F(T)$ の係数の多項式として(原理的には)計算が可能である点が挙げられます.特に,$F(T)$ の係数を総て含む体 $K$ を考えれば,判別式 $D$ もまた $K$ に属します.判別式 $D$ の平方根を $K$ が含むかどうかが,体拡大の複雑性を測る第一歩ともいえるのです.
2次多項式 $F(T) = aT^2 + bT + c$ の判別式は $D = b^2 - 4ac$ で与えられる.
実数係数の2次多項式 $F(T) = aT^2 + bT + c$ の判別式を $D = b^2 - 4ac$ とするとき,以下が成り立つ:
(1) $D > 0$ $\iff$ $F(T)$ は異なる2個の実数根をもつ.
(2) $D = 0$ $\iff$ $F(T)$ は重根をもつ.
(3) $D < 0$ $\iff$ $F(T)$ は虚数根をもつ.
上記定理1と同様に,3次多項式の根の分布も判別式と結び付けられるというのが今日の主定理です.
実数係数の3次多項式 $F(T)$ の判別式を $D$ とするとき,以下が成り立つ:
(1) $D > 0$ $\iff$ $F(T)$ は異なる3個の実数根をもつ.
(2) $D = 0$ $\iff$ $F(T)$ は重根をもつ.
(3) $D < 0$ $\iff$ $F(T)$ は1個の実数根と2個の虚数根をもつ.
中間値の定理により $F(T)$ は少なくとも1個の実数根をもちます.残りの2個がどう分布するかを鑑みれば,あらゆる3次多項式に対して (1)~(3)のいずれか1つ,かつ1つのみが当てはまります.このとき,各々について含意 $\Leftarrow$ が証明できれば,逆向きの含意 $\Rightarrow$ は自動的に成り立ちます.
$F(T)$ の3根を $\alpha, \beta, \gamma$ と表します.このとき判別式 $D$ は
$$ D = c (\alpha - \beta)^2 \cdot (\beta - \gamma)^2 \cdot (\gamma - \alpha)^2$$
(ただし $c$ は適当な正数)と表されます.(1)~(3) のそれぞれにおいて,$D$ がどのような値になるかを確かめましょう.
$\alpha, \beta, \gamma$ が相異なる実数のとき,$\alpha - \beta$, $\beta - \gamma$, $\gamma - \alpha$ はいずれも $0$ でない実数であり,
$$ D = c (\alpha - \beta)^2 \cdot (\beta - \gamma)^2 \cdot (\gamma - \alpha)^2 > 0.$$
$\alpha, \beta, \gamma$ に重複があれば $\alpha - \beta$, $\beta - \gamma$, $\gamma - \alpha$ のいずれかは $0$ なので
$$ D = c (\alpha - \beta)^2 \cdot (\beta - \gamma)^2 \cdot (\gamma - \alpha)^2 > 0.$$
$\alpha$ は実数,$\beta, \gamma$ は虚数とします.このとき $\gamma = \bar{\beta}$(複素共役)なので,$\beta - \gamma$ は純虚数,$\alpha - \gamma = \overline{\alpha - \beta}$ です.このとき $(\beta - \gamma) ^2< 0$ および $(\alpha - \beta)(\alpha - \gamma) \in \R$ なので,
$$ D = c \{(\alpha - \beta) \cdot \gamma - \alpha)\}^2 \cdot (\beta - \gamma)^2 < 0.$$