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大学数学基礎解説
文献あり

Siegelの補題

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はじめに

 この記事では超越数論でしばしば使われる(らしい)Siegel(ジーゲル)の補題というものを紹介していきます。

Siegelの補題:整数ver.

 n個の未知数xjに関する整数係数のm(<n)連方程式
j=1nai,jxj=0(i=1,2,,m)
に対し
|xj|2(2nA)mnm(j=1,2,,n)
を満たすような非自明な整数解(つまりあるjについてxj0)が存在する。ただし
A=maxi,j|ai,j|
とした。

 B=(2nA)mnmとし、任意にn個の整数yj(|yj|B)を取るとAの取り方から
|j=1nai,jyj|j=1n|ai,jyj|nAB
が成り立つ。このときn個の整数の組yj(j=1,2,,n)の取り方は全部で(2B+1)n通りあるが、対応するm個の整数の組
j=1nai,jyj(i=1,2,,m)
の取り得る値は高々(2nAB+1)m通りである。
 しかしB>1に注意すると
(2nAB+1)mn(2nAB+1)mn=(Bnm+1)mn<B+12B+1
すなわち
(2nAB+1)m<(2B+1)n
が成り立つので、鳩ノ巣原理よりある異なる組yj,yjに対して
j=1nai,jyj=j=1nai,jyj(i=1,2,,m)
が成り立たなくてはならず、このときxj=yjyjとおくとこれが
|xj||yj|+|yj|2B
を満たすような非自明な整数解となる。

Siegelの補題:代数的整数ver.

 代数的数αに対して、その任意の共役元の絶対値の内最大のものをα高さと言いH(α)と表す。
 またdαが代数的整数となるような自然数dであって最小のものをα分母と言いd(α)と表す。代数的数α1,α2,,αn公分母と言ったときには
d=lcm(d(α1),d(a2),,d(αn))
のことを指すものとする。

 Kを代数体、OKをその整数環とし、n個の未知数xjに関するOK係数のm(<n)連方程式
j=1nαi,jxj=0(i=1,2,,m)
を考えたとき、Kのみに依るある定数C>0が存在して
H(xj)C(CnA)mnm(j=1,2,,n)
を満たすような非自明なOK上の解が存在する。ただし
A=maxi,jH(αi,j)
とした。

 ω1,ω2,,ωt(t=[K:Q])OKの整数底、σ1,σ2,,σtKの共役写像全体とする。このときαi,jOKおよびωkωlOKより
αi,j=k=1tai,j,kωk,ωkωl=s=1tck,l,sωs
となるような整数ai,j,k,ck,l,sが存在して、またxjについても
xj=l=1tyj,lωl
と展開してxjの代わりにyj,lについての方程式の整数解を考える。このとき方程式は
j=1nαi,jxj=j=1nk=1tl=1tai,j,kyj,lωkωl=s=1t(j=1nk=1tl=1tai,j,kck,l,syj,l)ωs=0
となり、ωsQ-線形独立性からこれはmt連方程式
j=1nk=1tl=1tai,j,kck,l,syj,l=0(1im,1st)
に帰着できる。
 いま
αi,j=k=1tai,j,kωk
の両辺に共役写像を作用させることで
(σ1(αi,j)σ2(αi,j)σt(αi,j))=(σ1(ω1)σ1(ω2)σ1(ωt)σ2(ω1)σ2(ω2)σ2(ωt)σt(ω1)σt(ω2)σt(ωt))(ai,j,1ai,j,2ai,j,t)
が成り立つ。つまりB=(σi(ωj))1i,jtに対して
B1=(bi,j)i,j,C0=maxi,j|bi,j|
とおくと
|ai,j,k|=|l=1tbk,lσl(αi,j)|l=1t|bk,lσl(αi,j)|=tC0A
が成り立つ。ck,l,sについても同様に
|ck,l,s|u=1t|bs,uσu(ωkωl)|tC0C12(C1=max1stH(ωs))
と評価できるので、yj,lについての方程式に対して整数ver.のSiegelの補題を適用すると
|yj,l|2(2nt(tC0C1)2A)mtntmt=2(2nt(tC0C1)2A)mnm
なる非自明な整数解が存在することになり、xjは任意の共役写像σに対し
|σ(xj)|l=1t|yj,lσ(ωj)|2tC1(2nt(tC0C1)2A)mnm
を満たすようなOKの元となる。
 ここでt,C0,C1K(の整数底の選び方)のみに依って決まる定数であることに注意すると、Kのみに依る適当な定数Cが存在して
H(xj)C(CnA)mnm
と評価できることがわかる。

 n個の未知数xjに関するK係数のm(<n)連方程式
j=1nαi,jxj=0(i=1,2,,m)
を考えたとき、Kのみに依るある定数C>0が存在して
H(xj)C(CndA)mnm(j=1,,n)
を満たすような非自明なOK上の解が存在する。ただし
A=maxi,jH(αi,j),d=max1imdi,di=lcm(d(αi,1),d(αi,2),,d(αi,j))
とした。

maxi,jH(diαi,j)=maxi,jdiH(αi,j)dmaxi,jH(αi,j)
に注意してOK係数方程式
j=1n(diαi,j)xj=0(i=1,2,,m)
に対してSiegelの補題を適用することでわかる。

 以上です。では。

参考文献

[1]
M. Ram Murty, Purusottam Rath, Transcendental Numbers, Springer, 2014, pp. 23-26
投稿日:20211121
更新日:2024511
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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