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大学数学基礎解説
文献あり

スペクトル分解による行列の指数関数と対数関数の計算

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はじめに

スペクトル分解を使うと行列の指数関数や対数関数がすっきりと計算できることを示したつもりのメモを残す。

スペクトル分解と行列の多項式

対称行列に関して以下の定理が成り立つ。

スペクトル分解

n次対称行列Aに対して次の性質を持つ直交射影行列P1,,Pkと相異なる実数λ1,,λkで次を満たすものが存在する(Eは単位行列でOは零行列).

E=P1+P2++PkPiPj=O(ij)A=λ1P1+λ2P2++λkPk

このスペクトル分解を認めると、例えばA2

A2=(λ1P1+λ2P2++λkPk)2=λ12P12+λ22P22++λk2Pk2=λ12P1+λ22P2++λk2Pk

と計算できる。一般にAm
Am=λ1mP1+λ2mP2++λkmPk
と計算できる。

行列の多項式を定義しておこう。

行列の多項式

多項式f(x)
f(x)=a0+a1x+a2x2++amxm
のように与えられたとき、正方行列Aに対する多項式f(A)
f(A)=a0E+a1A+a2A2++amAm
によって定義する(Eは単位行列)。

スペクトル分解により、f(A)はまた
f(A)=a0(P1+P2++Pk)+a1(λ1P1+λ2P2++λkPk)+a2(λ12P1+λ22P2++λk2Pk)++am(λ1mP1+λ2mP2++λkmPk)=(a0+a1λ1+a2λ12++amλ1m)P1+(a0+a1λ2+a2λ22++amλ2m)P2+(a0+a1λk+a2λk2++amλkm)Pk=f(λ1)P1+f(λ2)P2+f(λk)Pk
となり、効率的に行列の多項式が計算できる。ちなみに行列多項式f(A)の固有値がf(λi)(i=1,2,,k)となることを述べているのがフロベニウスの定理である。

行列の指数関数と対数関数

さてここで、正方行列Aの指数関数を定義する。

行列の指数関数

etA=n=01n!(tA)n=E+tA+t22!A2+t33!A3+

もはや行列の多項式ではないが、この行列の指数関数の計算にもスペクトル分解が役に立つ。形式的に「代入」すれば
etA=(P1+P2++Pk)+t(λ1P1+λ2P2++λkPk)+t22!(λ12P1+λ22P2++λk2Pk)+t33!(λ13P1+λ23P2++λk3Pk)++tmm!(λ1mP1+λ2mP2++λkmPk)+=etλ1P1+etλ2P2++etλkPk

特にt=1とおくと
eA=eλ1P1+eλ2P2++eλkPk
が得られる。

行列の対数関数

正方行列Aに対して
eB=A
を満たす正方行列BAの指数関数と呼ぶことにし、B=log(A)と書く。

もし、Aの固有値がことごとく正の値だとして、直交射影行列を用いて
B=log(λ1)P1+log(λ2)P2++log(λk)Pk
により行列Bを定義してみる。そしてeBを計算してみれば、
eB=elogλ1P1+elogλ2P2++elogλkPk=λ1P1+λ2P2++λkPk=A
となるから、まさにB=log(A)が計算できたわけである。

おわりに

スペクトル分解たのしい(雑)

参考文献

[1]
伊藤正之 鈴木紀明, 数学基礎 線形代数, 培風館, 1998
投稿日:20211121
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