複素数の絶対値を特徴づける、以下の定理に証明をつけることが本記事の目的である。
$f: \mathbf{C} \mapsto [0, +\infty)$が
$$ \begin{cases} f(x) = x \;(\forall x \geq 0)\\ f(zw) = f(z)f(w) \;(\forall z, \forall w \in \mathbf{C})\\ f(z + w) \leq f(z) + f(w) \end{cases} $$
を満たせば$f(z) = |z|$である。
定理の条件を満たす$f$に関して、いくつかの補題を証明する。
$f$は連続関数である。
$z, z_0 \in \mathbf{C}$として、$z \rightarrow z_0$ なるとき $f(z) \rightarrow f(z_0)$を示したい。
$z = re^{i\theta}$とすると、条件より$f(z) = f(r)f(e^{i\theta}) = rf(e^{i\theta})$である。
そして
$$
\begin{eqnarray}
\left|f(z) - f(z_0)\right| &\leq& |rf(e^{i\theta}) - r_0f(e^{i\theta_0})| = |rf(e^{i\theta}) - r_0f(e^{i\theta}) + r_0f(e^{i\theta}) - r_0f(e^{i\theta_0})|\\
&\leq & |r - r_0||f(e^{i\theta})| + r_0|f(e^{i\theta}) - f(e^{i\theta_0})|
\end{eqnarray}
$$
さて$f(e^{i\theta})$は以下のように抑えられる。
$$
f(e^{i\theta}) = f(\cos \theta + i\sin \theta)\leq f(\cos \theta) + f(i)f(\sin \theta)
$$
また負の実数$y$を$y = -x \; (x > 0)$とすれば
$$
f(y) = f(-x) = f(-1)f(x) = f(-1)x
$$
であるから、$f(e^{i\theta})$は$A_{\theta}$と$B_{\theta}$をそれぞれ$\cos \theta$と$\sin \theta$の符号から決まる定数として
$$
f(e^{i\theta}) \leq A_\theta \cos \theta + B_\theta\:f(i) \sin \theta
$$
と評価できる。詳しく書けば
$$
A_\theta =
\begin{cases}
1 & (\cos \theta \geq 0)\\
f(-1) & (\cos \theta < 0)
\end{cases}
$$
$$
B_\theta =
\begin{cases}
1 & (\sin \theta \geq 0)\\
f(-1) & (\sin \theta < 0)
\end{cases}
$$
である。
したがって
$$
\begin{eqnarray}
\left|f(z) - f(z_0)\right|
&\leq & |r - r_0||f(e^{i\theta})| + r_0|f(e^{i\theta}) - f(e^{i\theta_0})|\\
&\leq & |r - r_0|(A_\theta + B_\theta\:f(i))
+ r_0 A|\cos \theta - \cos \theta_0|
+ r_0 B\:f(i)|\sin \theta - \sin \theta_0|
\end{eqnarray}
$$
となる。ただし$A = \max\{A_\theta, A_{\theta_0}\}$、$B = \max\{B_\theta, B_{\theta_0}\}$とおいた。$z \rightarrow z_0$なるとき最右辺が$0$に収束するので、$f$は連続である。
$\theta = 2\pi k \:/\: 2^n, \; (k = 1, 2, \cdots, 2^n)$ならば$f(e^{i\theta}) = 1$
$\left(f(e^{i\theta})\right)^{2^n} = f\left((e^{i\theta})^{2^n}\right) = f(e^{i2\pi k}) = f(1) = 1$
であるから、$f(e^{i\theta})$は$1$の$2^n$乗根である。$f$の定義より$0$以上の実数値に限られるので、$f(e^{i\theta})=1$である。
$f(e^{i\theta}) \equiv 1$
単位円周上の任意の点を$e^{i\theta} \;(\theta \in [0, 2\pi))$ と表す。然らば、任意の正数$\delta> 0$に対してある自然数$N$が存在して、
$$
0 \leq \frac{\theta}{2\pi} - \frac{k}{2^N} < \frac{1}{2^N} < \delta
$$
とできる($[0, 1)$における有理数の稠密性)。
補題2の$f$の連続性により、任意の正数$\epsilon > 0$に応じて正数$\delta > 0$を取り、さらに$\delta$に応じて十分大きく$N$を取れば、$n\geq N$のとき
$$
\left|\theta - 2\pi \frac{k}{2^n}\right| <\delta \Rightarrow 0\leq |f(e^{i\theta}) - f(e^{i 2\pi k / 2^n})| = |f(e^{i\theta}) - 1| < \epsilon
$$
とできる。ここで$f(e^{i2\pi k / 2^n}) = 1$に補題3を用いた。
ゆえに$|f(e^{i\theta}) - 1|=0$、すなわち$f(e^{i\theta}) = 1$である。
補題4より、$f(e^{i\theta}) = 1$であるのだから、
$$
f(z) = rf(e^{i\theta}) = r = |z|
$$
が成り立つ。これが証明したいことであった。
複素数の絶対値の特徴づけもおもしろい(雑)。